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Desperate Girls  作者: 白川脩
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第25話


第25話

"静かなる激昂"


「あ、楓!」


楓の姿を見つけた結衣が、玲奈と明美と共に彼女の元へと駆け寄る。


「…おう。無事やったか」


「なんとかね。あんた…も…」


楓の左目の状態に気付いた結衣は、言葉を失った。


「…心配すんなや。右目は見えとる」


「そういう問題では、無いと思うのだけれど…」


明美はそう言って、近くに落ちていたナイフを見て何があったのかを察する。


「…あいつにやられたのね?」


「…ちっと、油断してもうたわ」


楓はそう言って苦笑を浮かべ、重い足取りで歩き始めた。


それを、玲奈が止める。


「待ってください。…あの人、どこにいるんですか」


「…さぁな」


「…そうですか」


玲奈はそれだけ言うと、楓とは真反対の方向へと歩き出した。


「…どこ行くの?」


「知らない」


「…まさかあんた、復讐するつもりじゃないでしょうね?」


「………」


結衣を無視して、歩き続ける玲奈。


すると、明美が結衣にこう言った。


「あなたは付いていってあげて。私は一旦、彼女と戻るわ」


それを聞いて、驚く結衣。


「止めないの?」


「やられっぱなしで黙ってる必要は無いわ。…私も後で合流する」


「…わかったよ。なるべく急いできてよね?2人じゃキツいと思うし」


「うふふ…。大神姉妹も弱気になる事があるのね」


「うるせーやい」


結衣は玲奈を、明美は楓を追って、その場を離れた。



「…ねぇ亜莉紗」


「…今、"亜莉紗"って呼んだ?」


「…何よ。名前で呼んじゃダメなの?」


「とんでもない」


足の銃創によって身動きが取れない凛と、それを見張る亜莉紗。


「凛ちゃん。足は大丈夫?」


「大丈夫に見える?」


「見えません…」


凛は鼻で笑った後、処置の痕を見ながらこう言った。


「…ま、血は止まったみたいだけどね」


「そっか。良かった…」


胸を撫で下ろす亜莉紗。


凛はそんな彼女を見て、不思議に思っていた。


「…他人の事なのに、どうしてそこまで心配するの?」


「ん…。えーと…」


「この世界で生きてて、あなたみたいな人間は初めて見たわ」


亜莉紗はそれを聞き、首を傾げて凛を見る。


「あなたみたいな…って?」


「お人好しって事」


「うぅ…厳しい…」


「…だから」


凛は再び視線を亜莉紗に戻して、こう続けた。


「少し、興味が湧いてきたの。あなたにね」


「…しっくりこない」


また、さっきのように首を傾げる亜莉紗。


「…何がよ」


「凛ちゃんはクールっ子なんだから!」


「…今の話、全部忘れて」


「冗談冗談!冗談です!」


楓と明美が部屋に戻ってきた所で、2人の会話は終わった。



その頃…


「玲奈!落ち着いてよ!」


「落ち着いてる」


1人でズカズカと歩いていく玲奈。


「どこがよ!殺気立ってんじゃん!」


結衣はひたすら彼女を止めようとするが、立ち止まる気配は全く無かった。


「殺気立ってない」


「いーから止まってってば!」


結衣が肩に掴み掛かり、強引に顔をこちらに向かせる。


「…離してよ」


「2人で行ったって、結果は見えてるじゃん。あんた、無意味な事はしない主義なんでしょ?」


「無意味…?」


玲奈はそう呟き、目を剥いて結衣を睨んだ。


「結衣姉、朝霧さんは左目を潰されたんだよ?仲間にそんな事した奴を、黙って見逃せって言うの?」


「玲奈…」


「…いいよ。私1人で行くから」


玲奈は吐き捨てるようにそう言って、再び歩き出そうとする。


すると、結衣がさっきよりも強い力で玲奈の肩を掴んで再びこちらを向かせ、手のひらを彼女の頬に勢い良く打ちつけた。


「ッ…」


「いい加減にしときな。怒るよ?」


俯いて、黙り込む玲奈。


結衣は話を続ける。


「相手は大人数って事を考えてから、物を言いなさいよ」


「…じゃあどうすれば良いの!?」


そう言って顔を上げた玲奈は、涙目になっていた。


「ほっとけって言うの!?朝霧さんはもう…左目が見えなくなっちゃったんだよ!?」


「…いいから、私の話を聞いて」


「話を聞いてどうなるの!?朝霧さんの目が治るの!?」


「…話を聞いて」


「だから…!」


「聞けって言ってるでしょうがッ!」


怒鳴りつける結衣。


玲奈は、結衣を睨んだまま、今にも泣き出しそうな表情になった。


それでも涙を堪えて、睨み続ける。


しかし、しばらくも経たない内に堪えられなくなり、声を上げて泣き始めてしまった。


そんな玲奈を、結衣は優しく抱き締める。


「…ごめんね。ひっぱたいたり、怒鳴ったりして。でも、私は玲奈に落ち着いてほしいだけなの」


「………」


玲奈の頭を撫でながら、結衣は静かにこう言った。


「…今は行く時じゃない。やるなら徹底的にやるの」


「…え?」


ゆっくりと顔を上げる玲奈。


「今行っても、どうせ返り討ちに遭うだけ。もっと人を連れて行こう」


「…じゃあ」


結衣は玲奈の顔を胸元にうずめて、無邪気な笑みを浮かべた。


「そう。私達を敵に回した事、後悔させてやるんだから!」



一方…


「楓…さん…?」


部屋に入ってきた楓の左目を見て、呆然とする凛。


一緒に居る亜莉紗も、全く同じ反応だった。


「ナイフでやられたらしいの。今すぐ応急処置をお願い」


楓と共に入ってきた明美が、亜莉紗に救急箱を渡しながら説明する。


亜莉紗はもっと詳しい話を聞こうとしたが、応急処置を優先して、口を閉じた。


「…怪我はどう?」


動揺している凛に、明美が話し掛ける。


「だ、大丈夫です…」


凛の声は震えていた。


「そう…。歩けそう?」


「傷口は塞がってないので、動くと悪化すると思いますよ」


楓の目元に包帯を巻ながら、亜莉紗が凛の代わりに答える。


その時、明美の背後から、聞き覚えのある声が聞こえた。


「あら…。何だか大変な事になってるわね…」


「葵…」


驚きを隠しながら、いつの間にか背後に居た葵の名前を呟く明美。


「うふふ…。あなたに名前で呼ばれると、何だか新鮮ね」


「…体は大丈夫なの?」


「気絶してたのは少しの間だけ。あとは寝てたのよ」


葵はそう言って、体を伸ばしながら欠伸をした。


そして、刀を持って部屋の出口に向かう。


「…どこ行くのよ」


「決まってるじゃない。報復よ」


「相手は大人数よ?」


「だから?」


明美はしばらく葵を見つめた後、鼻で笑ってこう言った。


「…あなたには関係無いわよね。行きましょうか」


「あら、あなたも行くの?」


「なめられたままじゃ、腹の虫がおさまらないからね」


「うふふ…。それはそうよね…」


不気味な笑みを浮かべながら、歩き出す2人。


すると、左目に包帯を巻いた楓も立ち上がった。


「ウチも連れてけや。落とし前付けなあかんからな」


「その目で行くつもり?」


明美の質問に、楓は自分の右目を指差しながら答える。


「右目は見えとる言うたやろ。…あのボケ、後悔させたるわ」


「うふふ…。戦力は多い方が良いわ。それじゃ、凛ちゃんと亜莉紗ちゃんはここで待っててね?」


そう言った葵を先頭に、3人は部屋を出て行った。


呆然とする2人。


しばらくした所で、亜莉紗が苦笑を浮かべながら、こう呟いた。


「ヤバい…。あの人達、キレてる…」


「…うん」


凛もまた、苦笑を浮かべていた。


第25話 終




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