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Desperate Girls  作者: 白川脩
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第66話


第66話

"暗闇に潜むもの"


暗闇の中を、ひたすら歩き続ける晴香、明美、優子、葵の4人。


視界を照らす明かりは、優子のアサルトライフルに付いているフラッシュライトだけであった。


「………」


明美の手を強く握っている晴香。


「………」


頼られているからか、いつも以上に辺りを警戒している明美。


「………」


時折背後にもフラッシュライトを向けて、前後の安全を確認する優子。


「うふふ…」


葵はそんな一同を見て、静かに笑った。


「緊張しずぎね。みんな」


「?」


葵の声が聞こえた方向に顔を向ける3人。


「少し力を抜きなさい。失敗の原因になるわよ?」


「で、ですが…」


「うふふ…。別段、そんなに危険な場所じゃないわよ」


余裕に溢れている葵に、明美は一旦立ち止まってこう言った。


「余裕そうね」


「あら、そう見える?」


葵も立ち止まる。


「えぇ。とても」


「私だって、警戒はしてるわ。でも、余裕を持つ事も大切でしょ?」


「…そうかしら」


「うふふ…。余裕が無いと気付かない事だってあるわ」


「例えば?」


「そうね…」


葵は突然刀を抜いて、目の前の暗闇に振った。


「…?」


患者の気配は全く無かったので、葵が何を斬ったのかがわからない3人。


すると、葵は刀をしまいながら、いたずらっぽく笑ってこう言った。


「うふふ…。今のはジョークよ」


「…は?」


「患者はまだ居ないわ。安心しなさい」


「…あんたねぇ」


「ほら、行くわよ」


何もなかったかのように歩き出す葵。


「…明美さん、今のは何だったんでしょうか」


「さぁね…」


晴香と明美は、呆れた様子で葵に付いていった。


その後ろにいる優子は…


「(…気のせいかしら)」


背後に、何かの気配を感じていた。



そんな一方、4人とは反対の道へと進んだ風香、茜、有紀奈、恭子の4人。


やはり真っ暗という点は変わらなかったが、晴香達が通っている方と比べて、道の幅が少々狭かった。


「…茜、腕当たってる」


「ごめんね。わざとじゃないのよ?」


「嘘つけ」


緊張感の無い、茜と風香。


更に有紀奈と恭子も、特別警戒している様子は無かった。


「妹が脅迫されていた、と言っていたわね」


顔を正面に向けたまま、恭子に話し掛ける有紀奈。


「ウチの隊員を襲ったのも、それと関係してたのかしら?」


「…え?」


恭子は思わず、気の抜けた返事を返した。


「…死体を本部に届けたの、あなたじゃないの?」


「な、何の事ですか…?私はそんな事してませんよ…!」


「嘘…?」


「本当です…!」


恭子が嘘を付いている様子は無い。


しかし、部隊の本部に死体が送られてきたのも、事実だった。


「それじゃあ一体誰が…」


「そんな事があったんですか…?」


「えぇ。銃創や切創が付いた死体が、何体か本部に送られてきたの」


「銃創や切創…。それってつまり…」


「人間の仕業…と考えられるわね」


「ですよね…」


会話が一段落つき、無言になる2人。


その時、正面から、何かが走ってくる音が聞こえた。


「!」


素早く銃のフラッシュライトを向け、正面を確認する有紀奈。


照らされたのは、狂ったようにこちらに走ってきている、6体の暴走状態の患者だった。


「撃って!」


有紀奈の号令と共に、発砲を始める一同。


しかし、反応が遅れてしまい、暴走状態の患者はあっという間に距離を詰めてきた。


「茜!」


「ほいさ!」


風香と茜が前に出て、迎撃態勢に入る。


それを見て、当然恭子は驚いた。


「な、何を…」


「大丈夫よ」


落ち着いた様子の有紀奈が、銃を再装填しながら恭子にそう言う。


「え…?」


「まぁ見てなさい」


恭子が不安な視線を送る中、茜と風香の戦闘は始まった。


「うふふ…。いらっしゃい…」


襲い掛かってきた先頭の患者を見て、ニヤリと笑う茜。


患者は茜の前まで走ってくると、彼女に掴み掛かるように飛びかかった。


茜は冷静にその患者の腹部に足を押し付けて、動きを止める。


そして、その足を勢いよく上にあげ、患者の顎を蹴り上げた。


蹴られた患者の首が、有り得ない角度まで曲がる。


当然、即死だった。


「さぁ、お次はどなた?」


首を傾げながら、笑みを浮かべる茜。


すると、今度は2体同時に襲い掛かってきた。


茜は大きく体を捻らせて回し蹴りを放ち、2体を同時に蹴散らす。


1体は壁に頭を叩きつけられた事によって絶命し、もう1体は倒れた所に踵落としをされて、頭が潰れた。


「残りは譲ってあげるわ。風香ちゃん」


「そりゃどうも」


風香とバトンタッチするかのように、恭子と有紀奈の元に戻ってくる茜。


「彼女、大丈夫なのですか…?」


1人で3体の患者の前に立ちはだかっている風香を見て心配する恭子に、茜はウィンクをして見せた。


「大丈夫。あの子は普通の女子中学生では無いわ」


「と言いますと…?」


「うふふ…。見てからのお楽しみ…よ」


そこで、風香が忌々しそうに茜を見る。


「…プレッシャー与えんな」


「うふふ…。頑張ってね」


「ちっ…」


舌打ちをして、再び正面に顔を向ける。


風香の表情が、真剣になった。


「(とりあえず…)」


距離に余裕がある1体目。


風香が選んだ攻撃は、銃撃だった。


始めに狙いやすい胴体を撃って、動きを止める。


思惑通り患者の動きが遅くなった所で、風香は頭を2発撃ち抜いてトドメを刺し、1体目は難なく撃破する事ができた。


続いて、それなりに距離が詰まってきている2体目。


風香は銃をしまおうとも思ったが、まだ余裕はあると判断し、患者の足に向けて発砲した。


転倒する患者。


いつもなら体術でトドメを刺す所であるが、近付くのが面倒という理由で、風香は銃でトドメをさした。


そして3体目。


風香は銃をしまった。


飛びかかってくる患者。


それを、横にステップして回避する。


攻撃が外れた事に気付いた患者はすぐに風香の方へと振り返ったが、その時にはもう遅かった。


振り向いた患者の頭にいきなり回し蹴りを入れて、壁に叩きつける。


壁にぶつかった反動で、患者は再び通路の真ん中にふらつきながら戻ったが、風香はすぐにもう片方の足でさっきと全く同じ攻撃をした。


やはり同じように、壁に頭を打ちつける患者。


しかし今度は、ふらつきながら地面に崩れ落ちた。


「患者も脳震盪とかあるのかな」


風香はそんな事を呟きながら、倒れている患者にトドメを刺した。


「………」


和解して良かったと心底安堵する恭子。


「…ほらね?」


得意気な有紀奈に、恭子は大げさな動きで首を縦に振って見せた。


その後、一同は患者が残っていないかを確認して、再び暗闇の中を進み始める。


その時、一同の背後で、何かが動いた。



その頃…


「大丈夫ですかね…皆さん…」


「あのメンバーなら大丈夫だよ。…きっとね」


部隊の本部で一同の帰りを待つ、美咲と瑞希と亜莉栖とイヴ。


イヴだけは呑気な様子で寝ていたが、他の3人は、とても寝る事などできなかった。


「亜莉栖ちゃん、疲れてない?」


「…大丈夫」


亜莉栖を心配する瑞希。


すると、美咲が思い出したように、亜莉栖にこう訊いた。


「あ、そういえばさ。亜莉栖ちゃんって、どうして私達の居場所がわかったの?」


「?」


首を傾げる亜莉栖。


「今朝の事。私達がコンビニに居るって事がわかってたから、あそこに来たんじゃないの?」


美咲の質問に、瑞希も同調した。


「確かにそうですよね…。何の目印も無かったワケですし…」


亜莉栖は膝の上で寝息を立てているイヴの喉元を撫でながら、その質問に答える。


「…この子が教えてくれたの」


「教えてくれた…?」


オウム返しに訊く瑞希。


「…多分、私の匂いとお姉ちゃんの匂いが似てたから、わかったんだと思う」


「ははーん…姉妹ってワケですかぁ…」


美咲は冗談っぽく、そう言った。


「でも、ちょっと不思議だね」


イヴを見ながらそう呟いた瑞希に、亜莉栖が視線を移す。


「…不思議?」


「うん。だって、今までは亜莉紗さんの事を探してなかったのに、今朝になって突然探し始めたって事だよね?何かキッカケがあったのかな?」


「………」


亜莉栖は黙り込んで少し考える素振りを見せた後、首を横に振って"わからない"と告げた。


「そう考えると、確かに不思議ですな…」


「でも、何はともあれ、お姉ちゃんと再会できてよかったね!亜莉栖ちゃん!」


微笑みかけてきた瑞希に、笑みを返す亜莉栖。


その話題はそこで終わったが、亜莉栖はしばらくの間、2人に言おうとした事があった。


しかし…


「(私がお姉ちゃんに会いたくなった…それがキッカケ。…なんて絶対言えない)」


恥ずかしくて、とても言えなかった。


第66話 終




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