第6話
第6話
"依頼の疑問"
警察署…
「…でも、奪われたとして、一体誰に?」
歩きながら顎に手を当てて、考え込む亜莉紗。
「…玲奈ちゃん?」
隣に居る玲奈は、ずっと黙り込んだままだった。
「………」
「え、無視?」
苦笑する亜莉紗。
すると、玲奈は突然立ち止まって、辺りを見渡し始めた。
「…銃声が聞こえなかった?」
「銃声?」
「うん。連射の」
「連射だとしたら、結衣の物じゃないよね。…まぁ、私には聞こえなかったけど」
「…気のせいか」
しかし、玲奈の聞いた銃声は、凛が結衣に発砲した本当の銃声だった。
再び歩き出す2人。
「…それで、さっきの続きなんだけど、玲奈ちゃんはどう思う?」
「…何の事?」
「…いや、私がさっき話してた事」
「ごめん。多分聞いてなかった」
「(完全にスルーされてたんだ…)」
亜莉紗は、ファイルを奪った人物について、玲奈に話した。
「…どう思う?」
「さぁ」
「………」
「冗談だよ。…多分、ファイルの所有者に恨みを持っている人物。乃至はそのファイルがどうしても必要な人物。普通の考えだけど、この線が妥当じゃないかな」
「乃至?」
「"または"って意味。いずれにせよ、そのファイルの内容は暗そうだね」
「どうして?」
玲奈は察しの悪い亜莉紗に少し呆れ気味になって、説明した。
「後ろめたい事が無いのなら、警察にでも頼めば良いじゃない。じゃなきゃ、わざわざ高い金を出して、私達を雇う必要が無いよ」
「あ、そっか」
「…上条さんってさ」
「何?」
「馬鹿なの?」
「!?」
2人が歩き続けていると、上の階へ繋がる階段が見つかった。
「どうする?」
「下は結衣姉に任せて、私達は上に行こう」
玲奈はそう言って、携帯電話を取り出した。
自分の携帯が鳴っている事に気付いて立ち止まる結衣と、その隣で同じく立ち止まる凛。
「お、電話だ」
「誰から?」
「…玲奈だ。何だろ」
結衣が応答するボタンを押して携帯電話を耳に当てると、玲奈の声が聞こえてきた。
『結衣姉、大丈夫?』
「愚問だね」
『…私達は2階を調べてみる。何か見つけたら、また連絡するね』
「りょーかい。ちなみに、仲間を見つけたよ」
『誰?』
「凛」
『り…凛?誰それ…』
「ま、詳しい話は合流してからって事で。何か見つけたら、こっちも連絡するよ。じゃあね」
『ちょ、ちょっと…』
凛の事を訊こうとした玲奈を無視して、結衣は電話を切った。
凛が電話の相手を訊いてくる。
「玲奈って…妹の方?」
「そうだよ」
「大神姉妹の2人が出向いてるなんて、そんなに大規模な依頼なんだ…」
「…ねぇ、私達の噂って、どういう感じなの?」
「1つのテロリスト集団を壊滅させた、とか、偶然通りかかった所で強盗事件を解決した、とか…」
「うん…全部嘘かな…」
2人がふらふらと歩いていると、視界に3体の患者が映った。
「3体…か」
「………」
凛は無言で銃を構え、3体の患者に発砲する。
結衣は凛の撃ち方に注目した。
「3点バースト…ってヤツ?」
「基本はね。状況によって変えるけど」
「私を狙った時は、見事な連射だったねぇ…」
「…何よ」
「別に~」
いたずらっぽく笑いながら、銃を構える結衣。
3体の患者は、あっという間に動かなくなった。
「さて、行きましょうか」
「そういえば、私はあなたを何て呼べばいいのかしら?」
凛が銃を肩に掛けながら訊く。
すると、結衣は真顔でこう答えた。
「大神姉妹の結衣姉様とか?」
「………」
「冗談冗談…結衣で良いよ」
「…わかった。結衣」
「何?」
「…頭にカメムシ付いてる」
「!?」
和宮病院…
「そういえば、大神の2人が来てるって言ってたわね」
「合流するんか?」
「行く場所も無いからねぇ…」
楓と葵の2人は地下から上がると、そのまま病院の出口へと向かった。
しかし。
「っと…ストップ」
「なんや?」
「患者よ」
葵が指差した先に、4体の患者が居た。
「ここは任せて貰うで」
「あら、平等にやりましょうよ」
「…別に手柄っちゅう訳でも無いやろ」
「斬った数だけ強くなるのよ」
「物騒やな…」
4体の中から、先頭を歩いていた患者が2人に近付いてくる。
その患者を、葵は見もせずに真っ二つにした。
歩みを止めずに、そのまま患者に近付いていく2人。
「ウチは左と真ん中をやるわ」
「了解。私は右と真ん中ね」
「…話聞いとったんか?」
「聞いてたわよ」
「………」
素早く左側の患者を撃ち抜く楓。
続けて真ん中の患者に狙いを付けた瞬間、葵が先にその患者の首を切り落とした。
楓に意味深な目線を送った後、右側に居る患者の両腕を切り落とし、最後に真ん中の患者と同じように首を切り落とす。
楓は溜め息を吐きながら、歩いてきた。
「…両腕ぶった斬る必要は無かったんとちゃうか?」
「気分よ」
「気分で残虐行為せんといてぇな…」
合同庁舎へと歩き出そうとする2人。
その足は、すぐに止まった。
「…なんや仰山集まってきたな」
2人を取り囲む大量の患者。
30体は居る中、葵は不気味な笑みを浮かべた。
「少ない方でしょ」
「…嘘やろ?」
「少ないわよ」
「………」
2人はまず、囲まれている状況から抜け出す事を優先した。
一番患者の数が少ない方向を選ぶ2人。
「こっちね」
「いや、そっちは一番多いやないか…。こっちが一番少ないで」
「そっちは少なすぎよ。ここで数を減らしておけば、後で楽になるわ」
「…滅茶苦茶やないけ」
「勝てばいいのよ」
「もうええわ…」
結局、どう見ても一番数が多い方向を攻撃する事になった。
「援護、よろしくね」
「それは謙遜のつもりなんか?」
「えぇ」
「………」
葵が走っていき、次々と患者を斬りつける。
楓はゆっくりとその後を追いながら、葵の周りに居る患者を撃ち抜いていった。
あっという間に抜け出し、振り返る2人。
「さて、やりましょうか」
「…楽しそうやな」
「楽しまなきゃ」
「楽しむもんなんか…」
2人はそれぞれ、武器を構えた。
警察署…
「上条さん」
「名前でいいよ」
「亜莉紗」
「いきなり呼び捨ては…」
1階の捜索を結衣に任せ、2階へとやってきた玲奈と亜莉紗。
2階にもやはり人は居らず、1階同様不気味な静寂に包まれていた。
「亜莉紗さんって、どういうルートでこの町に来たの?」
「地下から来たよ」
「地下…から?」
「…それがどうしたの?」
玲奈は、楓と会った時の事を思い出す。
「朝霧楓って人、知ってる?」
「確か、関西弁の人だよね」
「その人も地下から来たらしいんだけど、これって偶然?」
「…偶然じゃないかも」
そう言った亜莉紗を、見つめる玲奈。
「…どういう事?」
「私、"地下から行け"って言われたんだ。もしかしたら、楓さんもそう言われたのかもよ」
亜莉紗の話を聞いた玲奈は、腕を組んで1人で考え込み始めた。
「(どうして私達だけ、言われなかったんだろ…)」
「…玲奈ちゃーん?」
「(何か意味があるのかな…?)」
「おーい…」
第6話 終