第14話
第14話
"閉じ込めた犯人"
「ねぇ結衣。どこから調べるの?」
1階の捜索を任された、結衣と亜莉紗。
「資料室みたいな部屋が"当たり"じゃないかな。…とりあえず、歩き回ろう」
2人はロビーを出て、通路へと足を踏み入れた。
暗さの事もあるが、どことなく不気味な雰囲気を醸し出している通路。
警戒している2人は、気が付けば無言になっていた。
「…結衣」
静寂を破る亜莉紗。
「…くだらない事だったら、ひっぱたくよ」
「…今何時?」
結衣は渾身の一撃を、亜莉紗の頭にお見舞いした。
「痛ッ!別にくだらなくないじゃん!」
「あんた周り見えてんの!?いつ敵が襲ってくるかわからないんだよ!?ちなみに11時!」
「あ、答えてくれるんだ」
緊張感の無い2人。
しかし、近くにあった扉が突然、軋みながらゆっくりと開いた瞬間、2人は打って変わって静かになった。
素早く銃を構え、部屋の中を凝視する。
しばらく様子を見た後、亜莉紗が結衣の肩を叩いて、小声でこう囁いた。
「お先にどうぞ」
「やだね。あんたが先に行きなよ」
「よし、じゃんけんで決めよう。最初は…」
「パー」
「………」
「さぁ行こうか」
亜莉紗は理不尽に思いながらも、先頭に立って部屋の中へ入っていった。
部屋の中は現状の唯一の明かりである月明かりが全く入ってきておらず、言葉の通り"真っ暗"であった。
その暗さに、亜莉紗は思わず立ち止まる。
「…ねぇ、やっぱ止めない?」
「ファイルがあるかもしれないよ?」
「いや、でも…」
「うるさい。黙って歩け」
「鬼だ…」
亜莉紗はマッチを取り出して着火させ、無いよりはマシという程度の明かりだけを頼りに、再び歩き出した。
「…休憩室だね」
机の上に置いてあるコーヒーポットや菓子類を見て、亜莉紗がそう呟く。
一方結衣は、別の物を見つめていた。
「…亜莉紗、マッチ1本ちょうだい」
「ん、はい」
「サンキュー」
結衣がマッチに点火して、見つめていた"何か"を照らす。
それは、人の生首だった。
「ひっ…!」
生首と目があってしまった亜莉紗は、込み上げてくる悲鳴を必死に抑えようと、口元を手で覆う。
「………」
死体には慣れている結衣であったが、暗闇の中の生首には流石に恐怖を覚えたらしく、思わず苦笑を浮かべた。
「…少しは期待してたんだけど、この建物も結局患者の巣窟みたいだね」
「早く出よ…?」
生首がある方向に背を向け、部屋の入口へと戻っていく2人。
2人が部屋から出ようとしたその時、開いていた扉が何者かによって勢い良く閉められ、2人は暗闇の中に閉じ込められてしまった。
「なっ…!」
結衣はすぐに扉の元へ駆けつけ、ドアノブを捻って開けようとする。
しかし、向こうから強い力で押さえつけられているらしく、何度体当たりしてもビクともしなかった。
「結衣…!」
背後から何かの気配を感じた亜莉紗が、結衣の名前を呼ぶ。
2人は扉に背中を付けるように立って、目の前の暗闇に銃を構えた。
静まり返る部屋の中。
すると、微かではあるが、前方から何かがゆっくりと歩いてくる足音が聞こえた。
「………」
亜莉紗は音を立てないようにマッチを取り出し、素早く着火して前方を照らす。
マッチの弱い明かりに照らし出されたのは、2体の患者だった。
「ッ…!」
突然の遭遇に、思わず反応が遅れる亜莉紗。
しかしその時には既に、結衣が2体の患者の頭に風穴を開けていた。
「…ふぅ」
銃を下ろす結衣。
亜莉紗は安堵の溜め息を吐いた後、彼女を見て言った。
「…助かったよ」
「貸しにしとくわ」
「はいはい…」
亜莉紗が振り返り、扉に手をかける。
そこで、扉が開かないという事を思い出した。
「ん…やっぱり開かないか…」
「あんた、ピッキングとかできないの?」
「いや、鍵の問題じゃないハズ。何かがつっかえてるみたい…」
亜莉紗はドアノブを何回か回して鍵がかかってない事を教えた後、2、3回扉にぶつかって強引に開けようとする。
「…ダメか」
扉は開かない。
すると、結衣が銃をしまって、亜莉紗の肩に手を置きながらこう言った。
「ちょっとどいて」
「どうするの?」
「いーからいーから」
「うん」
亜莉紗は扉から離れ、結衣の後ろに立つ。
何をするのかと思いながら見ていると、突然、結衣は扉に向かって跳び蹴りをした。
「うわぁッ!」
大きな音に喫驚する亜莉紗。
しかし、音の割には扉にこれといった変化は無かった。
「ちっ…」
結衣は舌打ちをした後、後ろに下がって再び構える。
「ちょ…ちょっと!ストップ!」
亜莉紗が止めようとしたが、無駄だった。
さっきと同じ音が、再び部屋の中に鳴り響く。
どうやら結衣は何かのスイッチが入ってしまったらしく、扉を壊さないと気が済まなくなっていた。
「どりゃぁぁッ!」
その様子を、呆れ気味で傍観する亜莉紗。
「…あぁ、こりゃもう聞いてないな」
結衣の暴走は今に始まった事では無く、今まで何回もあった事だった。
最初は心配していた亜莉紗も、今となっては呆れているだけである。
「最後の一発!」
結衣は、そう言って渾身の一撃を扉に与えた。
それでも壊れない扉。
「………」
さっき言った事を忘れ、もう一度扉を蹴りつける。
すると、ビクともしなかった扉が勢い良く吹っ飛び、部屋の中がうっすらと明るくなった。
「よし!」
「(最後の一発…?)」
外に出る2人。
そこで、扉が開かなくなった原因を目にした。
「…死んでるね」
吹っ飛んだ扉の近くに転がっている、3体の患者。
どうやら、この死体が扉の前にあって、開かなかったようであった。
「…おかしい」
その死体を見て、呟く結衣。
亜莉紗がその言葉の意味を訊く前に、彼女は自分から説明を始めた。
「何がおかしいって、患者が扉の前で死んでる事が、だよ」
「そんなに変な事?」
「私達が入った時には無かったし、それに、死体は扉を閉められないよ」
扉が突然勢い良く閉じた時の事を思い出す亜莉紗。
「…確かに。それじゃあ、誰かが私達を閉じ込めたって事?」
「多分ね」
「そんなバカな」
「それ以外考えられないけど」
「うーん…一体誰が…」
そう呟いた亜莉紗であったが、結衣には心当たりがあるようだった。
「…結衣?」
「警察署であんたが見つけた患者の死体、覚えてる?」
「えーと…頭を撃ち抜かれてたヤツ?」
「そう。私は、その患者を撃ち抜いた人間が、"ホシ"だと思うな」
首を傾げる亜莉紗。
「…どうして?」
「この町に居る人間は今の所、依頼を受けた私達6人と、患者を射殺した連中だけ」
「ちょっと待って、"連中"って…?」
亜莉紗は薬莢が側に落ちていない方の死体を見ていないので、自分達6人の他には1人しか居ないと考えていた。
「あんた達とわかれてここに向かってる途中で、患者の死体を見つけたんだ。それで、その死体の側には薬莢が無かったの」
「ふーん。つまりもう1人、違う人間が居るって事なんだ」
「その可能性は高いね」
「…それで」
話を戻す亜莉紗。
「どうしてその人が犯人だと思ったの?」
「物証があるからね」
「物証…?」
結衣は足元の死体の側にしゃがみ込み、落ちていたある物を手に取り、亜莉紗に見せた。
「それって…」
「そう。これが物証だよ」
それは、警察署で見た薬莢と、全く同じ物だった。
納得する亜莉紗。
「なるほど、確かに物証だね…」
「…何か引っ掛かってるでしょ?」
結衣の言葉通り、亜莉紗はまだ完全には納得していなかった。
「私達を襲ってどうするんだろ、って思ってさ。同業者じゃないハズだし、報酬の独り占めが目的ではないよね」
「…その辺は本人に訊いてみないとわからないかな」
そう言って、銃を取り出す結衣。
「え…」
亜莉紗が訊く間もなく、結衣は通路の奥に向かって銃を発砲した。
そして、銃を構えたまま、こう言った。
「出てきてくれない?居るのはわかってるからさ」
第14話 終




