燕と雛椋の日常
副官祭りに投稿したものです
班長のキャラがなんかおかしい・・・(^^;
年が明けた1月の中旬。
大木を抱くビルの一室に、部屋着のシロエが居た。
食堂のテーブルの隅に座り、腕を組んで考え事をしているらしい。
「シロエち、ご飯が冷めますにゃ」
「あぁ、ごめん班長」
半分ほど食べかけのご飯は、既にひと肌程度に熱を放散してしまっている。
「仕事が忙しいのは仕方ないですにゃ。でも、食事はやっぱり美味しい内に食べる方がいいですにゃあ」
「確かにそうか…」
「そうですよ、折角にゃん太さんが作ってくれたんですから、食べて下さい」
今は午後2時過ぎか。
そもそも、他の皆は既に昼食を終えてそれぞれ外出している。
寧ろ遅いくらいで、冷や飯でも食べようかと思っていた所に、にゃん太とセララがわざわざ温めてくれたのだ。
シロエは苦笑しながら目の前の昼食に手を伸ばした。
「主君、今度は何の悩みだ?」
「シロエさん、もし良かったら話して下さい。お役に立てるかどうか分かりませんけど」
背後から2種類の声が聞こえる。
片方はシロエの右腕として情報収集と護衛を引き受ける自称”忍び”のアカツキ。
もう片方はシロエが持てる知識と知恵の全てを教え込み、自らそれを実践している自称”弟子”のミノリ。
二人とも、シロエに取っては頗る頼もしく、大切な、誇れる仲間だ。
「あぁ、いや、ちょっとね。気になる事が有って…」
「3人とも、今は食事中ですにゃ。食べてからでも遅くは無いですにゃあ」
にゃん太は相変わらずの柔らかい口調で、だが有無を言わせずピシャリと諭す。
「「「はい…」」」
3人とも静かになった。
食事が終わり、シロエが出されたお茶を啜る。
セララはキッチンの方で皿を洗っているらしい。
ミノリとアカツキも一緒にお茶を飲み、まったりと食後の余韻を楽しむ。
「さて主君、話してもらおうか」
「あの、話を聞くぐらいなら…出来ますけど…」
落ち着いた所で、アカツキは目をキラリと光らせ、ミノリはもじもじしながら、座っているシロエに詰め寄った。
「なんか取り調べみたいだなぁ」
「何を言っている。いざと言う時の主君の容赦の無さに比べればこんなもの足元にも及ばないぞ」
「そうですよ、シロエさんの全力管制戦闘に比べればこんなの子供の遊びですよ」
二人してにっこりとほほ笑む。
(僕ってどう見られてるんだ…)
恐らくフォローしているつもりだろうが、シロエとしては複雑な気分だ。
アカツキとミノリにとっては褒め言葉のつもりだが、それがシロエにも分かるため、余計に反論しづらい。
シロエはゴホンと咳払いをし、気を取り直して話し始めた。
「うん、いや…大災害から8か月経ったんだけどさ…」
「「うんうん」」
二人とも前のめりで頷く。
「結構報告が来てるんだよね」
「何がですか?」
ミノリがきょとんと首を傾げる。アカツキも同様に首を捻っている。
「カップルが出来たっていう報告…」
「「えっ」」
意外な案件に、二人とも絶句した。
シロエも、心底嫌そうに眉を顰めている。
「そんなの知らないよ全く…勝手にやってくれればいいのに…」
「お、おう…」
「そ、そうですね…」
アカツキとミノリも二の句が継げない。
「大体、付き合っただの別れただの、僕にどうしろっていうんだよ」
ぶつくさと文句を言う。こうなると最早グチだ。
「そもそも冒険者は自由なんだから、最低限のモラル守ってくれれば別段こっちも気にしないのにさ…」
「シロエちは羨ましいのですかにゃ?」
にゃん太が食器を片づけながら疑問を投げかける。若干からかう空気を纏いながら。
「いや、別にそんな事は無いけど…」
最近、そういう報告が沢山増えてきて、本来の業務を圧迫してきているのだ。
シロエはそう呟いて眼鏡をくいっと持ち上げた。
「主君、男の嫉妬はみっともないぞ」
「そうですよシロエさん。本人たちは幸せなんですから」
「いやだから何でそうなるんだよ!」
嫉妬なんかしてない。あくまで円卓の仕事上の話だ。
そんな事を喚くシロエは、傍から見ると見苦しい。
「ふむ、少なくとも嫉妬しなくなるいい方法が有るのにゃ」
「ほう、それは是非とも主君に教えてやって欲しいな」
「あ、私も教えてください、後学のために」
「私も聞きたいですぅ♪」
いつの間にかセララがにゃん太の側に立っていた。
3人でにゃん太の言葉に興味津々の様子だ。
「だから僕は嫉妬なんか…」
シロエが慌てて訂正を要求するが、にゃん太は意に介さず話を続ける。
「それは…」
「「「そ、それは?」」」
敢えて言葉を溜めるにゃん太に、3人の少女はゴクリと唾を飲みこんで聞き入る。
「自分も同じ立場になればいいのですにゃあ」
「「「えっ?」」」
3人の少女の頭にはてなマークが浮かぶ。
だが、シロエはその意味を把握したらしい。また嫌そうに表情を歪めて猫人族の紳士を睨んだ。
当の料理人は、髭をピクピクと動かし、その視線に素知らぬ振りをして続ける。
「要するに、シロエちも恋愛すればいいのですにゃあ」
「な、なんと…!?」
「そんな…!?」
「まぁ…♡」
恋愛と聞いた途端、アカツキとミノリは赤面し、狼狽えた。
セララは、赤面はしたが流石にゃん太だといつものようにピンク色のオーラを醸し出している。
だが次の瞬間、アカツキとミノリはシロエの方にバッと振り向き、詰め寄った。
「しゅしゅしゅしゅしゅ主君!いいいい今、その、す、す、好きな相手とかは居るのか!?」
「シシシロエさん!ど、どうなんですか!!?」
「いや、あの…」
その質問に答えるより先に、少し距離を置いて欲しい。
椅子に座ったままのシロエに対し、二人は数十センチの距離まで顔を近づけ、迫力の有る目で見つめて来る。
美少女二人に詰め寄られ、ちょっとドギマギしてしまうのだ。
「主君!」
「シロエさん!」
「え、えぇ~っとぉ…」
女性と恋愛が絡むと、シロエの勝率は悉く悪くなる。
「いや、別に…居ない、けど…?」
両手で二人と一人の間にバリアを作りながら、少し震える声で質問(というより詰問だが)に答えた。
その瞬間、張り詰めていた二人の雰囲気が緩み、表情から緊張が消え、パアッと明るくなった。
「そうかそうか、今は居ないのか」
「そうですかそうですか」
あからさまに態度が変わり、シロエの頭の中に疑問符が飛び交う。
訳が分からないが、取り敢えず切り抜けたらしい。
「…何なんだろう…これ…」
勝敗に白星が付いた…のだろうか。
取り敢えず解放されたため、シロエは自室へと戻って行った。
「処でアカツキっちとミノリっちは、どうなのですかにゃ?」
「む?どうとは?」
「何の事ですか?」
不意に背後から質問され、二人が振り返る。
「二人もお年頃なのですにゃ。恋の一つや二つ、誰も文句言わないですにゃ」
「「ふぇっ!?」」
「私は…にゃん太さんと…きゃっ♡」
ご意見番の不意打ちに、二人と一人がそれぞれの反応を見せる。
「わわわわわわ私は主君の忍びだから…」
「わ、私はシロエさんの弟子ですから…」
アカツキもミノリも、顔を真っ赤にしてあたふたしている。
「そう言えば、直継ちとマリエールちも最近良い雰囲気ですにゃあ。やはり身近に居ると機会にも恵まれるのですにゃあ」
にゃん太は穏やかな口調を崩さずに言葉を紡ぐ。
「シロエちの身近に居る人と言えば…あぁ、アカツキっちとミノリっちが一番身近ですかにゃ」
「「!!」」
したり顔の老師の言葉に、二人の少女は耳まで真っ赤になって頭をくらくらさせている。
「わ、私は主君の忍びだ!そ、そんな恐れ多い…レ、レイネシアの所へ行かないと…」
「わ、私はシロエさんの弟子です!そんな、そんな事…ギ、ギルド会館に行かないと…」
二人ともフラフラと家を出て行った。
「…ちょっと意地悪過ぎましたかにゃあ」
「にゃん太さん…♡」
くそっ、甘ったるいなぁorz
腹黒もげろ