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Desperate Girls  作者: 白川脩
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第60話


第60話

"和解"


「…わかっています。さぁ、どうぞ」


恭子が目の前にやってきた明美と葵を見て、銃を捨てて両手を上げる。


明美達に数々の危害を与えてきた恭子は、既に覚悟を決めていた。


「肩を何発撃とうが、目を抉ってもらっても構いません。脅迫していた人間が死んだ今、私に戦う理由はもうありませんからね。でも、ケジメは付けないといけない。さぁ、どうぞ」


それを聞いて、ニヤリと笑う明美。


すると、明美が突然恭子の肩に、勢いよくパンチをした。


「痛っ…!」


「これは凛ちゃんの分よ」


「…え?」


「朝霧の分は…そうね…」


続いて、肩の付け根辺りをぐりぐりと抉るように親指を押し付ける。


「な、何をするんですか…!?い、痛いです…!」


恭子の反応を見た明美は、吹き出すように笑い出した。


「ふふ…面白い反応ね。私はこれで十分よ。後は本人達にやってもらいなさい」


「え、え…?」


明美の意図が全く読み取れない恭子。


すると、今度は葵が、明美と同じ2つの事を恭子にやった。


「だ、だから痛いですって…!」


「私もこれで許してあげるわ。後でみんなに謝りなさいよ?」


「ゆ、許すって…まさか…」


恭子は2人の考えを、ようやく察する。


2人には、恭子を殺すつもりなど毛ほども無かった。


「ど、どうして…?私はあなた達に…」


恭子の言葉を、葵が遮る。


「妹を人質にされていたなら仕方がないわよ。…って言っても、楓ちゃんが何て言うかはわからないけど。少なくとも、私は咎めないわ。これ以上はね」


「で、でも…」


困惑気味の恭子であったが、葵の次の言葉は、彼女を一瞬で落ち着かせた。


「…それに、あんたは私のパートナーじゃない」


「え…」


「ま、"元"かもしれないけど。それでも、私はあの頃の事、覚えてるわよ?」


それを聞いて、俯く恭子。


「本当に…許すつもりなんですか…?」


そんな恭子を見て、明美は溜め息を吐いた。


「しつこいわね。思えば、私はあんたに感謝しなければいけない事があったわ」


「感…謝…?」


「初めて会ったとき、ジャックを撃ち殺したでしょ?ジョーカーの話では、その時にはもうジャックは彼の手先だったらしいじゃない。つまり、危うく殺されてたって事よ。私はね」


「そ、それは…」


「うるさい。とにかく、感謝しておくわ。…ありがとう」


中々顔を上げようとしない恭子。


彼女は泣いていた。


「私、どうして泣いているのでしょうか…。悲しい事など、今は何もないのに…」


「嬉し涙ってヤツじゃないの?」


葵がそう言って、恭子を抱きしめる。


そして、小さく、優しい声で、こう言った。


「…おかえり、恭子」



一方、少し遡る事、おおよそ10分前…


「茜さん、もうちょっと歩くスピードを上げんと…」


「だーいじょうぶよ。今頃、姉さん達が何とかしてくれてるハズだから」


茜と楓の2人は、有紀奈達と分かれた後、ひたすら階段を上り続けていた。


「ほう…。姉妹の勘っちゅうヤツか?」


「そんなとこ」


見事に的中している茜の推測。


しかし実際の所は、ただ単に面倒臭いから行きたくないという理由を隠す為の出任せの言葉だった。


「それにしても、長い階段ねぇ…」


「10階やからな。妥当やろ」


その時、階段の上の方から、大量の足音が鳴り響く。


「…あら」


「…まずいな」


2人はピタリと足を止めた。


しばらくしてから2人の前に現れたのは、明美に説得されて階段を下りてきた兵士達。


敵であるハズの集団に突然遭遇した2人であったが、彼等に戦意が無い事を悟り、2人は武器を構えようとはしなかった。


「…ほう。こりゃ一体どういう風の吹き回しなんや」


「だ、誰だ…?」


2人の前で足を止める兵士達。


「誰でもええやろ。そんな事より…」


「神崎茜よ。姉さんよりも私の方が美人でしょ?」


楓の言葉を遮って茜が言った神崎という言葉に、兵士達は動揺を見せた。


「神崎…?まさかあんた、神崎葵の…?」


「妹よ。それでどうなのよ。私の方が…」


「うっさいわアホ」


茜の頭を軽くはたく楓。


「痛い!あなた叩きすぎよ!どっかのクール気取りのロリっ子にそっくりじゃない!」


「誰の事やねん…」


そんなやり取りを呆然と傍観していた兵士達であったが、先頭に居る肩に包帯が巻いてある男が、2人に声を掛けた。


「おい…」


「え?やっぱり私の方が美人ですって?まぁ当然の意見ね。聞くまでもなかったわ」


「いや、そうじゃなくて…。どうやらあんた達の仲間が今、この建物の前で敵と交戦しているらしいぞ」


「交戦やと?」


楓が茜を押しのけながら訊く。


「キングがそう言ってたんだ。俺達は今から加勢しに行く」


「敵に加勢?何を言うとるんやお前」


嘲笑する楓に、兵士は俯きながら答えた。


「…俺達は依頼を降りたんだ」


「…何やと?」


「キングに説教されちまってな。降りざるを得なかった。…まぁ、確かにあまり明るい依頼とは思ってなかったが」


男はそう言って、他の兵士達と共に再び歩き出す。


「そういう事だ。じゃあな」


「待たんかい」


それを、楓が止めた。


「…信用してええんやろうな。今の話が嘘なんやったら、ここを通すワケにはいかんさかい」


「大丈夫よ」


そう言ったのは、茜だった。


「茜さん…?」


「彼等の目を見ればわかるわ。嘘は言ってないって。…まぁ今のは嘘なんだけど、とにかく大丈夫よ」


「………」


疑いの眼差しで茜を見る楓。


「じゃあこうしましょう。あなたが付いていけばいいのよ。彼等にね」


茜の提案を聞いた楓は意外にも、それを快諾した。


「…まぁええわ。ほんならさっさと行くで、お前等」


戸惑っている兵士達に、茜が視線を移す。


「それじゃみんな、頼んだわよ」


「あ、あぁ…」


兵士達は困惑した様子のまま、楓に付いていくように階段を下り始めた。


その様子を見送ってから、階段を駆け上がり始める茜。


「(説得したのかしら…。それとも…)」


茜は不安を抱えながらも、最上階の10階に到着した。


「(さて、どこに居るのかしら?)」


焦る気持ちを抑えながら、通路を歩いて葵達の姿を探す。


しばらく歩いていると、茜は複数の薬莢と、まだ新しい血痕を見つけた。


「(…一体誰の物なのかしらね)」


血痕が屋上への階段に続いている事に気付き、階段の元へと駆けつける。


「………」


茜は銃を取り出し、ゆっくりと階段を上っていった。


そして、屋上に飛び出して銃を構える。


そこで見た物は…


「な…!?」


恭子を抱きしめている、葵の姿だった。



「だから…。何度も言うけど、別にさっきの抱擁に深い意味は…」


「ずるいわ姉さん…。私よりも先に可愛い女の子とハグをするなんて…!」


必死に誤解を解こうとする葵と、全く聞く耳を持たない茜。


そのやり取りを見て、明美は呆れた様子で溜め息を吐いた。


「あの…沢村さん…」


茜から逃げるように、明美の元にやってくる恭子。


「何?」


「あの姉妹は今、どういった事で言い合いをしているのでしょうか…?私には少しわからなくて…」


「限りなく下らない事よ。…気にしない方が良いわ」


「はぁ…」


そこに、茜もやってくる。


「私もハグしたいわ!させなさい!」


「え…?」


「ハグよハグ!姉さんがしたように私も…」


「あの…止めてください、困ります…」


「そそるわ…。その弱々しい感じが逆に私の欲を…」


茜は葵の刀による峰打ちによって、静かになった。


「明美、今度麻酔銃を売って貰えないかしら。かなり強力なヤツを」


「…仕入れておくわ」



「そういえば、私のファイルはどこにあるのかしら?」


明美が思い出したように、恭子に訊く。


「それでしたら、10階の資料室に置いてあります。…本当に申し訳ありませんでした」


「良いのよ。…妹の命を脅されていたのだものね」


明美が何の気なしにそう呟くと、それを聞いた葵が、こんな事を彼女に聞いた。


「確か、あなたにも妹が居るのよね?」


そう訊かれ、苦い顔になる明美。


「…教えた覚えは無いのだけれど」


「うふふ…。神崎葵を甘く見ない事ね」


明美はしばらく何かを悩んだ後、葵を見ながらこう言った。


「…歩美よ。沢村歩美」


「それが妹の名前?」


「…えぇ。そうよ」


「へぇ…」


「…何よ」


「うふふ…。何でもないわ。素敵な名前ね」


「ふん…」


そこで、倒れていた茜が目を覚まし、体を起こす。


「それよりも姉さん。今からどうするのよ?」


葵は茜に手を差し伸べながら、話を始めた。


「気になってる事が1つ。さっきの男が言っていた、"地下に作った施設"の事よ」


「男?」


茜が葵の手を掴んで立ち上がりながら訊く。


その質問には、葵の代わりに明美が答えた。


「ジョーカーよ。…彼が黒幕だったの」


「あらまぁ」


「…反応薄いわね」


「そうかしら?」


そこで葵が咳払いをして、2人の会話を止める。


「…患者が異様に多い場所も、その施設とやらがあるらしい地下。…これって偶然かしら」


そう言った葵に、他の3人が視線を送る。


「そういう事。一応調べてみる価値はあると思うわ。…行くわよ」


4人は屋上を後にした。


第60話 終




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