第1話
はじめに
この小説は、"Demonic Days"の続編に当たる作品です。先に前作を読んでから、この作品を読む事を推奨します。
第1話
"裏の世界の少女達"
「さて、今日の仕事は…」
「探し物」
生物災害によって、大勢の住民が"患者"と化してしまった町、和宮町。
「あぁ…そういえばそれだったわね、面倒臭い…」
「依頼は絶対」
隔離されているこの町に、2人の少女が現れた。
大神結衣と大神玲奈。
姉妹で裏の世界の依頼をこなして生きている2人。
この町に来たのも、とある依頼の為だった。
「はぁ…もう帰って寝たいんですけど」
気だるそうに歩いているのは、姉の結衣。
「じゃあ帰れば」
無表情でその隣を歩いているのは、妹の玲奈。
前述した生き方の事を除けば、ありふれた普通の姉妹に見える。
しかし、ありふれていない箇所は、他にもあった。
「ところで玲奈、いつも思ってたんだけどさ。何で銃使わないの?」
結衣は2丁のハンドガンと大型リボルバーを所持しており、拳銃のエキスパートである。
「私は銃よりナイフの方が使い慣れてるから」
玲奈は2本のナイフを使いこなす、小刀のエキスパートだった。
「普通に考えて、ナイフより銃の方が強いっしょ」
「…やってみる?」
「20メートル離れてからならいいよ」
「………」
そんな2人が今回引き受けた依頼は、町の中央に聳えている10階建ての合同庁舎のどこかにあるらしい"ファイル"を持ち帰るという内容。
2人は自分達にとっては易しい方だと思い快諾したが、いざ町にやって来ると、考えを改めさせられた。
「それにしても、不気味っていうか…ねぇ?」
横目で玲奈を見る結衣。
すると、彼女は食い入るように何かを見つめていた。
「どした?」
「…死体」
「お?」
「死体だってば」
玲奈が指差した先には、無惨に全身を喰い千切られた死体が転がっていた。
2人は顔を見合わせた後、死体の元へと駆けつける。
そして、初めて見るその傷口に、首を傾げた。
「何だろう、噛み跡…?」
「昔、あんたと喧嘩して噛まれた時に付いた傷にそっくり」
「………」
突然立ち上がり、辺りを見渡す玲奈。
「結衣姉、何か居る」
「何か?」
「何か」
その"何か"は、すぐに姿を現した。
「な、何こいつ!」
「ッ…」
皮膚が爛れ、全身から血を流している人の形をした不気味な物体。
それは"D細菌"と呼ばれる生物兵器に感染した人間、通称"患者"である。
「患者…」
「え、あんた知ってるの?」
玲奈は質問には答えずに、2本のナイフを取り出す。
「話は後」
「はいはい…」
結衣も玲奈に倣って2丁のハンドガンを取り出し、敵の数の確認を始めた。
「5体…?」
「7体」
「りょーかい」
患者の集団へ走っていく玲奈。
結衣も玲奈に合わせてゆっくりと歩き出し、患者に向けて発砲を始めた。
数々の修羅場を潜り抜けてきた彼女達の戦闘力は、見かけからは到底想像できない程、常人離れしている。
また、"大神姉妹"と呼ばれているこの2人を、裏の世界で知らない人物は居なかった。
そんな2人に、7体の患者は手も足も出ない。
「楽勝~」
「(…弱い)」
信じられない事に、10秒も経たずに患者は全滅した。
「それで、患者って?」
結衣が銃をしまいながら、玲奈を見る。
玲奈は、呆れた様子で話し始めた。
「っていうか知らないの?3日前くらいに、この町で事件があった事」
「あ、生物兵器がどうの…ってヤツでしょ?」
「そう。その生物兵器に感染した人間が、こうなるの」
そう言って、地面に転がる患者の死体を見る。
「へぇ…。だから患者って言うんだ」
「正式な名称は知らないけど、どっかの特殊部隊が勝手に名付けたらしいよ」
「ふーん…」
結衣は相槌を打って立ち上がると、遠くに見える合同庁舎を見て呟いた。
「今回の依頼、思ってたよりも骨が折れそうね」
「………」
玲奈も、同感だった。
同時刻…
大神姉妹が居る町の地下に、1発の銃声が響いた。
「やれやれ…」
頭を撃ち抜かれて倒れた患者を見ながら溜め息を吐いたのは、2人と同じく裏の世界に生きる女性、朝霧楓だった。
「これで20体目やないけ。そろそろしんどいわ…」
歩き出しながら、他に誰も居ないのにそう嘆く。
「しかも地下から行けって意味不明な注文…ほんまに断れば良かったわ…」
更に嘆きながら、持っているセミオート式のスナイパーライフルを肩に掛ける。
彼女は、狙撃のエキスパートだった。
そのまま歩き続ける事10分。
地上に出る為のハシゴを発見した。
「はぁ。やっと出られるんか…」
ハシゴに手を掛け登っていき、マンホールを持ち上げる。
ひょっこりと顔だけ出すと、目の前に大神姉妹の2人が居た。
「うわぁッ!」
「あ、朝霧さん…?」
突然現れた楓を見て、驚く2人。
「おや、大神の2人やないか」
「楓、何してんの…?」
「依頼や」
「何の?」
「ファイルを取ってこいっちゅうヤツやったかな」
楓の話を聞いて反応したのは玲奈。
「ファイル…もしかして、合同庁舎の探索?」
「あんたらはそう言われたん?ウチは病院探せ言われたわ」
楓が依頼主から聞いた話によると、ファイルは町の病院、和宮病院にあると言う。
「…どういう事?」
状況が飲み込めない結衣は、玲奈に訊ねる。
すると彼女は、確信を持っていない様子で話し始めた。
「ファイルがある場所がハッキリしてないんじゃないの?探索箇所が複数あるなら、その分人数も多くなるでしょ」
「確かに…。でも、そんなに人を雇うほど重要な物なのかな。ファイルって」
「ウチは知らんで。細かい事は訊かない主義やからな」
「そこは訊いといてよ…」
楓は鼻で軽く笑った後、2人に背を向けて手を挙げた。
「まぁええわ。ほな」
「どこ行くの?」
「病院に決まってるやろ。…こないなけったいな場所、長居しとうないわ」
楓は顔だけ向けてそう言い、病院への道を歩き始めた。
「私達も行こう。朝霧さんの言う通りだし」
「そうだね」
2人は楓とは正反対の道を歩き出した。
歩き始めてしばらく経った時、結衣がある事に気付く。
「玲奈、ちょっと待って」
「?」
「何かに見られてる」
「………」
"何か"と言った理由は、それが人間であるかわからないからであった。
すぐにそれを察した玲奈は、ナイフを手に持つ。
「複数?」
「いや、多分1体かな」
警戒する2人。
しばらく歩き続けていると、突然結衣が立ち止まり、辺りを見渡し始めた。
そして、ハンドガンを取り出し、玲奈を見る。
「…増えた。多分、4体ぐらい」
「4体…方角はわかる?」
「…7時の方角に2体。10時の方角に1体。3時の方角に1体…で合ってるはず」
「…このままじゃ囲まれる」
急いでその場から離れようとした2人であったが、それよりも早く、隠れていた4体の生物が姿を現した。
狂ったように笑い、暴走している患者が、2人をあっという間に囲む。
「っと…」
「玲奈、こいつらさっきと少し違う…?」
「何も変わらない。斬れば死ぬ」
「あれー?」
暴走状態の患者は完全に理性を失っており、目の前の標的を仕留める事だけを考えて行動している。
そして特筆すべき点は、素早さと尽きない体力を用いた追跡能力である。
しかしそれでも、2人の相手は務まらなかった。
結衣を狙った患者は、近付く事すらままならずに倒れていく。
玲奈に関しては、自分から患者に近付いていき、一瞬で制圧してしまった。
「…それで、何が違うって?」
「前言撤回…ってね」
再び歩き出す2人。
そこから合同庁舎への道のりは、かなり長かった。
「うーん、車とか無いかな」
「結衣姉、免許持ってたっけ?」
「…大丈夫っしょ」
「………」
第1話 終