第24話
第24話
"見せしめ"
足を撃たれた凛を連れて、玲奈達が居る部屋の扉を開ける亜莉紗。
当然、中に居た玲奈と明美は、凛の傷を見て狼狽した。
「ど、どうしたの!?」
「撃たれたのね…?」
亜莉紗は質問に答えずに、部屋に入って凛の体を床に寝かす。
「話は後!早く止血を!」
「止血って言っても、道具なんて…」
玲奈が辺りを見渡しながらそう言うと、明美が自分の服の袖口を破って亜莉紗に渡し、部屋の出口へと歩いていった。
「とりあえず、それで何とかして頂戴。応急処置の道具を探してくるわ」
それを聞いて、玲奈も彼女に付いていく。
「私も行きます!亜莉紗さん、ちょっと待ってて!」
2人は応急処置に使える道具を探しに、部屋を出た。
「…凛ちゃん!?大丈夫!?」
いつの間にか目を閉じていた凛に、亜莉紗が呼び掛ける。
すると、彼女はうっすらと目を開けながら答えた。
「…うるさいわね。そんなに大声出さなくても聞こえるわよ」
「びっくりさせないでよ…!」
「こんな傷じゃ死にはしないわよ…。血さえ止まれば…」
「あぁ動いちゃダメ!今傷口縛るから!ちょっと我慢してて!」
明美から渡された布切れで、凛の傷口をきつく縛る。
凛は痛みに耐えかねて、小さく声を漏らした。
「いつッ…!も、もうちょっと優しくしなさいよ…!」
「優しくしたら血が止まらないでしょうが!」
「くっ…。あなたに正論言われるとイラっとするわ…」
「どういう意味よ!」
傷口を縛っている間、2人はどことなく気まずそうに沈黙する。
縛り終わった所で、亜莉紗が口を開いた。
「ふぅ…。とりあえず、これで大丈夫かな…?」
「…手慣れてるのね」
処置の痕を見て、凛が呟く。
すると、亜莉紗は子供っぽい笑顔になって、こう言った。
「えへへ…。私、一時期は看護師さんになるのが夢だったんだ」
「…そう」
「…そんな事より!」
突然、亜莉紗が凛に顔を近付ける。
「な…何よ」
「どうして何も言わずにいきなりあんな事したの!?普通に考えて危ないじゃん!」
「て、敵が居ると思ったから…」
「居ると思ったならまず私に言ってよ!本当にびっくりしたんだからね!」
「だ、黙りなさい…。あなたうるさいのよ…」
「なーによその態度!こっちは本気で心配してんだから!」
亜莉紗がそう言うと、凛は急に静かになってしまった。
「そうそう。少しは反省してよね!」
「…あのさ」
「何!」
「…ありがとう」
「…え?」
「あ、ありがとうって言ったのよ…!2回も言わせないで…!」
「う、うん…。どういたしまして…」
「………」
顔が真っ赤になっている凛。
そんな彼女を見ている内に、亜莉紗はこっちまで恥ずかしくなってきて、同じように赤面した。
一方…
「4人…いや5人かな…?」
壁に隠れて、敵の銃弾をやり過ごす結衣。
射撃の合間を縫って、こちらも攻撃を仕掛けようとするが、顔を出して敵の姿を確認するだけで精一杯だった。
「仕方ない…一旦退こう…」
そう呟いて、敵が居る反対の方向へと走り出す。
しかし、その方向にも既に敵が回り込んでいた。
「げっ…!まだ居たの!?」
辺りを見渡して、打開策を探す。
ひとまず、近くにあった部屋に、逃げ込む事にした。
扉を蹴破って中に入り、机に隠れて様子を見る。
その時、彼女の足元で、何かが動いた。
「…うわぁぁぁッ!」
それは、結衣の足を掴もうとしている患者の手だった。
反射的にその手を蹴りつけて、素早く後ろに下がる。
しかしそれと同時に、結衣を追ってきた敵が、部屋の入口から発砲してきた。
横転して別の机に隠れて、敵の発砲が終わるのを待つ。
しかし、発砲は一向に治まらなかった。
「(マズい…。あいつら、交互に撃って再装填の隙を無くしてる…)」
思わず苦笑を浮かべる結衣。
意を決して攻撃を仕掛けようとした瞬間、敵の発砲がピタリと止まった。
結衣は怪しげに思いながらも、ゆっくりと顔を上げてみる。
すると、入口の所に玲奈と明美が立っていた。
「玲奈!明美!」
「結衣姉…何やってんの?」
「多勢に無勢ってね!無理だよあんなの!」
「満面の笑みを浮かべながら愚痴らないでよ…」
「いやー…何はともあれ、助かったよ。ありがとね!」
「う、うん…」
そんなやり取りの一方、明美は凛の治療に使える道具を探して、部屋の中をうろうろする。
すると、奥にある棚の中に、使った様子が全く無い救急箱を見つけた。
「あった…!」
棚の元へと歩いていく明美。
救急箱を手にとって中が身が空では無い事を確認し、2人の元に戻ってきた。
「…あ。そういえば凛の奴、怪我したんだっけ?」
結衣は明美が持ってきた救急箱を見て、凛が負傷した事を思い出す。
玲奈は結衣の言葉を聞いて、溜め息を吐いた。
「そういえばって…。一応、亜莉紗さんが応急処置してくれてるけど、ゆっくりしてる時間は無いからね。早く行こう」
そう言って、部屋の出口へと向かう。
その時、救急箱がおいてあった棚のある方から、呻き声のような物が聞こえた。
動きをピタリと止めて、全神経を耳に集中させる3人。
しばらく動かずに様子を見て、何も起きない事を確認すると、結衣と玲奈はジェスチャーでの会話を始めた。
「(何だろ今の)」
「(…さぁね)」
「(よし。玲奈、行け!)」
「(無理)」
「(だよねー。それじゃ、2人で行ってみよう)」
「(…わかった)」
2人は武器を取り出して、呻き声のような物が聞こえた方へ、ゆっくりと歩き出す。
「(…流石は姉妹ね)」
明美は2人のやり取りを見て感心した後、静かに銃を取り出して、2人を守る準備をした。
「………」
「………」
武器を構えながら、一歩一歩棚に近付いていく2人。
大分距離が縮まった時、さっきの呻き声のような物が、再び聞こえた。
「(間違いない…。何か居る…)」
ナイフを強く握り締める玲奈。
すると、棚の近くにある机の下から、1体の患者がゆっくりと姿を現した。
「あれ…?さっきの奴らと同じ格好だ…」
現れた患者を見て、結衣がそう呟く。
その患者は、ついさっきまで結衣が交戦していた敵と同じ軍服を着ていおり、手にはサブマシンガンが握られていた。
そして次の瞬間、その患者は片手でサブマシンガンを構え、3人に向けて乱射してきた。
「うわッ!」
「ちっ…!」
近くの机に隠れる結衣と玲奈。
しかし、銃声はすぐに鳴り止んだ。
明美が一瞬で、患者の頭を撃ち抜いたからである。
「…助かりました」
「どういたしまして。怪我は無い?」
「はい、お陰様で。…結衣姉は?」
「この通り、大丈夫だよ。にしてもまさか、銃を使ってくるとはねぇ…」
動かなくなった患者を見ながら、溜め息を吐く結衣。
「…既知ですか?」
玲奈の質問に、明美は部屋の出口の付近に転がっている、敵組織の人間の死体を見ながら答えた。
「感染する前の意識が僅かに残っている事はあるわ。つまり、こいつらが患者になったら、さっきみたいに銃を使ってくる可能性があるって事よ。…参ったわね」
苦笑する明美。
結衣と玲奈も、思わず溜め息を吐いた。
一方、恭子と彼女の仲間に囲まれ、絶体絶命の危機に陥った楓。
「(けっ…。あの女、キツい事しよるわ…)」
しかし、彼女を取り囲んでいた人間は、1人も居なくなっていた。
「("見せしめ"…か。まぁ確かに、これなら効果抜群やろうな…)」
楓は壁にもたれかかりながら、左目を手で抑えている。
「(…くそ。こっちはもう、完全に見えんくなってしもうたわ)」
楓は恭子に左目にナイフを突き刺され、視力を半分失ってしまった。
第24話 終




