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Desperate Girls  作者: 白川脩
32/79

第32話


第32話

"神崎姉妹"


「…何?この音」


謎の物音を聞いて、目覚める明美。


体を起こして辺りを見渡してみると、椅子に座っている葵の背中が見えた。


葵は明美が起きた事に気付き、顔だけをこちらに向ける。


「あら、おはよう」


「…何してんの?」


「見てわからない?お食事中よ」


その物音とは、葵がカップ麺をすすっている音だった。


「朝からズルズルうるさいわよ…。まさか寝ないでずっと食べてたの?」


積み重なっているカップ麺のゴミを見て、溜め息を吐く明美。


「ちゃんと寝たわよ。起きたのは2時間前くらいね」


「2時間前?」


「私は4時間寝たら、絶対に目が覚めるのよ」


「あっそ…」


明美は気だるそうに首を回して、欠伸を手で隠しながらベッドを出た。


「あら、あんなに寝たのに、まだ眠いの?」


「あなたに起こされたからよ…。もう少し寝ていたかったのに…」


「どのみち、起きる事にはなっていたわよ」


「…え?」


葵が扉の方に顔を向ける。


すると、扉をノックする音が聞こえ、瑞希が部屋に入ってきた。


「おはようございます」


「あら、可愛らしいお嬢さんね」


葵の言葉に、照れ笑いを浮かべる瑞希。


明美に気付くと、彼女は1度頭を下げてからこう言った。


「明美さんですよね?その節は、お世話になりました」


「へぇ、覚えててくれたのね」


微笑む明美。


「はい!助けてくれた人の事を、忘れたりはしませんよ!」


瑞希は笑顔でそう言った後、葵に視線を移した。


「えと…」


名前がわからなくて困っているという事に気付く葵。


「私は神崎葵よ。よろしくね、お嬢さん」


「桜井瑞希です!よろしくお願いします!」


瑞希はそう言った後、葵を二度見した。


「…え?」


「どうしたの?」


「か…神崎…?」


「え、えぇ。神崎だけど…」


瑞希は葵を見つめたまま、しばらくきょとんとする。


葵と明美がそれを見て呆然としていると、瑞希は突然頭を横に振って、こう言った。


「すすす…すみません!な…なな…何でもないです!」


「何でもないようには、見えないのだけれど…」


明美が目を細めて、瑞希を見る。


「いえ!本当に何でもないんです!と、とりあえず食堂に来てください!み、みな、皆さん集まっていると思うので!」


2人に一礼して、飛び出すように部屋を出る瑞希。


葵は部屋から頭だけ出して、彼女の背中に呼び掛けた。


「瑞希ちゃーん…そんなに急ぐと…」


「痛ッ!」


「転ぶわよ…」


「うぅ…」


「…言わんこっちゃない」


葵は呆れながらそう呟いて、転んだ瑞希に歩み寄る。


彼女に手を差し出そうとしたその時、背後から、


「私の嫁に…」


という声が聞こえた。


「…え?」


振り返る葵。


すると、背後に居る声の主が突然、葵に踵落としを放った。


「触るなぁッ!」


「うわぁッ!」


葵はそれを、間一髪で避ける。


「いきなり何するのよ!」


「黙らっしゃい!誰であろうと私の嫁に手を出す奴は容赦しな…」


声の主が、突然言葉を切る。


「…あ」


2人は、お互いの顔を見て驚愕した。


「姉さん!?」


「茜!?」


現れた女性の名前は神崎茜。


彼女は、葵の実の妹であった。


「…とうとう、揃っちゃったわね」


それを見て、溜め息を吐く明美。


2人が姉妹であるという事を知っていたのは、一同の中で彼女だけだった。


「やっぱり…。何か似てるなって思いました…」


明美の隣に、瑞希がやってくる。


「あなた、気付いていたの?」


「はい。でも、間違ってたら恥ずかしいと思って…」


「突然、逃げ出したってワケ?」


「すみません…」


明美は吹き出すように笑い、瑞希の頭をくしゃくしゃっと撫でた。



「…はッ!」


突然、目を覚ます結衣。


「くそ~…投げばっかり使いやがって…」


夢の内容の事を呟いた後、玲奈が寝ていたベッドが空になっている事に気付き、気だるそうに体を起こした。


「あいつ…私を無視してどっか行きやがったな…」


そう呟きながら、部屋を出る。


「うぉ」


丁度廊下を歩いていた少女に、軽くぶつかってしまった。


「ごめんね。大丈夫?」


少女を見つめる結衣。


「………」


少女は顔も向けずに小さく頷き、着ているパーカーのポケットに手を突っ込んで、そのまま歩き始めた。


「ちょ、ちょっと!」


「…何?」


立ち止まって、不機嫌そうに振り返る少女。


「みんながどこに行ったかわかる?」


結衣の質問に、少女は蚊の鳴くような声で答えた。


「…食堂」


「食堂…か。ありがとね!」


「待って」


歩き出そうとした結衣を、少女が呼び止める。


「どしたの?」


「…こっち」


「え?」


「食堂行くんでしょ?私も行く所だから、付いて来て」


少女はそう言うと、結衣とは反対方向に歩き出した。


歩いている最中、結衣は喋らずに、少女の方から話し掛けてくるのを待つ。


「………」


「………」


しかし、少女はうんともすんとも言わなかった。


結局、結衣は自分から会話を始める事にする。


「そうだ。名前まだ言ってなかったよね。私は大神結衣。あなたは?」


「…赤城。赤城風香」


「風香ちゃんか。よろしくね!」


「…よろしく」


少女はそれだけ喋ると、再び黙り込んでしまった。


しかし、結衣は諦めない。


「あはは…大人しい子だね…。歳はいくつなの?」


「…15」


「そうなんだ。私の妹と1つ違いだね」


「………」


「(くっ…!負けてたまるか!)」


すると、廊下の先に、亜莉紗と凛の2人が見えた。


「あ、結衣~!」


亜莉紗が結衣に気付き、大きく手を振る。


結衣は2人の前に着くと、他の人の事を訊いた。


「おはよ、2人共。もうみんな食堂に居るの?」


「多分居るわ。あんたが最後よ」


答えたのは凛。


「私はこういうキャラだから良いの!」


「何よそれ…」


すると亜莉紗が、結衣の後ろに居る風香に気付いた。


「あれ?その子誰?」


「赤城風香ちゃん。さっき会って、食堂に案内してもらってたの」


結衣が紹介している最中も、風香は2人に一礼すらしない。


しかし、彼女がどんな反応を取っていたとしても、亜莉紗の好奇心からは逃れられなかった。


「私は上条亜莉紗!よろしくね!」


「…どうも」


「名前で呼んでね!風香ちゃん!」


「………」


恥ずかしくなって、目を逸らす風香。


そんな彼女を見て、凛が呟く。


「…何だか、玲奈ちゃんに似てるわね」


「凛!それは悪口!」


「いや何でよ…」


そんな会話をしている内に、4人は食堂に到着した。



「そういえば、朝霧さんは?」


料理を机に並べながら、辺りを見渡す玲奈。


それを聞いた有紀奈が、苦笑いを浮かべた。


「…忘れてたわ」


「忘れないでください…。私、呼んできます」


そう言って、エプロンを外そうとする玲奈。


それを、亜莉紗が止めた。


「ダメ!玲奈ちゃんはここでエプロン着てれば良いの!」


「…は?」


「私が呼んでくるわ。ほら、人手が足りなくなったら困るでしょ?」


立ち上がって、食堂を出る凛。


「宮城さんまで…」


「満場一致ってね。とりあえず、"お帰りなさいませ、ご主人様"って言ってみよっか」


「ぶっ殺すよ?」


すると、凛と入れ替わるように、明美達4人がやってきた。


辺りを見渡して、怪しい笑みを浮かべる茜。


「あら、何かしらこの楽園は」


「茜さん…顔が怖いです…」


「朝から美少女のエプロン姿が拝めるなんて、今日は良い日ね」


そんな茜を見た一同は、少し引き気味だった。


「速水さん…。あの人誰ですか…?」


有紀奈に耳打ちする玲奈。


有紀奈は呆れ気味で、こう答えた。


「変態よ。みんなも気を付けてね」


「へ、変態…?」


「誰が変態ですって~?」


いつの間にか一同の背後に来ていた茜が、突然風香に抱きつく。


「ちょ…!私何も言ってないじゃん!」


「心の声が聞こえたわ。お仕置きが必要ね…」


「理不尽!離せ!」


「いや~んこの子やっぱり抱き心地良いわ~」


一同はその光景を見て、呆然としていた。



その後、凛が呼びに行った楓と優子も現れ、食堂に全員が揃った。


「有紀奈。どうしてあなただけエプロンを付けていないのか、わかりやすく説明してみなさい」


何故か真剣な表情で、有紀奈に詰め寄る茜。


「い、いいじゃない…。私はそういう柄じゃ…」


「柄とかそういう問題じゃないのよッ!あなたのようなクール系が家庭的なエプロンを付けているってだけでもうッ…!」


「そこまでよ百合女」


茜が振り返ると、腕を組みながらこちらを睨み付けている葵が居た。


「何よ?」


「姉として恥ずかしいのよ。戯言はいい加減にして」


「戯言ですって?この魅力に気付かない姉さんがおかしいのよ」


「黙りなさい。そんなだから友人が減っていく一方なのよ」


「あら、友人なら多いわよ?少なくとも根暗で気持ち悪い姉さんよりはね」


「根暗なワケ無いでしょう。私はあなたなんかとじゃ比べものにならないくらい信頼されてるわよ?」


「信頼?どうせ形だけの物でしょう?」


「何ですって?」


「あら、やる気?」


「ちょ、ちょっと待って!」


今にも戦闘を始めそうな2人を、有紀奈が止める。


「"姉さん"ってまさか、あなた達…」


葵と茜はお互いを睨みながら、同時にこう言った。


「姉妹よ」


第32話 終




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