女子寮へ。2
アオイが怪訝に尋ねると、希司はどこか挙動不審に笑みを作る。
「いえ、なんというか、その……な、なんだか、照れてしまいます。わたしはこの部屋をずっと一人で使っていましたし、それに人を入れること自体、しばらくなかったので……」
「そうなんですか?」
自室に人を連れ込んで、イロイロなことをしている――のではなかったのだろうか。
いや、何も知らない転入生である自分に、わざわざ自分からそう白状することはないだろう。これもまた希司の作戦の一つかもしれない。とアオイが気を引き締めると、自分で気づかないうちに表情が険しくなってしまっていたのか、
「い、いえ、でも違いますよ? 掃除をちゃんとしていないとか、そういうことではないですから、安心してください」
希司は慌てたようにそうつけ加えて、取っ手を捻って扉を押し開けた。
「では、どうぞ」
「お、お邪魔します……」
寮の部屋と言えど、それでも女の子の部屋であることに変わりはない。アオイはやはりドキドキしながら、扉を開けて自分が入るのを待ってくれている希司に会釈をしてから部屋へと足を踏み入れる。玄関で靴を脱ぎ、風呂やトイレへ続くらしい扉、備えつけの小さなキッチンがある短い廊下を通って、奥の扉を開ける。
「へぇ、いい部屋じゃないですか」
扉を入って目の前、部屋の手前側中央に置かれてあった丸テーブルに鞄を置き、アオイは感心しながら部屋を見回した。
広さは二人で過ごすのに丁度よい程広い。この中央のテーブルがどうやら共有スペースのようなものらしく、互いのスペースは、テーブルの向こうにある大きく高い本棚ではっきりと二つに分けられている。
そうして分けられたそれぞれの場所に木製のベッド、机が置かれ、机の真正面にある窓からは綺麗な夕陽が差し入っていた。扉側の部屋の隅には、それぞれのクローゼットも置かれている。そしてどうやら、部屋の右半分がアオイのスペースになるらしい。
「百合園さんには、そちら側を使ってもらうことになるのですが……もし左側がよろしければ、場所をばくってもいいですよ?」
「え?『ばくって』?」
「はい。あ、えーと……場所を交換してもいいですよ、ということです」
「ああ、いえ、大丈夫です。このままで」
『ばくって』とは、どこかの方言だろうか? 少し恥ずかしそうに言い直した希司の表情からもそう察しながら、これから自分が一年間、使うことになるのだろう机の前に立つ。目の前の窓からは、広い前庭と、その奥に広がる森林が気持ちよく見渡せた。
「そういえば、百合園さん。寮の中では私服が許されているので、楽な格好に着替えるといいですよ」
という希司の勧めに従って着替えることにし、扉側の壁際に積まれていた荷物――『服』と書かれた段ボール箱を開け放った。その中には無論、淡い色をしたガーリーでフェミニンな服が詰まっている。
――戦いはもう始まっている。頑張れ、俺!
白いパーカーワンピースを硬く握り締めながら、アオイは懸命に自分を元気づけた。
かなり短い。分割するタイミングを誤りました。