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Desperate Girls  作者: 白川脩
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第43話


第43話

"狼と少女"


「全員、無事みたいね」


優子が集まった一同を見回して、確認するようにそう呟く。


「優子さん。弾薬分けて貰っていいですか?」


トラックの荷物を漁っている結衣を見て、優子は顎に手を当てて困ったような表情を浮かべながら答えた。


「良いけど…44マグナムは置いてないわよ?」


「うぇ~…」


「5.56はありますか?」


結衣と入れ替わりで、凛がトラックの元へ。


「それならあるわ。右手側の方に積んであるハズよ」


「助かります」


「他の人は大丈夫?」


それを聞いて、晴香と美咲も弾薬を補充した。


「瑞希ちゃんは?」


優子に訊かれた瑞希は、ぼーっとしていたのか、慌てて返事を返す。


「…あ。わ、私は大丈夫です」


「…どうしたの?」


「い、いえ…何でもないです…。すみません…」


瑞希は何かを見つめていたらしく、優子に軽く頭を下げた後、もう一度そちらを見た。


それを見逃さなかった優子は、当然彼女の視線を辿る。


その先には、何の変哲も無い1本の大木があった。


「(木…?)」


「優子さーん!早く行きましょーよー!」


「え、えぇ…。今行くわ…」


優子は結衣に呼ばれて、一旦大木から視線を離したが、その時見た瑞希の不安そうな表情を見て、もう一度大木を見る。


しかし、大木は悠々と聳えているだけで、これといった不審な点は無かった。


優子は諦めて、トラックの元へと歩いていく。


トラックが発車してその場から消えた時、大木の陰で、何かが動いた。


「………」


大木の陰からゆっくりと出てきたのは、1人の少女。


その少女はトラックが消えていった道を見つめた後、大木から離れ、その道を歩き始めた。



目的地であるコンビニに到着したトラックが、ゆっくりと止まる。


一同はそれぞれ武器を持ってトラックから降り、その場の惨状を眺めた。


両腕が綺麗に切断されている死体を見て、凛が結衣に話し掛ける。


「…5人がここに来たのは、間違ってなさそうね」


「うん。葵さんが倒した患者だね。こっちは茜さんで、あぁ、こっちは楓だね。間違いない」


一同は散らばって、辺りの捜索を始めた。



「ねぇお姉ちゃん」


「どうしたの?」


店の付近を捜索している、風香と晴香。


風香が妙な物を見つけて、晴香に呼び掛ける。


「…これ、茜達の仕業じゃないよね」


それは、首に大きな歯形が付いている患者の死体だった。


「何これ…」


「それを今訊いたんだけど。…まぁ、知るワケないか」


そこに、美咲と亜莉紗がやってくる。


「晴香、何か見つけた?」


「美咲…。これ、何だと思う…?」


「どれどれ…」


美咲はしばらく無言で死体に付いている歯形を見つめた後、得意そうにこう答えた。


「歯形!」


「いやそれはわかってるんだけどさ…」


「じゃあ、噛みついた痕!」


「もういいや…」


そんな2人を無視して、しゃがみ込んで死体を調べ始める風香。


「少なくとも、患者や兵器がやった痕ではないね」


隣にしゃがみ込んだ亜莉紗が、そう呟いた。


「…根拠は?」


「へ?」


「そう思う根拠」


風香はそう言って、亜莉紗を横目で見る。


亜莉紗は死体の歯形を見つめたまま、話し始めた。


「患者って、食い散らかしてさようなら、って感じでしょ?でもこの死体には、無駄な傷が1つも無い。一撃で、確実に仕留めてる」


「でも、人間じゃないよね」


「そこなんだよね…。人間がこんな傷を与えられるワケ無いし…」


亜莉紗はそう言いながら立ち上がって、溜め息を吐く。


「謎だね…」


4人はその場を後にした。



一方…


「玲奈、これ見て」


「何?」


店内を捜索している結衣と玲奈。


大きな歯形が付いている患者の死体は、そこにもあった。


「これは…?」


「患者の歯ではないね」


「いや…これ…」


玲奈が、患者の腕を指差す。


そこには、痛々しい爪痕があった。


「歯形に爪痕…。熊か!?」


「山奥だから、有り得るかもね…」


その時、入口の所から、小さな足音が響く。


2人がそちらを見てみると、1人の少女と、1匹の狼がこちらを見ていた。


「え…?」


突然現れた奇妙な組み合わせに、唖然とする結衣。


すると、少女と狼は、ゆっくりと2人の元に歩いてきた。


「待った」


玲奈がナイフを構えて、少女を威圧する。


「敵意は無いのね?」


少女は何も言わずに、ゆっくりと頷いた。


それを見て、玲奈はナイフをしまう。


「名前は?」


少女は黙ったまま、何も言わない。


「…年齢は?」


「………」


「…どうしてここに居るの?」


「………」


少女は何一つ、答えなかった。


呆れる玲奈。


「あのさ…」


すると、少女が玲奈の背後を指差しながら、蚊の鳴くような声でこう言った。


「後ろ」


「…後ろ?」


言葉の意味を理解して、玲奈は素早く振り返る。


目の前に、1体の患者が居た。


「ッ…!?」


玲奈は急いでナイフを取り出す。


すると、少女の側にいた狼が、玲奈のナイフよりも先に、患者の首に喰らいついた。


「ず、随分と凶暴なペットだねぇ…」


首を噛み千切ってトドメを刺す狼を見て、結衣が苦笑する。


狼は患者が動かなくなったのを確認すると、再び少女の側に戻った。


「………」


そして、少女は再び2人を見つめて黙り込む。


「…何か言いなよ」


玲奈は段々と、イラつき始めていた。


「名前、言えるかな?」


優しい声で、少女に話し掛ける結衣。


すると、さっきは答えなかった少女が、ゆっくりと口を開いた。


「…亜莉栖」


「ありす…ちゃん…?いくつなの?」


「12」


「12歳なんだ。ここで何してるの?」


「………」


亜莉栖と名乗った少女は、その質問には答えなかった。


結衣は無理に訊こうとはせずに、質問を変える。


「その狼はペットなの?」


「…友達」


「そっか。頼もしいお友達だね」


結衣が微笑みかけると、少女の表情が少しだけ緩んで見えた。


そこに、晴香達4人がやってくる。


4人は狼の存在に気付いて、当然驚いた。


「大丈夫、噛まない」


亜莉栖が、4人にそう言う。


しかし、口元が血だらけになっている狼が大人しい動物とは到底思えなかった。


しかし、その狼が突然、怯えている亜莉紗の足元に寄ってくる。


「ッ!?」


恐怖のあまり、声が出せなくなる亜莉紗。


すると、常時殺気立っているように見える狼が、亜莉紗の足元で嬉しそうに尻尾を振り始めた。


「な、何だ…?」


ただただ困惑して、狼を見つめる亜莉紗。


すると、今まで4人に背中を向けていた亜莉栖が、振り返って4人の方を見た。


「あ、あ、あり、ありありッ…!?」


亜莉栖の顔を見た亜莉紗が、目を丸くして激しく動揺し始める。


「亜莉栖ッ!?」


亜莉紗は、彼女の事を知っていた。


察しの良い玲奈が、2人を交互に見ながらこう訊く。


「もしかして…姉妹なの…?」


「………」


亜莉栖が、小さく頷く。


狼と共に現れたこの少女は、亜莉紗の妹、上条亜莉栖だった。


「全く似てないじゃん!」


2人を交互に見て、困惑する結衣。


確かに彼女の言う通り、髪型、顔立ち、雰囲気から性格まで、2人は何もかも似ていなかった。


一同が驚いているそんな傍ら、喜ばしいハズの再会を何故か喜んでいるようには見えない上条姉妹の2人。


「………」


亜莉紗は、亜莉栖から視線を外して、気まずそうに黙り込む。


「………」


亜莉栖は、亜莉紗をじっと見つめて、同じように黙り込んでいた。


少しも、展開が進まない。


すると、見ている内にこっちまで気まずくなってきた結衣が、2人の間に入った。


「…ちょっと待った。何でそんなに雰囲気悪いの?」


「それは…」


亜莉紗が重々しく口を開いて、答えようとする。


その時、伏せて寝ていた亜莉栖の狼が突然立ち上がり、店の外に飛び出していった。


「イヴ…!」


狼の名前を呼んで、追いかける亜莉栖。


「亜莉栖!待って!」


亜莉紗も亜莉栖を追って、すぐに飛び出した。


「患者だね…」


そう呟いて、立ち上がる結衣。


「どうしてわかるの?」


玲奈が訊くと、結衣は気だるそうに首を回しながらこう答えた。


「流れ」


「な、流れ…?」


「そう流れ。ほら行くよ~」


店を出る一同。


外は結衣の予想通り、複数の患者が彷徨いていた。


「みんな!また地下から湧き出てきたわ!応戦するわよ!」


一同と分かれて違う場所を捜索していた優子、凛、瑞希も合流して、再び患者の掃討が始まった。


第43話 終




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