第8話
第8話
"集結"
「合同庁舎…ってどこかしら」
「…なぁ、ほんまに良かったんか?病院の中ロクに調べとらんで」
「私が大丈夫と言ってるのよ?だから大丈夫なのよ」
「…ウチは知らんからな」
病院から出た楓と葵の2人は、大神姉妹の捜索場所である合同庁舎を目指して歩いていた。
中途半端な捜索のまま切り上げてきた病院を、振り返って見つめる楓。
「…とは言え、あの迷路はもう懲り懲りやな」
「でしょ?」
「でしょ…ってまさか、そないな理由で止めたんか?」
「…まぁ、それもあるわね」
「………」
「そうだ。あなた知らない?」
「何を」
「合同庁舎への道のりよ」
「…知るわけ無いやろ。ウチは初めて来たんやで」
「そうよねぇ…」
ひとまず町の中央へと歩いていく2人。
楓の足取りが、心なしか重く見えた。
「楓ちゃん。乗り気じゃ無さそうね」
「ちょっと疲れてるだけや。…それより、その呼び方止めてくれへんか」
「あら、それじゃあ何て呼べばいいのかしら?」
「…朝霧でええやないか」
「わかったわ。朝霧ちゃん」
「………」
「どうしたの朝霧ちゃん?」
「…もう好きに呼びぃや」
歩き続ける2人。
すると葵が、ある建物の前で止まった。
「今度はなんや」
「見て」
そこは、結衣と玲奈、亜莉紗の3人が患者と交戦した場所、和宮高校だった。
辺りに転がっている死体を見て、楓が呟く。
「誰がやったんやろ」
「銃創と切創ばかりね」
「…大神の2人か」
「恐らくね。…それと、もう1人居るはずよ」
「なんやと?」
楓が葵を見つめる。
「ほら、所々に爆発の痕があるでしょ?これは2人の物じゃ無いはず」
楓は葵の話を聞き、グレネードを発射できるアサルトライフルを持っている人物を思い出す。
「…宮城か?」
しかし、葵がそれを否定した。
「いえ、彼女はこの程度の戦闘じゃグレネードを使わないわ」
「じゃあ、誰なんや?」
「金髪の子…亜莉紗ちゃんだったかしら。これは彼女のトラップの痕だと思うわ」
首を傾げる楓。
「亜莉紗?誰やそれ」
「知らない?上条亜莉紗」
「あぁ、上条か」
「名字しか覚えてないのね…」
「なんでやろな」
「こっちが訊きたいわ…」
葵はそう言って振り返ると、歩き出しながら楓に訊いた。
「…にしても、今回はちょっと人数が多くない?」
「葵さん、大神姉妹、上条、ウチの5人っちゅう事になるな」
葵を追いながら、答える楓。
「それと、あなたも地下から行けと言われたのよね?」
「せやけど…ほんまにそれがなんなん?」
葵は深い溜め息を吐いた後、答えた。
「…恐らく、何か理由があると思うのよ。私達には伏せておきたい、理由がね」
「伏せておきたい理由…?」
「私にはわからないんだけどね。…とにかく、大神姉妹に話を聞いてみましょう」
「…せやな」
2人は和宮高校から離れ、再び歩き始める。
その時、突然近くにあった側溝から患者が数体、這い上がるように出てきた。
「あら、もうちょっと綺麗な場所で寝たらどう?」
「…言うだけ無駄や。早よう始めるで」
「せっかちねぇ…」
側溝から出てきた患者の数は4体だけであったが、いつの間にか他の患者も集まってきたらしく、その場の合計の数は20体近くまで及んでいた。
「人気者ね。私達」
「冗談言うてる場合やないで…」
「あら、焦ってる?」
「…アホな事言うなや」
「うふふ…。良かった」
葵は不適な笑みを浮かべながら、刀を鞘から抜いた。
「ウチは前をやるわ。葵さんは後ろを頼むで」
「前の方が多そうね…」
「…ウチが後ろをやるわ」
「了解よ」
振り返って発砲を始める楓。
葵は刀を構え、最初に一番近くに居た患者を斬りつけた。
斬られた患者は瞬く間に絶命し、葵はすぐに次の標的を探す。
「さぁ、来なさい」
そう言って、近付いてきた患者を真っ二つにし、側面に居た患者の不意打ちを軽く避け、その患者も同じように一瞬で真っ二つにしてしまった。
楓が銃の再装填をしながら、葵に話し掛ける。
「ほんまにようやるわ…」
「完膚なきまでにやる。私のポリシーよ」
「ふん…」
楓は鼻で笑い、再び戦闘に戻る。
彼女が担当している後方は、葵の担当である前方に比べれば患者の数が少ないものの、1体1体がそれぞれ離れた位置に居たので、むしろやりづらかった。
「(…まぁ、ウチには関係あらへんな)」
再装填を終え、再び銃を構える楓。
彼女が使用している銃器は本来、光学照準器を用いた長距離での狙撃に使われる物だが、彼女は照準器を覗かずに撃つことで、近距離での戦闘にも兼用していた。
近くに居る患者から、次々と正確に頭を撃ち抜いていく。
彼女が8体の患者に使った弾薬は、8発だった。
「終わったで」
「早いわね。手伝ってもらえる?」
「…しゃあないな」
残りの患者は7体。
「さて、私が4体、あなたが3体で行きましょうか」
「…何となくわかってたわ」
「察しが良いのね」
「…まぁな」
あっという間にその場は、頭を撃ち抜かれた患者と真っ二つになった患者で埋め尽くされた。
刀を鞘にしまう葵。
「いい運動になったわね」
「…戦闘狂」
「え?」
「何も言ってへんよ」
歩き出そうとした2人であったが、合同庁舎の場所がわからない事を思い出し、すぐに立ち止まった。
「…どうする?」
「…ウチに訊くなや」
「困ったわねぇ…」
当てもなく歩いていると、目の前に結衣達が現在捜索している建物、警察署が見えた。
「…ねぇ楓ちゃん。1つ賭けでもしない?」
「言うてみぃや」
「ここに彼女達が居るか居ないか…ってのでどう?」
「…アホな。あいつらは合同庁舎を捜索するっちゅうてたんやで」
「それじゃ、あなたは居ない方ね」
「待ちぃや。何を賭けるん?」
「そうねぇ…。ジュース1本で行きましょう」
「ショボすぎるやろ…」
「ただのジュースじゃないわ。500ミリのペットボトルよ?」
「…ようわからんわ」
2人は警察署の中へと入っていった。
「遅い…」
「…3分しか経ってないけど」
「お~そ~い~!」
玲奈と亜莉紗を待つ事たった3分。
結衣は暴れ始めていた。
「3分10秒経過…20秒までに来なかったらもう容赦しないんだから!」
「…うるさいから静かにしてくれる?」
「20秒経過!おい玲奈ぁ~!」
「…はぁ」
凛は呆れてものも言えずに、ただただ壁にもたれ掛かって結衣の様子を横目で見ていた。
「もう怒った!」
「………」
「玲奈だけじゃなくて亜莉紗も纏めて懲らしめてやるんだから!」
「………」
「早くしろ~!」
「…あ、来た」
勢い良く振り返る結衣。
そこに現れたのは玲奈と亜莉紗ではなく、楓と葵の2人だった。
「…なんや、ほんまに居るやないけ」
「やった!ジュース1本よ!」
「わかってるさかい、静かにしてや…」
その2人を見て、凛が固まる。
「楓さん…それに、葵さん…!?」
「おう宮城。久しぶりやな」
「元気みたいね」
「大神姉妹に神崎葵…どうなってるの…?」
独り言を呟く凛を余所に、結衣が2人の元へ歩いていく。
「玲奈見なかった!?」
「…見てへんけど、どないしたんや?」
「合流するって言ったのに来ないの!」
「もしかして、亜莉紗ちゃんも一緒?」
そう訊いたのは葵。
「そのはずです!だから今2人纏めてボッコボコにしてやろうと…」
「宮城、どういう状況なんや」
今の結衣とはまともに話せないと判断した楓は、凛に話を聞く事にした。
「大神姉妹の妹と合流する事になってて、3分待っただけであいつが暴れ出した…と言った所です」
「…なるほど。ご苦労やったな」
「いえ…」
その時、こちらに向かってくる何者かの足音が、4人の耳に入ってきた。
「やっと来た…」
今にも爆発しそうな結衣。
すると、その隣に居る葵が、こんな事を言った。
「…人の気配じゃないわね」
第8話 終