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Desperate Girls  作者: 白川脩
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第54話


第54話

"状況の悪化"


一方、葵や凛達とは反対側の階段を上っている有紀奈、茜、楓、玲奈、美咲、瑞希の6人。


大人数で移動している6人であったが、やはり葵達と同じく警戒しているのか、口を開く者は1人も居なかった。


しかし、4階に到着した所で、その静寂は破られた。


「…何やこれは」


途切れている階段を見て、楓が苦笑する。


その事を知らない玲奈も、目の前の光景に呆然としていた。


「大丈夫、通れるわ」


「どうやって?」


楓が茜を見る。


「あれを使うのよ」


茜はそう言って、自分の背後を指差した。


そこには、1つの大きなハシゴが置いてあった。


「ハシゴ…?」


「えぇ。これを架けて渡るのよ」


「"渡る"か…。確かにこの角度じゃ、手を使う場合四つん這いにでもならなきゃ無理やな」


「四つん這いになってくれるの!?」


「何で喜んどんねん…」


ハシゴを階段に架ける一同。


一番先に渡ろうとしたのは、玲奈だった。


「お先に」


「待って、私が支え…」


「必要ありません」


玲奈は茜を無視して、まるで地上を走るかのように容易く、ハシゴの上を駆け抜ける。


彼女にとって、この程度の事は朝飯前だった。


「なっ…!?」


想像もしなかった玲奈の渡り方に、言葉を失う有紀奈。


楓以外のその他の一同も、全く同じ反応だった。


「相変わらずやな。大神」


「…前にも言いましたけど、名前で呼んでくださいよ」


「そうか?なら、玲奈」


「…やっぱり違和感あるかも」


「どっちやねん…」


そんな中、他の一同とは違う反応を取っている人物が1人。


「はぁ…」


「…どないしたんや?」


その人物、茜に、楓が話し掛ける。


「見そびれた…」


「何を?」


「裏もも」


「(この人頭おかしいんとちゃうか…?)」


楓はなぜか、戦慄した。



「それじゃ、私が支え…」


「待ちなさい」


意気揚々とハシゴの端に付いた茜であったが、有紀奈がそれを止める。


「な、何よ。何なのよ」


茜が恐る恐るとある事を思いながら有紀奈を見ると、彼女は予想通りの事を言った。


「支えるのは朝霧にやってもらうわ。あんたは先に渡って頂戴」


「え…」


「何で絶望したような顔になるのよ…」


「ちょい待ちぃや」


そこで、楓が口を挟む。


「何でウチなん?」


「あなたが一番安全そうなのよ。色んな意味で」


「安全?」


「えぇ。頼んだわよ」


「…ようわからんが、まぁ、ええで」


楓がハシゴに向かおうとすると、茜が物凄い勢いで割り込んできた。


「良くないわッ!」


「なんやびっくりしたなぁ…」


「その大役は私が務めるわ。異論は認めな…」


そんな茜に、有紀奈が歩み寄っていく。


「な、何よ。何なのよ」


「黙って渡るか、ここから突き落とされたいか、どっちか選んで頂戴」


「ぐっ…!突き落とされようが見る物は見るわ…!」


「そう。なら来なさい。言い残す事はあるかしら?」


「え、マジなの?ちょ、待って。わかったから襟首掴まないで…」


「どうしたのよ。突き落とされたいんでしょ?」


「じょ、冗談よ!早く渡りたくてうずうずしてるわ!」


「ならさっさと行きなさい。気が変わらない内に」


「よ、喜んで…」


茜は渋々、ハシゴを渡った。


「ほな、次はどっちや?」


楓がそう言って、残った瑞希と美咲を交互に見る。


「私が行きます」


手を挙げたのは、瑞希だった。


「…なるほど」


彼女の服装を見て、楓が何かを納得する。


「どうしたんですか?」


「いや、茜さんが見たい言うてたもんはこれか、思うてな」


それを聞いた瑞希は、自分のスカートを一目見てから、恐る恐る楓にこう訊いた。


「か、楓さんはそういう人じゃないですよね…?」


「ちゃうわアホ…」



瑞希が渡り終わり、美咲に番が回ってくる。


「…どないした?」


美咲は中々、渡ろうとしなかった。


「す、すみません…。私、高い所が苦手で…」


「ほう」


楓は頷いて、少し考えるような素振りを見せた後、美咲の肩を掴んで、彼女をハシゴの前に立たせる。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


慌てる美咲に、楓はこう言った。


「ここ1回だけや。何度もとは言わん。今だけ頑張れや」


「え…?」


目を丸くして、楓を見つめる美咲。


「簡単な事やないか。しっかり足付けときゃ、落ちる事はあらへんよ。安心せい、ウチがしっかり支えとるさかい」


楓がそう言うと、美咲はくすりと笑って、彼女にこう言った。


「楓さんって、茜さんに似てますね!」


「お前喧嘩売っとんのか…?」


「ち、違います!そういう意味じゃないです!すいませんすいません!」


美咲は慌てて、ハシゴを渡った。



「さて…」


立ち上がって、ハシゴを見る楓。


「どうするつもり?」


有紀奈が訊くと、楓は玲奈を見て、彼女に手招きをした。


「玲奈。こっち来て支えとくれ」


「わ、私が?二度手間じゃないですか…」


「お前しか居らへんやないか」


「…はぁ」


溜め息を吐いて、後ろに下がる玲奈。


「わかりましたよ…。じゃあちょっと、離れててください」


楓がハシゴの前から離れたのを確認すると、玲奈は勢いよく走っていき、ハシゴの上を飛び越え、向こう側に着地した。


「ふぅ…。さ、どうぞ」


「お前、一々かっこええな」


「どうもありがとうございます…」


他の一同は、やはり呆然としていた。



それからは、玲奈にハシゴを支えてもらいながら楓が渡り、1人残った玲奈はさっきと同じように渡って、無事全員が途切れている階段を通過した。


最後に渡った玲奈に、茜が話し掛ける。


「ねぇ、玲奈ちゃん」


「何ですか?」


「そんなに太ももが露出しているズボンを履いてるという事は誘ってるという事なのかしら?お姉さんそろそろ我慢出来ないわ」


「…はい?」


「しかも靴下が短いから生足の全体的な露出度が高いのよ。狙ってるんでしょ?狙ってるんでしょ?」


「(やだこの人怖い…)」


有紀奈はそんな茜を見て、"またか"と呆れたように溜め息を吐いた。



5階の踊り場に到着した所で、瑞希が有紀奈に訊く。


「あの…。峰岸恭子さんって人は、何階に居るんですか?」


「多分、最上階だと思うわ」


「多分…ですか?」


「えぇ。向かいのビルで準備をしている時に葵が、"あいつはラスボス気取ってるから最上階に居るハズよ"って言ってたの。…当てになるかは知らないけど」


「はぁ…」


瑞希が困惑していると、一番後ろを歩いている茜が、突然立ち止まった。



「…茜さん?」


美咲がそれに気付き、話し掛ける。


茜は今来た道をしばらく見つめた後、美咲の方に顔を向け、彼女にこう訊いた。


「…今、銃声が聞こえなかった?」


「銃声…ですか?」


「えぇ。1つじゃなくて、複数の…」


それを聞いて、耳を澄ます一同。


しかし、静寂が続くばかりで、音が再び聞こえる事はなかった。


「…何も聞こえないじゃない」


「あら、おかしいわね…。確かに聞こえたハズなんだけど…」


再び歩き出す一同。


その時、遠くで何かが爆発したような音を、今度は確かに全員が聞いた。


「…今のは爆発やな」


「姉さん達のものかしら…?」


立ち止まって、そう呟く楓と茜。


「いずれにしろ、戦闘があったという事ね…」


有紀奈はそう言うと、無線機を取り出して、葵を呼び出した。


「葵。応答して頂戴」


すぐに、葵の声が返ってくる。


『爆発音の事かしら?』


「…えぇ。何かあったの?」


『突然の敵襲により、凛ちゃん、晴香ちゃん、風香ちゃんの3人とはぐれてしまった…って状況よ』


「は、はぐれたですって…?」


『えぇ。…しかも、階段が破壊されちゃったから、合流する事もできなくなっちゃったの』


「…そう。彼女達は今どこに?」


『爆発が起きた階の下の階…3階じゃないかしら?』


有紀奈はそれを聞くと、無線機を耳に当てたまま、今上ってきたばかりの階段を降り始めた。


「わかったわ。彼女達はこっちが探すから、あなたは引き続き峰岸恭子の身柄確保に当たって頂戴」


『了解。切るわよ』


無線機をしまう有紀奈。


当然一同が有紀奈に状況を訊こうとしたが、彼女はそれを遮るようにこう 言った。


「玲奈ちゃんと瑞希ちゃんは、私に付いて来てもらえるかしら?他の3人は、このまま上に上がっててもらうわ」


それだけ言ってその場を離れようとした有紀奈を、楓が止める。


「おい、説明せんかい」


しかし、有紀奈は足を止める事なく、顔も向けずに答えた。


「一刻を争うの。説明してる暇は無いわ。行くわよ」


階段を降りていく有紀奈を、慌てて追う玲奈と瑞希。


残った3人は顔を見合わせた後、納得できていないまま、再び階段を上り始めた。


「一刻を争う…ね」


茜が呟く。


「"はぐれた"だの"探す"だの言っとったさかい。何となく察しは付くんとちゃうか?茜さん」


「うふふ…。まぁね…」


状況を察したのは茜と楓だけではなく、美咲も何となくではあったものの、おおよその事は察していた。


「…まぁとりあえず、ウチらは進むしか無いか」


「その通りね。…やれやれ、最上階まで行くのは、やっぱり骨が折れるわ」


茜が溜め息を吐く。


すると、階段の上から、聞き覚えのある声が聞こえた。


「最上階まで行く必要はありませんよ?…ふふふ」


立ち止まって、階段の上を見上げる一同。


そこには、笑みを浮かべてこちらを見下ろしている、峰岸恭子の姿があった。


第54話 終




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