第11話
第11話
"突破"
「…話すったって」
流石に露骨に無視したのは悪いと思った凛が、亜莉紗を見る。
「何を話すの?」
「うーん…そう言われると思い付かないかも…」
すると、ずっと黙っていた玲奈が口を開いた。
「…宮城さんってさ、銃以外の武器を使う事、ある?」
訊かれた凛は、少し考えた後、答えを出す。
「…無いかな。銃以外は、1回も使った事無いかも」
「え、地雷とか使った事無いの?」
「無い」
「(何か冷たい…)」
今度は、凛の方から玲奈に質問する。
「玲奈ちゃんはどうなの?」
「何でも使うよ。状況次第で銃だって使う」
「地雷は?」
「ねぇよ」
「(ねぇよッ!?)」
落ち込む亜莉紗を余所に、会話を続ける2人。
「…ナイフって、危険じゃないの?」
「何が?」
「攻撃の度に、敵に接近するんでしょ?それに、銃が相手だと手も足も出ないんじゃ…」
玲奈はナイフを取り出して、それを手の上で器用に回しながら答えた。
「確かに、遠距離じゃ苦戦はするね。でも、近距離だったらどんな銃にも勝つ自信があるよ」
「中距離は?」
「投げる」
「…ナイフを?」
「他に何があるの?」
「………」
そこで一旦会話は途切れたが、亜莉紗が再び話を始める。
「じゃあさ、体術とかは?」
「体術?」
玲奈が訊き返すと、亜莉紗は右手でパンチをする仕草をしながら言った。
「素手での戦闘…っていうのかな。この前結衣と仕事した時、あいつの体術が結構凄かったから、玲奈ちゃんもできるのかなって思って」
「結衣姉みたくはできないけど、一応戦えるよ。…でも、やっぱり状況によるかな。体術を使う間合いなら、これ使った方が良いし」
玲奈はそう言って、回していたナイフを宙に投げる。
回転しながら落ちてきたそれをキャッチすると、隣に居る凛に視線を移した。
「宮城さんは?」
「体術って程でも無いけど、敵に接近されたら蹴りぐらいは使うかな」
それを聞いた亜莉紗が、期待の眼差しで凛を見る。
「蹴りって言うと…ジャンプして回し蹴りとか!?」
「フロントキック」
「…だよね、うん」
「…あなたはどうなのよ」
訊かれた亜莉紗は、頬を指で軽く掻きながら、照れ臭そうに答えた。
「私?私は…まぁ、人並みぐらいなら…」
「得意技は?」
「シャイニングウィザード!」
「(ただのプロレス好きか…)」
凛は、鼻で笑った。
それからしばらく歩いた所で、周りの景色が変わった事に気付く3人。
「…住宅街ね」
凛が呟く。
すると、玲奈がある物を見つけて、ナイフを構えながら2人に言った。
「…ここからは気を抜かないで行こう」
ある物とは、徘徊している患者だった。
銃を構えながら、辺りの患者の数を確認する亜莉紗。
「うわ…散らばってるけど、結構居るね…」
「私と上条で数を減らしながら進みましょう。玲奈ちゃん、接近されたら頼むわ」
「任せて」
3人は、患者が徘徊している住宅街を進む事にした。
進み始めるのと同時に、凛と亜莉紗の2人は射撃を始める。
とは言え、患者を仕留めているのは凛だけ。
見かねた玲奈が、亜莉紗を冷たい目で見た。
「…真面目にやってよ」
「やってるよー!」
その時、背後に2体の患者が回り込んだ事に、玲奈が気付く。
続いて凛も気付き、そっちに銃を構えたが、玲奈がそれを阻止した。
「接近戦は任せて」
「…了解」
再び前方への攻撃に戻る凛。
玲奈はそれを確認すると、ゆっくりナイフを構え、回り込んできた患者を睨んだ。
始めに患者に飛びかかり、ナイフを2本同時に勢いよく斬り下ろす。
そのままナイフを斬り上げて攻撃し、とどめに首を2本のナイフで挟み込むように斬りつけた。
間髪を入れずに、もう1体の患者にも斬りかかる。
そして、まるで舞い踊るかのように、連続で斬り続けた。
動かなくなった患者を蹴り飛ばし、辺りを見渡す。
玲奈が戦闘を終えた事に、亜莉紗が気付いた。
「お疲れ様です」
「…そっちはどう?」
「倒しても倒しても…かな」
「ふーん…」
玲奈は相槌を打って、前方の様子を見る。
丁度、凛が1体の患者を仕留めた所であったが、亜莉紗の言った通り、入れ替わるように新しい患者が現れた。
「ほらね?」
「なるほど…」
「…ちょっと、何サボってんのよ」
戦わずに銃を下ろしている亜莉紗に、凛が気付く。
亜莉紗が何か言おうとしたが、それよりも早く、玲奈が彼女の武器を奪い取ってこう言った。
「私がやる。弾、ちょうだい」
「え、玲奈ちゃんが?」
「いいから早くして」
言われた通り弾薬を渡す亜莉紗。
玲奈はそれを受け取ってポケットにしまうと、凛の隣に並んで患者を撃ち始めた。
銃をあまり使わないと思っていた2人は、玲奈の予想以上の腕前に驚く。
彼女の射撃能力は、亜莉紗はおろか、射撃専門の凛と並ぶ程の物だった。
「宮城さん、私は左側を担当するから、右側をお願い」
「りょ…了解」
魅入っていた凛が我に返り、指示された方向に銃を構える。
後ろで呆然としている亜莉紗は、どうすればいいのかわからない、と言った様子だった。
「(私、見事に役に立ってないね!)」
「…亜莉紗さん、ナイフ貸そうか?」
「ナイフはいいや」
「…あっそ」
「…そうだ!」
亜莉紗は何かを思い付いたらしく、ポーチの中から何かを取り出す。
それは、爆発するタイプの地雷だった。
「地雷?どうするの?」
凛が銃の再装填をしながら訊くと、亜莉紗は何も言わずにその地雷を患者が3体固まっている場所に投げる。
そして、投げた地雷を指差し、こう言った。
「あれ、撃ってみて!」
凛は言われたままにその地雷に狙いを付け、引き金を引く。
発射された弾丸が地雷に命中すると、その地雷は辺りの患者を巻き込みながら爆発した。
それを見て、感心する玲奈。
「なるほど…。地雷はまだある?」
「任せなさい!」
得意気になった亜莉紗は地雷を4つ取り出し、玲奈に見せる。
「どこに投げればいいかな?」
「…あそこにお願い。患者が5体集まってる所」
「了解!」
亜莉紗が指示された場所に地雷を投げ、玲奈がそれを撃ち抜いて起爆する。
5体の患者はそれぞれ違う方向に吹っ飛び、動かなくなった。
「上条!こっちもお願い!」
「はいはい!」
凛も地雷の爆発を利用して、患者を減らしていく。
地雷を撃って起爆させ、患者を巻き込んで一掃する作戦は見事に功を奏し、患者の減り方が一気に早くなった。
そして10分程立った頃には、動いている患者は1体すら居なくなっていた。
銃を下ろす凛。
「…これで全部かな?」
「多分ね。…はい」
玲奈は余った弾薬と共に、銃を亜莉紗に返した。
受け取った亜莉紗が、複雑な表情で玲奈を見る。
「私が持ってるよりも、玲奈ちゃんが持ってた方が良かったりするんじゃない?」
すると玲奈は、いたずらっぽい笑みを浮かべながら、こう言った。
「5と0よりも、3と2の方が良いじゃない」
「…どういう意味?」
「深い意味は無いよ」
玲奈の言葉の意味を理解した凛が、小さく笑う。
「0ね…」
「そう、0」
「ねぇ、どういう意味なの?」
「だから意味は無いよ。…ふふ」
「じゃあ何で笑うのさ!」
「さぁね」
「酷い!教えてよー!」
3人は無事、住宅街を抜ける事ができた。
第11話 終




