帰宅、そして
どうやら風邪をひいちまいました。
投稿が遅れてすみませんです。
あと、途中に見取り図も載せました。
出来栄えについては言わずもがな…で…
ロイツ鉱山での仕事を終えて、私はその足で我が家に向かった。
トランクの中には医療道具と、貰ったばかりの給料が入っている。
この内の40万をホルグに渡せば、私の仕事は一先ず終了で、もし、完成していない場合には城で待てば良いだけとなる。
「はてさて、一体どうなっているかな」
森の中から進み出て、家へと続く道を行く。
しばらくすると何かが見えて来て、私は驚きから「おぉ!!」と言った。
結論から言うなら家は出来ていた。
驚き三乗の三階建てである。
三階はどうやら飾りのようだが、そこからの景色は格別だろう。
「流石だな…ドワーフの仕事には敬服させられる…」
三階建てとは聞いて居なかったが、私は普通に感動していた。
見上げながら脇道に行き、壁を擦りつつ裏庭に行く。
そして、そこで肉を焼いていたホルグの横顔を見つける事が出来た。
「おう!来たか先生さんよ!どうじゃ!予告通りにひとつきで完成よ!ワシらの腕に恐れ行ったろうが?」
その言葉には「ええ」と言う。
合わせたという訳でなく、心底、本当に恐れ行っていた。
「暇なんであそこに井戸も掘った。が、ワシらも使ったからな。あれの代金は必要無い」
指された場所には井戸があり、汲み出す為の道具もあった。
「ありがとうございます。助かりますよ」
非常にありがたい事であるので、そこには素直に礼を言って置く。
「それでは中を案内しよう。先生さんも見たくてたまらんじゃろう?」
まるで、テストで100点を取った子供だ。
ホルグは満面の笑顔を湛えて、私の返事を心待ちにしている。
「別に?」と言ったら打ち壊し兼ねないので、そこは素直に「ええ」と返した。
「そうじゃろうそうじゃろう!ならば早速表に行こうか!」
肉を置いて立ち上がり、ホルグが早足で表に向かう。
その表情ははつらつとしており、行動は実に活き活きとしていた。
私は生憎創作家ではないが、ホルグはそれだと言って良い。
彼らにとって作品の発表は、きっとそれなりに嬉しい事で、そこで誰かに褒められるという事は最上の事ではないかと思う。
普段は不愛想なドワーフが「にこにこにこにこ」している理由も、きっとそこら辺にあるのだと思われた。
「さて、ようやっと到着じゃ」
脇道を抜けて表に到着し、玄関の前でホルグが止まる。
私はその横に並んで立って、二つある玄関に目を瞬かせた。
「まずは玄関。見た目の通り、私用と仕事用で別々にした。正面のが私用、あっちのが仕事用じゃな。こっちを使われたら意味が無いで、後で看板でも建てるとええ」
言って、正面の玄関を引く。
ホルグが中へと入って行くので、少し遅れて後ろに続いた。
「まぁ、この辺りは前と同じじゃ。靴箱に廊下な。じゃが、あそこで左に曲がると先生さん達の私室に行ける。右を開けると診察室じゃな」
「ほほう…」
相槌を入れつつ廊下を歩く。
少し行くと左に廊下が、そして右にドアが見えた。
「開けてみても?」
「ええともさ」
聞いた後にドアを押す。
「おお!これは素晴らしい!」
白く眩しい診察室が現れ、私は驚嘆の声を上げた。
まだ、器具が無い為だろう、かなり広めの部屋に見えたが、入れたとしても以前よりは2割位は広いと思われる。
「
あそこのドアが待合室に、そっちのがダイニングルームに繋がっとる。あと、一応暖炉も作った。半年後までは出番はないがな」
右、斜め前方を指し、それから左のドアを指さす。
暖炉は部屋の右端にあり、確認した私は「ほうほう」と頷いた。
「待合室とはありがたいです。以前にもちらほらと意見はあったので」
言うと、ホルグは「そうじゃろう?」とニタつく。
「待っておる間に家人と会うのはな、あれでなかなか気まずいものなんじゃ。あそこならば誰にも会わん。あのクソ生意気なガキンチョともな」
どうやらフェネルの事らしいので、そこには「アハハ…」と苦笑いをしておく。
「さぁ来い。まだまだこれからじゃぞい」
そこから少し真っ直ぐ行くと、左右にそれぞれドアが見えた。
ホルグが言うには右がキッチンで、左が応接室のようだった。
私達はまず右へと入り、キッチンを兼ねたダイニングを見る。
左の奥には竈が見えて、その手前にはカウンターがある。
出来た料理を置いてくれれば、私達でも配膳が出来そうだ。
「あそこの階段から二階に行ける。が、ちっと後回しじゃ」
方向としては入口の右、二階に続く階段を指さし、ホルグが部屋から「すたすた」と出て行く。
そして、応接間のドアを開けて、「こっちじゃ」と言って中へと入った。
何やら順番があるようなので、何も言わずにそれに従う。
「おぉ…ここも広いですねー…」
今は少ない家具を除いても、見た目ではここも前より広い。
もし、色々と置いたとしても、それでもだだっ広いという印象である。
「(流石に無いか…)」
悲しい事に落書きは無かったが、これは仕方が無い事だった。
心の中には残っているので、それを忘れなければ良いだけの事だ。
「ん?これは…?」
壁を見ていて何かに気付き、そこを右手の指でなぞった。
床からの高さは1m程か、そこに溝が走っていたのだ。
見れば、その溝は壁の左半分から前方半分の全てに見える。
「何ですか?この溝は?」
と、質問すると、「よう気付いた!」とホルグは言った。
「まぁ、とりあえずこっちに来るとええ。最大の売りを見せてやるでな」
言われた為にホルグに近寄る。
入って来たドアから見るのであれば、左前方のドアの近くだ。
そこにはボタンとクランクがあり、それを見た私は顔を顰めた。
「覚悟は良いか?それでは行くぞ!」
ホルグが言ってボタンを押した。
「プゥーン、プゥーン」という警戒音が聞こえ、ガラス戸の外に何かが落ち出した。
それはどうやら鉄戸のようだった。
その事により部屋が暗くなり、代わりに赤色の灯りが灯る。
「なっ!?」
壁が開き、武器が出て来た。
溝の部分から「ぱっくり」割れて、斜めの角度で出現したのだ。
それは左から右にかけ、「ずらり」と大量に並んでおり、宛ら武器の倉庫のようで、私は一瞬居る場所を忘れた。
「どうよ!?フォードレード医院戦闘モードは!?」
全く以て余計な機能だ。
一介の医院で戦闘モード等、使う機会は無いと言って良い。
「あー…そう、ですねぇ…」
それ故に、返事に困窮していると、ホルグは壁から槍を引き抜いた。
そして、それを持ったままで鉄戸の方へと近付いて行く。
ガラス戸を開け、鉄戸に向かい、それから一部を「きぃぃ」と持ち上げた。
現れたのは丸い穴で、太陽の光がそこから差し込む。
「何をしとる!はよう来んか!」
言われた為に近寄ると、ホルグは槍を穴に突き刺した。
その上で角度を「きゅっきゅ」と変えて、「どうよ?」と、私に質問するのだ。
「あー…質問の意味が私にはちょっと…」
正直に言うと「なんじゃと!?」と驚く。
「この防衛システムについて、良いか悪いかを聞いとるのじゃろうが!!」
と、直後には怒鳴り声を上げられたので、「良いと思います!」と、適当に合わせた。
ホルグは「じゃろうがぁ!?」と、大喜び。
槍をそのままにして「来い」と言い、応接間を出てキッチンに向かった。
「こっちじゃ」
遅れて行くと階段に居た。
二階に上がって通り過ぎ、三階に上がって屋上に着く。
思った通り何も無かったが、緑の大きなシートが見えた。
何だこれは?と、思っていると、ホルグはその横で「ぴたり」と止まった。
「これぞワシの生涯の傑作!技術の粋を凝らした逸品よ!括目して見ぃ!ガルガンチュアをォォォ!」
そしてシートを「ばっ」と除ける。
現れたのは私の背丈程もある、巨大で極太な一本の槍だった。
60度ばかりの射角を作られ、謎の器具に乗せられている。
「が、ガルガンチュア…?」
呆れを通り越して恐れていると、ホルグは「うむ」と力強く頷いた。
「こいつは対ドラゴン用の、火薬を満載した殺戮兵器じゃ。ワイヴァーンなんぞならイチコロじゃし、ええ場所に落としたら50人は殺れる。正式名称は狂槍ガルガンチュア。世界でたったの一本の代物じゃ」
両腕を組んでホルグは言った。
実に、自信満々である。
多分、ホルグはこれをこそ、私に一番見せたかったのだろう。
「これは素晴らしい!」と、褒め称えられて、色々と質問して欲しかったのだろう。
が、私の反応は、「そうですか…」と言うたったの一言。
ハッキリ言って要らないものだから、この反応は仕方なく、それを聞いたホルグが「ブッ!?」と、鼻水を噴き出したのも仕方が無かった。
意思の疎通が無かった事が、今回のお互いの悲劇の原因だ。
「ま、まぁええさ…まだもう一つ隠し種はあるでな…」
まだあるの…と言う気持ちを押して、「はぁ…」と言って後ろに続く。
ホルグは再び応接間に行き、右端の一画で立ち止まった。
そして、敷いていた布を除けて、大きな蓋を出現させたのだ。
「こ、これは…?」
どちらかというと恐怖心で、ホルグの後ろから問いを発す。
「脱出口じゃ。篭りはしたがどうにもならん。そうなった時にはここから逃げるのよ」
どうも戦闘に特化している。
ここは医院で普通の家なのに。
だがまぁ、今更要らないとは言えないので、最後まで黙って居る事にした。
「よし。ちいっと深いからな。足元には気を付けろよ」
蓋の下には穴があり、ホルグはそこへと入って行った。
私も続き、「カンカン」と降りて行く。
15メートル近く降りたか、鉄梯子が終わり通路が現れた。
高さは大体170㎝程で、横幅は1mと半程だった。
「100mばかり横に続く」
そんなホルグの言葉を信じて、赤い照明の通路を進んだ。
ホルグにとっては余裕があるが、私の背には少々キツイ。
身を低くして進むと言うのは意外に腰に来るものなのだ。
ともあれ、それでしばらく進み、ホルグが止まって私も止まる。
正面はどうやら行き止まりのようだが、右手の壁にはレバーが見えた。
脱出口と言うのであれば、それがアレなのは間違いは無い。
ホルグも説明は不要と思ったか、何も言わずにレバーを引いた。
すると、正面の壁が動き、太陽の光が差し込んできたのだ。
「開き切った後に10秒程で閉まる。とりあえず出るぞ。挟まれるなよ」
そう言いながらホルグが動き、片目を閉じて私も続いた。
「なんと、ここに出るのですか」
通路の外には荒野があった。
背後は絶壁、その上は森である。
つまり、我が家の西に広がる荒野の中に出られるようだ。
「逆に中に入る場合は、ここの石を三回踏みつけろ。具合が悪い時にゃ四回になるが、まぁ、大体三回で開く」
言った後に石を踏む。
閉まりかけていた扉が開いたので、私はとりあえず「なるほど」と返した。
使う、使わないは兎も角として、覚えておくべき事だったからだ。
「まぁ、以上じゃな。質問が無ければこれで終わりじゃが?」
言われた為に、「特には」と言う。
するとホルグは「そうか」と言って、開いた扉の中へと消えた。
まぁ、色々と要らないものはあるが、基本的にはホルグの好意だ。
値段も上乗せされていないしで、最終的には彼に感謝した。
約束の金額は40万だが、食費と気持ちで50万を払い、私はホルグとゲートに向かい、そこで別れて城へと戻った。
我が家へ帰る準備が出来たのは、それから2日が経った後の事。
ラルフとフィーナ、そしてシーナに、長期の滞在と面倒を感謝し、私達は新しい我が家へ帰った。
家は建て直され、仕事場も戻った。
が、すぐに以前のように仕事が出来るという訳では無い。
まず第一に薬品が無く、第二に設備を失ったからである。
帰った翌日に街へと向かい、家計の範囲内で発注したが、以前の状況を取り戻すには、まだまだ時間がかかりそうだった。
ともあれ、発注を済ませた私は、その足でフォックスの医院を訪ねた。
戻ってきた事を報告すると、「そうかそうか」とまずは頷く。
そして、「それならパーティーをせにゃいかんな」と、勝手にパーティーの開催を決めるのだ。
「お前さんが嫌でも皆がしたいんじゃよ。特にフェネル君やエリスちゃんがな。こっちに来たらワシが言うとくから、そっちに行ったらお前さんが言っとけ」
その言葉には「ああ…」と返す。
別に嫌では無かったが、かと言って大賛成という訳でも無い。
大人数で集まって大騒ぎをする。
もうご存知の事とは思うが、私はそういう行為を少し、苦手としている人間なのだ。
だがまぁ、今回はするべきだと判断し、抵抗せずにそれを受けた。
フェネルとエリスには金銭面でも、気持ちの面でも助けられたからだ。
「騒がしいのは嫌だ」と拒否すれば、どんだけ自己中な大人と映るか。
私はその点も鑑みて、パーティーの開催を承知したのだ。
「まぁ、反対はしないとしてだ、ここからはフォックスとノアが来るのか?」
聞くと、フォックスは「じゃな」と言った。
正直、部外者は流石に困るので、その言葉には安心をする。
「しばらく世間からは離れていたが、最近、何か事件はあったか?」
その上で座って質問すると、フォックスはクロスワードをやりながら、私に色々と教えてくれた。
「一番デカイ事件は多分、国が出来たという事じゃろうな。砂漠地帯のド真ん中にアブディクル帝国というのが出来た。近隣の街を支配下に置いて、軍備をどんどん増強しとるらしい」
その言葉には「ほう…」と言う。
「その国はどういう成り立ちで出来たんだ?」
と、その上で質問してみたが、そこはフォックスも知らないようだった。
「よう分からんが各国は一応警戒しとるらしいよ。この間の襲撃事件のせいで、財政が安定しとらんからな。もし、今戦争になれば、各国の経済はボロボロになる。国王だが元首だか知らんが、そいつに外交の使者を送って、お国の方向を探っとるそうな」
代わりに知っているそれを話し、私を「なるほどな」と納得させた。
西の方で騒ぎが起こる。
私の父が言った事だが、或いはこの事だったのかもしれない。
「(関わるなと言っていたが、国同士の事には関わりようが無いだろ…)」
一人で思って首を振る。
フォックスが「んお?」と疑問したので、「いや、何でもない」と言って置いた。
「後はそうじゃな…うちの首都で、死体泥棒が頻発しとるそうな。老若男女、死因は問わず、日に一体は盗まれとるらしい。実際は盗まれておるのではなく、死体が勝手に動いたんじゃないかと一部では怪談にもなっとるらしいぞ」
「気味が悪い話だな…何かの実験か、等とは思うが…」
しかし、あくまで想像である。
実際の所は分からないので、それ以上のコメントはよしておく。
「で、最後の事件じゃが、リザーブの街でライブをやるそうな。7月7日の午後19時にな」
「ヒカリちゃんか?あ、いや、ナナちゃんと一緒でナナヒカリだったか?」
それにはフォックスは首を振った。
「エリスちゃんとレーナちゃんのエリ・レナじゃよ」
そして、続けてそう言ったので、私は「なんっ!?」と、目を大きくした。
7月7日まではあとひと月ほど。
そんな事は聞いて居ないし、レーナも全く知らなそうだった。
とするとキーンの奴が勝手に決定したのだろうか。
或いはエリスの了承を得て、連鎖的にレーナの了承も得ようとしている算段なのか。
詳しい事は不明であるので、ここでも私は「そ、そうか」とだけ言っておく。
「チケットが手に入ったらワシにもくれるか?」
と、意外なミーハーを発揮したフォックスには「ああ…」と答えて置いた。
「フォックス先生。お客様です」
ノアがやってきてフォックスに言う。
珍しい事に客のようなので、「ではな」と言って腰を上げた。
「ノアもまたな」
ノアにも言って通り過ぎる。
「はい。イアン先生」
今回は名前が合っていたので、私は一人で「にやり」と笑った。
パーティーはそれから3日後の、午後の18時に開催された。
集まったのはフェネルとエリス、フォックスとノア、それプラス私達3人のいつもの7人だ。
ダイニングルームのテーブルを囲み、飲み物を片手に合図を待っており、その合図役に就かされた私は、正直かなり緊張していた。
「えー……本日は皆様お忙しい所を、遠路はるばるありがとうございます。こうして家を建て直せましたのも、皆様のご協力あっての事です。金銭面でも精神面でも、皆様には非常にお世話になりました。この場を借りてその事に、まずお礼を申し上げたいと思います…あー…その…」
困っているとフェネルが「なげぇ!!?」と言い、エリスが「乾杯だけで良いのに」と言う。
それを聞いた皆が笑うので、私も「そうか…」と苦笑いした。
「…じゃあ改めて、乾杯!」
「かんぱーい!」
私が言って、皆が続く。
「ぷはあああ!!生き返りますね!」
一気に飲んだフェネルが言って、エリスが横から「おっさんか」と突っ込んだ。
「先生、姉さんがこんな事言ってますよ!あと頭が臭いって!」
「言って無かった気がしたが…」
その報告にはそう返し、場からまばらな笑いが漏れる。
「(おっ…?)」
見ると、ノアが微笑んでいたので、私は少し面食らったが、エリスとの付き合いで芽生えたものとして、良い兆候として受け取って置いた。
ここで位置取りを書いておくと、一番南に私が一人。
そして、正面にフェネルが座っている。
その右側にエリスが座り、ノア、フォックスと言う順番だ。
フェネルから見て左側にルニスとレーナが座っており、レーナの手前が私という風に、テーブルを囲んで着席している。
テーブルの上には料理や飲み物、そして、手土産の一品が並び、皆、それぞれが好きなようにそれらをつまんで歓談していた。
「そう言えばエリスは承知したのか?7月7日のライブの件を」
聞くと、エリスは「あー」と言った。
直後にはレーナと顔を見合わせる。
「どうする?」みたいな顔だったので、何かがあると私は察した。
「えーと…」
と、口を開いたのはレーナ。
「実は二人でお願いしたんです。建て直しの費用にしようと思って。でも、すぐには出来ないらしくて、7月7日になっちゃったってだけです。今更お断りするのも酷いので、出ざるを得なくなっちゃったんですけどね…」
続けて言ってエリスと共に、困ったように「あはは…」と笑った。
「そうか…2人ともありがとう…そんな心配をかけていたとは、ここに至るまで気が付かなかった。もしもあれなら理由を話して、私からキーンに辞めてもらうように頼もう」
感謝の気持ちからそう言うと、レーナは「駄目ですよ」と両手を振った。
一方のエリスも怒った顔で、「そうよ」と私を睨んでいる。
「今から断るとプロダクションにも、ファンの皆さんにも迷惑がかかります。元々はわたし達が言いだした事ですし、今回はきちんと務めたいんです」
これはレーナ、エリスの方も「うんうん」と無言で頷いている。
宛らプロのアイドルのようで、圧倒されて息を飲む。
その様をフェネルは楽しそうに、悪魔の笑顔で「じー」っと見ていた。
「また看板を立てないとですね?近場でライブをするとなると、ファンもグゥ~ンと増えますよ?」
「それは正直、遠慮したいわね…」
ルニスが言ってエリスが返す。
だが、そうはいかない事は本人が一番分かっているようだった。
そこからも皆で色々と話し、1時間と半程がすぐに過ぎる。
「拒食症なのかしら?」
それはフェネルとエリスの会話で、そこに興味を持った私は「誰が?」と、つい、口を挟んだ。
「あー、ええと、学校の知り合い?一年上の女の子なんだけど、最近食事をしてないみたいなの。ちょっと前までは普通だったけど、体もガリガリに痩せてきたし、鬱が入って来たっていうのかな…ネガティブな事ばっかり言うようになって、サークル内でも孤立してるのよ」
返されてきた言葉がそれだ。
拒食症では無いのでは無いか。
私はまずはそう思う。
理由としては拒食症は基本的には食事をする訳で、それを戻したり、或いは飲み込まず、噛んだだけで吐き出したりする為に、栄養が取れずに体が細る。
エリスが見ていないだけという可能性が高いが、本当にその子が食事をしていないと言うなら、それはおそらく別の病気だろう。
「うーん…それだけでは何とも言えんが、それが事実なら違う気がするな…出来れば一度診てみたいものだが、ここまで足労を願うのもな」
言うと、エリスも「そうね…」と言った。
「まぁ、今度会ったら言って見るわ。ちょっと普通じゃない医者が居るから、その気があるなら診て貰ったらって」
それから続けて言ったので、「その表現はどうなんだ…」と突っ込んだ。
「アンジェラ・ラキスに中立マンカードでしょ?後はロリコン共和国にキノコ好きと来ている訳ですよ。先生、これは普通じゃアリマセーン」
右手を上げてフェネルが言った。
これには確かに一理ある為に、私は「むぅ」としか返せなかった。
「アンジェラ・ラキスって?」
と、レーナが聞いて、ルニスが「ヌード女優ですよ」と教える。
聞いたレーナは「ぇ”っ!?」と言って、私を横目で「じとり」と睨んだ。
「最近はクリス・ロアトニーじゃったな?10代でこの体は犯罪だろう、とか、嬉しそうに言うとった」
「フォックス!?」
裏切り者のフォックスが言い、女性陣が一斉に見て来る。
「い、いや、その、別の意味でな!心配する意味での犯罪と言う事でだな!」
と、訳のわからん言い訳してみたが、殆ど全員が「しらー…」としていた。
「あー…フォックスだって相当だぞ?何しろ赤ちゃんプレイだからな?新しい世界へレッツゴーとか、そんな本を持っていたよな?」
苦し紛れにそう言うと、フォックスは「はて?」と首を捻った。
「センセー…それは無いっすよ…いくら苦しい立場だからって、そんな嘘をでっち上げたら…」
直後のそれはフェネルの言葉。
聞いたエリスが「サイテー…」と言い、ノアも真似して「サイテー」と言う。
「エロくても良いじゃないですか!でも先生、嘘だけは駄目です!」
と、好意的に見える言葉の裏に刃を潜めてルニスが言ってくる。
唯一、レーナは何も言わないが、真実を求めてフォックスを見ていた。
当の本人は忘れているのか、はたまたすっ呆けるつもりなのか、「うーん」とずっと唸っており、結果として私は嘘つきとなって、皆からの冷遇を受ける事となった。
フォックスの信頼恐るべし。
反して私は濡れ紙の如し。
その時の私はそう思い、唸っているフォックスに畏怖したものだった。
その日から4日が過ぎた後に、一人の女性が医院を訪ねた。
見た目の年齢は20前後。
身長は170㎝程度と女性にしてはやや高かった。
髪の色は薄い金で、どちらかというと白に近い。
疲れた顔と動きをしており、その体は「ガリガリ」に痩せ細っていた。
「(これはアレだな…エリスの知り合いだな…)」
すぐにも思い、迎えると、「紹介で来ました…」と、女性は言った。
「それは、大学のお友達ですか?」
そう言いながら着席を勧める。
「そうです。エリス・アンブレーさんです」
座った女性はそう言って、俯いたままで私に向かった。
現在、診察室の中には椅子が3脚と机しか無い。
机は私の左手にあり、そこには一応カルテを置いている。
ルニスがその机の近くに座って、これから記入を行う所だ。
つまり、現在この部屋は診察室とは名ばかりのもので、下手をしたら臨時で借りた面接会場と変わらない。
それでも女性は何も言わず、違和感も持たずに俯いているのだ。
ちょっとおかしいな、と、感じるのは私以外の者でもそうだろう。
「えー…では、まずお名前を」
それを置いて名前を聞くと、女性は「シャウア・ノーダーズです」と言った。
ルニスがすぐに書き出したので、それを見てから話を続ける。
「次に、現在の状態を。分かる範囲で構いません」
それには女性、シャウアは黙り、少し考えてから口を開いた。
「お腹が空くんです…それに寒い……だけど普通の食べ物が見えなくて、見つからなくて困ってるんです…」
正直言って「ハテナ?」である。
ルニスもそんな表情だ。
それでも黙って待って居ると、シャウアは更に話を続けた。
「少し前までは見えていたんです。でも、どうしてか見えなくなって、代わりにその…多分…あれが、おいしそうな食べ物に見えるようになって……」
そう言ったシャウアはルニスを見つめ、
「おいしそうな肉ですね…」
と、舌なめずりした。
聞いたルニスは「ひいっ!?」と言って、カルテを落として股間を押さえる。
どう言う意味で取ったかは不明だが、身の危険は感じているらしい。
「えー…表現はまぁ自由ですが、人間を肉扱いするのはちょっと…」
言うと、シャウアは「ですよね…」と言った。
「やっぱり私は異常ですよね…人間が肉に…食べ物に見えるなんて…!」
そして、急激に顔を曇らせて、大声を上げて泣き出してしまった。
「どういう事だ…?」
声に出してルニスに聞くも、返って来た答えは「さぁ…?」というもの。
分かるはずが無い訳なので、私はそこに不満は無かった。
それから数分、シャウアは泣いて、ようやく少し落ち着いてくれた。
「敢えて聞きますがどういう意味ですか?出来れば全てを話して下さい。おそらくエリスに聞いたと思いますが、私は普通の医者とは違います。なので、全てを話して貰えれば、あなたの力になれるかもしれない」
それを見計らって私が言うと、シャウアはゆっくりと口を開いた。
「私…人間が食べ物に見えるんです…ううん、見えるようになってしまったんです」
肉、というのは本当の意味らしい。
ルニスが食べ物の肉に見えて、本当の意味でおいしそうだと思ったのだ。
「それは…なぜ?」
と、聞いては見たが、これは野暮だと直後に気付く。
別の角度で迫ろうと思ったが、シャウアはすぐに言葉を発した。
「憑りつかれたんです…あの男に…」
これまた謎な内容なので、「あの男とは…?」と言葉を返す。
「私、今年の2月にスキーに行きました…そこであいつと出会ったんです。あいつにも連れが居て、私にも一人連れが居ました。2対2だから丁度良いじゃん、とか、連れの女の子が言わなければ、こんな目には遭わなかったのに…」
何やら良く分からない話だが、私とルニスは黙って聞いた。
カルテを見ると、
「2月にスキー。男を見つけてダブルデート。イケメン1キモメン1」
と勝手に予測を付けていたので、「そこは直しなさい」と指で示した。
「ああ、すみません…」
ルニスが謝り、書き直す。
一体どういう思考であるのか「キモメン2」になっていたが、そこはもう触れない事にする。
そこからはやや、長い話だったので、以下に私が要約して置く。
シャウアと女友達はスキー場で男と逢った。
これがまぁ、イケメンだったか、ブサメンだったかは不明であるが、どうせならばと彼らと合流し、4人でスキーを楽しんでいた。
そんな時に男の片方、シャウアが言うには「痩せている方の男」が、もっと難しいコースに行こうと、他の3人に持ち掛けたのだそうだ。
シャウアと連れは初心者なので、これを一時、拒絶した。
が、大丈夫、楽しいからと言われ、仕方なくそれに従ったらしい。
結果としてはコースから外れ、4人は揃って遭難をした。
森の中を彷徨って、ようやく家を発見するが、そこは夏と春だけに使う木こりが建てた山小屋だった。
当然ながら中は無人で、食べ物等も置いてなかった。
だが、外に居るよりは良いと、4人はそこで夜を越す事にした。
そして、事件は起こるのである。
4人の内の3人が、その夜の内に死んでしまうのだ。
生き残ったのはシャウア一人。
痩せた男はシャウア自身が防衛の為に殺したらしい。
要約するとそういう事だが、不明な点は多々残る。
何故死んだのか、これが第一で、なぜ殺したのか、が続く第二。
第三が男に憑りつかれたとして、なぜ、人間が肉に見えるのか。
それらが全て不明なままだった。
「(一つずつ順番に聞いて行くしかないか…)」
そう思い、実際に聞いて行く。
「私達は二階で寝ていたんですが、目を覚ましたら私の隣で、男が連れに覆いかぶさっていたんです。最初はその…あれだと思いました。だから反対を向いたんですが、どうも、何かを食べているようで、振り向いてみたらその男は、私の連れを食べていました」
その言葉にはルニスが「げっ!?」と言い、私は無言で顔を顰める。
「悲鳴をあげて逃げたんですが、一階に男の死体があって、喉とか、胸とかを食いちぎられた、とてもおいしそうな肉でした…」
表現がちょっとおかしくなっている。
大丈夫か…と、思いはしたが、何も言わずに続きを待つ。
「私が腰を抜かしていると、男が二階から降りて来ました。このままだと殺される、私はそう思って武器を探して、どこかで斧を見つけました…それで近寄ってくる男の頭を…」
それで男が死んでしまい、3人の遺体が出来た訳だ。
第一と第二の謎が解け、第三の謎も薄々分かる。
「つまり、友達を食べた男の魂が、あなたの体に憑りついていると。そう言いたい訳ですね?」
聞くと、シャウアは「はい…」と言った。
それならそうで頼るべきは、私では無くアティアという事になる。
だが、早合点は禁物なので、もう一つ知りたい事を聞いた。
「エリス、あなたの友人ですが、彼女はあなたが食事をしないと言っていた。この点は間違いが無い事ですか?」
これにはシャウアは「いえ…」と言って、「夜中にこっそり食べていました」と、拒食症を否定する言葉を発した。
ならばやはりアティアの出番か。
そう思っていると言葉を続け、
「死体を盗んで…こっそり毎日…だけど人間だと分かってるから、耐えきれなくて吐き出して…どうして…どうして私がこんな目に…」
衝撃の告白をした上で、顔を覆って泣き出してしまう。
これは一刻も早い治療が必要だ。
このまま行けば自殺すらしかねない。
そう思った私は彼女を連れて、足早に街の教会へと向かった。
幸いにも、アティアは教会に居た。
すぐにも除霊をお願いすると、なぜかアティアはため息をついた。
「ど、どうしたんですか?」
「いえ…ちょっと自信を失くして…前に首都で幽霊騒ぎがあって、それの除霊にあたったんですが、最終奥義を繰り出しても除霊する事が出来なかったんです…なぜか勝手に消えたらしいんですけど、それ以来自信を喪失しちゃって…」
聞くと、アティアはそう言った。
何の事は無い私の事だ。
外見は幽霊でも中身は人間。
最終奥義を出したとしても、除霊が出来るはずはない。
しかし、それは言えないので「そんなことがー」とわざとらしく答えた。
「だから出来るかどうかは分かりませんよ?それでも良いのならやりますけどねー…」
なんだかもう投げ槍である。
「あははー」と虚ろに笑う様は、壊れた人形の如しだった。
「だ、大丈夫ですとも!あなたならきっとやれますよ!もっと自分に自信を持って!」
仕方が無しに元気づけると、アティアは「デスカネー?」と力無く返した。
「ですよー!」
と、口裏を合わせて返すと、アティアは「はぁ…」と大きく息をつく。
それからシャウアに顔を向けて、真剣な顔で「じっ」と見つめた。
「あっ…駄目です」
その間僅か0、5秒。
諦めるにしても早すぎる。
「も、もう少しだけ頑張って見て下さい!諦めるにしても…」
と、言おうとすると、アティアは「専門外です」と顔を向けてきた。
「どういう事です?」
「悪霊や悪魔の仕業じゃありません。これは多分、精霊的なものです」
聞くと、アティアはそう言った。
どうやら諦めでは無いようなので、分かる範囲の事を聞いてみる。
「分かる範囲と言われても…」
だが、本当に専門外のようで、それしかアティアにも分からないようだった。
「精霊の事に詳しい人か、或いは精霊自体に聞くしか…」
一応、そうは言ってくれたので、「ですね…」と適当に言葉を返す。
「精霊…自体に…精霊自体か!!」
直後に気付き、大声を出す。
神父や信者に見られた為に、「すみません…」と、頭を下げた。
精霊自体に聞けと言うなら、私にも一人知人が居た。
精霊も精霊、ああ見えて精霊の上位に位置する者が。
「助かりました。道が開けましたよ」
アティアに言って教会を後にする。
そして、ゲートを使わせて貰って、ラッドが住んでいる村へと向かった。
「師匠キタァー!!」
家の二階から飛んできての第一声はそれだった。
もはや「ポアン」という間違いすらなく、一足飛んで師匠になっていた。
だが、もはや面倒なので、それを無視して全てを話す。
風の精霊ガスパルは、全てを聞いて「ほーん」と言った。
「そりゃ多分ウェンディゴだね」
と、直後にそう言ったので、私も「そうか!」と納得できた。
精霊ウェンディゴ。
人に憑りつくが、決して姿を見せない精霊だ。
憑りつかれた当初の症状は、体の冷えと食欲の減退。
しかし、やがては人が食べ物に見え、他のものが見えなくなってくる。
必然的に生きる為には人肉を食うしか無くなる訳だ。
何やら色々と吹き込む術も持ち、殆ど睡眠学習のように、「バケモノになるぞ」と脅しもかける。
そして、それに屈した者は、自ら命を断ってしまうのだ。
言われて見て初めて思い出したが、こいつは厄介な精霊である。
何しろ姿が見えないのだから、こちらからは何も手出しが出来ない。
「え?何?追い払えばいいの?」
と、ガスパルがかるーく言ってきたので、私は「出来るのか?!」と驚いたものだった。
「そりゃあ出来るっしょ?オイラこれでもランプの魔人よ?そんじょそこらの精霊とは違うのよ?なぁんか師匠はオイラをみくびってるよね~…」
大体の原因は本人にあるが、そこは敢えて黙って置いた。
代わりに「じゃあ払ってくれ」と言うと、ガスパルは「あいよ~」とその場で回った。
「パパラパァ!!」
「ぴたり!」と止まり両腕を突き出す。
それから猛烈な風を生み出し、シャウアの体を後方に飛ばした。
「はい終わり」
ハッキリ言って嘘くさい。
シャウアの体を吹き飛ばしただけだ。
「本当なのか…?」
と、思わず聞くと、ガスパルは「どの口がゆった!?」といきなりキレた。
「普段はボケボケなオイラでも、自分の仕事には誇りを持ってます。それをけなされたら怒ります。そういう事ですよこん畜生が!」
「す、すまなかった!軽率だった!」
襟首を掴んで怒られたので、そこは素直に詫びて置く。
するとガスパルは「なら良し」と言い、私を地面の上へと降ろした。
「う…ううん…」
シャウアが起きて、頭を振るわせる。
「何でも良いから食べ物を出してくれ」
それを見た私がガスパルに頼む。
「あいよ」
と、渡されたものがうなぎだったので、それを返して「リンゴを…」と言った。
「注文多いなぁ…」
言いつつもリンゴを渡してくれる。
受け取った後にシャウアに見せると、
「リンゴですね…おいしそうです…」
と、彼女は涙を流して言った。
帰り際にラッドに捕まり、結婚式の予定を聞かされた。
ジューンブライドという言葉があるように、6月の後半に結婚をするらしい。
めでたい事なので素直に祝い、出席を約束して我が家に戻った。
この頃にはシャウアも食欲を回復し、泣きながら食事を摂っていた。
普通のものが普通に食べられる。
それは本当に普通の事だが、食べられなくなった時にそれが初めて、ありがたい事だと思えるのかもしれない。
シャウアにとっては気の毒な事だったが、食のありがたみを再認識出来た事は、私にとっては収穫と言えよう。
今回の事でシャウアに罪は無い。
ウェンディゴの性質がそうさせただけだ。
彼女には早くこの事を忘れて、年齢相応の普通の生活を送って行って貰いたいと思う。
ウェンディゴ症候群というのが、実際にあるらしいですな。




