第12話
第12話
"相違点"
「…さて、誰が先陣を切る?」
「楓でしょ」
「なんでやねん…。ちょこまか動くお前か、接近戦の葵さんやろ」
一方、玲奈達を先に合同庁舎へ向かわせて、巨大生物との戦闘を選んだ3人。
目の前に敵が居るにも関わらず、誰が最初に突っ込むか、という議論で揉めていた。
「…それに、わざわざ突っ込む必要なんか無いんとちゃうか?距離取って戦えばええだけやろ」
楓の意見を、葵が否定する。
「わかってないわね、楓ちゃん。突っ込む事に意味があるのよ」
「いや特に無いやろ…」
すると、結衣が右手を前に出し、拳を作って2人に見せた。
「"これ"で決めましょうか」
「じゃんけんね?上等じゃないの」
「…もうどうでもええわ」
「行くよー。最初は…」
3人がじゃんけんを始めようとした瞬間、今までじっとしていた巨大生物が突然、こちらに向かって走って来た。
素早く銃を構える楓。
しかし、結衣と葵はじゃんけんを止めない。
「おい…何しとんねん…」
じゃんけんの結果は、葵がパーで結衣もパーのあいこであった。
じゃんけんが終わったのと同時に、巨大生物の爪が結衣と葵の頭上に振りかざされる。
しかし、巨大生物の爪が2人に当たる事は無かった。
素早く刀を抜刀して、巨大生物の腕を斬り落とす葵。
そして、突然の攻撃に面食らっている巨大生物の顔面に、結衣がリボルバーを撃ち込んだ。
リボルバーの威力に耐えきれず、大きく仰け反る巨大生物。
葵がその絶好のチャンスを逃すはずもなく、いつものように真っ二つにしようと刀を構える。
しかし、葵が刀を振った瞬間、巨大生物は体勢を立て直し、葵の一振りを間一髪で避けた。
「あら、やるわね」
不気味な笑みを浮かべながら、巨大生物に向かって歩いていく葵。
もはや、武器である右手が無くなった巨大生物に、葵と戦う術は残されていなかった。
それでも、残っている左手で葵に掴み掛かろうとする。
しかし、左手も右手と同じように一瞬で斬り落とされ、その攻撃も無駄に終わった。
「うふふ…焦っちゃダメ。戦闘中は常に冷静を保ちなさい」
通じない事をわかっていながら、葵はそう語り掛ける。
すると、目の前の圧倒的な戦力に、巨大生物は思わずその場から逃げ出した。
しかしこの3人の前で、そう都合良く逃げる事などできない。
逃げ出した巨大生物の足を、楓が素早く撃ち抜いた。
転倒する巨大生物。
そこに、葵が近付いていく。
そして刀を構え、再び語り掛けた。
「来世では、敵に背中を見せちゃダメよ…?」
振り下ろされる刀。
巨大生物は両腕だけで無く、首から上も失った。
「………」
「流石は葵さん…えげつないっすね…」
苦笑する2人の元に、葵が戻ってくる。
「うふふ…。ちょっと楽しくなっちゃってね」
「(怖ッ)」
「(この人、ほんまに危ないやないか…)」
「さ、みんなが待ってるハズよ。急ぎましょう」
3人は巨大生物の亡骸を横切り、玲奈達が進んでいった道を歩いていった。
道中に転がる死体を見て、楓が呟く。
「死体辿ってけば、庁舎に着く前に合流できそうやな」
「多分無理だよ」
「何でや?」
「あいつ、歩くの早いからね」
「…ほんなら、ウチらも早く歩けばええやんか」
「やだね、疲れる」
「………」
すると、死体を見た葵が、ある事に気付いた。
「…ちょっと待って」
「なんや?」
「………」
「…どないした」
楓の呼び掛けに反応せず、しゃがみ込んでただただ死体を見つめる葵。
また、結衣も気になる事を発見したらしく、死体に歩み寄っていった。
「…結衣ちゃん、気付いた?」
「はい。この銃創…」
死体の頭を指差す結衣。
眉間に1つ、綺麗な風穴が開いていた。
「…それがなんやねん。上条か宮城のもんやろ?」
「いえ、2人の物じゃあないわ」
「…なんやと?」
葵は立ち上がって、説明を始めた。
「根拠は2つ。弾痕の大きさと、2人の撃ち方よ」
「撃ち方?」
「えぇ。凛ちゃんは標的に何発か撃ち込んで弱らせてから、決定打の一撃を入れて仕留めるの。でも、この死体には銃創が1つしかないでしょ?」
結衣が、葵から説明を引き継ぐ。
「亜莉紗は素人らしく、とにかく標的に命中させようと撃ちまくる奴。こんなに綺麗に頭を撃ち抜ける腕は持っちゃ居ないはずだよ」
「…なるほど」
楓は一度頷いた後、2人にこう訊いた。
「じゃあ、誰がやったん?」
「…それなんだけど、以前、似たような死体を見なかったかしら?」
葵が訊き返す。
「…病院の地下で見た奴か」
楓はすぐに、そう答えた。
「ご名答。あの死体も、傷はこめかみの銃創しか無かった」
「それなら、私も見たよ」
そう言った結衣に、2人が視線を移す。
「警察署でね。それに、1つじゃなかった」
結衣は死体の辺りを見渡しながら、話し始めた。
「私が見た死体の側には、必ず薬莢が…あった…ハズ…だけど…」
死体の周りに薬莢が見当たらず、困惑する結衣。
「…ウチらは薬莢なんて、見てへんけどな」
「いや本当にあったんだってば~」
鼻で笑う楓に、結衣は大げさに頬を膨らませて見せた。
「…でも、結衣ちゃんの言ってる事が本当なら、私達が見た死体と、結衣ちゃんが見た死体は、それぞれ別の人物がやったって事になるわね」
「するとなんや、ウチらが見た方は自分の薬莢を始末する頭のキレた野郎で、大神が見た方は薬莢残すアホ…っちゅうことか?」
「そうなるんじゃないかしら」
「あと、落ちてた薬莢、温かかったっけ」
結衣が何気なく呟いたその言葉。
それを聞いた葵が、反応を見せた。
「…確かなの?」
「え?いや、玲奈がそう言ってたような…」
「…そう。まだ居るのね、この町に」
葵はそう呟いて、ニヤリと笑った。
「…それで、結局誰なんや。葵さん、心当たりがあるように見えるで」
話を戻す楓。
しかし、葵はクスクスと笑うだけで答えようとせずに、そのまま歩き出した。
「ちょ…葵さん!」
「…無駄や。ああいう風に笑うようになったら、それ以上は何も教えてくれへんからな」
「何それ」
「ウチに訊くなや。ほら、さっさと行くで」
「あ、待ってよ!」
2人も、葵の後を追った。
一方…
「ここね」
「意外と早かったね」
先に合同庁舎へと向かった玲奈達は、早くも到着していた。
1人を除いて。
「…上条は?」
「知らない」
「………」
しばらく待っていると、くたくたになりながらも走ってくる亜莉紗の姿が見えた。
2人の元に着くなり、両手を膝に当て、肩で息をする。
「酷いよ…置いてくなんて…」
亜莉紗は相当疲れているらしく、呂律が上手く回っていなかった。
それでも、一貫して冷たい態度を取る2人。
「…置いてったつもりは無い。あなたが遅いだけよ」
「そう。自覚持って行動してね」
「…気をつけます」
亜莉紗は理不尽に思いながらも、頭を下げた。
その後、3人は並んで合同庁舎を見上げてみる。
「…高いね」
口に出したのは玲奈だけであったが、他の2人も同じ心情だった。
「…葵さん達、遅いわね」
振り返って来た道を見ながら、凛が呟く。
それを聞いた亜莉紗が、2人に聞こえないようにこう言った。
「2人が早すぎるんだよ…」
「…何か言った?」
「いえ何も」
その隣で、玲奈が携帯を取り出す。
発信相手は、結衣だった。
「…結衣姉?今どこ?」
第12話 終




