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Desperate Girls  作者: 白川脩
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第28話


第28話

"想定外"


青柳の頭に振り下ろされる、巨大生物の爪。


一同が青柳の生存を諦めかけたその時、金属音のような物が、その場に鳴り響いた。


「ふぅ…。間に合った…」


その音の正体は、突然現れて巨大生物の爪を弾いた、葵の刀による物だった。


肩で息をしている様子から見て、彼女はかなり急いで来たらしい。


しばらくすると、彼女がやってきた道から、明美も現れた。


「…人が必死に走ってる光景を、優雅に歩きながら見てたわけ?」


ゆっくりと歩いてきた明美を、葵が睨む。


明美は少しも悪いと思っていない様子で、こう言った。


「中学時代の50メートル走の記録、クラスで最下位だったのよ。私」


「でっていう」


葵は不機嫌そうに明美を見た後、目の前の巨大生物に視線を移した。


「…せっかくだから、ストレス解消させてもらうわ」


「…待って」


斬りかかろうとした葵を、明美が止める。


「何よ」


「こいつ、変異体よ」


「変異体?」


「しかも、かなり特殊なタイプ…」


「…説明して頂戴」


刀を下ろして、再び明美に視線を戻す葵


明美は巨大生物を見ながら、話し始めた。


「患者の突然変異は知ってたけど、兵器の突然変異は初めて見たわ」


「?」


首を傾げる葵を、明美が横目で見る。


「つまり、想定外って事よ」


「想定外…ねぇ」


葵はそう呟きながら、巨大生物に視線を戻した。


その時、さっきまでは確かに遠くに居た巨大生物が、目を離していた一瞬の内に目の前まで迫ってきていた事に気付く。


「葵!」


明美が呼び掛けるが、葵は反応が遅れて、刀を持っている左手を掴まれる。


絶体絶命の危機であるにも関わらず、彼女はどこか楽しそうな表情をしていた。


その理由は、絶対に誰かが助けてくれると確信しているからである。


思惑通り、玲奈が素早く接近して、巨大生物の背中にナイフを突き刺した。


巨大生物は葵を手離して、その場に倒れ込む。


「ありがとね」


「…油断しないでください」


「うふふ…」


葵と玲奈は肩を並べて、武器を構えた。


しかし、葵が玲奈の前に手を出して、彼女の進路を遮る。


「私がやるわ。あなたは下がってて」


「…そうはいきませんよ」


「ダーメ。私がやるのよ」


玲奈は彼女の目を見て動こうとしなかったが、しばらくした後溜め息を吐いて、ゆっくりと武器を下ろした。


「…わかりました」


後退るように一同の元へと戻っていく玲奈。


葵は片手で刀を構えて、ゆっくりと巨大生物の元へと歩いていった。


葵の尋常では無い殺気に気付き、思わず怯む巨大生物。


葵はそれを見て、不気味な笑みを浮かべた。


「うふふ…。怯えてるの…?」


巨大生物は突然左手を伸ばして、彼女に掴み掛かろうとする。


葵はそれを避けようとせずに右手を前に出して、わざと自分の右腕を掴ませた。


巨大生物が何かをする隙も与えずに、葵は自分の腕を掴んでいる手を、刀で斬り落とす。


そして、巨大生物の胸元の口に、勢いよく刀を突き刺した。


赤黒い血を大量に吐き出す巨大生物。


どうやら葵の放った一撃は、巨大生物に致命傷を負わせたようであった。


目の前の敵がまだ倒れていないというのに、葵は刀を鞘にしまう。


もっとも、そこで巨大生物が攻撃を仕掛けたとしても、葵に軽く首をはねられていただけ。


決着は既に、付いていた。


「あら、仲間が増えてるじゃないの」


そこで、青柳と彼の仲間の存在に気付く葵。


同じように彼等に気付いた明美は、眉をひそめてこう言った。


「…どうしてあなた達がここに居るのかしら」


「…キング、ご無沙汰してます」


その会話に、驚く一同。


「…顔見知り?」


「葵、あなた知らないの?」


「知らないわよ」


明美は面倒臭そうに、一同に説明した。


「彼等は金次第で、どんな依頼でもこなしてくれる傭兵よ。…ま、依頼を出す事が無いあなた達なら、知らなくて当然かしら」


「傭兵…って事は、誰かに雇われてここに…」


玲奈の言葉を遮る、1発の銃声。


青柳の仲間の男が倒れ、頭から血を流して動かなくなった。


銃声がした方向に、一斉に武器を構える一同。


そこに立っていたのは恭子と、青柳と同じ服装をしている複数の男達だった。


「こんばんは」


例の笑顔を浮かべながら、一同の顔を見る恭子。


青柳以外の全員が、露骨に嫌な表情を浮かべた。


「峰岸恭子…。あなたが雇い主ね…」


銃を構える明美。


それと同時に、恭子と共に現れた男達も、一同に銃を構えた。


「…銃を下ろした方が、身の為ですよ?」


恭子は勝ち誇るようにそう言った後、青柳に視線を移す。


「まさか寝返るとは…。傭兵が雇い主の命令を放棄して、一体どういう了見ですか?」


「…峰岸さん、あんた、間違ってるよ」


「何が?」


恭子の威圧に、青柳はそれ以上喋る事を止めようとしたが、それでも意を決してこう言った。


「…悪いが、俺は降りる。金は要らん。後はそっちで好きにやってくれ」


「…そんな事が許されると、本気で思ってるのですか?」


恭子の声の調子が、一気に暗くなる。


青柳は恐怖に耐えられなくなり、恭子から目を逸らした。


「裏切りはこの世界で一番やってはいけない事。…覚悟はよろしいですね?」


「待てやコラ」


そこで、2人の会話に楓が割り込む。


「てめぇの仲間自分で撃ち殺しといて、何偉そうな事ぬかしとんねん」


「内々の事です。お気になさらず…」


「黙れやボケ。…そろそろ我慢の限界や。目の落とし前、付けさせてもらうで」


楓はそう言うと、目の前に居る大量の敵を無視して、明美に銃を構えた。


全ての敵の照準が、楓に向けられる。


「ふふふ…。この人数に勝てるとでも?」


「勝ち負けやないわ。こっちはあんたのタマ取れりゃ、それで気が済むさかい。じっとしてろや」


「あなただけでは無く、お仲間も全員蜂の巣になりますが…。よろしいのですか?」


「………」


楓は銃を構えたまま、黙り込んだ。


「…ちなみに、投降したらどうなるの?」


そう訊いたのは葵。


すると恭子は、満面の笑みを浮かべながら、こう言った。


「殺しますよ。1人1人…私がね」


葵はそれを聞いて、なぜか笑みを浮かべる。


「へぇ…。私は違うわ。今の内に投降してくれたら、命だけは助けてあげる」


彼女の言葉に、恭子だけでなく、その場に居る敵味方全員が驚いた。


「…あなたが何を言ってるのか、私にはわかりませんね」


「だから…」


葵がそう言い掛けた瞬間、突然通路の窓ガラスが全て割れる。


そして、黒い軍服を着ている大人数の人間がその割れた窓から入ってきて、葵達の前に並び、恭子と後ろに居る敵達に銃を構えた。


「見逃してあげるって言ってるのよ…。わからないのかしら?」


「ッ…!」


想定外の一転攻勢に、狼狽する恭子。


取った行動は、退却だった。


「…近い内に、また会いましょうか!」


恭子はそう言って閃光手榴弾を2つ取り出し、葵達の足元へ投げる。


その瞬間、2つの集団の攻撃が一斉に始まった。


閃光手榴弾が爆発するまでの5秒間、銃声は絶え間なく鳴り続ける。


そして、強烈な光がその場を支配したのと同時に、恭子達は大半が居なくなっていた。


閃光手榴弾の直視を免れた数人が、残っている敵を一瞬で殲滅する。


その場は、大量の薬莢と敵味方の死体で溢れかえった。


「…玲奈、これどういう事?」


呆然としながら、玲奈の顔を見る結衣。


玲奈もまた、困惑しながら答えた。


「…知らないけど、悪い展開では無さそうだよ」


「あなた達、大丈夫?」


窓ガラスから入ってきた人間の中から、明るめの茶髪を頭の後ろで縛っている女性が、一同の前にやってくる。


「あなたは…?」


玲奈が訊くと、彼女は一同の顔を見回しながらこう言った。


「私は速水有紀奈。特殊兵器対策部隊の者よ」


第28話 終




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