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湖上の氷塔破壊作戦

100万字突破でーす!

わー!!


……シーン……


みたいな一人喜び。

途中にアブディクル軍の進軍経路と、最終的な範囲を上げました。


意外な所から謎が解けた。


例の、怪しげな符の謎である。


解いてくれたのはラルフの城の地下で眠るヨランであった。

海水浴からの帰り道で、ラルフに偶然話した事により、そこへと道が繋がったのである。


「正直に言うと自信は無いがな。何しろ随分と古い話だ」


ラルフは最初そう言って、不確かである事を私に伝えた。


だが、それでも手掛かりにはなると思い、そのまま同行を申し出たのだ。


結果としては記憶の通りに、ヨランは符の事を全て知っていた。


「同じ事を何度言わせる……」


と、起こされた事には不満げだったが、レーナとシーナが居る事を見て、渋々とそれを話してくれた。


「これはな、魔物の符というモノだ。使い方は二種類ある。1に魔物の深層心理をある程度自由に操る事が出来る。2に魔物に精通した者が使うと、それに似たモノを作り出せるというものだ。2の場合には力は半分。指示できる内容も単純作業に限られる。1の場合は強さとしては元より強くも出来る事だろう。なぜならば本人の意思を操作して、常に全力が出せるようになるからだ。お前も医者なら知って居ようが、生き物は自分に制限をかけている。これ以上の力を発揮すれば、自分の体にもダメージが残る、とな。この符を使って操れば、そういうものを考えなくなるから、本来の力以上が出せるという訳だ」


棺の端に「ちょこん」と座り、符を持ちながらにヨランが話す。


「どうしてそんな事を…?」


と、質問すると、「研究していた者と会った事がある」と、しれっとした顔でヨランは言った。


「800年ばかり前の事だな。当時はまだ実験段階だった。少し変わった名前だったが、流石にそれは忘れてしまった。それで、この符がどうかしたのか?」


言ったヨランが右手を動かす。

符は空中を「ぴゅっ」と飛び、私の掌の上に収まった。


「何と言うかつまり…」


聞くだけ聞いて教えないのは酷いので、私が一応成り行きを言う。


聞いたヨランは「ほう」と唸り、「興味無いな」と言って棺に戻った。

彼女にとっては国の命運など取るに足らない事なのだろう。


「これはもう使えないのか?いや、例えば、使えるとして、こちらも塔の範囲内で本来の力が出せるようにはならないか?」


眠られる前にそう聞くと、ヨランは「無理だな」とまずは言った。


「話したと思うが、それは魔物の意識を操作する為に存在するものだ。その塔とやらの範囲内では奴らもおそらく弱くなっている。その上で無理を強いられているだけで、それ以上の効果は発揮していない。バグダルとやらは魔物達を使い捨てにする覚悟でそうしているんだろう」


これにはシーナが「酷い…」と言って、レーナが「許せない…」と続けて言った。

私自身にも憤りはあったが、ここでは「そうか…」と言葉を返す。


「という事は仮に使えたとしても、本来の力には戻らない上に、体に負担がかかるだけという事か…」


独り言のようなその言葉には「そうだな」と一応答えてくれる。


「それではな。もう起こすなよ。これは決して振りでは無いからな?」


ヨランは最後にそう言って、棺の中に身を横たえた。


「助かった」


と言っても反応は無く、蓋が再生して棺が閉められる。


「きょ、今日は何もしないんだ…?」

「期待してたの…!?」


恐る恐るシーナが言って、怪訝な顔でレーナが聞いた。


「そ、そんな訳ないでしょ!拍子抜けしただけよ!」


実際の所はどうなのか不明だが、シーナは一応そう言っていた。

私はそれに笑って見せて、右手の上にある符を眺めた。


「(目的の為には手段を選ばん、か……この事を広めれば多くの魔物が、ア連に呼応して立ち上がるだろうな…)」


そこには思う事は様々あるが、私はこの事を広めるつもりだ。

沢山の者が傷つくと思うし、命を失う者も居るだろう。

その中に医者が飛び込むというのだから、本末転倒も良い所である。


だが、人として、魔物として、今はきっとそうやってでも戦う時だと私は思う。

魔物を使い捨てにするというバグダルに一発をくれてやりたい。

何を企んでいるのかは知らないが、やりすぎた事を分からせてやりたい。


それは、私の考えだが、呼応してくれる魔物達も、そう思うからこそ立ち上がるのだと、私は願いたい訳なのである。


「(随分と罪深い事になるが、生き残れたら善行を積むさ……診察無料デーなんかを作って罪滅ぼしに励むのも良いな…)」


それは明らかな偽善であるが、しないよりはした方が良いもので、現時点での私はそう決めて、自身への慰めとしたのであった。




それから一週間の時が過ぎた。


ディザン王国はついに敗退し、アブディクル帝国の軍門に下った。

この事によりラーズ公国は、大陸唯一の反抗国となり、アブディクル帝国に反発する者達が、日々、大量に押し寄せるようになっていた。


そして、同時に魔物達にも、バグダルの例の所業が伝わり、大陸各地から魔物が集まり、ア連の兵力も増大していた。


9月の中旬のある日の事。


私はその日、ラーシャスに呼ばれてドワーフの街の近くに来ていた。

同行しているのはフォーリス一名で、レーナには今回は留守番をして貰っている。


こちらに危険が無いのもそうだが、ルニスの安全が気になった為で、一応、親父が居るとは思うが、念の為にとそうした訳だった。


ここまでの移動はフォーリスの翼で、今回はゲートを使っていない。

別に教えても良いのであるが、会うなり「乗れ」と言われた為に、純粋に機会を失ったのである。


我が家からおよそ2時間をかけ、私達はここまでやってきた。

目の前には街へと続く坂があり、背後から右には街道が伸びている。


そして、左には鬱蒼とした緑の濃い森が広がっていた。


「こっちだ。はぐれるなよ」


降りるなりにそう言って、フォーリスが左に向かって歩く。


「お、おい」


と言うと足を止めたので、「こっちじゃないのか?」と私は言った。

こっち、つまり街へと続く、正面に見えている坂道である。


だが、フォーリスは「いや」と言って、「ガサガサ」と森へと踏み入って行ったのだ。


ここで、フェネルか誰かが居れば「う○こだな」と言われる事は必至。


しかし、私はキャラでは無いので、思っただけで後ろに続いた。


10分位歩いただろうか、視界が拓けて川が見える。


そして、その川の近くには小さな小屋があったのである。

入口にはゴツイ中年が立っており、私達を見るなり「誰か!?」と聞いて来た。


「ア連のフォーリスだ」

「これは失礼を…」


それにはすぐにフォーリスが答え、聞いた中年が謝罪した。


「どういう事だ?ラーシャスに呼ばれたんだが?」


その質問にはフォーリスが「入れば分かる」と返してきたので、怪訝な顔で後ろに続き、中年の横を抜けて中へと入った。


一部屋だけの小屋の中では、3人の人物が私達を待って居た。


一人はティーエ。ラーズ公国の王女。


一人はラーシャス。私の友人で、今は人間形態である。


そして、最後の一人はア連のリーダーたる、名前を言えない仮面の女性(ひと)だった。


3人はテーブルを囲んで座り、そこに置かれた地図を見ていた。


「おお、来たか」


と、ラーシャスが私達に気付いた事で、全員がこちらを顔を向けた。


位置としてはラーシャスが正面、その右側がティーエであり、ティーエから見て正面が、ア連のリーダーという位置取りである。


「な、何やらエライメンツだが、一体私に何の用だ?ラーシャスに呼ばれたと聞いて来たんだが…」


困惑しつつそう言うと、「伝達ミスですわね」とティーエが言った。


「これは深刻な問題ね……」


と、続けてア連のリーダーが言うので、困惑は更に大きくなって行く。


「ぷっ!」

「あっはっはっはっ!」


が、直後に全員が笑ったので、「冗談なのか…」と理解が出来た。


「まぁ、大っぴらには出来ん事だからな。騙した形になったのは悪かった。とにかく座れ。重要な話だ」


ラーシャスに言われて「ああ」と言う。

そのすぐ後に椅子に向かうが、フォーリスは椅子には座らないらしい。

出口の横にずれて立ち、後ろ手に組んでこちらを見ている。


座らないのか?と、聞こうとしたが、そもそも椅子が4つしか無いので、言葉を引っ込めてそのまま座った。


場所としてはラーシャスの正面で、ティーエとア連のリーダーが左右だ。


座ってから少し待って居ると、「さて」と言ってからティーエが話し出す。


「ご存知の事だとは思いますが、ディザン王国が敗北いたしました。亡命してきた兵によると、国王及び一族は斬首。協力を拒む騎士達は、殆どが磔にされたという事です。この事を聞いた我が国の臣からは、不戦降伏の声も上がっております。ですが、父上もわたくしも、そうするつもりは全くありません。徹底抗戦、そして反撃こそ、我が国の姿勢と表明致します」


話を聞いたラーシャスが頷き、ア連のリーダーが「同感です」と言う。

私は立場上何も言えず、成り行きを静かに見守っていた。


「つまり、共闘の態勢が整った事を、私達に知らせる為の前置きという事よ」


微笑みながらリーダーが言う。

視線の先がこちらであったので、とりあえず「な、なるほど」と言葉を返した。


その話し方は以前のモノだが、本人が自覚していたかは不明で、その微笑みにキーンの言った事を思い出し、どぎまぎしてしまう私であった。


「そして本題だ。北ディザンに、例の塔が出現した。ハーフソルトレイクと言うのか、あの湖に突如として現れた。この事により大陸の殆どは、塔の範囲に入った事になる。このまま戦えば敗北は必至だろう。故に、一計を案じる事にしたのだ」


これはラーシャスで、言葉の途中で、全員がそちらに顔を向けた。


「地震は無かったが…?」


と、一応聞くと、


「必ずあるという訳では無いらしいな。場所が湖と言う事も関係しているのだろう」


と、ラーシャスは言葉を返してくれた。


「そうか…」


実際、そこに出現しているなら、地震がどうとかはどうでも良い事だ。

諦めにも近い声色で言い、ラーシャスの続く言葉を待った。


「一言で言うなら塔を破壊する。無論、正面からでは無理な事ゆえ、海路を使ってと言う事になる。タイミングとしてはアブディクル軍が、侵攻を開始した直後になるだろう。半魔のお前にはそちらに加わり、湖上の氷塔を破壊して欲しいのだ」


続く言葉には「ん?」と言い、しばらくしてから「一人でか!?」と聞く。

それを聞いた3人は笑い、「勿論、一人ではありません」と、口調を戻してリーダーが言った。


「決行日になるまで分かりませんが、現時点で300人弱を予定しています。この中の一人として作戦に加わり、湖上の氷塔を破壊して欲しいのです」

「な、なるほど…まぁ、それはそうですね」


それを聞いてようやく納得し、安堵の息を吐きつつ返す。

聞いたリーダーは「ふふっ」と笑い、ティーエが何だか妙な顔をした。


何かがあるのかと顔を見ると、ティーエは慌てて顔を背ける。

何なんだ?と、思いはしたが、「それで、返答は?」とラーシャスに聞かれて、そちらに顔を向ける事となった。


「勿論だ。ここまで来たらやってやるだけさ」


覚悟はすでに決めていた為に、それにはすぐに言葉を返す。


「塔が壊されれば力が戻る。そうなれば数での劣勢は覆せる。これが、反撃の為の第一歩だ。死なない程度に必死で頑張れ」


返って来た言葉がそれだったので、


「死なない程度なのに必死と来たか…」


と、苦笑いをしながら答えて置いた。


「作戦が成功した場合には、そのまま敵軍の後方を突いて下さい。それと呼応して本隊が動き、敵軍を一気に殲滅します。この辺りの事は部隊長に伝えておきますが、一応、念頭には置いておいて下さい」


リーダーの言葉に「わかりました」と言う。

そこで会議は終了となり、私達はまばらに小屋の外に出た。


「そう言えばどうやって塔を壊すんだ?流石に剣や斧では無理だろう?」


その時になってふと思い、振り向いた上でラーシャスに聞く。


「大丈夫ですわ。その点はもう、しっかりと根回しを済ませていますから」


答えてくれたのがティーエであったので、「そ、そうですか…」と言って納得する事にした。


「お前の家がヒントになったのだ。何、じきに答えは分かる」


ラーシャスが言って「ふふふ」と笑う。

それに対しては顔を顰め、私は「ほーぅ…」という言葉を返した。


挿絵(By みてみん)




フォーリスが我が家を訪ねたのは、それから8日後の朝の事だった。

アブディクル軍が進軍を開始し、ラーズ公国に向かっていると言うのだ。


私達は準備を整え、全員でプロウナタウンに向かった。

フォックスにここまでの事情を話して、ルニスやロニア、クラスの事を預かってもらう為である。


「私も先生とご一緒しますよ。ロニアとはもう話し合いました。少し腕がなまっているかもしれませんが、皆さんの足は引っ張りません」


そう言ったのはクラスであり、本当に話しているのであろう、ロニアは何も言わなかった。

ただ、不安そうな顔はしていたので、「良いのか?」と一応質問してみた。


「良くないけど仕方ないだろ…あたしはこの人のこういう所に惚れたんだから…」


全くもってごちそう様である。

聞くんじゃなかったと一瞬思う。


「それでは力を貸してくれますか?」


ここまで引っ張って「駄目だ」とは言えないので、クラスにそう聞いて「勿論です」と言われた。


「ひゅーひゅー。アツアツじゃーん?」

「ちょ、か、からかわないでよ!」


レーナが言って、ロニアが照れる。


「あたしはこの人のこういう所に惚れたんだから」


すかさずルニスが真似をして、「怒るよ!」と、ロニアに叱られていた。


それから歩き、20分程で、フォックスの医院の前に着く。


「まぁその、なんじゃ。無理はするな。老いぼれより先に死んではくれるなよ」


事情を話すとフォックスはそう言い、ルニスとロニアを預かってくれた。


「絶対に、絶対に帰って来て下さいね!失禁しても脱糞しても、生きて帰って来てくれるなら思いっきり抱きしめて上げますから!」


こちらはルニスで、その言葉には苦笑いをしながら「ああ」と言う。


「この歳で未亡人にしたら許さないんだからな…」


それからロニアがクラスにキスをし、目にした全員が「ぽうっ…」となった。


「そ、それでは行くよ。そちらも気を付けて」

「お、おう。こっちの事は任せとけ」


私が言ってフォックスが言う。

どちらも若干動揺気味な為、なんだか締まらない別れと言える。


「それじゃ行ってきます」


と、レーナが言って、ルニスとロニアが「頑張って!」と返す。

私の場合は心配で、レーナの場合は応援である。

この辺りからして実力への信頼に、露骨な差があると言わざるを得ない。


「(私もそれなりに強くなったんだがな…まぁ、レーナには到底適わんが…)」


そう思いつつ皆に背を向けて、馬屋に向けて歩き出した。


それから3分後には馬屋に到着し、借りた馬車でレフへと向かう。


「最終的には500人強になった。船は二隻借りてある。一隻は失敗時の離脱用。もう一隻は突入時の戦闘で、使用不可になるという想定になっている」

「500人か、凄いな…皆の憤りも相当という事か」


私の正面のフォーリスが言い、聞いた私がそう返した。


「人間の私でも思う所がありますよ。ロニアと私のような関係の者には、この事は看過しがたい事です」


これはクラスで、右正面で、そう言った後に拳を作った。


「先生の知り合いも数多く居る。こちらの方はどうかは知らないが、正規軍の方にはかなり居るようだ。サイクロップスなんかが現れた時には、流石に本部も騒然としたらしい」

「なんと……!」


おそらくバルの事だと思い、私の胸が熱くなる。

レーナもそれに気付いたのだろう、明るい笑顔で右から見て来た。


「おそらくバグダルの最大の失敗は、先生を敵に回した事だな。脅せば黙ると思っていたんだろうが、先生はそれに屈しなかった。そればかりか、敵対する最大の理由を与えてしまったという訳だ。俺達にとってはラッキーだったが、奴にとっては致命的だったな」


そんな事をフォーリスに言われ、謙遜と照れから「いやいやいや」と言う。


「実際、古代竜とフェンリルでしたっけ?それを引き入れたのは先生のご活躍だし、そこは誇って良いと思いますよ」


と、続けたクラスにも「いやいやいや」と言い、私の耳たぶは焼けんばかりになった。


「そ、そう言えばあちらの予測兵力はどうなんだ?500人も集まったのは凄い事だが、相手がそれのウン10倍とかだったら、流石に皆戦意を失うぞ?」


照れ隠しの為にそう聞くと、フォーリスが「そうだな」とまずは言った。


「正規の兵は4万と聞いて居る。大陸中央と南ディザンに後詰の兵が1万は居るらしい。塔への割り当ては正直不明だが、攻撃は無いと思っているのなら、それ程の兵は配置していないだろう」


続けた言葉がそれだったので、質問した手前「そうか」と返す。


「逆に言えば攻撃があると思っていたら、相当数が配置されていると…」


これはクラスで、聞いたフォーリスが表情を変えずに「そうだな」と言った。


「兎も角、最早行って見るしかない。偵察なんぞを飛ばした日には攻撃すると伝えるようなものだ」


続くそれには全員が頷き、そこからはしばらく会話が途絶えた。


そして、4時間程の旅が終わり、馬車は港町の広場に到着する。

私達はそのまま港に向かい、思わぬ人物と遭遇するのだ。




「おう!ちょっと間ぶりじゃのう先生さんよ!」


港に居たのはホルグであった。

我が家を建て直してくれたドワーフである。


その背後には船が見えて、多くの者が集まっている。

おそらくそれが、今作戦に参加するという者達なのだろう。


「おい、どうした?ビビっとるのか?」


言われた為に「いや…」と言う。


「あまりの数に驚いただけですよ。というか、なぜあなたがここに?」


それから改めて質問すると、ホルグは「なんじゃい」と、とぼけた声を出した。


「てっきりもう知っとるのかと思うたが…」


そう言いながら尻を向け、足元に置いていたシートの端を持つ。


「これじゃ!これを完成させて、持ってきたという訳じゃ!」


そして、言いながらにシートを除けて、「これ」を私達に見せつけてきた。


「グチャドロ。白濁液塗れの女。第8巻。ドワーフ編…?」


飛んで来たのは一冊の本。

拾った後にそう言うと、「そっちじゃねぇ!?」とホルグは叫んだ。

真っ赤な顔で本を取り、「こっちじゃこっち!」とそこを指さす。


見ると、シートの下には我が家に置いてある、ガルガンチュアに似たモノがあった。

ただし、長さは1、5倍程、重量もそれに比している。


「それとグチャドロとどういう関係が?」


とは、悪気は無いのだろうクラスの言葉で、これにはホルグは涙目で「グチャドロは関係ねぇ!」と抗議していた。


「あ、あの、もしかしてあれじゃないですか?塔を壊す為の秘密兵器と言うか…」


哀れに思ったのかレーナが言って、ホルグが「そうじゃ!」とレーナを指さす。

指さされたレーナが一歩を下がるのは、ページが開いたグチャドロのせいだろう。


「ア連と公国から依頼されてな、少し前から作っとったのよ。一昨日になってようやく完成してこうして運んで来たという訳じゃ。火力は以前のおよそ6倍。ちょっとした丘なら吹き飛ばせる威力よ。名付けて狂槍ガルガンチュアマークⅡという所じゃ」


本を隠してホルグが言って、私とレーナが「おぉー」と驚く。

プロトタイプを知らないクラスは、目を瞬かせてそれを見ていた。


「(私の家がヒントになったとは、なるほど、こういう事だったのか)」


ラーシャスが言っていた事を思い出して、言葉に出さず私が思う。


「早速船に運び入れてくれ。手が足りないのなら何人か呼ぼう」


おそらく存在を知ってたのだろう、フォーリスは冷静にそう言った後に、船の近くに集まっている数人に向かって声をかけた。


「なんすか?」


やってきたのは3人の男性で、フォーリスに「運ぶのを手伝ってくれ」と言われて、嫌がりもせずにそれを受けた。


「右の船だ。先に乗ってくれ」

「わかった」


フォーリス言われ、船へと向かう。


「ちょっと待て」


とは、ホルグの言葉で、立ち止まると近くの箱を漁った。


「ほれ」

「おっと!?」


そして、何かを投げ渡して来たので、落としそうにながらそれを受けた。


「ミスリル製の胸当てじゃ。モヤシの先生さんでもそれならイケるじゃろ」


ホルグが口にしたように、それはミスリル製の胸当てだった。

重さとしてはそれほどでは無く、だが、固さは相当のものと聞く。


「すみません。お借りします」


ホルグの好意をありがたく受け、レーナに手伝って貰ってそれをつけた。


「気張って来い」

「ありがとうございました」


ホルグが言って、私が返す。

それから人をかき分けて進み、左右に停泊する船を見上げた。


手すりまでの高さが5m程の、かなり大きな帆船で、右側の船にはもうすでに100人ばかりが乗船している。


「おっ?先生殿?どうしたのだこんな所に?」


と、どこかで聞いた声が聞こえて来たのは、丁度そんな時の事だった。


見ると、右の船の上に赤い道着の男が見えた。

その隣には白い奴が居て、「奇遇だなー」等と暢気に言っている。


「何をしているんだ!?」


と、驚きを返すと、二人は「バイトです」と真顔で言った。

渡し板を上って船に乗り、右に歩いて二人に向かう。


「どういう事だ…?」


と、改めて聞くと、「いや、水夫として?」と、フレイムが言った。


「早い話がクビになった。悪い噂ばかりが広まっていたからな」


これはヒョウセツ。

危機感は無いのか、言った後には「ハハハ」と笑う。


「あー、つまりクビになって、そんな時にこの仕事をたまたま見つけたと?」


それには二人で「そうだな」と言い、「まだ仕事はしなくて良いとか、訳のわからん事を言われたがな」と、フレイムが言って二人で笑った。


「(なんか勘違いしてません…?教えてあげた方が良いんじゃないですか…?)」

「(いや、何だかんだで頼りになる連中だ。ここは申し訳ないが協力してもらおう)」


レーナの小声に小声で答える。


二人は瞬きをしてそれを見ていたが、何を言ったのかは気付いていなかった。


やがて、ガルガンチュアが運び入れられ、左側の船が先に出港する。

私達の船は少し遅れて、その船の後ろに続くのである。


「目的地に着くのは明日の6時だ!今の内に体を休めておいてくれ!」


誰かの言葉で皆が動き、思い思いの場所に散る。

私はレーナと船尾に向かい、後ろに流れて行く景色を見ながら、迫り来る戦いに緊張を高めた。




翌日の午前3時の時点で、船は目的地に着く事は出来た。


が、視界を確保する為に、その沖合で3時間停泊し、太陽が出始めた頃に錨を上げて、目的地への接近を開始した。


幸いな事に軍船は無く、砲撃されるという事は無かった。

しかし、眼前に広がる光景を見て、全員が驚きの声を上げたのである。


「凍っているのか…湖全てが…!」


誰かが口にしたように、湖の全てが凍り付いており、遙かに見える氷塔までの、湖面が氷と化していたのだ。


季節は秋で、暑くは無く、かと言って涼しいと言う程でも無い。

例えば冬でもこう見事には、この湖は凍り付かないだろう。


という事は、何らかの力が作用して居る訳なのだが、ここまで来てしまった私達には、もはや引く事は出来なかった。


「兎に角上陸だ!上陸を進めろ!」


誰かが言ってボートが下りる。


いよいよ作戦が開始されたのだ。


その時にはフォーリスが近付いて来て、「行くぞ」と言って決行を示した。

あちらの船からもボートが下りて、次々に人が上陸して行く。

私とレーナは装備を確かめて、クラスと共にボートに乗った。


「どうしたのだ?何だか騒がしい感じだが?」


暢気な顔でフレイムが寄ってくる。

後ろに立っているヒョウセツ等は、鼻クソをほじって飛ばしている始末だ。


「何やってんだ!突っ立ってないで手伝え!!」


が、二人は誰かに捕まり、ガルガンチュアの搬送を頼まれる。


「おっ!仕事だな!」


と、勘違いだが、やる気になったのでそれを放置し、下りて行くボートから戦場を見て、息を整えて緊張を緩めた。


「俺達の呼び名はE班となっている。任務はガルガンチュアの防衛、及び、塔の破壊にある。他の4班が前線を支える。ガルガンチュアはなんとしても死守しろ」


これは横手で羽ばたくフォーリスで、聞いた私と何人かの者が、声は出さないが頷きを返す。


ボートが下りて、漕ぎ出した頃には、100人程が上陸を済ませており、隊列を組んで周囲を警戒し、続く上陸者を浜辺で待って居た。


「A班全員上陸完了!」


そんな声が聞こえて来た頃、私達のボートが岸に着く。

乗って来たボートはすぐに戻って、入れ違いに着いたボートから、30人ばかりが上陸してきた。


「B班も全員上陸完了!!」


浜辺の向こう、湖との境目で隊長らしき男が叫ぶ。

そこには先のA班と、集結し終えたB班が居り、200人ばかりの大人数で武具の確認を行っていた。


「おいおい、これは一体何なんだ?まるで戦争でもするような勢いだが?」


言いながら、フレイムが上陸してくる。

その向かいにはヒョウセツが居り、二人でガルガンチュアを持ち上げている。


「勢い的にはそんなものだな…」


正直に言うか迷ったが、長くなりそうなので敢えてそう言う。

聞いたヒョウセツは「という事は祭りか!」と言って、「イェー!」とフレイムと喜び合っていた。


「平和な奴らだな」

「知らんとは言えな…」


フォーリスが言い、私が返す。


「おっと!?」

「おいぃぃヒョウセツぅ!」


直後にはガルガンチュアを落としたので、フォーリスは「おい!?」と、少し焦った。


「C班上陸完了!」

「D班も上陸完了だ!」


浜辺の境目から声が聞こえる。

それを聞いたフォーリスは「E班も上陸完了だ!」と、気を取り直してそれに続いた。


「それでは進軍を開始する!A班B班は正面に展開!C班とD班は後方に続き、敵補足後には左右に展開しろ!E班は最後尾でガルガンチュアを死守、場合によっては援護を頼む!」


おそらくA班の隊長だろう、30才位の男性が言い、各部隊の隊長が「おう!」と返して、A班とB班が進軍を開始した。


部隊の人数は大体100人で、私達E班は50人程度。

残りの数十人は船に残り、いざという時の撤退に備えるようだ。


「行くぞ」


フォーリスが言って歩き出す。

E班の者がそれに続き、浜辺を抜け出して湖面に足をつく。


「気を付けて下さい。滑りますよ」


と、レーナに言われた直後に転びかけ、危うい所でクラスに救われた。


それから1キロ程を歩いただろうか。

湖上の氷塔が近くなった頃、先頭集団から声が上がる。


「敵発見!数、約200!」


それは即ち戦闘の開始を告げる合図であった。


「突撃開始ィィィ!!!」

「オォォーー!!」


A班、B班の者達が抜刀し、直後には前方に突撃して行く。


「C班は左翼に回る!」

「D班は右翼!遅れるな!」


C班とD班もそれぞれ動き、左と右に散って行った。


「E班は前進だ!ガルガンチュアを死守しろ!」

「おう!」


フォーリスの言葉に皆と呼応し、腰に下げていた剣を抜く。

前方ではすでに戦いが開始され、両軍から魔法が飛び交っていた。


爆風、電撃、強風により、両軍からは被害が続出し、彼らの苦痛の声を聞きつつ、E班は少しずつ前進して行った。


「(今なら助かる命もあるが……)」


そう思っていると、空中から数匹の飛竜が飛びかかって来た。

飛竜の上にはゴブリンが乗っており、弓を連射しつつ近付いてくる。


この矢はレーナが弾いてくれて、私はその隙に電撃を放った。


その事によりゴブリンが落ち、操り手を失った飛竜は飛び去った。

他の飛竜も撃退をされ、安堵の息が場に漏れる。


「もしかして本当に戦争なのか…?」


と、フレイムがヒョウセツと顔を見合わせた頃には、前線の勝利は濃厚となっていた。


C班とD班が攻撃に加わり、半包囲の陣が完成したのだ。


元々の数での不利に加え、半包囲が成った事で敵は後退。

見る見る内に倒されて行き、包囲はどんどん狭まれて行く。


「よし!好機だ!塔に近付くぞ!」


フォーリスが指示し、E班が動く。


「何だ!?」


塔の近くで爆音が鳴り、炎柱が上がったのはその時だった。

それは連続して何度も起こり、多大な被害をこちらに及ぼした。


隊長達はやむを得ず、後退の指示を出したようで、その事により敵軍は、一気に反撃に出て来たようだった。


「後退だ!」


その判断は最速だったが、言った時にはもう遅かった。

フォーリスの目前には一人の敵が、猛然と迫って来ていたのである。


「くっ!!?」


辛うじて攻撃を受けたフォーリスだが、その攻撃で剣を飛ばされる。


「ぐはあっ!!?」


続く攻撃で肩を切られ、腹を刺されて蹴りを喰らった。

フォーリスはそのまま左に吹き飛び、血の線を引きながら滑って行った。


「あれあれ?どこかで見た顔だねぇ?こんな所までノコノコ来ちゃって…」


剣を舐めてそいつが言った。

帽子こそかぶって居なかったが、それはいつか私を襲った、配達員に化けた男であった。


今は両手に剣を持ち、「にたにた」と笑ってこちらを見ている。

その恰好は氷上にも関わらず、胸元が開いた黒メインの服だ。


「うおおおおっ!!」


すぐにも誰かが切りかかったが、一瞬で首を刎ねられてしまう。

男はそれを笑って眺め、「あっ」と、何かを思い出したように言った。


「そっか。復讐に来た訳か?じゃあやっぱりアタマに来たんだ?…だったら相手をしてあげないと、ね!!」


直後にはそいつは私に飛びかかり、レーナの割り込みに剣を合わせた。


「あれ?」


と言いながらもう一刀を振り、それはレーナに「すっ」とかわされる。


「あれあれ?」


と言って更に振るが、レーナの体を捉える事は無かった。


「やっべ!お姉さん強いじゃん!」


男が笑い、舌なめずりをする。

レーナはそれを無言で受けて、左手から火球を連続して放った。


「先生はガルガンチュアを!わたしはこいつを引き離します!」


言って、飛び出して来た男と共に、ガルガンチュアから距離を取る。

その時には前方から敵が来ていた為に、返事は出来ずに防衛に入った。


敵の構成は主にオークで、中にはトロルが混じっている。

魔法を使うのはラミアのようで、これにはクラスは辛そうだった。


だが、それでも戦い続け、私達は数による優位によって、少しずつ敵を押し返して行った。


オークを斬り、魔法を放ち、私はいくつもの命を奪った。

今までの人生とは逆の事をしている自分に、疑問を感じる部分もあったが、今は仕方が無い事だと思い、歯を食いしばって戦い抜いた。


そして、ようやく勝ちが見えた頃、レーナが男を吹き飛ばしたのである。


「いやいや参った!降参降参!ホラ、武器も持ってないよ!念の為に両手を上げようか?」


男が言って立ち上がる。

それから両手を上に上げ、一人で「ククク…」と笑い出した。


「何て言うと思ったかヴァァァァーカ!!!!テメェラの考えなんてお見通しなんだよぉぉ!!」


男の言葉に地面が揺れる。

いや、地面では無く、湖の凍った湖面が揺れているのだ。


「何で湖が凍ったと思う?わざわざ凍らせたって訳じゃない。こいつらが居たから凍ったってだけさ!」


男が言って、上着を脱ぎ捨てる。


直後には「さぁ、第2ラウンドと行こうか!」と言い、体を「バキバキ」と鳴らし始めた。


それと呼応して湖が割れ、氷の竜が姿を現す。


アイスドラゴンと呼ばれている、蛇のような体の巨大な竜だった。


その数は少なくとも100体は居り、遙かに見える二隻の船はすでにそれらに巻き付かれていた。


一方の男は体を巨大化し、手足には爪、口には牙を出し、頭には三本の角を生やして、白い息を「ふぅぅぅ…」と吐いていた。


体の色は青紫で、背中には同色の翼も見える。


いつか見たアークデーモンとかなり近いが、体はそれの2倍はあった。


「この姿に戻ったのは久しぶりだぁ…楽しませてくれよなお姉さんよお!!」


男が言って、拳を振り上げ、目前のレーナに猛然と迫った。




状況はすでに最悪だ。

逃げるにしても船は無く、戦うにしても絶望的である。


どうやらドラゴンは本物では無いようで、倒せば符のようなものに戻るが、その数に於いて異様である為に、私達は確実に追い込まれて行った。


現在、あの男はレーナが相手取り、押されながらにも持ちこたえてくれている。

ガルガンチュアは置かれてはいるが、フレイムとヒョウセツの防衛により、何とか無傷の状態だった。


他の隊は隊長を失い、隊としては機能をしておらず、このままで行けば近い内に全滅する事は必至と言えた。


「どうするのだ先生殿ォ!?このままだと皆全滅するぞ!」

「というかこんな事は聞いておらんぞ!これで飯だけ給料無しとか、ブラックもブラック、ダークマタークラスだぞ!」


フレイムが言い、ヒョウセツが続く。

そう言いながらにも倒している辺り、流石の二人だと言って良い。


一方の私はオークを相手取り、魔力の球をぶつけて飛ばしたが、直後に現れたトロルの攻撃で、バランスを失って湖面に倒れた。


トロルは巨大な拳を振り上げ、とどめを刺そうとそれを下げて来る。


「先生!!」


だが、ギリギリの所でクラスに助けられ、私は一命を取り留めたのである。


「助かりました!」


言いながら、トロルの顔に火球を放つ。


「ウォォォォ!!?」


炎が苦手なトロルは呻き、顔を掻きむしってたたらを踏んだ。


「撃て…ガルガンチュアを…!このままではどうせ全滅だ!死中に活を見出すには、もはやそうするしか術は無い!」


聞こえた声に振り向くと、腹を押さえたフォーリスが立っていた。

流血が激しく、顔色も悪い。


しかしすぐにも空中に飛び、ドラゴンに切りかかりながら「撃て!」と言った。


「やりましょう先生!道は私と彼らで開きます!」


クラスの言葉に私が頷く。


「フレイム!ヒョウセツ!協力してくれ!」


それから二人に声をかけ、「前方の確保を頼む!」と言った。


「お、おう!」

「良く分からんが任せろ!」


二人が言って光線を放つ。

その事により一時的に、後方のドラゴンが一掃され、二人はその後に前方に行き、進路の確保と維持に努めた。


射程距離の100mまでは、あと20mという所だろうか。


「ぐああっ!意外に重いな…!!」


湖面に置かれたガルガンチュアを持ち、何とか抱えて一歩を進んだ。


「先生!逃げて下さい!」


と言う、レーナの声が聞こえたのは、その直後の事だった。

右を見ると、レーナは男の巨大な右手に掴まれていた。


そして、男はこちらに向けて猛然と近付いてきていたのである。


これを失えば負けは必至。

かと言って守っても負けは必至だ。


「ならばせめて一歩でも進むッ!!」


結果として私はそのまま進み、僅かでも塔に近付こうとした。

ここで諦めれば即終了だが、諦めなければ万が一にも奇跡が起こると考えたのだ。


一歩、二歩、三歩と進んだ時、男が「バカめ!」と左手を振り上げた。

それでも更に一歩を進み、「いやあああ!」というレーナの悲鳴を耳にする。


「(これまでか…!)」


と、両目を瞑るが、拳は私に当たらなかった。

何者かが私の横に立ち、奴の左手を受け止めたのである。


「結局の所関わっちまったか…親の言う事は聞けよなホント…」


見ると、親父がそこに立っていた。


両手を使って左手を止め、苦笑いをしながら私を見ている。


「格上だからな、時間稼ぎしか出来ねえぞ!」


そして、そう言って拳を押し返し、「うぉおおおお!!」と、男に殴りかかった。


「ぐあっ!!テンメェェ!!?」


顔面を殴られた男が揺れて、レーナを握っていた右手を緩める。

この事によりレーナはそこから脱出し、親父と共に男に向かった。

正直、なんと言って良いか分からず、私はそれを「ぼうっ」と見ていた。


「何やってんだ!さっさとブチ込め!!」


が、戦う親父にそう言われた為に、我に返って前方に進むのだ。


「撃て!!」


頭上で戦うフォーリスが言い、


「撃って下さい!!」


トロルと向き合うクラスが言ってくる。


「良く分からんが撃て!」

「そうだ撃て!…で、何を?」


これはフレイムとヒョウセツで、聞かれたフレイムは「さぁ?」と言っていた。


「早くしろ!もうもたねえぞ!」

「先生!早く撃って下さい!!」


親父とレーナの声を聞き、苦悶の表情で更に進む。

そして、ようやく射程範囲に入り、私はガルガンチュアのボタンを押した。


火花が飛び散り噴煙が出る。


直後には「ガタガタ」と震え出し、支えている私の体も揺らした。


揺れが激しくなり、炎が噴き出す。

それと同時に体が引かれたので、ここで私は両手を離した。


「行け!狂槍ガルガンチュア!反撃の一歩を刻む為に!」


ガルガンチュアは真っ直ぐに飛び、炎を噴き出して進んで行った。

私達はそれを無言で見守り、塔に直撃する様を見た。


爆音が轟き、大爆発が巻き起こる。


氷塔はやがて傾き始め、ガルガンチュアが当たった場所から、折れるようにして倒れて行ったのだ。


「やった…やったぞ!」

「ウォォォォォー!!!」


誰かが言って、皆が呼応する。

私は小さく拳を作り、心の中で「よし!」と言った。


「おい!見ろ!」


多数のアイスドラゴン達が、符に戻り始めたのはその時で、死中に活が見え出したのは、それと同時の事であった。




私達はそこから反撃し、残った敵を掃討した。

例の男も抵抗したが、レーナに親父、それにフレイムと、ヒョウセツを相手にしてついに降伏。


「参った参った」


と、その姿のままで言い、わざとらしく両手を上げた。


「ふぃー…ヤレヤレ…なんとかなったか…あいつはデモンロード様だぜ?息子の為とは言え無茶をしたもんだ?」


フォーリスの治療をしていると、恩着せがましく親父が言ってきた。


だが、実際に助かったので、「悪かったな」と言うと満足そうに笑った。


治療の結果、フォーリスは助かったが、しばらくの間は戦え無くなった。

その事を本人に伝えると「ドMが過ぎたな」と、笑っていたので、「まぁな」と返して苦笑いをしておいた。


「それで…ぉゃ…は…何をしに来たんだ?」


立ち上がってそう聞くと、親父は「あ?」と目を大きくした。


「いや、だから…お、おや…親父は…一体ここに何をしに来たんだ…?」

「あー、おやじって言ったのか!はっはっ、そうかー親父ねー」


言い直すと嬉しそうに、私の肩を「バンバン」と叩くのだ。


「まぁ、回答しては別にだな。お前を見張ってたらピンチになった。だから助けに来たってだけだ」


それから言って、「わかったかーん?」と言い、どこかに行こうとして歩き出した。


「あーヤメだヤメ。我慢できねーわ…」


これは例の男の言葉。

直後には両腕を「すうっ」と下ろし、


「俺って割とワルオだからさぁ、そういうほのぼの展開ってーの?虫唾が走って仕方ねーんだよね…」


と、呟いた後にこちらを向いた。


口を開き、何かを吐きつける。


それが光線だと分かった時には、私の目の前は真っ白になっていた。


誰かが前に飛び出したのはその時。


正面から奴の光線を受け、爆発に呑まれて姿を消した。


その爆風に飛ばされて、起き上がれずに私は思う。

あの背中は親父であった。

間違い無く親父であったと。


爆風がやみ、土煙が引いた頃、現れた親父は「へへっ…」と言って、その場に前屈みに倒れたのである。


「貴様ぁぁあ!!」


これはフレイムで、ヒョウセツと共に男に向かって殴り掛かった。

どうやら男がやる気のようなので、レーナもそれにすぐに続いた。


「おい…イアン…」


倒れたままで親父が言って、私が這って近付いて行く。


「冗談だろう…」


と、笑って聞いたが、親父は何も言ってくれなかった。


「こっちに来た理由、聞いてたよな…?」


訳が分からないが「ああ…」と言う。

親父は「ぐうっ」と呻いた後に、体勢を変えて仰向けになった。

体の表面の殆どは火傷、おそらく内臓もズタズタだと思われる。


「待って居ろ、すぐに治療をしてやる」


そう言うも、親父は右手で制した。

無駄だという事を伝えたいらしい。

感情論抜きならその通りだが、私はここではそうしたくなかった。


だが、親父は治療を受け入れず、「教えてやるよ」と言ったのである。


「半分はお前に会う為だ…こいつは前に話したがな…で、もう一つの半分は、あいつの墓参りに来る為だった…つってもお前、家燃やしただろ…?探すのに随分苦労したぜぇ…?ま、なんとか見つけられて……目的は達成できたけど…よ…」


言って、親父は大量の血を吐いた。


「勘弁してくれ…」


と、涙目で言うが、親父は「やだね…」と言って笑った。


「まぁなんだ…俺ぁ魔族だが…そんなに悪い気分じゃねぇぞ…?息子に看取られて死ぬっつう事によ……あいつと出会って、お前を産んで……良かったと思うぜ…本当にな…」


そして、私の頭を撫でて、親父は両目を瞑ったのである。


右手が落ちたのはそのすぐ後の事。


安らかな顔で親父は逝った。


「ザマァァァ…!!」


一方の戦いも決着しており、男は人間の姿になっていた。

私は無言でそれに近付き、剣を拾って男を刺した。


「気が済んだか…?へへっ…!」


男はそう言って血を吐いて、笑ったままで命を終えた。


「ああ…少しはな…」


私は言って、剣を捨て、両目から溢れ出す涙を拭った。


イアンのおやっさんもアークデーモンクラスです。

ので、デモンロードには適わんのですよ…

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