ドリアード達の行方
戦争終結から5日が過ぎて、私達はようやく帰れる事になった。
ア連のリーダーと幹部達は、もう少し首都に残るらしく、私達は別れの挨拶をする為にア連のリーダーの部屋を訪ねた。
そこには丁度幹部も来ており、今後の事を相談中だった。
邪魔をしては悪いと思い、一旦は去ろうとしたのであるが、リーダーが「どうぞ」と言ってきた為に、私達は部屋へとお邪魔したのだ。
幹部達は全員が無事。当然ながらリーダーもそうだ。
だが、ティーエの両親はバグダルにより、処刑をされてしまっていた為に、五人は腕に喪章をつけて、彼女の両親への供養としていた。
「帰るのですね。本来の居場所に」
これはリーダーで、幹部達は会話を止めてこちらを見て来る。
それには私は「ええ」と答え、「皆、無事で何よりでした」と、皆の顔を見ながら言った。
「ん…?」
その中にキーンが居ない事に気付き、不思議な顔で小さく唸る。
「あ、キーンのおっさんなら本業に戻ったよ。これからがセイレーンの売り時だとかで」
それに気付いたレイドが言って、私が「そうか」と苦笑いする。
兎にも角にも無事だと分かり、「無事で良かった」ともう一度言う。
「全てあなた達のお蔭です。私は読みを誤りました。あのままではきっと…全滅でした。王女のご両親にも申し訳が立ちません…」
リーダーがそう言って机を眺める。
慰めるべき言葉が見つからず、「そんな事は…」とだけ言葉を送る。
「……実は王になれという話が来ています。無法地帯に国を作り、私にその国の王となれと。半魔と魔物が中心の国。私が目指した理想の国です」
それには「おぉ!」と普通に驚く。
レーナとクラスも驚いていたが、幹部達は聞いて居るのだろう、そこには全くの無反応だ。
「それで、少し…」
どういう訳かリーダーが黙る。
不思議に思って首を傾げると、セーラが「ああ」と口を開いた。
「あの話だね。重要なあの話。さぁさ、私達は席を外すよー。先生以外は外に出ましょうねー」
そして、何やらわざとらしい口調で言い、皆を押して外へと出て行った。
「あ…」
右手を伸ばしてそう言って、リーダーはなんだか呆然とした。
しかし、やがて手を戻し、私の前で仮面を取った。
「お久しぶりです…と言っても、とっくに気付いていたでしょうけど…」
そう言いながら机にそれを置く。
私も当然分かっていたので、それには「まぁ…」と短く返した。
「答えは大体分かっているわ……いえ、間違いないと思ってる。だけど、ア連のリーダーでは無く、一人の女として敢えて聞きたいの」
口調を変えてルーミアが言う。
それはア連のリーダーでは無く、一年前の彼女の口調だ。
「私に…ついて来てくれないかしら?私は新しい国を作る。半魔と魔物達が幸せに暮らせる国を。そこにあなたに居て欲しいの。すぐ横じゃなくて良い。一緒に来てくれるなら、今の仕事を続けてくれても良いわ。だから、時々でも私の事を、一人の女として扱って欲しいの…」
ルーミアは真っ直ぐに私を見ていた。
紅潮した顔で私を見つめ、瞬きもせずに答えを待って居る。
正直な所、気持ちは嬉しい。
私の思い違いでなければ、これは殆どプロポーズである。
こんな事を女性に言われたのは、生まれて此の方初めての事で、レーナという本命が居るにも関わらず、私の胸は「ドキドキ」していた。
ルーミアは美人で、頭も良い人だ。
性格も最初は難アリかと思ったが、実際はただの寂しがり屋で、優しく、思いやりに溢れた人だ。
嫌いな理由は当然何も無い。
出逢った順番が違っていれば、私の方から惚れていただろう。
だが、私は彼女と出逢わず、先にレーナと出逢ってしまった。
誰にとっての幸運か、はたまた不運か不明だが、現実問題そういう順番で私はレーナと出逢ってしまったのだ。
そして、私はレーナに惹かれた。
何時の間にか好きになっていた。
おそらく今ではレーナの事を愛しているとも自分で分かる。
近々、私はルーミアと同じ事を、レーナに対してもすると思う。
答えは不明で、正直怖いが、だからと言ってルーミアのそれを保留にする事は流石に出来ない。
故に、私は「身に余る光栄だが…」と言い、ルーミアの誘いを断る前提の言葉を口から発すのである。
「……だと思ったわ」
その一言でルーミアは察した。
いや、察してくれたようだった。
「これで二回もフられちゃった。……流石にもう諦めるわね…」
机を見ながらそう言って、「ふっ」と笑って仮面をつけた。
「…それではお元気で。あなたのご協力と、御尽力に感謝致します」
そして、ア連のリーダーに戻って、私に頭を下げたのだった。
「あなたもお元気で……応援しています」
最後にそう言い、頭を下げる。
私が頭を戻した後にも、リーダーは未だに頭を下げており、仮面の隙間から落ちる水を見て、彼女が泣いているという事に気付いた。
「あ…」
何かを言おうと思ったが、私はそれを飲み込んだ。
「(すまない、ルーミア…元気でな…)」
それから心の中だけで謝り、彼女の部屋を後にした。
「何だったの?先生だけに話って?」
部屋を出るなりレイドに聞かれ、私は言葉を詰まらせていた。
レーナも、クラスも不思議そうにしており、何と言ったものかと思案したが、セーラが「…はいはい、お仕事お仕事」と、成り行きを察して言ってくれたので、中での事を言わずに済んだ。
「それじゃ元気でな。また会おう」
そう言ってマキシマムが部屋に戻り、
「じゃあね。あの子の分まで幸せにしてあげて」
と、私の脇を軽く叩いて、セーラがマキシマムの後ろに続いた。
「何だったったんだ一体…?」
レイドも言って続こうとしたが、その前に私が声をかけた。
引き止めた理由はフェンリルの事やミトの事を聞く為だった。
「ああ、大丈夫、全員無事だよ。エルフの人もスキュラの子もね。ただ、フェンリルもスキュラの子も戦いが終わったら姿を消したから、その後の事は俺にも分かんない。あ、ミトさんは元々が故郷だしで、ルーミアが作る国についてくるみたいだね」
それには「なるほど」と一言を言い、全員が無事だった事に安堵する。
レーナも「良かった…」と言っている辺り、皆の安否が気になっていたのだろう。
「あら、まだいらしたの?お部屋の方に居られないから、お帰りになったのかと思いましたわ」
直後に現れたのはティーエであった。
方向としては私の右で、兵士を一人とウルを連れている。
おそらく私と会う為では無く、リーダーに会いに来たのであろう。
「この度は…その…」
と、言いかけたが、ティーエはそれを右手で制止。
「ロイヤルデューティー。王族としての責務ですわ。当然、そこには悲しみはありますが、今のわたしくには悲しむ事以上に、しなくてはならない事がありますの。だからお気持ちだけ、頂いておきますわね」
右手を下した後にそう言い、悲しげな笑みを見せて部屋へと消えた。
「またニャァ~」
ウルが手を振り、レーナが応える。
「あ、そうだ」
と言ったのはレイドであり、開けられたドアを支えたままで、思い出したのだろう言葉を続けた。
「先生に頼まれてたドリアードの事だけど、フォーリス達に回しておいたから、数日中には分かると思う。解決前になるか、解決後になるか、それはちょっと分からないけどさ」
その言葉には「そうか」と返し、続けて「すまない」と迷惑を詫びる。
「いやいや」
レイドはそう言って首を振り、「バグダルが記憶を失ったのが痛いね」と苦笑した。
それには「ああ」と、苦笑いをして返すと、レイドは「じゃ」と言って部屋へと消えた。
「色々あったが、これで終わりか……」
「そうですね。これでやっと…帰れるんですね」
私の言葉にレーナが続く。
「皆、無事だと良いんですが…」
と言う、クラスの言葉には無言で頷いた。
それから城を後にして、街へと向かって馬車を借りる。
懐かしのプロウナタウンに到着したのは、それから4時間後の事であった。
「先生とレーナさんとクラスさんのオバケデタァァ!!?」
第一声はそれだった。
言うまでも無くフェネルのモノだ。
どういう訳か眼鏡をつけており、フォックスの医院で勉強をしていた。
それに気付いたルニスが走り、「おかえりなさぁい!!!」と、私に抱き付く。
何かをしていたロニアも気付き、クラスに近寄ってお互いに抱き合った。
「おかえり!心配したんだぞ!」
言って、激しく口づけし合う。
それにはフェネルとフォックス含む、野郎共全員が言葉を失った。
「あー…兎も角、…ただいま」
ルニスを押して挨拶をする。
聞いたフォックスとルニスが改めて「おかえり(なさい)」と言ってくれる。
フェネルは「うぉぉぉ…」と、目を丸くしてロニアとクラスのキスを見ており、有害な事になりかねないので、「すっ」と移動して視線を妨げた。
「ちょっ!?先生わざとですか!?ケーキ食べてる時にうんこ漏らした気分ですよ!」
当然のようにフェネルが怒り、私が「うん〇…」と呆然とする。
その時には二人のラブタイムが終わったので、「う〇ことはな…」と呟いて奥へと進んだ。
「まぁ、無事で何よりじゃな。色々とあったがこちらもこの通り。フェネル君もエリスちゃんも、学校に行けんで暇そうにしとるがな」
フォックスの言葉に「ああ…」と言う。
だからここに居たんだな、と、その後に一人で納得をする。
「その、眼鏡は何なんだ?この一か月程で悪くしたのか?」
聞くと、フェネルは「いーえ」と言った。
「なんか眼鏡かけてた方がカッコよくない?とか、第四の人格の僕が言うんで」
と、続けてふざけた事を言うので、「ほーぅ…」と呆れてジト目で見て置く。
「もうあれですか?帰れるんですか?戦争はもう終わったんですか?」
これはルニスで、私が頷き、レーナが頷いた事を見て、ルニスは「やった!」と両手を上げた。
「おそらくカーレントにも戻れるとは思う。だが、ゲートが復活していないから、行くなら自力で、という事になるが」
それにはルニスは「そうですか…」と言い、「でも、大丈夫ですよね?」と、私に聞いて来た。
おそらく両親の事だと思い、確証は無いが「ああ」と言う。
聞いたルニスは「ですよね」と、少し不安気に頷いていた。
「さて、イアンも戻って来たし、ルニスちゃんともお別れじゃな」
フォックスが言って隣室に行く。
クロスワードの本を積んでいる部屋だ。
「なんすか?」
と、フェネルが聞いてきたので、「知らんよ…」と困り顔で返しておいた。
フォックスはそれから1分程して、袋を右手に再び現れる。
「ほい、お疲れさん」
そして、それをルニスに渡して「よいしょっと」と言って椅子に座るのだ。
「わっ!」
開けたルニスが中を見て驚く。
横からお邪魔して覗いてみると、15枚程の金貨が見えた。
「これ、なんですか?」
ルニスが聞くと、フォックスは「んああ」と言って頬を掻く。
「給料じゃよ給料。手伝ってくれた分の」
それから言って、わざとらしくルニスに「ふほほ」と笑って見せた。
「うわ、でも、いや、なんか、お世話になったのはボクの方だし…」
「折角だから貰って置くと良い。フォックスだって一度出したモノを返されるのは嫌だろうしな」
ルニスが困っていたようなので、フォックスの為にもそう言ってやる。
「じゃ、じゃあ有りがたく頂きます。すみません、本当に、嬉しいです」
その事により受け取り易くなったのか、ルニスはフォックスに礼を言い、一か月と少々の給料を受け取った。
「先生。私達もここで失礼します」
突然の声はクラスのものだった。
タイミングを伺っていたのであろうか、赤子を抱えたロニアも立っている。
「そうですか…助かりました。私がこうして生きて居られるのは、あなたとレーナのお蔭です」
そう言いながら近付いて、クラスに「すっ」と右手を差し出す。
言われたクラスは「そんな、とんでもない」と、満面の笑顔で握手に応じた。
「元気でね、ロニア。また遊びに来て」
「今度はレーナの赤ちゃんが見たいな?…なんて、まだまだって感じだけどね」
レーナが言ってロニアが返す。
レーナは「もー何の話ぃぃぃ!?」と、それには赤面して抗議していた。
「それではまた」
クラスが言って医院を後にする。
「じゃあね。お世話になりました!」
それからロニアがレーナに言って、フォックスに向かってそう言って去った。
「お気をつけて」
それは外からのノアの声で、それにも二人は「お世話になりました」と、丁寧に挨拶を返していた。
「さて、じゃあ私達も帰るか」
私が言ってレーナが頷く。
ルニスもすぐに「はい!」と言い、フェネルが「アイアイサー!」とどさくさで続いた。
「(やっと帰って来たんだな……いつもの、何気ない生活が…)」
そう思いながら私は微笑み、フォックスに別れを告げた後に、いつもの面々と我が家を目指した。
それから3日の時が過ぎた。
以前の静かな生活の中で、私は自室で本を読んでいた。
イケてる男のデートスポット。ラーズ公国~ディザン王国編。
それが本のタイトルで、要するに告白すると決めたは良いが、デートコースの選択が出来ずに本に頼っていたと言う訳だ。
流行りの店やら良い景色の公園、果てはヤれるホテルまでが載せられており、私は目を白黒させながら、一ページ一ページをつぶさに読んでいた。
「ほう…闘技場まで載っているのか。これは…?カップル割引券だと?」
その中には街の闘技場もあり、ページの下部には割引券もついている。
そして、その上で、
「カップル券は使えますか?と、分かって居ても敢えて聞く事!カノジョもここで「カップルなんだ♡」と認識する事間違いナシ!ベッドの上という闘技場で、君がカノジョを打ち倒す時も近いゾ♪」
という、担当者の一言もつけられていた。
「この担当はそれしか頭に無いのか…」
少々呆れて券を切り取り、コースは未だに完成しないので、とりあえずの形で引き出しにしまう。
「先生、ちょっと良いですかー」
そんな時に声が聞こえ、「ああ」と言って体を向けた。
顔を見せたのはルニスであり、「フォーリスさんが来てますよ」と、訪ねた用件を言って来た。
「分かった」
言葉を返して立ち上がり、「どっちに来ているんだ?」と一応に聞く。
「あ、玄関です。一旦は診察室に来たんですけど」
返されてきた答えがそれだったので、「なるほど」と言って入口に向かった。
それから部屋の入口ですれ違い、ルニスを後ろに廊下を進む。
「じゃ、ボクは仕事に戻ります」
ルニスはそのまま正面に行き、ドアを開けて仕事に戻った。
一方の私は右に曲がり、玄関に向かってドアを開ける。
そこにはフォーリスが立って居て、私を見るなり「すまんな」と謝った。
「いや」
別に忙しい身では無いので、それだけを返して「入るか?」と聞く。
「いや、ここで良い。ドリアードの事だ」
それを拒否してフォーリスが言ったので、「どうだった?」と、眉を顰めて聞いた。
「見つかったと思う。断言は出来んがな。だが、情報を総合すれば、高い確率でそこに居ると思われる。場所は無法地帯のほぼ中心。キナンナと呼ばれる森の中だ」
その言葉には「そうか…」と返す。
喜びよりも不安が大きい。
勿論、見つかったのは喜ばしい事だが、フォーリスの表情が優れないので、それだけの理由があると思ったのである。
「そして、その森の中には「闇の貴族」と呼ばれている者達の、本拠地らしきものがある。ドリアード達はおそらくはだが、ここに監禁されていると思われる」
「やはりそうか……」
それは薄らとは分かっていた事だった。
黒いローブ、人間、という単語に結びつくものがそれしか無かったからだ。
だが、確信が無かった為に、私はそれを憶測として留め、レイドにもフォーリスにも伝えずにここに至ったという訳である。
つまり、私の憶測と、フォーリスの調査の結果は重なり、ドリアード達を捕らえた者が、闇の貴族だという事が、濃厚になったと言う訳なのだ。
「それで、どうするんだ?」
それにはフォーリスは「奪還する」と言い、「一緒に来るか?」と逆に聞いて来た。
「報告は?」
と聞くと、まだだと言うので、私は一応「すまんな」と言った。
「で、どうする?」
それに構わずフォーリスが聞くので、私は「行くさ」と一言を返すのだ。
「レーナも良いか?本人の意思次第だが」
「ああ。頼りになる女性だからな。こちらからお願いしたい位だ」
私が聞いて、フォーリスが答える。
「だが、戦いは前提では無い。潜入及び解放が目的だ。その点、先生も承知しておいてくれ」
それには「ああ」と言葉を返し、私は家の中へと戻った。
そして、レーナに事情を話し、「ついて行きます。行かせて下さい」と言う心強い返事をいただくのである。
私とレーナはフォーリス達の背中に乗せられて空を移動し、それからおよそ4時間後に、無法地帯へと入国する。
「一旦離脱する。合流地点でまた会おう」
入国後にそう言って、フォーリスはどこかへ飛んで行く。
「どこに行くんだ?」
と、セリムに聞いたが、「あ、機密事項です」としか教えてくれなかった。
「ささ!先生殿!どうぞどうぞ!背中、良い具合に湿らせておきましたよ♡」
これはガイツで、気色が悪いので私はハインの背中に乗った。
それを見たガイツは「なんでぇぇぇ!!?」と、地面の上に膝を付けたが、「たりめぇだろ…」と言うハインの言葉に、私は若干救われるのである。
目的地であるキナンナの森に着いたのは、それから更に40分後の事だった。
私達は現在、森の手前の岩の一つの陰に隠れ、どこかに行ったフォーリスが戻って来るのを静かに待って居た。
「そう言えばもう一人居たような気がしたが、もしかして戦いで何かあったのか…?」
名前は確かピレラと言ったか、妖艶な女性が居たような気がして、私は地面に座って待って居るハインに向かって聞いてみた。
一方の私は地面に座らず、岩を背にしてもたれて立っている。
ガイツもハインの隣に座り、枝を右手に何かを描いていた。
レーナとセリムは私の直線で、何やらガールズトークをしており、意外にも気が合うのであろうか、「ヤダー」とか言って笑い合っていた。
「ピレラなら本部に報告に行ってるぜ。なんだ、先生はああいうのが好みか?」
聞かれたハインがそう答え、「そうなのですかぁ!?」とガイツが続く。
それには一応「いや…」と言うと、ガイツは「良かった…」と嬉しそうだった。
「(本人の為にも言った方が良いのか…?しかし、もしも逆切れされて力任せに襲われてもな…)」
その場合は一方的に、成す術もなく蹂躙されるだろう。
流石にそれは御免であるので、私は一応念の為、余計な事は言わずに置いた。
「あ、隊長です!」
セリムが言って空を見上げる。
そちらを見ると遠くの空に、フォーリスらしき姿が見えた。
それはすぐにも近付いて来て、滑るようにしてこの場に降りて来る。
「すまん。遅くなった」
と言うフォーリスの背には、どこかで見たような男が乗っていた。
年齢としては25~6才。
特徴が無い顔が特徴と言える。
背には袋を担いでいるが、これは現時点では完全な謎だ。
しかし、私はこの人物と、割と深い関わりがあったはずだった。
「(どこで見たんだ…?)」
と、思っていると、フォーリスの背から男が離れた。
それから私に近寄って来て「久しぶりだな」と言ってきたのだ。
「え、ええ…久しぶり…ですね」
誰だ?と聞くのは失礼なので、苦笑いをしながらそれに答える。
「お蔭でその後は幸せにやっているよ」
男が言って「ふっ」と笑うので、それに合わせて「そうですか」と笑った。
「先生には紹介の必要は無いが、彼の名はジードと言う。元々は闇の貴族の一員で、今回の作戦に協力してもらう為に、遠い所を足労願った」
フォーリスの言葉に「ああ!!」と言う。
それには全員が怯んだが、「ああ、ああ。そうだな。そうだとも」と無理矢理続けて誤魔化しきった。
何の事は無い、彼は私が整形手術をしたジードであったのだ。
あまりに特徴の無い顔にした為に忘れてしまっていた……という事にして欲しい。
兎も角、どこで知ったかは知らないが、フォーリスは彼の情報を知り、今回の作戦に協力して貰う為に彼を探し出したという訳だろう。
「では早速だが」
フォーリスが言って、ジードが「ああ」と言う。
直後には背中の袋を置いて、「がさがさ」と中を漁り始めた。
出て来たものは闇の貴族が愛用している黒いローブで、ご丁寧にも愛用品のダガー(短剣)も中には詰められていた。
「全部で4着ある。俺とジード。レーナさんと先生で着る事にしたい。異議はあるか?」
フォーリスが聞き、全員を見回す。
誰からも異議が出なかった事を見て、フォーリスは「異議なしだな」と言葉を括った。
「若干臭うが本物の証だ」
言いながら、ジードがローブを渡す。
渡されたレーナは「どうも…」と言いつつも、そのニオイには顔を歪めた。
「ああ、どうも」
私にも渡され、顔を顰める。
牛乳を拭いた雑巾のようなニオイだ。
洗えば良いのに…と、思いはするが、このニオイが仲間の証なのかもしれない。
やむを得ないので顔を顰めつつ、黒いローブを頭に通す。
それからフォーリスにローブが渡され、最後にジードがそれを着る。
その後にダガーが渡されたので、ジードを真似て腰に差した。
「フードも被れ。俺が左手を上げたら同じ言葉を続けてくれ」
言われるようにフードを被り、分かったという意味で言葉に頷く。
「では頼む。お前達はここで待機を続けろ。俺達が森から抜け出してきたら、援軍と共に援護をしてくれ。最悪、援軍が間に合わない場合は、何とかして敵の注意を引き付けるんだ」
これはフォーリスで、言われたジードと部下達がそれぞれに頷きを返した。
「なら行くか」
ジードが言って歩き出す。
「(ん?)」
足元の何かに気付いた私は、それを見る為に一瞬止まった。
所謂、相合傘という奴である。
右には私の名前があって、左にはガイツ♡と書き込まれている。
「……」
私は無言で自分の名を踏み、ガイツが「ああッ!!?」という悲鳴を上げる。
しかし、それには気付かないフリをして、踏み躙った後にその場を後にした。
森へと入った私達はしばらく歩いて洞窟を見つけた。
入口に入ると下り坂になり、更に進むと扉が見える。
「(悪趣味だな…)」
と、私が思うのは扉に描かれた絵の事である。
羽付帽子を被ったドクロが、パイプを咥えて左を見ている。
おそらくこれが「闇の貴族」のシンボルと言える絵なのであろうが、そこには嫌悪感しか催せない私は、しかめっ面でその絵を眺めた。
「闇と共にあれ」
唐突にジードが言った。
直後には左手を上げて見せたので、私達も続いて同じ事を言う。
すると、扉が音をたて、左右に分かれて開いたのである。
中に入って暗闇を行き、おそらくはジードが扉を開ける。
橙色の光に眩み、目を細くしながら後ろに続いた。
場所としては洞窟の中だが、そこは宛ら街のようで、天井がある為に太陽は見えないが左右には建物が作られていた。
歩いている場所は通りの如し。
正面からはローブの男達が雑談しながら歩いて来ていた。
「闇と共にあれ」
あちらが言って左手を上げる。
同様の事をジードが返したので、私達も慌ててそれに続いた。
「(ここでの挨拶みたいなものか…らしいと言えばらしいがな…)」
そんな事を思っていると、ジードが建物の一つに入る。
後ろに続いてそこに入ると、酒場のような光景が待って居た。
「闇と共にあれ」
「闇と共にあれ」
店主を含む客の数人が、私達を見るなりそう言ってくる。
「(メンドクサイな…)」
と、正直思ったが、いちいちそれに応えて置いた。
ジードはそのまま奥に行き、店の最奥のテーブルに陣取る。
私達も無言でその場に向かい、テーブルを囲むようにして椅子に座った。
屋内の客は6人程度。店主を含めた全員が黒いローブを着たままである。
「(徹底しているな…)」
と、心で呟き、顔を戻してジードに向かう。
「いいか」
と、ジードが店主に言って、店主が「あいよ」と近付いて来る。
年齢はおそらく60くらいか。
フードを被って居て顔が見えないので、動きと声で察するしか無い。
店主は私達の横に立ち、無言でメニューらしきものを出した。
ジードはそれをめくった上で、「どうするつもりなんだろうな?アレは」と何気無い口調で店主に聞いた。
「さぁな。バグダルとは連絡がつかないらしいし、こっちで好きに使うんじゃねぇのか?若い衆には嬉しい話だろう」
店主が答え、「へへへ」と笑う。
おそらくジードのカマかけだったのだが、思い当たるふしがあるらしい。
「あれ、何て言ったかな、ちゃんとした名前があったと思うんだが、ど忘れしちまって出てこねぇ…」
ジードが続け、額に手をやる。
本当に忘れたのかと思ったのか、店主は「ああ、ドリアードだろ?」と、親切にも名前を教えてくれた。
この事によりこの場所にドリアードが居る事が確実になり、「好きに使う」「若い衆」という単語から、私には焦りと怒りが生まれた。
「あーそうだそうだ。ドリアードな。思い出せたぜ、ありがとうよ」
ジードが言ってメニューを閉じる。
その音により「はっ」となり、私は何とか落ち着きを取り戻した。
「アルコール抜きで適当に頼むわ。任務が近いんで、軽いものをな」
それから言って、店主を動かし、「とりあえず腹ごしらえだ」と私達に言った。
「ここに居る事は間違いないようだな」
これはフォーリスで、その言葉にはジードは「ああ」と短く返す。
「ついでに場所も聞けないのか?」
と言う、私の質問には「いや」と言い、
「これ以上は怪しまれるからな。別の奴に聞いた方が良い」
と、その道のプロの意見を発した。
その言葉には「そうか…」と返し、不安を押し込めてジードに従う。
「あいよ」
やがて出て来た料理をつまみ、適当に栄養の補給をしながら、他の客達の会話を聞いた。
「いやいや、マジマジ、マジなんだって。つえーっていうのはマジなんだって。ただ、同時にスゲー馬鹿で、あっさりと騙されて入団してさ。あんなのを見て「頑張っているなー」とか言うから、危うく俺、噴き出しそうになったわ」
これは、私から見て右後方の20代位の男の言葉で、聞いた仲間は「マジぃ?」と言って、その後には全員で大笑いをした。
「さて、じゃあ行くか」
食事が終わり、ジードが立ち上がる。
そして、適当に銀貨を置いて、私達に先んじて外に出て行く。
「で、そいつら今何やってんの?」
「あ?いや、用心棒みたいな事?正直良く分かんねーけど」
と言う、先程の客の会話を耳にして、私達もジードの後ろに続いた。
そこから更に2人に当たり、私達はドリアードの監禁場所を知る。
そこは、建物が建つ場所からは北東に当たる洞穴であり、見張りを買収して侵入した私達は、ドリアード達の惨状を目にするのである。
「こんなの酷過ぎる…」
第一声はレーナのものだった。
言葉には出さないが私もそう思う。
ドリアードの数は30人程。
その全てが両手を拘束され、洞穴の上から吊るされている。
檻は無く、境も見られず、左右に一直線に並べられており、虚ろな表情で小さく呻き、頭を「がっくり」とうなだれていた。
「程々にしとけよ!完全に壊したらバグダルと取引できなくなるからな!」
洞穴の外の見張りが言って、ジードがそれに「ああ」と言う。
私は湧き上がる殺意に耐えて、拳を握って彼女達に近寄った。
服はボロボロで瞳は虚ろ。
私が近付いても反応は無い。
よくよく観察してみると、腕には注射の跡のようなものが見えた。
「先生…これって…」
レーナの言葉に私が頷く。
間違い無く麻薬が打たれている。
思考の薄弱に精神の朦朧。
いつか鉱山で見たものと同じだ。
バグダルはおそらく、彼女達をこうする為に実験をしていたのだろう。
「人間の仕業では無いな…これは…」
地面を叩き、私が呟く。
レーナも「酷すぎます…」と拳を作り、下唇を噛んで怒りに耐えていた。
「助けるにしても数が多すぎる…場所が分かっただけでも良しとして、一旦外に離脱しよう」
これはフォーリスで、一理あるので、私はその場に立ち上がった。
「せんせい…?」
と言う声が聞こえて来たのはその時。
右の方に顔を向けると、リーンが鎖に繋がれていた。
「リーン!!」
駆け寄り、屈んで様子を見てみる。
捕まった時期が遅かったせいか、その顔色は他よりはマシである。
腕にも注射の跡は無いので、私は「ほっ」と息をつく。
「待って居ろ!今助ける!!」
ダガーを抜いて枷を叩く。
だが、私の力では壊す事は出来そうにない。
「先生、わたしが」
見兼ねたレーナが私を退かせ、両腕で強引に枷を破壊する。
その事によりリーンは落ちて、私に体を預けるようにして倒れた。
「おい!!オメェら何やってんだ!!?」
それに気付いた見張りが叫び、鐘を鳴らして異常を伝える。
「オメェら何をたくら…げはっ!?」
そして、すぐにも飛び込んで来て、あっさりとジードに倒される事になった。
「マズイな……出口が閉じられれば終わりだ」
ダガーを抜いてフォーリスが言い、少し歩いて外を伺う。
「流石の早さだ。盗賊と言うだけはある」
それから一歩を後退し、武器を構えて腰を落とした。
3人ばかりの敵が現れ、すぐにもこちらに攻撃をしてくる。
「先生はリーンさんを!」
と、レーナは言って、ダガーを抜いて走って行った。
そこからは駆け寄ってくる者達を迎撃する為の戦いが続いた。
5人を倒し、10人を倒した頃、「助っ人を呼べ!」と誰かが叫ぶ。
「(これ以上まだ何かが居るのか…!)」
そう思っていると、その助っ人が洞穴に姿を見せたのである。
「先生!よろしくお願いします!!」
奴らの内の誰かが言って、先生と呼ばれた誰かが現れる。
「おう」
「任せろ」
それは二人で、指を「ポキポキ」と鳴らしながらに姿を見せた。
「フレイム!?それにヒョウセツか!?」
あまりの事に声を出し、聞いた二人が「ん?」と目を丸くする。
二人はそう、赤い道着と白い道着の例の二人で、私がフードを取って見せると、揃って「先生殿!?」と驚いたのである。
「こんな所で何をやっているのだ?」
「ああ、お嬢さん方の健康診断か?」
先の言葉はフレイムで、後の言葉はヒョウセツである。
「バカを言うな!」
と一喝すると、「は?」と真剣に疑問する。
「せ、先生!どういう事ですか!?」
これは私に向けた物では無く、奴らの2人に対する疑問。
聞かれた二人は「さぁ…?」と言い、まるで他人事のように両手を広げた。
「俺達は拉致監禁されたドリアード達を助けに来た。どういう事を言われたか知らんが、そちらに組するなら覚悟をしてもらうぞ!」
ダガーを構えてフォーリスが言い、聞いた二人が「なんだと!?」と驚愕する。
「どういう事だ!」
と、直後には盗賊の一人の襟首を掴んだ。
「ど、どういう事も何も納得したんじゃないんすか!?俺達の役に立って貰うって言ったら、「頑張ってるなー」って言ったらしいじゃないっすか!?」
それにはフレイムは「言ったけど!」と言い、「ちゃんと説明しないからだろう!」と逆切れる。
「ええええ!?」
まさかの逆切れに相手はビビったが、すぐにも「ドーン!」と投げ捨てられた。
「おのれええ!奸計を用いて我らを籠絡したか!!許せん!なんと卑劣な奴らだ!」
「おうとも!拙者らを甘く見た事、骨の髄まで分からせてやろうぞ!!」
そして、フレイムとヒョウセツは独自の論理で怒りに達し、困惑する敵に向け攻撃を開始したのであった。
「良く分からんが味方という事で良いのか…?」
「ああ…多分…」
ジードが聞いて私が答える。
「股裂断金降ー!!」
「氷雪乱打強投殺ー!!」
「だが、援護は必要無いかもな…」
大暴れする二人を眺め、私は続けてそう呟いた。
フレイムとヒョウセツの活躍?により、闇の貴族の本拠地は潰された。
騒動に気付いた援軍が突入し、本拠地の内部を制圧したのだ。
生憎な事に首領は逃したが、殆どの者は捕縛された。
その内の半数は自害したと言うが、残りの半数は取り調べを受けると言う。
ドリアード達も全員保護され、ア連の治療を受ける為に各地の医院へと運ばれて行った。
性的な暴行は無かったと言うが、本当の所は不明である。
だが、私はせめてそれは本当であって欲しいと願っていた。
「先生、ありがとうございました。お蔭様で姉妹達は、幸いにも全員、命は無事でした。障害の残る子が居るかもという事ですが、命があれば、きっといつかは…」
担架に乗せられたリーンが言って、聞いた私が無言で頷く。
「しばらくしたら、また、森で」
続けたそれには「勿論です」と返し、運ばれて行くリーンを見守った。
「しかし酷い事件だったなぁ…一体どういう事だったんだ?」
私の横でフレイムが言う。
「それは後々話すとしてだ、むしろ逆に、なぜここ居たんだ?」
それには答えずそう言うと、フレイムはまずは「ああ」と言った。
「あの戦いの後…塔での戦いだが。あの後に森で変な奴らを見かけてな。何をしとるのだ?と声をかけたら、問答無用で襲撃された。で、それをヒョウセツと倒したんだが、あのドリアードさんとやらが捕まっていたのだ。コレは何だ?と聞いた所、大陸の未来の為だとか言われてなぁ。そういう事ならとお手伝いをしたのだが……」
「卑劣な奸計だったという訳だ」
そして、フレイムがそう言った後に、ヒョウセツが頷いて自分達流に〆た。
「まぁ、アレだ…二人はもう、山奥にでも篭っていた方が良い」
言って、フレイムの肩を叩く。
叩かれたフレイムは「どういう意味だ…?」と、純粋な顔で疑問していた。
だが、今回は彼らのお蔭で助かったという事も事実な訳で、そこを省みた私は息を吐き、とりあえずの形で「助かったよ」と伝えた。
「そうだろうそうだろう。人助けというものは気持ちが良いな。それがしらもいっそア連とやらに入るか?」
「そうだな。先生殿に紹介してもらおう!」
そんなフレイムとヒョウセツには、「いや、それは出来ないな…」と思い、
「多分、募集はしてないんじゃないかな…?分からんが」
と、嘘をついて立ち去る私であった。
突然ですが次話で終了です。
4月1日のアレでは無くて、話の展開上シメようと思います。
あと二話引っ張る事も可能ですが、ダラダラ行っても仕方ないですからね…
という訳で二日後、最終回で会いましょうー




