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Desperate Girls  作者: 白川脩
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第47話


第47話

"目的地への到着"


「当たった…?」


「みたいよ」


頭を撃ち抜かれた患者のリーダーが倒れ、そのまま動かなくなる。


すると、辺りに居る全ての患者の動きが、一斉に止まった。


そして、指揮する者が居なくなった患者は、それぞれいつものようにバラバラに動き始める。


「よし!今の内に全滅させるわよ!」


優子の号令を聞いて、一同は全員、辺りの患者の殲滅に取り掛かる。


リーダーが居なくなったとはいえ、患者の数はかなり多い。


しかし、彼女達には関係無かった。



数分後、患者が全滅した事を確認して、それぞれ武器をしまう一同。


「…茜、他のみんなは?」


優子は真っ先に、そう訊いた。


「うふふ…。姉さんは地下に居るわ。それ以外は全員、和宮町よ」


「ふーん…」


「そのじと目、たまらないわ」


「………」


優子と茜以外の一同は全員、亜莉紗に詰め寄るかのように彼女の元へと集まっていた。


「さぁ亜莉紗!観念して全て話しなさい!」


代表して、結衣が問い詰める。


「わかったよ…。えー…私達上条姉妹は…」


「もっと明るく!」


「何でよ!」


亜莉紗の話を纏めると、このような内容だった。


4年前の事…


当時荒んでいた亜莉紗に、亜莉栖は当然良い印象を抱いておらず、2人の仲はお世辞にも良いとは言えなかった。


そんなある日、母子家庭である2人の唯一の母親が、厳しい生活と少し前から患っていた病気が原因で亡くなってしまう。


亜莉栖は、病気とはいえ母親が亡くなったのは、いつも家に居らず、母親に心配ばかりかけさせていた亜莉紗のせいでもあると思い、それからは彼女を軽蔑するようになったという訳である。


「…ま、そういう事。父さんは母さんよりも前に事故で死んじゃったし、私は唯一の肉親を殺したようなもの。この子に恨まれて当然なんだ」


話を終えて、寂しげな表情になる亜莉紗。


そんな彼女を突然、結衣が軽くひっぱたいた。


「バカ野郎ッ!」


「痛ッ!」


「彼女に謝れ!はい土下座!」


「え、えっ…!?」


「えっ!?じゃないよこのバカ!ほら頭下げて!」


「ご、ごめん…亜莉栖…」


「敬語だバカ野郎ッ!」


「す、すみませんでしたーッ!」


そんなやり取りを見て、クスリと小さく笑った人物が1人。


「ふふ…。変なの」


亜莉栖だった。


「へぇ、笑うと可愛いじゃん」


そう言ったのは風香。


すると、玲奈が風香を見て、嘲笑しながらこう言った。


「あんたも見習って、たまには笑ってみたら?」


「その言葉、そっくり返すよ。堅物女さん」


「誰が誰に物言ったのか、よくわからなかったわ。ちょっと向こうで聞いてあげるから来なさい」


「上等」


2人はすぐに、それぞれの姉に止められた。



その頃…


「…ここから行ったの?」


「えぇ。…臭いはすぐに慣れるわ」


優子は茜に案内された地下への入口であるマンホールの前に立ち、そこから漂う異臭に顔をしかめていた。


鼻をつまみながら、茜が話を始める。


「部隊の本部を出発して、一番最初に来たのがここ。それで、確保して和宮町に向かおうとした時に姉さんが、"私達は先に地下の調査を始めてるわ。ここで分かれましょう"とか抜かしやがったのよ」


「…なるほど、それであなた達だけ、ここに居るってワケね」


「不本意ながら…ね」


茜はそう言って、溜め息を吐いた。


そこで、2人の前にあるマンホールから、葵が出てくる。


「はぁ…良い空気ね…」


「臭いわ姉さん」


「黙りなさい」


葵は深呼吸を何度かしてから、優子の存在に気付いた。


「あら、来てたのね」


「葵さん…どうして黙って出ていったんですか?」


「うふふ…どうしてかしらね?」


「………」


「怒ってる?」


「いえ…」


「うふふ…」


しばらくすると、他の一同も3人の元にやってきて、その場に全員が揃った。



「あら、その子は?」


亜莉栖に気付く葵。


「上条亜莉栖ちゃん。亜莉紗の妹さんだそうです」


結衣がそう答えると、茜と葵は、同じ反応を見せた。


「似てないわね…」


「似てないのね…」


また…


「(似てない…)」


優子も同じ反応だった。


その後、和宮町に向かう為、トラックに乗り込もうとする一同。


しかし、人数が増えたので、全員が乗ることはできなかった。


「どうしたものか…」


顎に手を当てて、良い手が無いかを考える凛。


すると、結衣がこんな事を言い出した。


「よし、凛!車の下にしがみつけ!」


凛はそれを聞いて、呆れたように溜め息を吐く。


「…不可能な事言わないでよ」


「いやいや、かの有名な垂れ目の兵士は戦車の下にしがみついて移動したんだよ?これぐらいは…」


「じゃあ、あんたがやれば良いじゃない」


「無理っす」


そこで、玲奈が思い付いたようにこう提案した。


「そうだ。どうせなら、ここで分かれませんか?地下と和宮町のチームで」


「その方が効率的ね。それじゃあ、私達はひとまず和宮町に居る有紀奈達と合流するから、あなた達は先に、地下の捜索を始めてもらえるかしら」


優子が玲奈に賛成してそう言ったが、それを反対した人物が1人。


「ダメよ。みんなでトラックに乗りましょう」


茜だった。


「…どうして?」


「だって、ぎゅうぎゅう詰めならどさくさに紛れて触る事も…」


「さぁ、和宮町のチームの人はトラックに乗ってね。行くわよ」


「無視とは良い度胸ね…。こうなったら、助手席に乗って運転中のあなたに…」


「あんたはこっちよ」


「離しなさい姉さん。これはこの上なく大切な…」


「風香ちゃん。手伝ってもらえる?」


「いいよ」


「嫌だーッ!」


茜は葵と風香に引っ張られて、マンホールの元へと連れて行かれた。


「そんじゃ、私達もここで!」


「みなさん、お気をつけて」


大神姉妹の2人も、マンホールの元へ。


その時、歩いていく結衣を、凛が呼び止めた。


「結衣!」


「ん?」


振り返る結衣。


凛は結衣の元まで小走りでやってくると、他の人に聞こえないように小声でこう囁いた。


「…気を付けてね」


「…わかってるよ。そっちもね」


そう言って、再び歩き始める結衣。


凛との距離が離れると、彼女は突然笑い出した。


「ぶふっ…!」


「…は?」


「デレた…!」


「………」


玲奈は、軽蔑の視線で結衣を見た。



「…こん中入んの?」


異臭漂うマンホールの前で、立ち尽くす風香。


「大丈夫よ。すぐに慣れるわ」


葵はそう言うが、風香は鼻をつまんだまま、中々降りようとしなかった。


「うぅ…」


そこに、玲奈がやってくる。


「どうしたんですか?」


「風香ちゃんがわがまま言って困ってるのよ。可愛いから許すけど」


茜の言葉を聞いた玲奈は、嘲笑しながらマンホールの元へと歩いていった。


「全く、これだからお子様は…。臭いなんて…」


そう言い掛けて、突然立ち止まる。


「うっ…!」


異臭は、彼女の予想を遥かに上回る物だった。


玲奈の様子を見て、いたずらっぽい笑みを浮かべる風香。


「あれ?どうしたの?臭いなんて気にならないんじゃないの?ほら、早く降りてみてよ」


「に、臭いなんて気にならない…なんて簡単に考えてると身体を壊してしまうって言おうとしたのよ」


「なにそれ」


「大切な事よ」


そんな2人の傍ら、マンホールの中をじっと見つめて何かを考えている結衣。


「…どうしたの?」


葵が訊いたのと同時に、結衣は突然マンホールの中に飛び降りた。


「てりゃーッ!」


「えっ!?」


突然の奇行に驚く葵。


「楽しそうね」


それを見ていた茜もそう呟いて、彼女と同じように飛び降りてしまった。


「ま、待ちなさい!」


葵は普通にハシゴを使って降りる。


「…あれ?」


「…え?」


3人が居なくなっている事に気付いた玲奈と風香は、一旦顔を見合わせてから、慌てて3人を追った。



一方…


「そういえば、和宮町って隔離されてるんじゃありませんでしたっけ?」


和宮町に向かっているトラックの中で、晴香が優子に訊く。


「隔離はされてるわ。…形だけのね」


「形だけ…ですか?」


「えぇ。町を囲っているフェンスはあるけど、破る事は簡単にできるし、そもそも乗り越える事ができる高さなのよ。それに…」


「地下からも行けるよ。患者は多いけどね」


優子に代わって、亜莉紗がそう言った。


「それってどうなんですか…?」


「どうって?」


瑞希に訊き返す優子。


「生物災害…でしたよね。ここまで大規模なら、国が動いてもおかしくないと思いまして…」


「そうね…」


優子はいつになく、素っ気ない返事を返す。


「………」


瑞希は優子が喋るのを待っていたが、彼女は何も言わなかった。


「あの…」


「瑞希ちゃん」


凛に強めの口調で名前を呼ばれ、恐る恐る顔を向ける。


すると、凛は何も言わずに、瑞希にウィンクをした。


「(訊いちゃいけない…のかな?)」


凛の意図を何となく察した瑞希は、訊くのを止めた。


その後は特に会話も無く、一同は一言も発さずに、窓から見える景色を眺めるだけ。


そのまま、一同を乗せたトラックは、和宮町に到着した。


第47話 終




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