第18話
第18話
"患者と兵器"
「…投降させてもらうわ」
笑みを浮かべたままそう言って、銃を地面に置く明美。
「流石に大神姉妹と神崎葵が相手じゃ、戦う前から戦意喪失するわよ」
「(あ、また私の事忘れてる…)」
しかし、葵は刀をしまおうとしなかった。
「勝てそうなら戦って、負けそうなら逃げる…そんな事が通じると思ってるの?」
「…何がお望み?」
「質問に答えてほしいだけよ。…D細菌、あなたの兵器ね?」
驚く明美。
「…どうしてD細菌の名前を?」
「あなたの部下だった人間の中に、身内が居てね。…まぁ、今は何処にいるのかさえ知らないけど」
「身内ですって?」
「妹よ」
明美は葵の言葉を聞いて、1人の女性を思い出した。
「…そう。彼女があなたの妹だったとはね」
「うふふ…さぞかし大きな戦力になっていたでしょうね。死んだ両親から教わった武術は伊達じゃないハズよ」
「えぇ。…でもまさか、裏切られるとは思ってなかったわ」
「あら、あの子裏切ったの?」
「知らなかったの?」
「最後に会ったのは、大分前の事だからね…」
「そう…」
そこで会話が終わり、再び静寂が訪れる。
その静寂を破ったのは、葵が刀を鞘にしまう音だった。
「まぁいいわ。斬り捨てるのはいつでもできる事だし、話す事話してくれたら命だけは助けてあげる」
「…気に入らない言い方ね」
「あら、両腕切断されるのがお望みかしら?」
「…前言撤回させてもらうわ」
「それが正しいわ」
「…と言っても」
腕を組み直しながら、明美が訊く。
「話す事は話したハズなのだけれど。D細菌は私が製作した兵器、以上よ」
「もう1つ、教えてもらいたいのよ」
「…何かしら?」
「…妹の行方、知ってたら教えてほしいの」
明美はそれを聞くと、静かに笑いながらこう言った。
「ふふ…神崎葵にも、人情はあったのね」
「言葉に気をつけなさい」
刀に手を付ける葵。
明美はそれでも、笑いを止めようとしなかった。
「怖い怖い…。残念だけれど、私は知らないわ」
「…最初からそう言いなさいよ」
葵はそう言って溜め息を吐いた後、階段の元へと歩いていった。
「それならもう用は無いわ。ファイルを見つけた際には、特別報酬貰うからね?行くわよ、みんな」
葵と明美の会話をただただ呆然と聞いているだけだった玲奈、結衣、亜莉紗の3人が、駆け足で葵の元へ行く。
明美も床に置いた銃を拾って歩き出し、葵達とは反対の1階への階段に向かう。
葵の横を通り過ぎる時、彼女は小声で呟くようにこう言った。
「…この町には、"もう"居ないわ」
「…"もう"?」
「ふふ…また会いましょう」
立ち止まった葵を無視して、明美はジャックと共に1階へと降りていく。
その後ろ姿を見ながら、玲奈が葵に訊いた。
「…良いんですか?まだ何か知っているようでしたけど」
「…大丈夫よ。彼女とはまた会えるハズだから」
階段を登り始める葵。
玲奈には、葵の言った"彼女"という言葉が、今分かれた明美を指しているのか、それとも行方不明の妹を指しているのかがわからなかった。
その後、ひとまず楓と凛の2人と合流する為に、3階へと到着した一同。
通路を塞いでいる瓦礫を見て、全員が驚愕した。
「うわ、また派手にやったなあいつ…」
「宮城さん…だよね?これやったの…」
「見かけによらず、破天荒な事するんだね…」
「案外、楓ちゃんに言われてやったのかもよ…?」
すると、瓦礫の近くにある部屋から、丁度噂をしていた2人が現れる。
一同に気付くなり、2人はゆっくりと歩いてやってきた。
「おや、勢揃いやな」
「もしかして、もう終わったんですか?探索」
先頭に居た葵に、凛が訊く。
「えぇ。隈無く探したけれど、何も無かったわ」
「(隈無く探したっけ…?)」
「玲奈ちゃーん?」
「何も言ってないです」
「…って事はつまり、全員何も見つけてないって事だね」
楓と凛の手元を見て、結衣が溜め息を吐いた。
それを聞いて、楓が何かを思い出したように、くしゃくしゃに丸めた書類を取り出す。
「ファイルやないが、収穫はあったで」
「…え、ゴミじゃんそれ」
「ちゃうわアホ。なんちゃら細菌っちゅう兵器の書類や」
「めちゃくちゃ重要じゃん!何で丸めたの!?」
「うっさいな。一々折る程几帳面やないわ」
「折れよ!」
その書類を見て一番反応したのは、やはり葵だった。
「良いかしら?」
「ん、ほれ」
受け取って、文面を読み上げる葵。
注目したのは、書類の一番下に載っている、1枚の写真だった。
少し前に戦った巨大生物が写っているその写真を見て、葵が呟く。
「…生体兵器」
「生体兵器?」
首を傾げる結衣。
葵の代わりに、凛が説明した。
「簡単に言うと、生き物をベースに製作した兵器…って所」
「なるほど」
「…それで、何が生体兵器なんですか?」
そう訊いたのは亜莉紗。
葵は、書類の写真を見せながら、話し始めた。
「この怪物、どうやら感染してこの姿になったんじゃなくて、元から作られてできた兵器らしいの。…こいつだけじゃないわ。目が見えてない患者も同じみたいよ」
「…盲目の奴やな」
病院での戦闘と、警察署での戦闘を思い出す楓。
「えぇ。写真はこの2体の物しか無いけど、他にも居るらしいわ」
すると、察しの早い玲奈が話を纏めるようにこう言った。
「彷徨いてるゾンビみたいな奴らは人間がD細菌に感染した姿で、それ以外の奴らは作られた兵器って事ですね」
「そうなるわね」
書類を楓に返して、一同の顔を見渡す葵。
「さて、ファイル探しを再開しましょう。早く帰って一杯やるわよ」
「…私、未成年です」
苦笑する玲奈に、葵は優しく微笑んだ。
「うふふ…。真面目ね、玲奈ちゃんは」
「真面目とかそういう話じゃ…」
「葵さん、チームはそのままで捜索しますか?」
結衣が葵に訊く。
「…そのままで良いんじゃない?変える意味も無いし」
凛が、結衣にそう言った。
しかし、葵は凛の意見を無視して、右手を前に差し出しながらこう言う。
「いえ、変えましょう。グー、チョキ、パーで分かれるわよ」
「…どうして変えるんですか?」
「気分」
「………」
凛は大きな溜め息を吐いた。
結局、葵の決めた方法で再編成する6人。
「ちぇ…玲奈と一緒か…」
「…何その反応」
結衣と玲奈。
「…よろしくお願いします」
「うふふ…こちらこそ」
凛と葵。
「…はぁ」
「ちょっと!何ですか今の溜め息!」
楓と亜莉紗の3組に決まった。
「捜索する階はどうします?」
玲奈が葵に訊く。
「そうね…。じゃあ、私達は6階、大神姉妹は5階、亜莉紗ちゃんと楓ちゃんは4階をお願い」
「わかりました」
「了解です!」
6人は階段を登り始めた。
4階に到着し、楓と亜莉紗が分かれる。
「ウチらはこの階やな。ほな」
「何か見つけたら、葵さんの所に行きますね」
「わかったわ。気をつけてね」
葵は2人に軽く手を振り、他の3人と共に5階へと向かった。
次に、結衣と玲奈が分かれる。
「5階だね。それじゃ、また後で」
「お気をつけて」
「あなたもね」
凛と玲奈は顔を見合わせて、お互いに微笑んだ。
そして、6階に到着した葵と凛。
「行きましょうか」
「はい」
再び、捜索は開始された。
第18話 終




