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Desperate Girls  作者: 白川脩
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第44話


第44話

"封鎖の手立て"


亜莉栖の狼イヴが、彼女に近付いた患者を片っ端から噛み殺す。


亜莉紗も彼女を守ろうと近くに居たが、戦闘力は狼の方が上回っていた。


「ね、ねぇ亜莉栖…」


「………」


亜莉紗の呼び掛けに、亜莉栖は答えようとしない。


亜莉紗は寂しげな表情になって、こう言った。


「…良いよ、無視しても。でも、お願い、今だけは協力して?」


亜莉栖は何も言わなかったが、亜莉紗の隣に移動して、承諾した事を示す。


「…ありがとう」


「………」


亜莉栖はやはり、何も言わなかった。


2人が顔を会わせたのは、4年振りになる。


つまり、亜莉紗が裏の世界で生きるようになってから、これが初めての対面だった。


「亜莉紗」


背後から自分を呼ぶ声が聞こえ、振り返る亜莉紗。


そこには、結衣が居た。


「後で話してもらうからね?」


「…何を?」


しらを切る亜莉紗。


「亜莉栖ちゃんの事。…何かあったんでしょ」


さっきの2人の遣り取りをこっそりと見ていた結衣はそう言って、訝しげに亜莉紗を見つめた。


「…まぁね。わかった、後で話すよ」


亜莉紗は目を逸らして、観念したように溜め息を吐く。


すると、結衣は笑顔になって、こう言った。


「よろしい!さ、やるよ!」


「…うん!」


釣られて、亜莉紗も笑顔になる。


結衣の能天気な性格は、時に誰かを笑顔にしてきた。



そんな3人の近くで戦っている、凛と晴香、美咲と玲奈の4人。


彼女達は皆、患者を次々と仕留めていく狼、イヴが気になって、中々集中する事ができずにいた。


「感染しないんですかね…?」


晴香が狼を見ながら、凛に訊く。


「感染?」


訊き返す凛。


「はい。だって、患者に噛みついちゃってるじゃないですか」


「っていうか、噛み千切っちゃってるよ…」


凛は晴香と美咲にそう言われて、確かに変だと思った。


「うーん…。抗体がある…とか?」


「人間にしか感染しないんじゃないですか?D細菌って」


玲奈も、話に加わる。


「確か沢村さんが、"人間を患者に変える兵器"って言ってましたし」


「それなら辻褄は合うけど…」


凛は、半信半疑といった様子だった。


「明美さんに会ったら、訊いてみましょうよ。動物には感染するのかを」


「そうね」


4人は話を終えて、ちらっと狼を見る。


狼は丁度こちらを見ていたらしく、視線が合った4人は慌てて目を逸らした。



一方…


一同とは離れた場所で戦っている優子、風香、瑞希の3人。


そこは患者が次々と湧き出てきているマンホールの近くであり、最も患者が密集している場所であった。


「まずはあれを塞がないと、埒が開かないわね…」


そう呟いて、マンホールを睨む優子。


瑞希は彼女の言葉を聞いて、援護の態勢を取った。


尚、風香も会話を聞いてはいたが、2人に付いていかずに患者を蹴散らし続ける。


風香は、患者を蹴散らしている方が楽、という彼女らしい考えの元、そうしていた。


とはいえ、優子と瑞希が患者と交戦せずにマンホールまで辿り着いたのは、風香のお陰であった。


「瑞希ちゃん!周りの患者をお願い!」


「わ、わかりました!」


マンホールを塞ぐ作業を始める優子と、それを防衛する瑞希。


しかし、瑞希1人では、少々難があった。


「優子さん!か、数が多いです!」


それを聞き、手を止めて辺りを見渡す優子。


すると、患者が湧き出てきているマンホールは、もう1つある事に気付いた。


「もう1つあるの…!?」


優子は一旦、瑞希とマンホールから離れて、辺りの患者の一掃を始める。


それでも患者は中々減らずに増え続けたが、その時、こちらにも応援がやってきた。


「姉御!加勢しますぜ!」


意気揚々と現れる結衣。


彼女の後ろには、亜莉栖とイヴの姿もあった。


「恩に着るわ!援護して!」


優子の号令と共に、攻撃を始める結衣。


イヴも近くに居た患者に飛びかかり、その鋭利な爪で顔面を滅茶苦茶に引っ掻いた。


「亜莉栖ちゃん!私から離れないようにね?」


瑞希が亜莉栖の側に行き、彼女の援護に付く。


しかし、亜莉栖は早速瑞希から離れて、歩き出してしまった。


「ちょ、ちょっと亜莉栖ちゃん!危ないよ!」


「…大丈夫」


小声でそう言った亜莉栖に、1体の患者が近付いていく。


その患者は、駆けつけてきたイヴに噛み付かれ、一瞬で仕留められた。


イヴを優しく撫でながら、瑞希に意味深な視線を送る亜莉栖。


「(悲しいなぁ…)」


瑞希は何故か、負けた気がした。



「あれ?」


いつの間にか亜莉栖と結衣が居なくなっている事に、凛が気付く。


「結衣姉なら、中原さんの所に行きましたよ」


玲奈の言葉を聞き、凛は優子が居る方を見て納得した。


「あっちの方が多いのね…」


「こっちも増えてきたよ…!」


亜莉紗が、凛とは反対の方向を見ながらそう教える。


その先にも、開いているマンホールがあった。


次々と這い出てくる患者を見て、舌打ちをする凛。


「ちっ…。2人共!あれを塞ぐわよ!」


凛を先頭に、3人はマンホールの元へと走り出した。


「宮城さん。どうやって塞ぐつもりですか?」


玲奈が患者を斬って蹴飛ばした後、凛に訊く。


「とりあえず蓋をして、何か重い物でも置く予定だけど…」


その重い物が、辺りには見当たらなかった。


「亜莉紗。何か持ってないの?」


凛はそう言って、亜莉紗を見る。


すると、亜莉紗はスカートの内側からビンを4本取り出して、得意気にこう言った。


「重い物は持ち合わせてないけど、良い考えならあるよ」


「良い考え?」


「燃やす!」


「………」


亜莉紗の荒々しい作戦に、苦笑する玲奈。


しかしその作戦に、凛が賛成した。


「問題を根本から潰すって事ね?やってみましょう」


「ま、マジですか…?」


「失敗したら、他の作戦を考えれば良いだけ。…付いて来て!」


走るスピードを上げる凛。


「だるい…」


玲奈は思わず本音をこぼした後、凛に付いていった。


マンホールの周りに居る患者を掃討し、亜莉紗の到着を待つ。


「それじゃ、やってみますかね…」


亜莉紗はマンホールの前に立ってそう呟き、黒い液体が入っているビンをありったけ取り出す。


そしてそれを、マンホールの中に全て投げ込んだ。


大量に溜まる可燃性の液体。


亜莉紗はマッチを5本纏めて擦り、火が消えないようにゆっくりとマンホールの中に落とした。


マンホールから込み上げてくる熱気に、亜莉紗は思わず顔を背ける。


しばらく様子を見てみた所、作戦は成功したようであった。


「作戦成功!ナイス私!」


「次行くわよ」


「あ、はい…」


亜莉紗に労いの言葉の1つも言わずに、次のマンホールへと向かう凛と玲奈。


「(前から思ってたけど、私の扱い酷くないかな…?)」


亜莉紗は、今更気付いた。


もう1つのマンホールの前に到着し、凛が再び亜莉紗を見る。


「亜莉紗、お願い」


「…え?」


きょとんとする亜莉紗。


「え?じゃなくて…。さっきと同じ事をお願いしてるのよ」


「いや…あの…」


「何よ」


「ビンもう無いです…」


凛と玲奈はそれを聞いて、呆れたように溜め息を吐いた。


「…はぁ」


「使えねぇな…」


「(やばい折れそう)」


ひとまず、辺りの患者を殲滅する3人。


しばらくすると、3人の元に美咲がやってきた。


「凛さん!あれ使えませんかね?」


美咲が指差した物は、コンビニの物と思われる大きな看板。


凛はそれを見て、笑みを浮かべた。


「あれなら大丈夫そうね…。でかしたわ、美咲ちゃん。あなたは玲奈ちゃんと一緒に患者の相手をお願い。…亜莉紗!」


「はいはーいッ!」


その場を玲奈と美咲に任せて、看板を取りに行く2人。


いざ看板を持ち上げてみると、想像以上に重かった。


「重ッ!何これ!?」


「ち、力抜いてないでしょうね…!?」


「全力ですッ!」


それでも何とか、マンホールの前まで持っていく。


しかし、置くのが大変だった。


「せーの…」


「ちょ、ちょっと待って…!」


「何よ…重いんだからさっさとしてよ」


「このままだと足が挟まるから…ちょっと待って…」


「早くどかしてよ。潰されたいの?」


「お、おっけーですッ!」


看板を置いて、様子を見る。


またしても、上手くいったようであった。


「やったね!」


「こっちはもう無いようね。優子さん達の支援に行くわよ」


そう言って、優子達の方を見る。


こちらと違い、あちらは苦戦しているようであった。


第44話 終




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