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Desperate Girls  作者: 白川脩
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第70話


第70話

"迷路"


中腰でないと通れないような隠し通路を抜けた先にある区域を捜索している、大神姉妹の2人。


楓、凛、亜莉紗の3人とは、途中から分かれて捜索していた。


「また分かれ道だ。さぁどうする妹よ」


「右かな」


「左でしょ」


「…じゃあ何で訊いたのさ」


「何となくってね」


左右に分かれた道を、左に進んでいく2人。


その先は、行き止まりだった。


「…また行き止まり引いちゃったよ」


「5回連続おめでとう」


「うっせー!」


引き返す2人。


その時、下水が流れている窪みから、1体の患者が這い出てきた。


「うわ、きたねぇ」


「腐食してる…。長い事ここに居たみたいだね」


「もっときたねぇ」


患者がこちらに気付く前に、結衣が頭を撃ち抜く。


すると、その銃声に反応したのか、新たな患者が窪みから這い出てきた。


「結衣姉、ここは逃げよう」


「そうだね」


弾の無駄になるだけだと判断した結衣は、玲奈に賛同して彼女についていく。


しかし、逃げた先にも、いつの間にか患者が待ち受けていた。


「…仕方ない。相手してやるかな」


渋々足を止めて、銃を構える結衣。


患者の数は前後合わせて、20体程であった。


「玲奈、銃使う?」


結衣はへどろまみれの患者を斬らせるのは流石にかわいそうだと思ったらしく、玲奈に銃を差し出す。


「貸してくれるなら」


「ほい」


玲奈はナイフをしまって、その銃を受け取った。


2人は近付いてくる患者を優先して、1体ずつ頭を撃ち抜き始める。


特に問題無く患者は減っていったが、10倒した所で、不測の事態が発生した。


「まだ出てくるかこの野郎」


新たな患者が、再び窪みから這い上がってきた。


「時間の問題だね」


「問題?」


「圧殺」


「うえぇ…」


直球すぎる玲奈の言葉に、苦笑する結衣。


しかし、彼女が言っている事は、何1つとして間違っていなかった。


「よし、正面だけ蹴散らしておさらばしよう。…圧殺される前に」


「了解」


後方の患者を担当していた玲奈も、結衣と共に前方へ回る。


2人は現状を打破する為に、強行突破を実行した。


正面に居る患者だけを倒していき、後ろに居る患者に追いつかれないように前へと進んでいく。


患者は次々と這い出てきたものの、特別に強力な個体は1体も居なかったので、2人は難なく突破する事ができた。


「最初からこうすれば良かったね。銃、ありがと」


「1000円でいいよ」


「………」


患者を振り切ったのをもう1度確認して、道が分かれている場所まで戻ってくる2人。


すると、こちらに歩いてくる、2人の人物の姿が見えた。



そんな一方…


「宮城、どっちやと思う?」


「右です」


「根拠は?」


「勘です」


「上出来や」


「(何なんだろうこの人達…)」


大神姉妹の2人と分かれて捜索している、楓、凛、亜莉紗の3人。


彼女達の方も、やはり分かれ道はいくつもあった。


「楓さん」


「何や」


「…目、大丈夫なんですか?」


心配そうに訊いてきた凛を、楓は鼻で笑いながら見る。


「心配する必要は無いで。大丈夫や」


「でも…その…見えないんですよね…?」


「そりゃな。ちゅうても、ウチは狙撃しかやらん人間や。一々片目つぶらんくても良くなったさかい、悪うないで」


笑い飛ばす楓。


その笑顔を見て、凛は少しだけ気が楽になった。


「痛みとかは無いんですか?」


今度は、亜莉紗が訊く。


楓は右目を覆うように巻いてある包帯に、軽く触れながら答えた。


「特に無いで。違和感も、少しずつ無くなってきとる」


「違和感すら無くなってきちゃったんですか!?」


「不思議な事にな」


そこで、不意に凛が立ち止まる。


2人が立ち止まって彼女を見ると、凛は顔を俯けたまま、楓にこう訊いた。


「…恨んでないんですか?」


「何?」


「峰岸さんの事…」


「…何や、そんな事か」


再び歩き出す楓。


「恨むなんちゅう無駄な事、ウチがすると思っとんのか?」


「ですが…」


「例え奴を殴ろうが殺そうが、ウチの目は治らん。せやろ?」


「………」


「それに、奴は改心したように見えたで。そんな人間痛めつける程、ウチもズレてへんわ」


凛は何も言わずに、楓の話を聞き続けていた。


「ま、そういう事や。…そんな事より」


突然正面の暗闇に銃を構えて、発砲する楓。


すると、何かが倒れるような音が聞こえた。


それを、凛がフラッシュライトで照らす。


「お出ましや」


照らされたのは、患者の死体だった。



その頃…


隠し通路を今し方通り抜けた晴香と葵は、先に進む事も考えたが、優子達の到着を待った方が良いと考え、彼女達を待っていた。


「遅いわね」


「何かあったんでしょうか…?」


「多分ね。でも、あの2人なら大丈夫よ」


その時、隠し通路の中から、複数の足音が響く。


しばらくして出てきたのは、巨大な蜘蛛の集団と交戦していた、優子達6人だった。


「おかえり。賑やかね」


「途中で会ったのよ。お陰で助かったけど…」


「?」


「蜘蛛の親玉が居たわ。最後は自滅したけど」


「何かよくわからないけど、大変だったみたいね」


「そりゃもう…ね」


蜘蛛の姿を思い出した優子は、今になって気持ち悪いという感情が湧いてきた。


「8人居ても仕方ないわね。分かれましょう」


明美の提案に、首を傾げる茜。


「どういう風に分かれるの?」


「そうね…。危険な場所だし、各自一番息が合う2人で組みましょう」


8人は、赤城姉妹の2人、神崎姉妹の2人、特殊兵器対策部隊の2人と、明美と恭子の4ペアに分かれた。


「あなた達だけ、これといった名前が思いつかないわねぇ…」


明美と恭子のペアを見て、茜が目を細めながら笑みを浮かべる。


「名前…ですか?」


「他のペアは姉妹や同僚みたいな感じで関係があるけど、あなた達に限っては特に無いわよね?」


明美はそれを聞き、鼻で笑った。


「名前なんてどうでも良いでしょう。そんな事よりも、早く先に進むわよ」


「あ、わかったわ!2人の共通点!」


「…?」


「変人!」


「ちょっとこっちに来なさい」


「もう…冗談よ」


2人1組になった一同は、4つある進行方向をそれぞれ1つ選び、その道を歩き出した。



「風香、話があるんだけどさ…」


赤城姉妹の2人が選んだ道は、偶然にも先行している大神姉妹の2人が進んでいった道。


「私には無いよ」


とはいえ、2人が通ったという事を示す痕跡は特に無いので、彼女達は2人がこの先に居る事を当然知らなかった。


「私にはあるの!」


「はいはい…。で、何?」


「これからの事。ずっと居候ってワケにもいかないでしょ?どうするの?」


「そうだなぁ…。その話は今話す事じゃないって事だけは確かだね」


「あっそ…」


そこで、同時に足を止める2人。


「…どっちだろう」


2人の前に現れたのは、1つ目の分かれ道だった。


「こっち」


考えもせずに、右の道へと歩き出す風香。


「ま、待ってよ!」


「何?」


「即決の理由は?」


「私の"ここ"がそう言ってるから」


風香はそう言って、自分の頭のこめかみの辺りを指で小突いて見せた。


「し、信じて良いの…?」


「考えればわかるような事でも無いじゃん」


「それはそうだけど…」


「…しつこいなぁ。じゃあお姉ちゃんだけ左行けば?」


「…もう。わかったわよ」


風香の背中を追いかける晴香。


その時、奥から複数の銃声が聞こえた。


「ほら、ビンゴ」


「嘘…。何でわかったの…?」


「だから言ったじゃん。私の"ここ"がそう言ってたの」


「…それ本当に言ってるの?」


「嘘は嫌いなの」


2つ目、3つ目と分かれ道が次々現れるが、風香が選んだ道は、全て大神姉妹の2人が通った道。


そして、5つ目の分かれ道を右に曲がった所で、こちらに歩いてくる大神姉妹の2人を見つけた。


「本当に合ってた…」


「ほらね?凡俗は私に従ってれば良いの」


「ぼ、凡俗…ッ!?」


結衣と玲奈もこちらに気付いたらしく、結衣が手を振って見せる。


しかし、遠くからではよく顔が見えなかったのか、2人が本部で留守番をしているハズの晴香と風香だという事を近くまで来た時に知ると、驚いた様子を見せた。


「あれ!?何で居るの!?」


「えへへ…じっとしてられなくて…」


「あはは!見かけによらずそういうタイプなんだ!」


和んだ様子の結衣と晴香。


「あ、チビっ子だ」


「指さすな」


「怒ってんの?」


「調子こいてんじゃねーぞ、この野郎」


玲奈と風香は、いつも通りであった。


「とりあえず戻ろう。この先には、何もなかったからね」


晴香と風香が今来た道を、戻り始める結衣。


「途中の分かれ道、片っ端から反対を調べていきますか?」


晴香がついていきながらそう訊くと、結衣は得意気な様子になって答えた。


「その必要は無いよ。私がもう既に調べてしまったからね!」


「流石ですね!」


まんまと騙される晴香。


しかし風香には、玲奈が本当の事を耳打ちで教えていた。


「(5連続で行き止まり引いただけだから)」


「(何となくわかってた)」


第70話 終




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