第33話
第33話
"集団能力"
「茜さんの…お姉さん!?」
喫驚する晴香。
「言われてみれば、確かに似てるかも…」
納得する美咲。
「お姉さんの出来が良すぎて、妹は残念な結果になった、ってパターンだね」
嘲笑する風香。
「…はぁ」
有紀奈は、絶望していた。
その様子に、優子が気付く。
「どうしたのよ、溜め息なんか吐いて」
「いや…。茜が2人って思ったらね…」
「うーん…。性格が似てるようには見えないけど…」
優子はそう言って、未だに喧嘩を続けている神崎姉妹の2人を見た。
「大体、何で女なの?」
「そこに愛があるからよ」
「答えになってないわよ…。覚えてる?あんたのせいで私まで変人扱いされた時の事」
「そんな事あったかしら?変人なのは間違ってないけど」
「あんたが私の友人の妹に手を出した時の事よ。そいつから苦情が来たんだから…」
「あぁ、あの子ね」
「それからは私までそういう人だと思われて、そいつと連絡取れなくなったのよ?」
「元々嫌われてたんじゃないの?本当に好きなら離れたりしないわよ」
「同性愛を前提で話すな!」
有紀奈と優子は、溜め息を吐いた。
「…いや、似てるわね」
「えぇ…」
「2人共!いい加減にしなよ!」
2人の喧嘩を、結衣が止める。
「…結衣姉、そんなキャラだっけ?」
「お腹空いた!早く食べたい!」
「………」
玲奈は一瞬ではあるものの、彼女を尊敬してしまった事を後悔した。
「結衣!私トマト大好きなんだけど、あげるよ!」
「いやいや私があげるよ!大好きなんだけどね!」
「大好きなら遠慮しなくていいって!全部あげちゃう!」
「亜莉紗こそ遠慮しないでよ!ささ、食べて食べて!」
「(2人共嫌いなのね…)」
嫌いな物を押しつけ合う結衣と亜莉紗と、それを傍観する凛。
「(さっきから何見てんだこのガキ…)」
「(ガン飛ばしてんじゃねーよ…)」
一瞬目が合っただけで何故か険悪な雰囲気になり、ずっと睨み合っている玲奈と風香。
「明美さん!お久しぶりです!ずっと会いたいって思ってました!」
「久しぶりって…3日前じゃないの」
「えへへ…。私の作った料理、どうですか?」
「そうね…。まずは箸を持ちたいから、腕を離して貰えないかしら?」
明美の腕にしがみついて離れようとしない晴香と、それに困惑する明美。
「姉さん、口元に何か付いてるわよ?…あら、ごめんなさい皺だったわ」
「茜、昨日しっかり寝たの?顔色が少し悪いわよ?…ごめんなさい元々そんな面だったわね」
「茜さん!銃取り出そうとしないで!」
「葵さん!刀から手を離してください!」
笑顔で武器を取り出そうとしている茜と葵に、それを必死に止める美咲と瑞希。
一同の中で食事に集中しているのは、楓と有紀奈と優子だけであった。
「ねぇ、腕はどう?」
訊かれた楓は優子を心配させまいと、無理に肩を回してみせる。
しかし、痛みは想像以上だった。
「ッ…」
「無理しないで…。銃創を甘く見てると危険よ」
「…弾はもう残っとらん。大丈夫や」
「大丈夫じゃないわよ。しばらく安静にしてる事。良いわね?」
「けっ…」
「(親子みたい)」
有紀奈は2人を見て、そう思った。
食事が終わり、机を囲むように座る一同。
「さて、昨日の話の続きをしましょうか」
有紀奈は一同の顔を見回して、話を始めた。
「まず、あなた達が和宮町に居た理由を話して頂戴」
「私達は全員、とある1つの依頼を受けたのよ」
代表して、葵が答える。
「依頼?」
「えぇ。依頼主は彼女よ」
葵はそう言って、明美に視線を移した。
「…重要なファイルが盗まれたの。それを取り返すという依頼よ」
「盗まれた…。何か確信があるんですか?」
明美の言葉を聞いて、美咲が質問する。
「確信は無いけど、ほとんど確定って感じかな。犯人の目星も付いてるからね」
結衣が答える。
「え?犯人の目星、付いてるんですか?」
驚く晴香。
恭子の存在を知らない他の少女達も、同じ反応だった。
「峰岸恭子という狂人よ。…彼女の目も、そいつの仕業らしいわ」
優子はそう言って、左目に眼帯を付けた楓を見る。
楓は腕を組みながら、目を瞑って俯いていた。
「…寝てる?」
顔を覗き込む結衣。
楓は忌々しそうに顔を上げた。
「…アホ、起きとるわ」
「じゃあ…考え事?」
「…それよりも、話続けろや」
結衣の質問には答えずに、葵を見る楓。
葵は彼女が何かを隠しているように思えたが、無理に訊き出す気にはならなかった。
「…今度は、こっちが質問しても良いかしら?」
「何かしら」
「あなた達が、あの町に現れた理由よ」
「…その理由なら、この書類を見ればわかるわ」
有紀奈がそう言うと、優子が一同に1枚の書類を配り始めた。
「…何ですか?これ」
凛が持ち歩いているメガネを掛けて、書類を読みながら有紀奈に訊く。
すると結衣が、メガネを掛けた彼女を見てこう言った。
「うわ、恐ろしいくらいメガネ似合ってるこの子」
「…目、悪いのよ」
「あれやってよ。メガネ掛け直すヤツ」
「嫌」
「ちぇ…」
書類の内容は、和宮町の地下にて、多数の患者や兵器が発見されたという物。
書類に目を通して一番大きな反応を見せたのは意外にも、D細菌の製作者である明美だった。
「…これ、本当なの?」
有紀奈が頷く。
「えぇ。私達が町に居た理由は、大量の患者が地下に現れた原因を調べる為だったのよ」
「…変ね」
明美は書類を読み直しながら、そう呟いた。
「…変?」
「患者に知能は無いハズ。集団で行動するなんてありえないわ…」
「それなら前にもあったじゃん。3日前の脱出寸前で」
風香が言った事に、茜も同意する。
「確かにあったわね。巨大生物を取り巻くように、集まってきていたわ」
「わかった!患者達には、ボスが居るんだよ!」
亜莉紗の意見には、玲奈が同意した。
「私も、指揮を取っている個体が居るっていうのは、間違ってないと思います」
「指揮を取っている個体?」
隣に居る結衣が、彼女の言葉を繰り返す。
「亜莉紗さんの言葉通り、患者達のボスが居るって事」
「そう思う根拠は?」
「私達が合同庁舎で捜索していた階…確か5階だったっけ。そこに患者が大量に居たのは覚えてる?」
「うん」
「知能が無いハズの患者が、5階にだけ集まるなんて変でしょ?」
「確かに…」
すると、6階を捜索していた葵も、大量の患者と遭遇した事を思い出した。
「6階にも居たわ。ね?凛ちゃん」
「はい。かなり居ました…」
一連の会話を聞いて、有紀奈が話を纏める。
「…つまり、患者を指揮する事ができる個体が、合同庁舎の5階や6階に患者を集めて、あなた達を妨害しているって事かしら?」
「だと思いますよ…」
玲奈はそう言って、溜め息を吐いた。
「それじゃあ、峰岸恭子の目的は?」
優子の質問に、明美が答える。
「D細菌らしいわ」
一同の中でそれを知らなかった人物は、当然驚いた。
「…テロ行為でもするつもりかしら」
有紀奈が呟く。
「いいえ、殺戮に使うらしいわ」
「殺戮…?」
「えぇ。本人が言ってたから、間違いないハズよ」
「へぇ…」
その会話が終わると、一同はしばらく沈黙した。
その沈黙を、有紀奈が破る。
「…それで、あなた達はどうするつもり?」
「決まってるじゃない。ファイルを取り返しに行くわ」
明美の言葉を聞いて、有紀奈は鼻で笑った。
「…だと思った。必要な物があったら言って頂戴。弾薬くらいなら分けてあげる」
「助かるわ」
椅子から立ち上がる明美。
すると彼女に、晴香がもじもじといった様子で、こう言った。
「私も…連れてってもらえませんか…?」
「…え?」
「お、お願いします!明美さんの力になりたくて…」
「いや、あなたね…」
「じゃあ私も行く」
風香も立ち上がる。
「ちょっと待ってよ。あんたみたいなチビが行って何すんの?」
玲奈がそう言うと、風香は突然銃を取り出し、玲奈に向けた。
「…チビって言うな」
「…相手を見てから銃を構えなよ」
銃の間合いであるにも関わらず、ナイフを取り出す玲奈。
すると、晴香と結衣が、2人を止めた。
「風香!何やってんの!」
「だってあいつが…」
姉に諭される風香。
「玲奈!このバカ!」
「痛ッ…!」
姉にゲンコツをされる玲奈。
「あの2人、似てるわね」
「姉の方は、あまり似てないけどね…」
有紀奈と明美は、その光景を見て笑っていた。
食堂を出るなり、準備を始める明美。
有紀奈はそれを見て驚いた。
「え、もう行くの?」
「…どういう事?」
「私達は準備が必要だから、1日置くけれど…」
「あなた達も行くの?」
「地下の捜索があるからね」
「そう。それじゃ、私達は先に行くわ。世話になったわね」
歩き出す明美。
しかし、有紀奈が次に言った一言で、すぐに立ち止まった。
「…どうやって行くつもり?」
「…あ」
ヘリで来たという事を、すっかり忘れていた明美。
「…今日は休んで頂戴。明日、一緒にヘリで行きましょう」
「悪いわね…」
明美はそう言って、部屋の中へと戻っていった。
「ねぇねぇ有紀奈さん」
結衣が有紀奈を呼ぶ。
「どうしたの?」
「何か食べ物ありませんか?」
「…10分前に食事をしたハズだけど」
「正直に言います!甘い物が食べたいです!」
「…優子、買ってきて頂戴」
「はいはい…」
一同はそれぞれ、食堂を離れた。
第33話 終




