第45話
第45話
"狙撃の適任者"
「結衣ちゃん!患者をお願い!」
「了解!」
マンホールを持ち上げて穴を塞いでいる間、結衣に周りの患者を任せる優子。
そこに、イヴも援護にやってきた。
「お、こりゃ頼もしいね」
当然ではあるが、イヴは何も言わない。
しかし、どことなく嬉しそうに見えた。
「これでよし…。次行くわよ!」
マンホールを塞ぎ終えるなり、すぐにもう1つのマンホールへと走る優子。
「よし、行くぞイヴ!」
結衣の言葉が通じたのかはわからないが、イヴは結衣と共に走り出した。
最後の1つは最も患者が這い出てきたらしく、辿り着く事すらも困難だった。
「多いわね…!」
思わず口に出す優子。
しかし、丁度やってきた凛達3人と合流した事により、戦況は一変した。
「優子さん!あっちは終わりました!」
「ありがとう…って、看板を置いたの…?」
遠くに見える凛と亜莉紗が置いた看板を見て、優子は苦笑する。
「蓋が無かったので…。…あれ?こっちはあるんですか?」
「えぇ…。そっちには無くて、こっちにはあるのね…」
「患者の仕業じゃないですか?ほら…」
玲奈が指差した先には、不自然な場所にマンホールの蓋が転がっていた。
「本当に知能があるんですね…」
「困ったものね…」
亜莉紗と優子はそう言って、思わず溜め息を吐いた。
「…さてと、手分けをしましょうか。亜莉紗ちゃんと美咲ちゃんは、瑞希ちゃん達の事をお願い。凛ちゃん、玲奈ちゃんは、私とマンホールを塞ぎに行くわよ」
優子の指示を聞いて、それぞれ分かれる一同。
マンホールを塞ぐチームは、ひとまず結衣達の元へと向かった。
「結衣ちゃん!大丈夫!?」
「勿論です!…でも」
言葉を切って、正面を見渡す結衣。
「流石に私と狼1匹だけじゃ、この数は無理っすね…」
「ふふ、わかってるわよ。…さぁみんな、正面突破よ!」
優子の号令と共に、一同は武器を構えて突撃した。
「あの数を相手にするんですか…!?」
そんな一同を見て、驚愕する美咲。
「あのメンバーなら楽勝でしょ。多分、結衣あたりは遊び始めると思うよ?」
亜莉紗の言葉を聞いて、美咲は苦笑した。
「上条さん!篠原さん!こっちです!」
亜莉栖と共に物陰に避難している瑞希が、2人に呼び掛ける。
その隣には、晴香の姿もあった。
「あれ?ここには患者が居ないんだね」
辺りを見渡して、患者が1体すら居ない事に気付く亜莉紗。
「さっきからこんな感じです。ほとんどの患者が、マンホールの近くに集まってるみたいで…」
晴香はどうやら、嫌な予感を感じているようであった。
「もしかしたら、リーダーが居るのかも…」
晴香の話を聞いて、美咲が呟く。
すると、亜莉紗が辺りをきょろきょろと見回しながら、こう言った。
「リーダーか…。よし、分かれて探そう!」
移動しようとしたその時、一同の背後から、大きな地響きが鳴り響く。
「う、嘘でしょ…?」
ゆっくりと振り返って、ひきつった笑みを浮かべる美咲。
そこには、巨大生物が2体居た。
「下がって…早く…!」
亜莉紗が後退りをしながら、一同に呼び掛ける。
しかし、その場を離れようとした瞬間、巨大生物が雄叫びを上げて、一同を竦ませた。
驚きと恐怖で、動けなくなる一同。
「や、やばい…!」
亜莉紗がそう呟いたのと同時に、巨大生物はゆっくりと歩き始める。
「…なーんてね」
その時、突然巨大生物の足元で、何かが爆発した。
巨大生物は2体共爆発に巻き込まれ、壊れた人形のようにボロボロになって吹っ飛ぶ。
それを見た一同は呆然としていたが、その爆発が誰の物なのかはわかっていた。
「い、いつの間に仕掛けたんですか…?」
瑞希の質問を聞いて、亜莉紗は得意気な笑みを浮かべながら答える。
「さっきだよ?」
「…って事は、奴らが来る事をわかっていて仕掛けたって事ですか?」
「知らなかったよ?」
「え…?」
「勘で仕掛けたの。何となく…ね」
それを聞いた一同は、彼女が尋常ではない環境で生きているという事を改めて知った。
まだ絶命には至っていない巨大生物が立ち上がったのと同時に、結衣と玲奈の2人が駆けつけてくる。
「呼ばれて飛び出て~」
「………」
「言えよ!」
「嫌だ」
2人は到着するなり、巨大生物の元へと突っ込んでいった。
遅れて、凛もやってくる。
「亜莉紗、ここは私達に任せて。優子さん達の支援をお願い」
「了解。気を付けてね!」
「…あんたもね」
一同はそこで分かれて、それぞれのチームと合流した。
「…これまた大勢で来たわね」
こちらに向かってくる亜莉紗達を見て、苦笑いを浮かべる優子。
「むしろ助かるじゃん。多い方が良いし」
「まぁね…」
風香の言葉に、優子はそのままの表情で頷いた。
「状況はどんな感じですか?」
やってきた亜莉紗が、優子に訊く。
「悪くはないわ。少しずつだけど、数は減ってきてるからね。…でも」
言葉を切って、マンホールがある付近に視線を移す。
「あの辺はまだ多いわね。どうやら残りの全員で、マンホールを死守するみたいよ?」
「となると、やっぱりリーダーが居るって事は間違い無さそうですね」
「多分ね」
一同は着実に1体1体を倒しながら、マンホールの元へと進んでいった。
「あ!居た!」
突然大声を出して、正面を指差す亜莉紗。
その先には、大量の患者の中に1体だけ、他の患者とは様子が異なる患者が居た。
この場に居る全ての患者を指揮している、患者のリーダーである。
「あいつを潰せば良いんだね。ちょっと行ってくる」
目の前の圧倒的な数に怯む様子もなく、走り出す風香。
その時、彼女の腕を、晴香が素早く掴んだ。
「待ちなさい!いつもいつも逃がすと思ったら大間違いよ!」
「あっそう」
風香は平然と振り解いて、再び走り出した。
「あ…」
「あ…じゃないよ!ほら行くよ!」
美咲と晴香も、風香を追って走り出す。
「あーもう…」
優子は大きな溜め息を吐いてから、3人の元へと向かった。
その場に残った亜莉紗と瑞希は、辺りの患者の殲滅に就く。
「瑞希ちゃん。私が地雷を撒くから、それを撃って爆発させてもらえるかな?」
「任せてください!」
そんな中、ただ1人武器を持っていない亜莉栖は、一同の健闘をつまらなさそうに見ていた。
とはいえ、一同を心配する気持ちが全く無いというワケでも無ければ、みんなの役に立ちたいという考えも、少なからずあった。
「風香!待って!」
晴香が風香を止めようとするが、
「待てば待つほど敵は増えるよ」
彼女に立ち止まる様子は無い。
もっとも、彼女が言ってる事は正しかった。
「でも晴香、急いだ方が良いかもよ…」
美咲も口に出す。
「え…?」
「敵が増えるペースが早くなってきてる。…多分、リーダーが仲間を集めてるんじゃないかな」
「嘘でしょ…?」
「本当みたいよ」
2人の元にやってきた優子も、美咲と同じ考えだった。
「どうするんですか…?この数を突破するのは、少し無理がある気がしますよ…?」
晴香が困り果てた様子でそう訊く。
すると、優子は何かを思い付いたように、トラックの元へと足を運んだ。
そして、1丁のスナイパーライフルを持って戻ってくる。
「これで、奴を狙撃しましょう。リーダーが居なくなれば、少しは楽になるハズ」
「優子さんが担当するんですか?」
美咲の質問に、優子は離れて戦っている瑞希を見ながら答えた。
「いえ、彼女が適任よ」
「みーずーきーちゃーん!」
「…はい?」
慌ただしく走ってくる美咲を見て、首を傾げる瑞希。
美咲は到着するなり、瑞希の腕を掴んで、亜莉紗にこう言った。
「ちょっとこの子借りますね!」
「い、いいけど…」
「よし、行くよ!」
「はわっ!?」
瑞希の腕を掴んだまま、走り出す美咲。
亜莉紗はしばらく呆然としていたが、亜莉栖と2人きりになった事に気付くと、突然気まずさが湧き上がってきた。
「(う…気まずい…)」
「………」
「(こっち見てるッ…!?)」
「し、篠原さん!何なんですか!?」
「いーからいーから!」
訳も分からないまま、連れて行かれる瑞希。
そして優子の元に到着すると、いきなりスナイパーライフルを渡された。
「…す、すみません。状況が全くわからないです」
「簡単よ。ここから、患者のリーダーを狙撃してほしいの」
「わ…私が…?」
瑞希は突然の大役に、当然困惑する。
すると、優子は患者が密集している場所を指差しながら、説明を始めた。
「患者のリーダー、今は見えてるんだけど、いざ狙おうとすると他の患者の陰に隠れてしまうのよ。だから、私達が患者を攪乱するから、その間にリーダーを撃ち抜くの。できるわね?」
「わかりました…。でも、どうして私に…?」
おどおどしている瑞希に、優子は優しく微笑みかける。
「…昨日の実弾演習の成績、あなたは確かにあまり良く無かったけど、1つ、他の誰よりも優れている点があったわ」
「優れている…点…?」
「"初弾の正確さ"よ」
「?」
「多分あなたは、複数の標的を前にしたら、焦っちゃうタイプなんだと思うわ」
瑞希は図星を指されたらしく、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
話を続ける優子。
「…でも、標的が1体だけだとしたら、あなたの射撃能力はこの中でも上位の方に位置するわ」
「そんな…」
「本当よ。そこで、初弾の正確さが求められる今回の射撃を、あなたにお願いしたいの。…良いわね?」
瑞希は一瞬迷ったような素振りを見せたが、優子から渡されたスナイパーライフルに視線を落として、こう言った。
「…失敗するかもしれませんよ?」
「大丈夫。チャンスは何度もあるわ」
「…わかりました」
瑞希は返事をした後、スナイパーライフルのスコープを覗いて、標的を確認する。
標的である患者のリーダーはそれに気付いて身を隠したが、瑞希の目はしっかりとその姿を捉えていた。
「チャンスが来たら独断で撃ちます!攪乱をお願いします!」
「ふふ…。行くわよ!みんな!」
銃を構えて、先に患者と戦っている風香の元へと向かう優子、晴香、美咲の3人。
瑞希は一度銃を下ろして深呼吸をした後、再び構えてスコープを覗いた。
第45話 終




