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Desperate Girls  作者: 白川脩
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第49話


第49話

"経験と才能"


和宮町地下下水道…


「何も見えないんですけど、それは大丈夫なんですかね…」


血の臭いが立ち込めている地下は、結衣の言葉通り、暗闇で何も見えなかった。


「目が慣れれば、少しずつ見えてくるわ。行きましょう」


歩き出す葵。


他の4人も、壁を伝って歩き始めた。


「(…この暗闇なら、いけそうね)」


一番後ろを歩いている茜がいやらしい笑みを浮かべながら、前を歩いている風香にゆっくりと手を伸ばす。


しかし、気付いた風香が、その手をはたいた。


「痛っ!」


「やると思った…」


「中々やるわね…。でも、まだまだチャンスは…」


「次は頭撃ち抜くからよろしく」


「もうやりません」


一同が進み始めて、3分程が経過した時、先頭に居る葵が足を止めた。


「…神崎さん?」


玲奈が顔を覗き込む。


葵は刀を鞘から抜いて、正面を顎でしゃくった。


「患者よ」


「ッ…」


素早くナイフを取り出し、葵の隣に並ぶ玲奈。


しかし、まだ完全に目が暗闇に慣れておらず、患者の姿を目視する事は難しかった。


「見えない…」


「玲奈ちゃん。暗闇での戦闘は初めて?」


目を瞑りながらそう言って、ゆっくりと歩き出す葵。


「いえ、何度か…。でも、ここまで暗い場所は初めてです…」


「うふふ…。こういう場所では、視界に頼らないで戦うのよ」


突然、暗闇に刀を振る。


すると、患者の頭部が地面にぼとりと落ちた音が聞こえた。


「足音、息遣い、呻き声…それらの音から、標的の位置を確認するのよ」


「そんな事…」


そこで再び、葵が刀を振る。


またしても、患者の頭が落ちる音が聞こえた。


「視覚では戦えない局面もあるわ。覚えておきなさい」


「…わかりました」


目を瞑って、耳に神経を集中させる玲奈。


近付いてくる足音を頼りに距離を予想し、目の前まで来たと思った瞬間、思い切りナイフを振った。


玲奈のナイフは、患者の肩に突き刺さった。


患者の位置に確信を持った玲奈は、もう1本のナイフを首に突き刺し、トドメを刺す。


患者は地面に倒れて、動かなくなった。


「やった…!」


「上出来よ」


そのまま、残りの患者の殲滅に取り掛かる2人。


「これでまた1つ、玲奈は成長したな!」


「あら、あなたは何もしないの?」


「妹の成長を見届けるのが、姉の務めですから!」


「素晴らしいわね…。感動したわ」


「(なんだこいつら)」


他の3人は、何もしなかった。



「…今ので最後ね」


患者の気配が無くなった事に気付き、刀を鞘にしまう葵。


玲奈もそれに倣って、ナイフをしまった。


「姉さん。捜索と言っても、今からどうするの?」


茜が葵の隣に行き、彼女にそう訊く。


「そうね…。とりあえず、合同庁舎の近くまで着いたら、一旦地上に出ましょう。本格的な捜索はそれからよ」


「合同庁舎の近くまで?どうやって行くつもり?」


「勘よ」


「わかったわ」


「(わかったのか…)」


2人の会話を聞いていた結衣は、思わず苦笑いを浮かべた。



「ちょっと。どうして戦わなかったのよ」


「いいじゃん別に。私が出る程でも無かったし」


睨み合う玲奈と風香。


「あ、わかった。怖くて戦えなかったんでしょ」


「んなワケ無いじゃん。適当な事言うな。腹立つ」


「へぇ。じゃあ何で戦わなかったのか、言ってみなさいよ」


「さっき言ったハズだけど、もう忘れたの?頭大丈夫?」


「心配してくれてありがとね。でも生憎だけど、あんたよりはまともだから大丈夫」


「…頭きた。ぶっ殺す」


「上等。斬り刻んであげる」


今にも戦闘を始めそうな雰囲気であったが、そんな2人の元に、茜がやってきた。


「2人共、喧嘩はダメよ?」


「部外者は引っ込んでて」


「これは私達の問題ですから」


茜に顔も向けずにそう言って、ゆっくりと距離を詰めていく2人。


2人がしまってある武器に手を付けた途端、茜が突然2人を抱き寄せて、こう言った。


「よし、2人でちゅ~しなさい。そうすれば仲良くなるわ」


「なっ…!ふざけんな離せ!」


「冗談は止めてくださいよ!」


「じゃあ代わりに私が…」


「ダメ!」


その光景を、呆然と見つめる結衣と葵。


「強引な仲直りだなぁ~…」


「あのバカ…」


結局、風香と玲奈はどうでもよくなり、喧嘩を止めて先に進み始めた。


しかし…


「…付いてこないでよ」


「あんたが付いてきてんでしょ」


仲直りをしたワケでは無かった。



「…やっと見えるようになってきたわね」


目が暗闇に慣れてきた事に気付く茜。


「うわ、あの2人、もうあんな所に居るよ…」


先を進んでいる風香と玲奈は既に、3人とかなり距離が離れていた。


「心配?」


葵が、結衣を見る。


「いえ。あいつなら、大丈夫ですよ」


結衣は迷う事無く、そう言った。


「何だかんだで長い事やってますからね。ドジ踏む事は無いでしょう」


「へぇ…。流石ね」


「流石?」


結衣の事を知らない茜が、その単語に反応する。


「この子とあの子は姉妹よ。聞いたこと無い?大神姉妹って」


「あら、この子達がそうなの?」


葵の話を聞いた茜は意外そうにそう言って、結衣を見た。


「改めまして、大神結衣です」


「こちらこそ。噂はかねがね、聞かせて頂いてるわ」


「私にそんな貫禄はありませんよ」


「そんな事ないわ。結構大きいし」


「何がですか?」


「胸」


「(えぇ…)」


結衣は、ドン引きした。



「…ねぇ」


「………」


「ねぇってば」


「…私?」


「あんた以外居ないじゃん」


「確かに」


風香は玲奈に1つ、訊きたい事があった。


「…裏って、どんな感じ?」


「?」


「お姉ちゃんから聞いた。あんた、裏で生きてんでしょ?」


玲奈はしばらく風香を見つめた後、彼女から目を背けて話を始めた。


「表と違う所って言ったら、法に縛られる事は無いけど、法に守られる事も無いって所かな。…まぁ縛られると言っても、特にこれと言った事は無いから、結局損なだけなんだけど」


「でも、自由じゃん」


「自由は自由でも、限度はあるよ」


「?」


「世の中、"表"を中心に出来てるからね。裏にしかできない事って言ったら、それはもう犯罪ぐらい。…別に興味無いけど」


「ふーん…」


そこで一旦、2人は黙り込む。


しばらくして沈黙を破ったのは、寂しげな表情を浮かべた玲奈の小さな呟きだった。


「普通に…生きたかったな…」


「え?」


聞き取れなかった風香が、玲奈を見る。


玲奈は答えようとせずに、誤魔化すように正面を指差した。


「話はまた今度。来たよ」


「ちぇっ…」


現れた患者を見て、舌打ちをする風香。


「後で話してよ」


「…何を?」


「あんたが裏に入った理由」


「…気が向いたらね」


「ちぇっ…」


2人は横に並んで、それぞれ武器を取り出した。


「珍しい銃使ってんだね。あんた」


風香が持っているハンドガンを、横目で見る玲奈。


「例の事件の時に、あいつから貰ったの」


風香はそう言って、かなり後ろを歩いている茜を指差した。


「へぇ…」


「私はあんたの武器も珍しいと思うけど」


視線を茜から、玲奈のナイフに移す風香。


「2本のナイフで戦う奴なんて、ゲームでしか見た事なかった」


「…確かに、言われてみればナイフは私だけかも」


「でしょ?」


「でも…」


玲奈は周りの人間を思い出しながら、こう言った。


「刀で戦う人とか、トラップで戦う人とかも珍しいと思うけど…」


「…確かに」


2人は顔を見合わせて、くすりと笑った。



「あら、あの子達、いつの間にか戦ってるじゃないの」


患者と交戦している風香と玲奈に、茜が気付く。


「玲奈ちゃんはもとよりだけど、風香ちゃん…だったかしら?彼女も凄いわね」


葵は風香の動きを見て、感嘆した。


「うふふ…。彼女に体術を教えたのは私よ?」


茜が得意そうにそう教える。


「あら、そうなの?師匠の方が無駄な動きが多いわね」


「…うるさいわね」


茜は赤面して、葵を小突いた。


そんな傍ら、風香の動きを心底凄いと思った結衣。


「(裏で生き抜いてきた人間に、微塵も引けを取らない身のこなし…。とんでもない才能の持ち主だね…)」


結衣はなんとなく嬉しくなり、笑みをこぼした。


「(天才…ってね)」


第49話 終




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