第5話
第5話
"同業者との遭遇"
「………」
玲奈、亜莉紗と分かれ、1人で探索中の結衣。
辺りを慎重に警戒しながら進んでいると、近くの部屋から物音が聞こえた。
「(患者?それとも…)」
結衣は勢い良く扉を開け、銃を構える。
「(…ま、人が居る訳ないか)」
そこに居たのは、2体の患者だった。
頭に狙いを付けて、2丁同時に引き金を引く。
2発の弾丸は、見事に患者の頭を撃ち抜いた。
「(せっかくだから、この部屋を調べようかな)」
偶然入った部屋ではあったものの、床に書類やファイルが散乱しており、結衣はその中に依頼されたファイルがある可能性を考えた。
とはいえ、その中から目標のファイルを探すのは、かなり気が遠くなる作業である。
「(やっぱ止めようかな…)」
結衣は探し始めて数分も経たない内に、立ち上がって部屋を出ようとした。
その時。
「(人の気配…!)」
結衣が素早く扉から離れた瞬間、銃声が連続で鳴り響き、扉に大量の穴が開いた。
結衣は扉の横に張り付いて、銃声が鳴り止むのを待つ。
そして、銃声が鳴り止んだ瞬間扉を蹴破って廊下に出ると、そこにはアサルトライフルを構えている少女が居た。
「…誰?」
「動いたら撃つ…」
「………」
結衣はハンドガンを地面に置き、両手を挙げて投降した。
と、少女が思った瞬間、結衣はもう1つの武器であるリボルバーを取り出して、少女に突き付ける。
そして、不適な笑みを浮かべてこう言った。
「油断大敵…ってね」
「………」
少女はさっきの結衣と同じように、武器を捨てて両手を挙げる。
彼女の方は、予備の武器を持っていないようだった。
「まず、質問に答えてもらうわ」
「………」
「私を殺そうとしたのはあなたね?」
少女は全く表情を変えずに、無言で頷く。
質問を続ける結衣。
「なぜここに居るの?」
「………」
今度は、頷く事すらしなかった。
「…じゃあ、名前を教えてもらえるかしら」
「…どうして」
「質問してるのは私よ」
結衣が厳しい口調でそう言うと、少女は観念した様子で口を開いた。
「…宮城凛」
「…意外と可愛い名前」
「…うるさい」
結衣は銃を下ろし、凛と名乗った少女の顔を見つめた。
「…何よ」
「あなたいくつ?」
「…20」
「へぇ、私と同い年なんだ」
「さっきから何なのよ…」
呆れ気味の凛。
すると、結衣はいたずらっぽい笑みを浮かべてこう言った。
「ここに居る理由を教えてくれるまで、色んな事を聞かせてもらうからね」
「色んな事って何?」
「初恋の相手の名前とか」
「そんなの居ない」
「好きな食べ物」
「これと言って無い」
「嫌いな食べ物」
「特に無い」
「趣味」
「無い」
「うどんとそば、どっち派?」
「そば」
「気が合うわね」
「………」
凛は大きな溜め息を吐いた。
「…依頼を受けたのよ。それでここに来たの」
「ファイルかしら?」
「そう。多分、あんたと同じヤツ」
「それなら、同業者の私を殺す理由が無いじゃない」
「報酬は多い方が良いじゃない」
「敵は少ない方が良いと思うけど」
「………」
黙り込む凛。
どうやら、結衣の話に納得したようだった。
「はい、仲間割れはここまで。一緒に探索するよ」
「仲間とは一言も言ってないけど」
「私が言ったの」
歩き出す結衣。
「………」
凛はもう一度溜め息を吐いた後、しぶしぶ結衣の後を追った。
結衣の隣に並んで、彼女の顔を横目で見る。
「…そっちの名前は?」
「大神結衣だよ」
凛はそれを聞いて、思わず立ち止まった。
「大神…。まさか、大神姉妹の?」
「まぁ、そう呼ばれる事もあるけど」
「へぇ…あんたがね…」
「…何か言いたそうじゃん」
「…別に」
そうは言ったものの、一度銃を構えた相手が大神姉妹の1人だと知った凛は、少なからず動揺していた。
その様子に気付いた結衣が、吹き出すように笑い出す。
「そんなに警戒しなくても良いって。さっきの事は忘れてあげる」
「…私はあなたを殺そうとしたのよ?」
「あなたに殺される程甘くないわ」
「………」
結衣の隣を歩いている少女、宮城凛は、結衣達とは同業者であるものの、一度も顔を合わせた事がなかった。
尚、彼女は結衣と同じく射撃のエキスパートである。
相違点は、使用武器だった。
「そのライフル…なんてやつ?」
「AK74M」
「下に何か付いてるけど、それは?」
「GP25」
「何それ」
「取り付け式のグレネードランチャー」
「へぇ。重くないの?」
「慣れた」
「ふーん…」
そこでその会話は終わり、結衣は凛の方から話し掛けてくるのを待っていたが、2人は結局無言で歩き続けた。
和宮病院…
「葵さん」
「何かしら?」
「…いつになったら着くんやろ」
「さぁね。しりとりでもする?」
「…あんたとはやりとうないわ」
「あら残念」
地下2階からは脱出した楓と葵の2人であったが、今度は地下1階をさまよっていた。
「にしても殺風景な通路やな」
「豪華な通路も困るけど」
「そっちの方がまだマシや。目印があるって事やからな」
すると、楓が何となく言ったその言葉を聞いて、葵が突然立ち止まった。
「目印…目印…」
「…なんや、どないした」
「目印を探しましょう。確実に脱出する為にね」
葵にそう言われ、辺りを見渡す楓。
「そんな事言うても、その目印が無いやんけ」
「それを今から探すのよ」
「…頭痛がしてきたわ」
楓は頭を抱えながら、再び歩き始めた。
しばらく歩いた所で、葵がある事に気付く。
「…よくよく考えてみれば、おかしいわね」
「?」
「この迷路みたいな通路の事よ。複雑にする意味が無いじゃない」
楓は大して考えずに答える。
「…どうせ、後ろめたい事でもあったんやろ」
「後ろめたい事?」
「ウチが知るわけないやろ。せやけど、それしか考えられんわ」
「うーん…後ろめたい事ねぇ…」
結局、2人は迷路のような地下の謎を解くよりも先に、地上への階段を見つけた。
「どないするんや?」
「もうちょっとだけ、この階を調べましょう」
「調べるっちゅうても、階段を見失ったら面倒やで」
「道標を作れば良いのよ」
葵の提案に、首を傾げる楓。
「何を道標にするんや?」
「そうね…。あなたの弾薬で良いんじゃない?」
「…堪忍してや。結構高いんやで」
「帰る時に回収すれば良いのよ」
「…反論しても無駄みたいやな」
楓は仕方無さそうに弾丸を取り出し、それを落としながら歩き始めた。
5個目の弾丸を落とした所で、楓が立ち止まる。
「…ちょい待ちぃや」
「なーに?」
「いくつ落とさせる気なんや?」
「うーん…何かが見つかるまでかしら」
「…恐らく、足りなくなるで」
「その時はその時よ」
「ほんまに楽天的な人やな…」
「ありがとう」
「誉めてるんや無いで…」
それからしばらくしない内に、楓の持っている弾丸は底を尽きた。
「これで最後や。結局無駄足やったな」
「仕方ないわね。戻りましょう」
「…はぁ」
2人は弾丸を回収しながら、今来た道を戻って行った。
第5話 終