第76話
第76話
"終焉"
数時間ぶりに地上に出た、結衣と晴香の2人。
新鮮な空気を吸えたという点は良かったものの、日は既に沈んでおり、明るさはさっきまでいた暗い地下のままだった。
とはいえ、2人にとってそんな事は今はどうでもいい。
「良かった。血痕を残していってくれたみたいだね」
2人は恭子の仇を取る為、そしてなにより、この戦いを終わらせる為に、血痕を辿り始めた。
辿り着いた先は、町にある唯一の大きな公園、緑木公園の前。
「ここは…」
「ハルちゃん、知ってるの?」
「緑木公園っていう場所です。昔、良く来てました」
「そういえば、ここに住んでたんだっけね」
「…つい最近までは、そうでした」
暗い表情になる晴香。
すると、結衣が彼女の背中を強く叩いて、満面の笑みを浮かべながらこう言った。
「さっさと終わらせて、一杯やるよ!」
「私未成年なんですけど…」
「関係なーい!」
「あははは…」
噴水エリアと遊具エリアの真ん中に位置する大きな広場。
「居た居た…。覚悟しやがれよ、この野郎…」
そこに、D-15は居た。
しかし、地下で見た時と比べ、少し様子がおかしい。
よく見てみると、アンプルが刺さっていた左腕が腐り落ち、肩から下が無くなっていた。
「あのアンプル、本当に効果あったんですね…」
「誰が作ったのかがわかれば、この上なく助かるんだけどなぁ…」
その時、2人に気付いたD-15がゆっくりとこちらを向き、雄叫びを上げる。
「参ったな…」
結衣は、D-15が暴走状態に陥っている事に気付いた。
「…そういえば結衣さん。私達が倒す感じの流れになってますけど、一体どうやって倒すつもりなんですか?」
「トーラスとイーグルの2丁はもうやりたくないしなぁ…。応援を呼んでみますかね」
「どうやって…?」
「電話」
「(あ、普通だ…)」
携帯電話を取り出し、電話帳から亜莉紗の名前を探す。
同時に、D-15が突進してきた。
「さぁてと、ひとっ走りするかな」
「え?結衣さん、何を…」
「ハルちゃんは隠れてな!」
「結衣さん!?」
携帯電話を耳に当てたまま、走り出す結衣。
それを見たD-15は、唖然としている晴香を無視して結衣を追い始めた。
「さぁて、君は追いつけるのかな?」
顔だけを後ろに向けて、嘲笑気味な笑みを浮かべる結衣。
結衣とD-15の距離は、見る見るうちに離れていった。
「(速いなぁ…結衣さん…)」
結衣の足の速さに、思わず感嘆する晴香。
その時、結衣の電話が繋がり、亜莉紗の声が聞こえてきた。
『結衣?終わったの?』
「今、例の奴と鬼ごっこ中」
『はぁ!?』
「とりあえず来て!何か強力な得物を持ってね!」
『ちょ、ちょっと…!』
一方的に電話を切る結衣。
「後は応援が来るまで耐久戦…ってね!」
そう言って立ち止まり、結衣はリボルバーを取り出した。
「(とは言ったものの、勇ましく正面から突っ込んだ所で、玉砕するだけだよね…。狡猾に戦った方が、身の為か)」
結衣は銃をD-15に向けたまま視線だけを動かして、辺りに利用できる物が無いかを探す。
「(ふむ…)」
結衣の視線が捉えた物は、D-15の頭上にある大木の枝だった。
素早く銃をそちらに向け、枝が分かれている部分を撃ち抜く。
銃弾は狙った場所に命中し、大きな枝がD-15の頭上に落ちてきた。
しかし、D-15はその枝を振り払うように右手で叩き落とし、直撃を免れる。
そして、結衣が居る方に視線を戻す。
結衣はその時には既に、D-15の顔面に跳び蹴りを放っていた。
反応する間もなく豪快な一撃を喰らい、派手に転倒するD-15。
「まだまだぁ!」
結衣はそう言って、立ち上がろうとしているD-15の元まで走っていき、顔面を蹴りつけようとした。
しかし、寸前で立ち止まり、バク転をして距離を離す。
「危ない危ない…ってね」
結衣は危うく、攻めてくるのを待っていたD-15に足を掴まれる所であった。
「奇襲とは考えたもんだね。でも、私には通じないよ、おバカさん!」
敵の動きを読み切った事で、調子に乗る結衣。
D-15はゆっくりと立ち上がって、雄叫びを上げた。
「叫んでどうなるってのさ。まさか仲間が来るとでも…」
「結衣さん!患者が来てます!」
「えーッ!?」
駆けつけてきた晴香の言葉を聞き、辺りを見渡す結衣。
彼女の言葉通り、いつの間にか大量の患者に囲まれていた。
「嘘でしょ…?マジで呼んだの…?」
「ど、どうするんですか?このままじゃ…」
狼狽する晴香を横目で見て、ニヤリと笑う結衣。
「圧殺される…とでも?」
「え…?」
結衣は驚いている晴香の手を掴んで、患者が少ない方向に向かって全速力で走り出した。
「ど、どこ行くんですか結衣さん!痛いですって!」
「ごめんね!でも、死ぬよりはマシでしょ?」
「それは…まぁ…。というか、本当にどうする気なんですか…?」
「応援が来るまで逃げ続ける気だよ。…多分あいつ、指揮能力を持ってる」
「それって、もしかして…」
「うん。今までも何度か見てきた、患者を操るあの個体と同じ能力。…と、私もそうは思ったんだけどね」
溜め息を吐いた結衣に、首を傾げる晴香。
「…どういう事ですか?」
「奴は患者だけじゃなくて、兵器まで操ってる。ほら、噂をすれば盲目の奴がやってきたよ」
結衣が指を差した先には、3体の盲目の患者の姿が確認できた。
「そんな…。私達、間違っても勝てないんじゃ…」
「だから逃げてるの!応援さえ来れば、何とかなるさ!」
「なれば良いですけど…」
「あれぇ?ネガティブだねぇ?」
「ネガティブにもなりますよ…」
その時、2人の進行方向に、暴走状態の患者の集団が現れる。
「ちっ…」
方向転換をして、左手側に走り出す。
しかしその先には、巨大生物が待ち構えていた。
「マジで!?」
「後ろもダメです!」
「えーい、畜生!」
晴香の手を握ったまま、巨大生物に向かって走り出す結衣。
「ゆ、結衣さん!?何やってるんですか!?」
困惑する晴香に、結衣はこう言った。
「ハルちゃん!私を思いっきり投げて!」
「えぇ!?」
「いいから!奴との距離が近くなったら、お願いね!」
「ま、待ってくださいよ!」
結衣は全く理解できていない晴香を差し置いて、走る速度を更に上げていく。
そして、その時が来た。
「今だよ!思いっきり投げて!」
「うぅ…!いい加減にしてくださいよぉッ!」
やけくそになった晴香は、結衣に言われた通り彼女を巨大生物に向かって思い切り投げつける。
「喰らえッ!」
投げられた結衣は空中で体勢を調えて、巨大生物の胸部に強烈なドロップキックを放った。
尋常ではない勢いから放たれたその攻撃をまともに喰らい、一撃で沈む巨大生物。
「道は自分で切り開く物ってね!行くよハルちゃん!」
「は、はい…!」
障害が無くなった2人は、再び敵の集団からの逃走を始めた。
その時、遠くからヘリが接近してくる音が、2人の耳に入る。
「結衣さん…この音は…」
「…意外と早かったね」
やってきたヘリの中には、亜莉紗、楓、凛の3人が乗っていた。
『おまたせ結衣!無事みたいだね!』
ヘリのスピーカーから、亜莉紗の声が聞こえてくる。
結衣は届かないと分かりつつも、ヘリに向かってこう叫んだ。
「早く助けやがれバカ野郎ッ!」
それと同時に、ヘリに搭載してある機銃の掃射が始まった。
「無事みたいですね。あの2人」
ヘリの中で、アサルトライフルにグレネードを装填している凛が、楓に話し掛ける。
「大神が死ぬワケ無いやろ。しぶとさだけは、ウチも評価しとるさかい」
「…本当にそれだけなんですか?」
「…うっさいわ」
楓は話を一方的に打ち切るように、勢いよくヘリのドアを開けた。
「結構居ますね…」
結衣達が居る下の状況を見て、苦笑する凛。
「上条、ミサイル撃てんのか?」
楓の質問に、操縦している亜莉紗は顔だけ向けて答えた。
「撃てない事も無いですけど…。2人に当たったら笑えませんよ?」
「当てなきゃええだけやろ」
「いや簡単に言いますけどね…」
「構わん。撃て」
「わ、わかりましたよ…」
結衣達から一番離れている場所に居る集団に狙いを付け、ヘリのミサイルを発射する亜莉紗。
ミサイルは見事に狙った場所に着弾し、辺りの敵を一掃した。
「というか、ヘリの操縦なんてできたのね。あんた」
不意に、凛が亜莉紗に訊く。
「さっき、優子さんに教えてもらったの」
「…さっきって、1時間も無かったじゃない」
「十分だよ」
「………」
ものの数十分でヘリの操縦を覚えてしまう亜莉紗の才能。
凛の、彼女への印象が少し変わった。
楓のスナイパーライフルによる狙撃、凛のグレネードによる爆撃、亜莉紗のヘリによる攻撃、その3つの猛攻により、敵の数は瞬く間に減っていく。
気が付けば結衣の前には、瀕死のD-15が1体居るだけになっていた。
「結衣!これを使って!」
ヘリの中から凛が、1丁のロケットランチャーを結衣の近くに落とす。
結衣はそれを拾って、D-15に視線を移した。
「やっと終わるみたいだね。長かった戦いが」
D-15はヘリのミサイルの直撃だけは免れていたものの、ミサイルの爆風や機銃までは避けられず、既に満身創痍の状態。
当然、結衣の攻撃を避ける余力は無かった。
「仲間の仇は取らせてもらうよ。…もっとも、あんたが誰も殺さなかったとしても、私はあんたを殺すけどね」
結衣はニヤリと笑って、ロケットランチャーを構える。
D-15は何とか立ち上がろうとするが、それは無駄な努力であった。
「ゲームオーバー…ってね!」
ロケットランチャーの引き金を引く結衣。
発射されたロケットはD-15の腹部に命中、炸裂し、一瞬でその体をバラバラにした。
第76話 終




