第9話
第9話
"巨大生物"
「人の気配じゃない…?」
凛が銃を構えながら、葵を見る。
「えぇ。病院で戦った奴よ。間違いないわ」
葵の言った通り、現れたのは玲奈と亜莉紗では無く、盲目の患者だった。
「何こいつ…!」
「ビビるなや、大神」
「ビビってないし!」
3人が銃を構えている中、葵は何もせずに傍観する。
その様子に気付いた凛が、話し掛けた。
「…葵さん?」
「頑張ってね」
「いや…あの…」
「だって、3人の銃弾を避けながら戦うだなんて、疲れるだけじゃない」
「(疲れるだけなんだ…)」
発砲を始める3人。
盲目の患者は銃声を聞いて3人の位置を確認したが、大量の銃弾に怯み、近付く事はとてもできなかった。
「押してるで。緩めんなや」
「言われずともそうするよ」
そう言ってリボルバーを取り出す結衣。
すると、何もしていなかった葵が、突然振り返って刀を抜いた。
「…どうしたんですか?」
「新手よ。こっちは任せてもらうわ」
凛が葵の視線を辿ってみると、その先に、こちらに向かってくる別の盲目の患者が見えた。
葵は足音を立てずに歩いていき、目の前まで来た瞬間、目にも留まらぬ早さで腹部を斬りつけた。
盲目の患者が葵の存在に気付いて、彼女に顔を向ける。
「盲目…致命的ね」
葵はそう呟いて刀をしまうと、盲目の患者に背を向けて、3人の元へ戻っていった。
盲目の患者は彼女を追おうとするが、体が思うように動かない。
それもそのはず。
盲目の患者の上半身と下半身は既に、繋がっていなかったからである。
「あら、まだ終わってないの?」
「…え?」
戻ってきた葵を見た後、まさかと思いながら振り返る。
凛は、真っ二つになった"それ"を見て呆然とした。
「………」
「ほら、ボーっとしてないで、さっさとやっちゃいなさい」
「…了解です」
それから3人がしばらく撃ち続けている内に、もう1体の盲目の患者も倒れて動かなくなった。
銃を下ろす3人。
「…それで、妹はいつ来るんや」
「…あ」
「忘れとったんかい…」
「…ねぇ、ちょっと遅すぎない?」
そう言った凛を、他の3人が見つめる。
「…どういう意味かしら?」
葵が訊くと、凛は歩き出しながら答えた。
「嫌な予感というか…ハッキリとはわからないんですけど…」
「…まさか」
急いで後を追う結衣。
「…私達も行くわよ」
「…せやな」
2人も、凛の後を追った。
その頃…
「玲奈ちゃん…そっちじゃないと思うな…」
「どうしてわかるの?」
「…さっき通ったばっかりじゃないのよぉッ!」
玲奈と亜莉紗の2人が中々集合場所に来なかった理由は、ただ単に道に迷っていたという事だけであった。
「いい加減にしてよ!どんだけ方向音痴なの!」
「…じゃあ、亜莉紗さん道わかるの?」
「わかりません!」
「…はぁ」
困り果てる2人。
その時、近くにあった窓から、不気味な音が聞こえた。
「何この音?」
「…登ってきてる」
亜莉紗は、足元に伝わってくる微かな振動と聞こえてくるその音から、何かが壁を登ってこちらに来ていると判断する。
そして、その予想は見事に的中した。
窓を突き破って現れたのは、右手に巨大な爪を持った巨大な生物。
「…逃げるよ」
「あはは…これは予想外かも…」
2人は巨大生物と目が合った瞬間、振り返って全力で走り出した。
「速い…!」
すぐに、スピードの差を目の当たりにする玲奈。
すると、このままでは追い付かれると思った亜莉紗が突然立ち止まり、ポーチから何かを取り出した。
「何やってんの!」
「時間稼ぎ!」
取り出した物は、以前使ったトラップの1つである、黒い液体。
それを、巨大生物の足元に投げつける。
散乱した液体を踏んだ巨大生物は、勢い良く転倒した。
「…なるほど」
「えへへ…それだけじゃないんです」
亜莉紗は得意気にそう言って、ポーチからもう1つ何かを取り出す。
「…マッチ?」
「あの液体のベースは重油なの」
取り出した物は何の変哲もない普通のマッチ。
それを擦って着火させ、巨大生物に投げつける。
転倒した際に液体まみれになった巨大生物は、一瞬で火だるまになった。
「やるじゃん」
「まぁね~」
しかし、巨大生物は平然と立ち上がり、2人を睨んだ。
「…ダメじゃん」
「なっ!?そんなハズは…」
再び走り出す巨大生物。
「来たぁーッ!」
「ちっ…」
2人も同じように走り出した。
「亜莉紗さん!他には無いの!?」
「地雷行ってみよう!」
和宮高校で使ったものと同じ地雷を取り出す亜莉紗。
それを、巨大生物が通過する位置を予測して設置する。
地雷は見事に作動し、巨大生物は爆発に巻き込まれた。
「よし!」
「………」
しかし、巨大生物は平然と走り続けてくる。
「嘘ぉ!」
「…まずい」
追い詰められた2人。
その時、視界の先に、待ち望んでいた下への階段が現れた。
「あった!」
「急いで!」
勢いを落とさずに、そのまま階段を駆け降りていく2人。
更に、降りた先にて丁度、結衣達4人と遭遇できた。
「結衣姉!逃げて!」
「え…何で…?」
「いーから!奴が来る!」
4人が階段の上を見上げてみると、丁度巨大生物が駆け降りてくる所だった。
「うわデカッ!」
「何あの爪…!」
「なんやゴツいのが来よったな…」
「うふふ…手応えありそうね…」
逃げるどころか、それぞれ武器を構える4人。
「ちょっとみんな…!」
玲奈が止めるが、4人に引く気配はありそうに無い。
一斉に攻撃が始まろうとしたその瞬間、巨大生物が突然振り返り、一同に背を向ける。
そして、そのまま階段を登っていって、その場から姿を消した。
呆然とする亜莉紗。
「逃げた…?」
「みたいだね…」
「玲奈!遅れた理由を言いなさい!」
安堵している玲奈に、結衣が突然詰め寄ってきた。
「…結衣姉と電話した直後に、あいつと遭遇しちゃったの」
「あれ?その前から私達迷って…」
うっかり本当の理由を言いそうになった亜莉紗を、玲奈が鋭い目つきで睨む。
「…いや、遭遇しちゃったんだよね。それが」
「そうそう」
「ふーん…」
結衣が何かを言おうとしたしたが、玲奈は素早くそれを掻き消した。
「…ねぇ、気になる部屋があるって、言ってたよね」
「あぁ、こっちこっち」
結衣を先頭に、その部屋へと向かう6人。
玲奈は、結衣に気付かれないように安堵の溜め息を吐いた。
「(危ない危ない…本当の理由なんて言ってたら、結衣姉に殺されてたかも…)」
また、殺気を感じたのは玲奈だけではなかった。
「(あれ以上言ってたら、玲奈ちゃんに殺されてたかも…いや確実に殺されてたね…)」
6人は、部屋の前に到着した。
第9話 終