第46話
第46話
"殲滅"
一方、2体の巨大生物の相手を、たった3人で務めようとしている大神姉妹と宮城凛。
手練れである彼女達とはいえ、流石に2体同時では骨が折れる戦闘だった。
「結衣姉、どうするの?」
「そうだねぇ…」
ニヤリと笑って、歩き出す結衣。
「2人は一緒に戦って。私は1人でやる」
「…正気?」
「余裕」
玲奈は少しの間結衣を見つめていたが、呆れたように溜め息を吐いて、凛の元へと向かった。
「…油断しないでね」
「わかってらぁ」
少し離れた場所に居る凛が、1人でやってきた玲奈の姿を見て眉をひそめる。
「…結衣は?」
「1人でやるそうです」
「そんなの無茶よ…」
「いえ、ほっときましょう」
「………」
実の姉を信頼しているのか、はたまたどうでも良いと思っているのか、どっちなのだろうと凛は考えていた。
答えは…
「それで死んだら自業自得ですし」
後者だった。
手始めに凛が、装填されている弾を全て、こちらにやってきた巨大生物に発砲する。
少し怯んだだけであったが、彼女が次に発射したグレネードは効果があった。
「玲奈ちゃん、お願い」
「了解です」
銃の再装填に入る凛と入れ替わるように、玲奈がナイフを2本取り出して、それを器用に回しながら巨大生物に近付いていく。
その姿は、巨大生物を挑発しているようにも見えた。
攻撃が届く範囲まで近付いた所で、しっかりとナイフを持つ。
そのナイフを、巨大生物の肩にかなり深くまで突き刺した。
それでも、全く動じない巨大生物。
玲奈は突き刺したナイフを掴んだまま、その場で勢いよく跳躍して、巨大生物の頭上で倒立をするような態勢になる。
そして、巨大生物の背後に着地するのと同時にナイフを抜き取り、背を向けたまま思い切り背中を蹴りつけた。
奇想天外な攻撃に、巨大生物は思わず怯む。
そこに、凛が再びグレネードを撃ち込んだ。
「どうかしら…?」
倒れた巨大生物を見つめる凛。
「まだですね」
玲奈の言葉と同時に、巨大生物はゆっくりと立ち上がった。
「しつこいわね…」
「…こんな奴、まだマシな方ですよ」
「どういう事?」
「自分のお菓子を勝手に食べられただけで、その事を1ヶ月引っ張る人も居ますから。それも意外と身近に」
「………」
凛は何となく、離れた場所で戦っている結衣を一瞬だけ見た。
「…それよりも、どうします?これじゃ埒があきませんよ」
こちらに歩いてくる巨大生物を見て、玲奈が凛にそう訊く。
「私の最大火力は既に発揮したわ」
「…何が言いたいんです?」
「私じゃ手に負えないって事」
「………」
玲奈は溜め息を吐いた。
「よし、かかってこい!」
巨大生物の前で、威勢良く構える結衣。
しかし、巨大生物はじっと結衣を見ているだけで、何もしなかった。
「え~…何その"何だコイツ"みたいな目…。拍子抜けだよ~…」
失笑した結衣であったが、次の瞬間、彼女は素早く2丁のハンドガンを取り出して、巨大生物に連射した。
「先手必勝ってね!」
全ての弾を撃ちきった後も、慣れた手付きですぐに再装填して撃ち続ける。
その弾も全て撃ち尽くした所で、結衣は一旦攻撃を止めた。
「痛くも痒くもないってか、上等上等…」
リボルバーを取り出す結衣。
すると、今度は巨大生物の方から攻撃を仕掛けてきた。
結衣は攻撃を一切せずに、巨大生物の連続攻撃の回避に徹する。
しかし、回避よりも攻撃をする方が得意な結衣は、すぐに距離を離して再び攻撃に入った。
「こいつはさっきのよりも少しキツいよ!」
そう言って、リボルバーの引き金を引く。
すると、銃声ではなく、"カチ"という軽い音が鳴った。
「…あれ?」
何度も引き金を引いてみるが、鳴るのは全て同じ音。
6回引いた所でやっと、結衣は弾切れという事に気付いた。
「ちょっとタイム」
そう言って、巨大生物に軽く手を挙げる。
当然、巨大生物は待たなかった。
「タイムタイム!タイムだって!」
ふざけているようにしか見えないが、結衣は全ての攻撃を的確に見切って避けながら、1発ずつ弾を込めていく。
そして、巨大生物が大きく爪を振りかぶったのと同時に、結衣の再装填も終わった。
「はいオッケー!」
巨大生物の頭に、高火力の銃弾が撃ち込まれる。
巨大生物は大きく仰け反って倒れそうになったが、何とか体勢を立て直す事はできた。
それと同時に、結衣はさっきと同じ場所に再び発砲する。
更に、再び仰け反った巨大生物の腹部を、思い切り蹴りつけた。
「ほらほら、もう終わり?」
不気味な笑みを浮かべながら、転倒した巨大生物に歩み寄っていく結衣。
巨大生物は立ち上がろうとしたが、結衣に素早く頭を撃ち抜かれ、再び地面に後頭部を打ちつけた。
結衣はそのまま巨大生物の胸部を踏みつけ、顔面に残りの銃弾を全て発砲する。
巨大生物は何度か立ち上がろうとしたが、ガクッと首を横に傾けると、そのまま動かなくなった。
「うん。やっぱ強いな、私って」
自分で言って満足そうに頷き、まだ戦闘中の玲奈と凛の方を見る。
「火力不足…ってね」
結衣はそう呟いて、いつもは戦闘が終わったらすぐにしまっているリボルバーを手に持ったまま、2人の元へと歩いていった。
結衣が到着すると、2人は巨大生物との距離を離して、作戦を考えている所だった。
「どうする?」
「…私に訊かないでくださいよ」
結衣は2人に気付かれていないとわかると、いたずらっぽい笑みを浮かべながら、2人の背後に忍び寄る。
そして突然、2人の肩に掴み掛かった。
「わぁーッ!」
「あ、結衣姉。早かったね」
「ちょっと苦戦してるの。手伝って」
「………」
結衣は泣きそうな顔になって、小さく頷いた。
「玲奈、一気にいくよ」
「…了解」
揃って歩き出す、大神姉妹の2人。
「(この2人なら、大丈夫そうね。私はあっちを…)」
その姿を見た凛が優子達の方に向かおうとしたその時、歩いていた結衣が突然立ち止まった。
「…?」
「………」
何事かと思いながら、彼女を見つめる玲奈と凛。
すると、結衣はリボルバーの引き金を何度か引いて、冷や汗を掻きながらこう言った。
「そういえば、もう弾無かったわ!あはははは~」
「………」
「はは…は…」
「………」
「…ごめんなさい」
玲奈は溜め息を吐いて、辺りを見渡した。
「(…あ)」
スナイパーライフルを持って、リーダーを撃ち抜くチャンスを待っている瑞希が目に入る。
彼女は丁度こちらの様子を見ていたらしく、玲奈の視線にすぐに気が付いた。
「(よし…)」
玲奈はジェスチャーで、巨大生物を狙撃してくれと頼む。
瑞希は何となく理解して、銃を構えた。
「結衣姉、宮城さん、狙撃しやすいように隙を作ろう」
「どうやって?」
「攻撃」
「あぁ…」
結衣は、何となくわかっていた。
「気を惹くだけで良いのね?」
「はい。仕留める事ができれば理想ですけど、多分無理だと思うので、あくまでも本命は彼女です」
「了解」
発砲を始める凛。
結衣も同時にハンドガンを撃ち始めたが、何もしない玲奈を見て手を止めた。
「お前何もしないんかい」
「私司令係」
「おい年少者」
「うるさい」
そこで、突然巨大生物が大きく仰け反る。
瑞希の銃弾が、頭に命中したのだ。
かなり効いたらしく、巨大生物は頭にできた風穴を押さえながら、しばらく動かずに遠くに居る瑞希を睨む。
瑞希が再び銃を構えたのと同時に、巨大生物は勢いよく走り出した。
「結衣姉!」
「はいよ!」
結衣と玲奈が、巨大生物の元へと走り出す。
そして軽く跳躍すると、2人で同時に顔面を蹴りつけた。
巨大生物は仰け反るどころか、信じがたい事に半回転して、うつぶせになって地面に倒れた。
「瑞希!」
「行けー!」
すぐにその場から離れて、瑞希の射線を作る2人。
瑞希はスコープを覗いたままタイミングを待ち、巨大生物が顔を上げた瞬間、引き金を引いた。
銃弾は狙った場所に見事に命中し、巨大生物の息の根を止めた。
「よっしゃ!撃破ー!」
「瑞希ちゃん、凄いわね…」
喜ぶ結衣と、驚く凛。
玲奈は巨大生物が動かなくなった事を確認して、瑞希に視線を送る。
そして、微笑みながら親指を立てて、"よくやった"と告げた。
瑞希も嬉しそうに満面の笑みを浮かべて、軽く会釈をする。
しかし、標的がもう1つあるという事を思い出して、慌ただしそうに持ち場に戻った。
「あ、結衣さん達、終わったみたいだね」
「早ッ!」
こちらに歩いてくる結衣達3人に、晴香と美咲が気付いた。
「あちゃー。こっちは数が多いねー…」
到着するなり、溜め息を吐く結衣。
「状況はどんな感じですか?」
玲奈の質問に、晴香が答えた。
「患者を攪乱して、その隙に隠れているリーダーを狙撃する…っていう作戦だよ」
「なるほど…」
玲奈は頷いてナイフを取り出し、前線で戦っている優子と風香の元へ歩いていく。
凛は晴香と美咲の近くで、辺りの患者を撃ち始める。
結衣は…
「ふぁ~あ…」
サボっていた。
「中原さん、加勢します」
「頼もしい助けが来たわね」
現れた玲奈を見て、笑みを浮かべる優子。
しかし、風香は喜ぶどころか、露骨に嫌な表情を浮かべた。
「…別に来なくてもいいけど」
「あんたには言ってないわよ」
「…あ?」
「まぁまぁ…」
優子が居なかったら、2人は相手を間違えている戦闘を始めているところであった。
「…ま、別にいいけどさ。私の足引っ張んないでよね」
「こっちのセリフよ」
「(姉って大変なのね…)」
しばらく戦っていると、その場の患者を全滅させた凛もやってくる。
彼女は風香と玲奈を見て、安心したようにこう言った。
「…大丈夫そうですね」
「…いえ、助けてほしいわ」
「?」
「この2人と居ると、常にひやひやするのよ…」
「あー…」
凛は彼女の苦労を察して、思わず同情した。
玲奈と凛が加勢した事により、見る見るうちに患者が減っていく。
そしてようやく、瑞希の出番がやってきた。
「よし…」
何度も何度も深呼吸をしてから、スコープを覗く。
リーダーの姿を見つける事は容易かったものの、引き金に指をかけた途端、緊張で手が震え始めてしまった。
止めようとすればする程、震えは激しくなってくる。
「うぅ…」
引き金を引けないまま困っていると、突然背後から、聞き覚えのある声がした。
「大丈夫よ。焦らないで、落ち着いて撃てばいいの。照準に合わせて引き金を引く、それだけじゃない」
「…え?」
思わずスコープから目を離して、振り返る瑞希。
そこには、茜が立っていた。
「はれ!?ど、どうしてここに…」
「うふふ…。話は後よ。さ、早く仕留めちゃいなさい」
「は、はい!」
慌てた様子で、再びスコープを覗く瑞希。
「そう。ゆっくり狙いを付けて、ゆっくり引き金を引けばいいの。1発当てれば、それで終わりなんだから」
「はい…!」
瑞希の手の震えは、いつの間にか止まっていた。
そして、引き金を引く。
彼女が発砲した銃弾は、リーダーの額に綺麗に風穴を開けた。
第46話 終




