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Desperate Girls  作者: 白川脩
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第58話


第58話

"全てを統べる個体"


合同庁舎4階通路…


「患者の大群…?」


無線機から聞こえてきた優子の言葉を、そのまま繰り返す有紀奈。


『えぇ。100…いや、それ以上かしら。』


既に戦闘は始まっているらしく、優子の声と共に、複数の銃声も聞こえてきた。


「どうするつもり?」


『やれる事はやるつもりよ』


「…そう」


有紀奈は相槌を打って、凛と美咲に視線を移す。


「こっちから2人送るわ。食い止めて頂戴」


『冗談でしょ?この数を…』


「やれる事はやるんでしょう?」


『そ、それは…』


「どうしても無理なら、こっちに来なさい。…どうしても無理ならね。それじゃ」


一方的に会話を終わらせ、無線機をしまう有紀奈。


そんな有紀奈を、恐る恐る見つめる美咲と凛。


「あの…」


「2人ってのは…」


有紀奈は2人を見て、笑みを浮かべた。


「そう、あなた達。頼んだわよ」


「はーい…」


「…不服そうね?」


「とんでもないですッ!」


慌てて走っていく2人。


有紀奈は2人の背中を見送ってから、歩き出した。


それに付いていく、晴香と瑞希。


「どこに行くんですか?」


晴香が訊く。


「加勢するのよ」


「加勢…?」


「聞こえない?金属音のような音」


耳を澄ます2人。


微かに、有紀奈の言った通り、金属音のような音が聞こえた。



その金属音のような音とは、今風香と玲奈が対峙している、刃の患者による物。


状況は、五分五分だった。


「チビっ子。息上がってんじゃないの?」


「…次チビって言ったらマジで頭撃つから」


「チビ」


「………」


「へぇ、大人じゃん。我慢できるんだ」


しかし、2人の体力が徐々に無くなっていくにも関わらず、刃の患者は次々と増援を呼び続ける。


次第に、状況は劣勢になりつつあった。


「(押され気味…。退路はあるけど…)」


後ろを振り向く玲奈。


「あ…」


すると、音を聞きつけてやってきた、有紀奈達3人の姿が見えた。


「やっぱりあなた達だったのね」


「よくわかりましたね…。って、この音じゃ気付くか…」


玲奈がそう言って、刃を地面に叩きつけて耳障りな音を立てている患者を、忌々しそうに見る。


「とにかく、この場を何とかするのが先決よ」


有紀奈が銃を構えると、後ろの2人も倣って銃を構えた。


それを見て、玲奈はナイフをしまう。


「速水さん。銃、貸して頂けませんか?」


「良いけど…。ナイフは?」


「3人の弾幕を避けながら戦う事ができる人なんて、あの人ぐらいですよ。刀を使うあの人」


「あぁ…なるほどね…」


有紀奈はくすりと笑い、ハンドガンを取り出して玲奈に渡した。


渡されたハンドガンを見て、顔をしかめる玲奈。


「USP…ですか」


「嫌い?」


「初めて人を…いえ、初めて発砲した銃が、これなんです」


「…そう」


玲奈は複雑な心境を振り払うように銃を構え、正面に居る敵を撃ち抜いた。


一方、3人が来た事に気付いていながら、あえて気付いていない振りをしている風香。


しかし、刃の患者に押されている彼女は、結局一同の元へと逃げ込むようにやってきた。


「お、瑞希じゃん」


「白々しいよ…この上なく白々しいよ風香ちゃん…」


「うるさい」


そこで、晴香にも一瞬だけ視線を送る。


しかし、それだけだった。


「…喧嘩中?」


有紀奈が晴香と風香を交互に見て、そう呟く。


2人はどちらも答えようとはせずに、ひたすら目の前の敵に銃弾を撃ち込み続けた。



その頃…


「姉御!応援が来ましたよ!」


合同庁舎の入口で、膨大すぎる患者の大群と戦っている優子達の元に、凛と美咲が到着する。


当然、2人は目の前の光景に驚愕した。


「こ、こんな数を…!?」


2人に気付いた優子が、銃を再装填しながらやってくる。


「素晴らしい人選ね。助かるわ」


「こ、この数を相手にするんですか…!?」


震え声でそう訊く美咲。


「えぇ。バカげてるでしょ?」


「いや…だったら…」


「…ウチの"ボス"の指令よ」


「あっ…」


美咲はその言葉を聞いた途端、説得を諦めて戦闘を始めた。


「あなたも頼むわ。凛ちゃん」


「…あ、すみません。わかりました」


凛はぼーっとしていたのか、少し慌てた様子で返事を返す。


「…何か気になってる事があるような顔ね」


「…この大群。集まったのは偶然なんでしょうか?」


「え…?」


「変ですよ。こんな、町中の患者を全てかき集めたような数が、一斉に同じ場所に集まるだなんて」


優子は、"言われてみれば"と言ったような表情を浮かべて、患者の大群に視線を移した。


話を続ける凛。


「私はこう考えます。"何かが患者を集めた"と」


「指揮能力を持つ個体の事?」


優子の言葉に、凛は首を横に振った。


「いえ。恐らく、その個体にはここまでの数を動かす程の能力は無いハズです」


それを聞いて、顔をしかめる優子。


「…ちょっと待って。何が言いたいの?」


凛は呟くように、こう言った。


「その個体をも操る個体が居る…」


「…何ですって?」


「あくまでも推測ですが、可能性は十分にあると思います」


優子は半信半疑と言った様子であったが、辺りにいる患者の大群をもう1度改めて見てみると、少しずつ共感が湧いてきた。


「…確かに、この数を動かす事ができる個体と言ったら、並の個体ではなさそうね」


「でしょう?」


「えぇ。あなたの考えは合ってると思うわ。…でも」


優子が言葉を言い切る前に、凛は彼女が言いたい事を察する。


「現状の打開策とは関係ない…ですよね。わかってます」


すると、優子は突然涙声になってこう呟いた。


「…優秀ね」


「え…?」


「うぅ…あなたのような部下が欲しいわ…」


「ちょ…泣かないでくださいよ…」


「優秀なだけじゃなく、素直で礼儀正しくて…」


「(苦労してるんだなぁ…)」


凛はただただ、困惑していた。



そんな2人を傍らに、ひたすら患者の数を減らし続ける結衣。


その結衣の元に、美咲がやってきた。


「結衣さん!加勢します!」


「助かるよ!美咲っち!」


「み、美咲っち!?」


「ノリだよノリ!援護よろしくね!」


「は、はい!」


結衣の隣に並び、患者の掃討を始める美咲。


結衣1人でも患者の減るペースは十分に早かったが、美咲が加勢した事により、そのペースは更に早くなった。


「美咲っち!HSHS!」


「えいちえす…って何ですか?」


「ヘッドショット!」


「HSって言うんですか…?」


「我々の業界ではそう言います!2B1Hってのもあった気がするよ!」


「(鉛筆の事かな…?)」


そこに、上条姉妹の2人とイヴがやってくる。


「結衣!あれを見て!」


亜莉紗が指差している先には、周りの患者に指示を出している個体が見えた。


「やっぱりあいつの仕業か…」


「先にあいつを仕留めれば、少しは楽になるんじゃないかな?」


「だね。それじゃ早速…」


その個体に銃を構えようとする結衣。


すると、亜莉栖が結衣の腕を引っ張って、彼女をこちらに向かせた。


「おっとっと…。どったの?亜莉栖ちゃん」


「…あっちにも居る」


「何と…」


苦笑を浮かべながら、亜莉栖が指差した先を見てみる結衣。


亜莉栖の言った通り、そこにも指揮能力を持つ個体が居た。


「うわ、面倒臭っ!」


「結衣さん、もしかしてあれもですかね…?」


亜莉紗、亜莉栖の2人とは、別の方向を指差した美咲。


そこには、2体居た。


「あぁもう無理だよコンチクショウ!」


焦燥している結衣に、亜莉紗が恐る恐る話し掛ける。


「な、何が…?」


「色々だよバカタレェッ!」


「何で私が罵られるの!?」


圧倒的な戦力差に、一同の士気は下がりつつあった。


しかしその時、合同庁舎の中から、予想外の援軍が大勢現れる。


「総員!患者を全滅させろ!」


それは敵であるハズの、峰岸恭子の部下の兵士達だった。


第58話 終




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