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Desperate Girls  作者: 白川脩
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第59話


第59話

"偽りの狂気"


合同庁舎10階通路…


「それじゃあ、1つだけ質問をさせてもらうわ」


「えぇ。どうぞ」


睨み合う、明美と恭子。


「…その前に、1つ"提案"を良いかしら」


「提案?約束にはありませんよ?」


「そう。それじゃあ、"脅迫"に変えるわ」


恭子はしばらく明美を見つめた後、静かに笑った。


「ふふふ…。わかりました。脅迫と言うのなら仕方がありませんね」


「助かるわ」


「それで…脅迫の内容は?」


明美は後ろに居る兵士達に視線をやりながら、脅迫の内容を話す。


「話の前に、彼らを解放しなさい」


「さもなくば?」


「両腕が無くなるわよ」


それを聞いた葵が、刀を握る手に力を込めた。


それに気付いて、ニヤリと笑う恭子。


そして、意外にも素直にこう答えた。


「良いでしょう、許可します」


「…素直ね」


「ふふふ…。両腕を失うのは、少々困りますから…」


「まぁ、それもそうよね…」


明美は軽く鼻で笑ってから、再び兵士達に視線を移す。


「そういう事だから、全員帰りなさい。依頼主の許可があるのなら、戸惑う事は何も無いでしょう?」


兵士達は気まずそうに恭子を一目見た後、ぞろぞろと階段を降りていった。


「あぁ、それと…」


兵士達を、明美が引き止める。


「入口に私達の仲間が居るハズだから、加勢しなさい。あと、階段は両方壊れてるけれど、何とかしなさい」


「な、何とか…ですか?」


「え?」


「わ、わかりましたッ!」


兵士達は恐怖に突き動かされて、慌てた様子で階段へと走っていった。


兵士達が全員その場から居なくなり、明美と葵、恭子の3人だけが残る。


すると、恭子がくすくすと笑い出した。


「優しいのですね…沢村さんは」


「敵を減らしただけよ」


「またまた…」


明美は咳払いをして、強引にその話を終わらせる。


「…そんな事より、答えてもらうわよ」


「あぁ…そうでしたね。忘れてました」


聞きたい事が2つある明美は迷いに迷った末、ゆっくりと口を開いた。


「…本当の理由を教えて」


「…はい?」


「D細菌を入手しなければならない、本当の理由よ」


その質問には恭子だけでなく、葵も驚いた様子を見せる。


「…明美、どういう事?」


「ずっと胡散臭いと思っていたのよ。殺戮の為にD細菌を使うなんて、何の得も無いじゃない」


「でもこいつは…」


「狂人…。…本当にそう思ってるの?」


明美の言葉は、葵を呆然とさせた。


明美は話を続ける。


「彼女は1階で、凛ちゃんの肩を撃った。…その時点で、狂人とは思えないわ。もし本当にそうならば、肩でなく頭を狙うハズだもの」


「あれは外れたのですよ。頭を狙ったつもりだったのですが…」


「嘘ね」


明美はきっぱりとそう言った。


「あなたが外すなんて有り得ないわ。それは私も、葵もよく知ってる。それに聞いた話では、美咲ちゃんの頭に銃を突き付けたらしいけど、撃ちはしなかったらしいわね。どういう事かしら?」


黙り込む恭子。


「撃ちたくなかった、つまり殺したくなかった…。そうなんでしょう?峰岸恭子」


しばらくの間、その場に重い沈黙が続いた。


「…なるほど。確かに変ね」


沈黙を破ったのは、葵だった。


「でも、あの時の殺しはどう説明する気?標的の家族を…」


「殺したのは、理由があったのよ」


明美がそう言った途端、恭子の様子が変わる。


「ずっと隠していたけれど、そろそろ話すわ。葵」


「…止めてください」


「調べはついてる。恭子、あなたには…」


「止めてくださいッ!」


明美は焦燥している恭子を無視して、言葉の続きを喋った。


「妹が居る。たった1人の、大切な妹がね」


「…妹ですって?」


思わず刀を下ろして、明美の顔を見つめる葵。


「峰岸恭香。両親が居ないあなたにとって、彼女はたった1人の家族…」


「どうしてその事を…」


「私を誰だと思っているのかしら?その気にさえなれば、どんな事であろうと調べられるわよ。数日でね」


得意気な笑みを浮かべる明美。


そんな彼女を、葵が小突いた。


「待ちなさい。それと例の一家殺しが、どう関係してるって言うの?」


「これも後から知ったのだけれど、依頼主が彼女を脅迫していたらしいのよ」


明美はそう言って、隣に居る葵から、正面に居る恭子に視線を移す。


「"妹を殺す"。そんな風に言われたら、従うしかないでしょうね。葵、あなたならわかるんじゃないの?」


葵は茜の姿を思い浮かべ、黙り込んだ。


「依頼主は標的に、怨恨を持っていたのよ。どんなものかは調べたくもなかったけれど。まぁ、本人だけでなく、その家族も纏めて殺したくなるような怨恨って事は確かでしょうね」


「…断りましたよ。最初は」


俯いていた恭子が、ゆっくりと顔を上げる。


「沢村さん、全てあなたの言う通りです。私は脅迫されていました」


「…どうして教えてくれなかったの?」


暗いトーンの声でそう言ったのは、葵だった。


「そんな理由があったなら、言ってくれれば良かったじゃない…!どうして隠してたのよ…!?」


「周りに知れ渡ったら、妹を殺されていたんですよ!?それでも言えと言うのですか!?」


「私の事を信頼していなかったの!?私がバラすような奴だと思っていたの!?」


「怖かったんですよ…!私だって…言いたかったけれど…!」


そこで、明美が手を叩いて大きな音を出し、2人の言い合いを止める。


「喧嘩は後にして。…それよりも、質問の答えを出して頂戴」


恭子は大声を出した後だったので、息を整えてから、明美を見て話し始めた。


「真の目的でしたね…。良いでしょう。お答えします。私は…」


その時、恭子の話を遮るように、1発の銃声が鳴り響く。


恭子の背後に、人影があった。


「思ったよりも使えなかったな。峰岸恭子」


恭子は素早く明美と葵の方へ移動し、銃を構える。


「へぇ、あなたが黒幕だったとはね。道理で連絡が取れなかったワケか…」


現れた人物を見た明美が呟くようにそう言って、嘲笑のような笑みを浮かべた。


そんな彼女を、横目で見る葵。


「…誰?こいつ」


「私の部下…だった男よ」


その男は以前明美の部下だった、"ジョーカー"と呼ばれる人物だった。


「感謝してるよキング。D細菌は本当に強力な兵器だ」


「………」


「あんたの下で働いていた時、少しずつ頂戴していたんだ。お陰で、今は地下にちょっとした施設を作って、兵器を作らせてもらってるよ」


「………」


「だが、最近少し足りなくなってきてな…。そこで、彼女を脅迫してD細菌を奪ってきて貰おうと計画したのさ」


「………」


「ジャックの野郎も仲間に入れてやったんだがな。ファイルを金庫から盗み出した後、どういうワケか、殺されてやがった。キングを殺してもらおうと思っていたのに…」


「………」


「どうした?驚きのあまり、声も出ないか?」


「…それだけ?」


「え?」


「情報」


「何を言って…」


明美は突然、ジョーカーの肩に向けて、銃を発砲した。


「なら死になさい。用は無いわ」


ジョーカーは慌てて銃を構えたが、今度は恭子にもう片方の肩を撃ち抜かれる。


「…私を脅迫した罪は重いですよ」


「ま、待て!妹がどうなっても…」


「ふふふ…。面白い事を言いますね。あなたは今ここで死ぬというのに」


恭子はそう言って、ジョーカーの膝を撃ち抜いた。


よろけて跪いたジョーカーに歩み寄る、明美と恭子。


2人の後ろに居る葵は、ジョーカーを見て苦笑していた。


「格好付けてボス気取りで出てくるのは良いけど、その後の事は考えてなかったのかしら…。こっち3人なのに…」


「…くそっ!」


近くにあった屋上への階段に、這うように向かうジョーカー。


明美と恭子はトドメを刺せたが、あえて見逃して、彼を追いかけた。


「ふふふ…。どうせ逃げられないのなら…」


「追い詰めてから、徹底的に裏切りの罰を与えましょうか…」


ジョーカーが上っていった階段に足を付ける明美と恭子。


「(怖…)」


葵はわざと遅れて、2人の後を追いかけた。



合同庁舎屋上…


「沢村さん」


「何?」


「青柳という男を惨殺した件については、どう説明する気ですか?」


「それも脅迫なんでしょう?朝霧楓の目の件もね」


「…ふふふ。全部お見通しってワケですか。いつから気付いていたのですか?」


「さぁね」


「はい?」


「最初から、かもしれないし、今さっき、かもしれない」


「よくわかりませんが…」


「ふふ、別に良いじゃないそんな事。…それよりも今は」


「…そうですね」


屋上のフェンスにもたれ掛かるように立っているジョーカーに視線を移す2人。


「こいつに仕返しをしましょう」


「…賛成です」


2人は不気味に笑い、ジョーカーの腹部を同時に蹴りつけた。


フェンスが破れ、ジョーカーの体が地面の無い場所に吹っ飛ぶ。


落下していく彼の断末魔は、すぐに聞こえなくなった。


そこでやっと、葵が到着する。


「エグいわね…お2人さん…」


「葵、遅かったじゃない」


「ショッキングな物は苦手なのよ」


「何を言っているのやら…」


葵と明美はお互いの顔を見ながら笑った後、恭子の元へと歩み寄っていった。


そして、明美が口を開く。


「…さてと」


第59話 終




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