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Desperate Girls  作者: 白川脩
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第2話


第2話

"異例の人数"


「…ここやな」


和宮病院に辿り着き、建物を見上げる楓。


病院は彼女の想像よりも、一回り大きかった。


ロビーに入って1番最初に目に入った物は、辺り一面に広がる乾いた血痕。


その次が、近くの壁にもたれ掛かっている1人の人間だった。


楓はその人間に近付いて脈を確認し、溜め息を吐く。


「死体…か」


そう呟いた途端、確かに死んでいたハズの死体がゆっくりと顔を上げ、いきなり楓の腕に噛みつこうとしてきた。


しかし患者の口に当たった物は、楓の持つスナイパーライフルの銃口。


「遅いわ、ボケ」


楓は何の躊躇いも無く引き金を引く。


患者の後ろの壁に、鮮血が飛び散った。


「完全に死んどったやないか。なんで動くんや…?」


楓が呟くと、それに答えるように背後から声が聞こえた。


「D細菌の力よ」


楓は素早く振り向いて、銃を構える。


そこには、誰も居なかった。


「…どこ行ったん」


「うふふ…こっちよ」


再び背後から声がして、楓は振り向き様に声の主を殴ろうとしたが、彼女の拳は標的に当たる寸前で止まった。


「葵さん…やないか」


「やっと気付いたのね」


葵と呼ばれた女性はそう言い、小さく微笑む。


彼女の名前は神崎葵。


大神姉妹、楓の同業者であり、依頼成功率100%と言われているベテランである。


また、日本刀を使って戦う、剣術のエキスパートでもあった。


「葵さんも、あの依頼を受けたんか?」


「ファイルの件でしょ?もちろん受けたわ」


「もちろん?」


「金額が高いって所もあったけど、一度この町に来てみたかったのよ」


「…なんでや?」


「うふふ…秘密」


楓はそれ以上、訊くのを止めた。


「ふん…。それで、葵さんの探索場所もここなんか?」


「えぇ。正確には病院の地下だけどね」


「地下?」


「そこの階段から降りれるわ。あなたは上かしら?」


「知らんわ。病院言われただけやからな」


「あらそう。なら、私と一緒に行動しない?」


「構わんで」


地下への階段を降り始める2人。


しばらく無言で歩き続けていたが、階段を降りきった所で、楓が口を開いた。


「葵さん」


「何かしら?」


「…妹さんが居るっちゅう話を聞いたんやけど、ほんまなん?」


「…さぁね」


葵の素っ気ない返事で、2人の会話はすぐに終わった。


「(聞かれたくない事なんか…?)」


「聞かれたくは無いわね」


「…え?」


「うふふ…」


楓は心底驚きながら、葵の背中を見つめる。


「(ウチ、何も言わんかったよな…?)」


「言われなくてもわかるわ。顔に書いてあるもの」


「…からかってるんか?」


「うふふ…とんでもない」


その時、近くにあった部屋から、何かの物音が聞こえた。


「…なんや」


「行きましょうか」


その部屋には"霊安室"と書かれたプレートが掛けてあり、楓はそれを見て目を細める。


「不気味やな…。警戒…」


楓が言い切る前に、葵が扉を蹴破った。


「ほら、行くわよ」


「………」


霊安室の中は電気が消えており、何も見えないような状況だった。


そして、暗闇の中から突然、患者が姿を現す。


「ッ…」


咄嗟に銃で殴りつける楓。


すると、上半身と下半身が真っ二つになり、血を撒き散らしながら倒れていった。


苦笑しながら、ゆっくりと葵を見る楓。


彼女は、日本刀を鞘に仕舞っている所だった。


「まさか、あの一瞬で斬ったんか…?」


「ちょっと反応遅れちゃったわ」


いたずらっぽく笑う葵。


楓は、ただただ呆然としていた。



一方…


「玲奈」


「何?」


「…お腹空かない?」


「………」


合同庁舎へ向かっている最中である大神姉妹の2人。


「あのね結衣姉、寄り道してる暇なんて…」


そこで玲奈の話を遮ったのは、自分の腹の空腹を訴える音だった。


「ッ…!」


「あーらあら、随分と大きな音ね」


「う、うるさい!…ちょっとだけだからね」


「はーい」


2人は近くのコンビニへと入っていった。


患者が居ない事を確認し、武器をしまう。


「さて、何を食べようかな~」


「犯罪…」


「大丈夫、お金置いとくから」


「…はぁ」


玲奈は適当に菓子パンを選ぶと、カウンターに腰掛けて何気なく窓の外を見た。


「…隣、学校なんだ」


「んー?何か言ったー?」


「…何でもない」


俯く玲奈。


彼女は時折、自分が世間の足並みと外れて生きている事を考えてしまう癖があり、そのたびに憂鬱な気分になっていた。


「…玲奈、どうした?」


そんな彼女の様子に気付いた結衣が、顔を覗き込んでくる。


「結衣姉…私達って…」


顔を上げて、結衣を見る玲奈。


そして、彼女の手元にある大量の食べ物を見て、吹き出すように笑い出した。


「ぷっ…どんだけ食べるつもりなの…?」


「へ?」


「ふふふ…何でもないよ」


彼女の憂鬱な気分はいつも、すぐに吹っ飛んでしまう。


その大抵は、結衣のお陰であった。


腹ごしらえを終えた2人はコンビニを出て、再び合同庁舎へと向かう。


「コンビニのおにぎりって、何であんなに美味しいのかしらね」


「知らないよ」


隣にある建物、和宮高校の前を通り過ぎる時、玲奈が校庭の惨状を見て呟く。


「…酷い」


「死屍累々…って感じだね」


大量の死体、新しい血痕、古い血痕。


そして何よりも、離れていても伝わってくる血の臭いが、2人の気分を悪くさせた。


「…結衣姉、早く行こ」


「オッケー…」


急いで離れようとしたその時、校庭の方から何かが爆発する音が鳴り響いた。


「爆発!?」


驚き戸惑う結衣。


玲奈は何も言わずに、役目を果たしていない壊れた校門を抜けて、校庭の中へ入っていった。


「…誰?」


そこに居たのは、長い金髪の少女。


結衣は、彼女を知っていた。


「亜莉紗!?」


上条亜莉紗。


2人の同業者であり、トラップのエキスパートと言われている少女である。


「結衣!手伝って!」


「…何を?」


結衣がそう言った瞬間、校庭に転がっている大量の死体が、一斉に動き出した。


「うわ…めんどくさ…」


「助けなきゃ…!」


2人は患者を掃討しながら、亜莉紗の元へ駆けつける。


「亜莉紗、トラップは?」


「この辺は大丈夫。主にあの辺りかな」


「ちょっと待って。トラップって…」


玲奈が言い切る前に、亜莉紗の仕掛けたトラップの1つが近くで作動する。


それは地雷のような物であり、踏みつけた患者は一瞬で炎に包まれた。


「な…何あれ…」


「私のトラップ。どう?いいセンスでしょ?」


「………」


玲奈は初対面の彼女を、変人だと判断した。


「ちなみにトラップは他にもあるから、踏まないように気をつけてね」


「そ、そんな無責任な…」


そこで、もう1つのトラップが作動する。


今度は誰かが踏むと、真上に大量の銃弾を発射するという物だった。


「………」


「ま、この辺には無いから安心してね」


「う、うん…」


校庭に転がっていた大量の死体の大半が立ち上がった事に加え、亜莉紗のトラップの爆発音を聞いて集まってきた患者も居るので、数はかなりの物だった。


しかし、3人は少しも怯む様子を見せない。


むしろ、優勢であった。


2丁拳銃という点を活かして、四方八方を相手にする結衣。


玲奈は側転やバク転などを用いて敵の背後に回り、1体1体正確に仕留めていく。


トラップの使い手である亜莉紗は、至る所に様々なトラップを仕掛け、次々と患者を減らしていった。


しかし、あと数体という所まで来た時、不測の事態が発生する。


「結衣姉!後ろ!」


結衣が玲奈の声に反応して振り返ると、暴走状態の患者が攻撃の準備をしていた。


「おっと!」


その攻撃を軽々避け、素早く大型リボルバーを取り出して、患者の頭を撃ち抜く。


至近距離で高火力の銃弾を喰らった患者は、勢いよく吹っ飛んでいった。


「ふぃ~…サンキュー、玲奈」


「全く…油断しないでよね」


「ほいほい」


患者は1人残らず動かなくなった。


作動しなかったトラップの回収を終えた亜莉紗が、2人の元へやってくる。


「ねぇねぇ。2人も依頼なの?」


「あんたも?」


結衣が訊き返すと、亜莉紗は足元に転がっている患者の死体を見ながら答えた。


「ファイルを取ってくるだけって聞いたんだけどね…こんなの聞いてないよ」


それを聞いた玲奈が、低く唸るように呟く。


「うーん…いくらなんでもおかしい…」


「何が?」


首を傾げる結衣。


すると、玲奈はナイフをしまいながらこう言った。


「同じ依頼を同時に頼まれるのは、いつも2人まででしょ?今回の人数、ちょっと多すぎるよね…。何か、嫌な予感がする…」


第2話 終




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