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Desperate Girls  作者: 白川脩
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第48話


第48話

"人間以外への感染"


和宮町合同庁舎前…


「さてと…。ここからは、私達も分かれるわよ」


一同は優子の言葉を聞いて、ファイルの入手が目的のチームと、峰岸恭子の身柄確保が目的のチームに分かれる。


「まずは有紀奈達との合流よ。その後、私は一旦部隊に戻るけど、あなた達はそのまま捜索に当たってね」


「何で…」


「物資とヘリを持ちにいく為よ。…ご存知の通り、ちょっと予定とズレちゃってるからね。でも、そこからは計画通りになるわ」


美咲が質問を口に出す前に、優子は答えた。


「明美さん達…どこに居るのかな…」


心配そうにそう呟いて、合同庁舎を見上げる晴香。


すると、亜莉栖の側で退屈そうに地面を見つめていたイヴが、突然顔を上げ、一同の背後にある建物、つまり、合同庁舎の向かいに位置するビルの方に歩き始めた。


「…イヴ?」


追い掛ける亜莉栖。


「亜莉栖!」


「亜莉栖ちゃん!」


亜莉紗と瑞希が、慌てて彼女を追う。


「あの狼…どうしたんだろ…」


凛がイヴを見ながら、そう呟く。


すると、イヴが向かっている建物を見た優子が、とある事に気付いた。


「あのビル…」


「…優子さん?」


隣に居る凛が、優子の顔を覗き込むように見る。


「確か、有紀奈が拠点にするって…」


優子がそう言い掛けた時、そのビルの屋上に一瞬だけ、人影が見えたような気がした。


顔を見合わせる2人。


「今…」


「…えぇ」


優子は頷いて、トラックから自分の銃を取り出した。


「ここで分かれましょう。凛ちゃん、あなたは美咲ちゃんと、合同庁舎の中の捜索をお願い。晴香ちゃん!行くわよ!」


「はい!」


人影が見えたビルへと向かう優子と晴香。


「よし、私達も行こう!」


「いぇっさー!」


凛と美咲もその場を離れ、合同庁舎に足を踏み入れた。



合同庁舎1階ロビー…


「(明るい…)」


それが、建物に入った凛が最初に思った事だった。


もっとも、彼女が前に来た時は夜だったので、当然と言えば当然である。


「とりあえず、ロビーを調べましょう」


「凛さん、他の人に電話してみたらどうですか?」


美咲が左手の親指と小指を立てて耳に当て、電話を掛ける真似をする。


すると、凛は腕を組んで、何故か得意そうになってこう言った。


「携帯なんて持ってないわ。私にはそんな物、必要無いからね」


「…本当は?」


「…この前落とした」


「そうですか…」


携帯を取り出す美咲。


「それじゃあ、私の使ってくださいな。どうぞ」


「ありがとう」


しかし、凛は受け取ってから、重要な事に気付いた。


「あ…」


「え?」


「番号…知らない…」


「そうですか…」


2人は結局、歩き回る事にした。



「凛さん!使えそうな物を見つけました!」


「使えそうな物?」


凛が美咲の元へと行ってみると、彼女の手に銀色の鍵が握られていた。


「鍵…?」


「はい。どこの鍵かは分かりませんが…」


「ふむ…」


鍵にはプレートが付いていたものの、肝心の文字が書いておらず、どこの部屋の鍵なのかは分からなかった。


「一応、借りていきましょう。備え有れば…」


「憂いなし…ですね!」


「その通り」


鍵を大事そうにポケットにしまい、辺りを見渡す凛。


「鍵が掛かってる部屋は…」


「片っ端から探します?」


「それもちょっとね…」


曖昧にそう答えながら、適当に選んだ扉に鍵を差し込む。


すると、その鍵は拍子抜けする程、すんなりと鍵穴にはまった。


「………」


「………」


無言で顔を見合わせる2人。


凛は鍵をゆっくりと回し、ゆっくりと扉を開けた。


その部屋の中には…



廃ビル玄関…


「これは…」


和宮町の向かいに位置する廃ビルの中に入った優子達。


彼女達が一番先に見つけた物は、地面に置かれた大量の弾薬と様々な武器だった。


「有紀奈さんが置いてった物ですかね…?」


晴香がしゃがみこんで、自分の銃に合う弾倉を手に取り、それを見ながら優子に訊く。


「多分…いや、そうとしか考えられないわね…」


優子は置いてある武器が全て特殊兵器対策部隊の銃器である事に気付き、そう答えた。


その時、


「遅かったわね」


背後から声が聞こえた。


「その声は…」


振り向く優子。


そこには笑みを浮かべた有紀奈が立っていた。


「有紀奈…。他の人は?」


「神崎姉妹の2人は地下で、朝霧は合同庁舎、明美はこのビルのどこかに居るわ」


「どこか?」


「分かれて行動していたのよ」


「へぇ…。それで、目的は達成できたのかしら?」


優子の様子が、いつもとは少し違う事に気付く有紀奈。


「…怒ってるの?」


優子は上目遣いで有紀奈を見つめた後、溜め息を吐いてこう言った。


「多少はね」


「悪かったわよ…。でも…」


「彼女達を連れて行きたくなかった…でしょ?」


「…その通りよ」


優子の視線に耐えられなくなり、思わず目を背ける有紀奈。


それを見た優子は、吹き出すように笑い出した。


「ふふふ…。その癖だけは、いつまで経っても変わらないのね」


「ど、どの癖よ」


「気まずくなったら、すぐに目を背ける癖」


「………」


有紀奈は赤面して、目を背けた。



「ねぇ、亜莉栖。その狼…」


「イヴ」


先に進んでいる亜莉紗、亜莉栖、瑞希の3人。


「おおか…」


「イヴ…!」


「…ごめん」


「………」


亜莉栖は、イヴの事を"狼"と呼ばれるのが嫌いだった。


「あ、速水さん!」


優子と晴香と共にやってきた有紀奈に、瑞希が嬉しそうに手を振る。


「元気そうね。みんな」


瑞希の無邪気な笑顔を見て、有紀奈も釣られて笑顔になった。


「他の方は…?」


亜莉紗が心配そうに訊く。


「それぞれ、別の場所を捜索してるわ」


「別の場所?」


「神崎姉妹の2人は地下で、朝霧は合同庁舎、明美はこのビルのどこか…よ」


有紀奈は亜莉紗に、さっき優子に話した事と同じ事を話す。


しかし、次の展開は異なった。


「ここよ」


一同の背後から、聞き覚えのある声がする。


声の主は、明美だった。


「明美さん!」


彼女に、晴香が飛びつく。


明美は一瞬困惑したが、優しく晴香の頭を撫でた。


「あとは楓だけね」


「楓?」


有紀奈が優子を見る。


「峰岸恭子に目をやられた彼女よ」


「あぁ、朝霧の事?」


「名前…知らなかったの?」


「えぇ」


「ふーん…」


優子は頷き、適当に辺りを見渡し始めた。


「明美さん。ちょっといいですか?」


亜莉紗が、明美の肩を軽く叩く。


「どうしたの?」


振り向くと、そこには亜莉栖とイヴの姿もあった。


「…その子は?」


「妹です。…1つ、訊きたい事がありまして」


亜莉紗はそう言って、イヴに視線を送る。


「D細菌は、人間以外にも感染するんですか?」


「…どういう事?」


「この狼…イヴは患者と戦う時、患者に噛み付いて攻撃するんです。それって、患者の血液を体内に入れてるって事になりますよね?」


「そうなるわね」


「感染しない…って事ですか?」


訊かれた明美はイヴを見ながら、話を始めた。


「血が流れている生き物には感染すると思うわ。犬、猫、鼠、カラス…狼だって例外じゃないハズよ」


「じゃあ…」


「変よね」


「………」


ハッキリした答えが返ってこない事に、困惑し始める亜莉紗。


すると、明美は亜莉栖に歩み寄っていき、しゃがみこんで彼女と同じ目線になってこう訊いた。


「その子、どこで拾ったの?」


「…森」


「森?」


「…家を飛び出したときに、会ったの」


「へぇ…。その森、どこにあるの?」


「…覚えてない」


「そう…」


明美は微笑みかけた後、立ち上がって、亜莉紗に視線を戻す。


「これは私の憶測に過ぎないけど、その狼が生きていた環境に、感染しない理由があるんじゃないのかしら」


「環境…?」


「えぇ。それともう1つ、考えられる可能性があるわ」


「可能性…と言いますと?」


「その狼に何らかの抗体があるか…ね」


亜莉紗はそれを聞いて、信じられないと言った様子でイヴを見つめた。


「…もう1度言うけど、あくまでも憶測だからね?本当の所は、私にも分からないわ」


「…作った本人なのに?」


訝しげな視線を送る亜莉紗。


明美は微笑して、平然な態度でこう言った。


「どうにでも仰りなさい。分からないものは、分からないのだからね」


「そりゃそうですけど…」


「他に訊きたい事は?」


「…いえ、もうありません。ありがとうございました」


「そう…」


明美は小さく笑って、その場を離れる。


「…行こっか」


「………」


2人も、優子達の元へと戻った。


第48話 終




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