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盗まれた日記

このお話は「地雷」と称されるフェネルが中心の話になります。

苦手な方、嫌いな方は次に飛ぶ事をお勧め致します…

内容的にはノアとエリスがとある事があって仲良くなるようなお話です。

 これは僕、フェネル・アンブレーの超個人的な日記である。

 興味本位で開いた君、悪い事を言うつもりは無い。今すぐ自警団に出頭しなさい。

 人の日記を盗み読みなんて、中立マンが許しても僕が許さないぞ!


 なーんてね!

 はいこんにちは。僕フェネルでーっす!

 机の上に何かあったから開いてみたら日記でした。


 なんで、今日は僕が親切で続きを書いてあげようと思います。

 軍曹殿! ご許可をぉぉ! サー! アーイェッサー!


 今日は晴れでした。うん……そんだけ……

 特に何もねーっつーの!

 先生の運が悪すぎなだけだっつーの!


 でもまぁそれじゃ話にならないので、今日は一旦持って帰って、何日かに分けて書こうと思います。


 代わりにアレだね、ベッドの下にあるいかがわしい本でも置いておけば、先生も日記が無くなった事には絶対気付かないと思うね僕は。

 て訳で一日目の日記はしゅーりょー。


 アンジェラ・ラキス初ヌード! 36才の衝撃の裸体! の、ページを開いておうちにかえりまーす。




 3月10日。まぁまぁの晴れ。

 起きたら父さんが歯磨きしてた。


「学校はどうなんだ?」


 って聞いてきたから「老朽化してきました」と答えて置いた。

 父さんは歯ブラシを咥えたままで「ほへー」と言って黙っちゃった。

 我が父ながら考えの読めぬ、底が見えない恐ろしい男よ……


 台所に行くと姉さんが居た。

 最近コスメとかに凝ってるらしくて、唇を尖らせて色々やってた。


「おいしいの?」


 って聞くと「バカじゃない……?」と言われたから、「さもあらん」と言って置いた。


 はっきり言って意味は分からないけど、最近覚えたカッコいい言葉だ。

 姉さんは「やっぱりね……」って納得してたけど、さもあらんってどういう意味でしょう?


「あんたさぁ、最近カードゲームにハマってるんだって? お小遣い全部突っ込んでるんでしょ? いい加減子供じゃないんだから、そういう使い方するのはやめな? そのまんまじゃ将来困るよ?」

「どう困るの? 自分の小遣いの範囲内で、好きに使って何か問題なの?」


 聞くと姉さんは「うっ……」と詰まった。

 あれあれ? 一発で論破しちゃった? 医者になるより弁護士になるべき?


 そんな事を思っていたら、「うるさいわよバカ!」って一喝された。

 姉さんは困るとすぐキレるから、友達も彼氏もできないんだよねー。

 何て事を言ったら殴られるから、「そうですね!」と、合わせておいたよ。


「はいはい、姉弟喧嘩はそこまで。朝ご飯食べて、学校行きなさいよ」


 母さんが出て来てそう言った。朝食はパンと目玉焼き。

 なんかもう30日は同じメニューな気がするけれど、もしかしてこれって手抜きって奴ですか?


「母さん、行ってくるよ……ショウルの奴は起こしておいたから、幼稚園には連れて行ってくれ……」


 父さんが現れて母さんに言った。

 そういや父さんは30日位は朝ご飯を食べて無い気がするけど、これって愛が冷めたって事ですか?


 答えは己の心の中にある! ですか師匠!? ……という訳で両方ともそういう事にしておこう。

 僕達も父さんも可哀想な子だよぉ……(老婆的に)


 あ、ちなみにショウルって言うのは年の離れた僕の弟です。

 僕等とは一線を置いてるっていうか、母さんが意識的に遠ざけてる感じ? 故に第二のエリスにはなれても、第二のフェネルには慣れないと言うわけ。

 奴には期待をしていたのだがねぇ……こうなってしまって、本当に残念だ。


「ごちそう様でしたー」


 そう言ってから部屋に行き、パジャマを脱いで私服に着替えた。

 学校メンドクセーなぁ、と、正直思うけど僕らは家畜。ご主人様(国)にはさからえやせんや!


 って事で、ぼちぼちと部屋を出たよ。

 姉さんはまだ台所に居て、雑誌を見ながらご飯を食べてた。


「学校は?」


 って質問すると、「もう行かなくても大丈夫なの」と、訳が分からない事を言った。


「退学になったの?」

「な訳無いでしょ!早く行け!」


 スプーンが飛んで来た。


「見える!」


 って言ったけど、普通に肩に当たりました。

 僕は新人類の器じゃありません。


 家を出てから学校に向かうと、同級生達の列が見えた。

 ブルマの騎士の新刊がどうとか、週刊デンジャラスの巻頭がどうとか、つまらない話で盛り上がっていたから、「ふんっ」と鼻で笑ってやった。


 今それなの? えっ? 中立マンでしょ? みたいな。ブルマの騎士って何なの? みたいな。

 だって主人公男だし、ただのヘンタイじゃないの? みたいな?


 まぁ、お子ちゃまだからそういうネタが、面白おかしくて仕方ないのだね。

 僕のようなジェントルメンは、もうそういう下ネタではハッスルしないのさ。

 そんな事を思っていると、クラスメートの女子に話しかけられた。


「フェネル君は新刊見た? 昨日出たブルマの騎士の新刊」


 ってさ。勿論、答えは決まっているよね?


「見た見た! 超面白かった!」

「だよねー! ブルキシ(略)の先生って天才だと思う!」


 一時の悦楽の為にプライドを売る。これが真の紳士と言う者だっ!


 クラスメートの女子と話して、僕は楽しい登校をした。

 でも、最初しか読んでないから、殆ど適当に返事をしてました……


 学校についてからはいつもの通り。

 アートン先生のチャックは今日も、図られたように全開でした。注意しても直さないから、みんなもうフルシカトしてます。


 あと、体育の授業が面倒だったので、巻き爪が痛くて走れません、って嘘をついて休みました。

 14才で巻き爪とかを知ってる僕って正直インテリだよね?


 まぁ、先生の家で本とかを見て、「使える!」と思って覚えてただけだけど。

 次はセーリが来たので休みます、って言って嫌な授業をサボろうと思います。


 今日の日記はこれでしゅーりょー。あと二日分くらい? 頑張って書き申す!




 3月11日。ちょっと曇り。


 朝ご飯はパンと目玉焼きでした……

 手抜きするのも大概にせえよ! と、3巻でブラックが怒ってたけど、そのページを開いて母さんに見せたいです。


 学校はいつもの通りだったよ。

 パンツがちょっと黄ばんでたけど、アートン先生は普通にしてた。


 あと、今日は先生の医院に行った。

 久々にいっちょ揉んでやるか! と、上から目線でバトルを挑んだら、「どうせ私の勝ちだからな……」と、冷たい目をして僕を見てた。


「それよりお前、私の部屋から何か持って行かなかったか? 大事なものが無くなっているんだが、どこを探しても見つからないんだ」


 ヤバい! 意外にもバレている!

 アンジェラ・ラキス(36)では騙せなかったか!


「そんな事は聞いて居ないっ! 僕はっ! あなたとっ! バトルがしたいんだっ!」


 って、誤魔化す為にそう言ったら、先生は「いやいや」と首を振った。


「いやいや」


 それを真似して首を振ったけど、先生はなんか「イラッ」としていた。


「いいか、今は私が質問してるんだ。正直に言え、怒らないから」


 優しい口調と顔で言ったけど、生憎僕はその手には乗りません。


「さ、さぁねぇ~」


 と言って口笛を吹き、「あ、綺麗なチョウチョさんだ♡」と、居もしないチョウチョを追いかけて走った。

 直後には僕の頭は先生の右手に「がちり」と掴まれた。


「ちょっと待て、絶対お前だな? そのアクションは怪しすぎるぞ」


 藪蛇でしたご主人様ぁぁぁぁ! らめぇえ! フェネル壊されちゃうぅぅぅぅ!

 そんな感じで「じたばた」してたら、レーナさんが姿を見せた。


「ちょっと! レーナさん助けて下さいよ! 無実の罪で一人の少年が、正しい道を踏み外しそうです! それはミー! ワタシデース!」


 必死で助けを求めたけれど、「でも、やったんだよね?」とレーナさんは言って、洗濯物を取る為、シャワー室の方に歩いて行った。

 信用ゼロ! ゼロですよ奥さん!


「あーっと……知らない訳ではないですが、とりあえず今は持ってませーん……我が家の奥深く、ラビリンスの最下層に封印を施して置いてあります」

「嘘をつけ! まぁ、持っているのは分かっていたがな……とにかく明日にでも持ってくるように!あと、中身は絶対に見るな!」


 白状したら解放された。

「ビシリ!」と僕を指さす様は、ヒーローに負けた三枚目のようだった。

「覚えて居ろ!次は勝つ!」みたいな。


「やれるものならやってみろッ!!」


 と、ヒーロー張りの口調で返したら、頭を「ポカーン」と殴られました。

 でもまぁ、明日は返さなきゃだね。中立マンの5巻を置いて、今日の所は退散しまーす。




 3月12日。割と雨。

 姉さんが下着でウロウロしてた。


「へい! こっち見えねーぞ!」


 って、野次ったらソッコーで頭を叩かれた。


「イキの良いネーちゃんだな!」


 って続けたら、今度はほっぺを「ぱーん!」ってやられた。

 なので「ぴたり」と黙ったら、今度は「何か言え!」って言われて、ほっぺたを「びよーん」と引っ張られた。


 姉さんと結婚する奴が居たら、大変だろうなと思いました。

 まぁ、一生独身だろうけど。


「(今だけは、そう、今だけは勝ち誇る事を許してやるよ!)」


「ニヤリ」と笑ってそんな事を思っていると、「あんた、今日暇?」と姉さんが聞いてきた。


「ちょっと待って下さい。今、スケジュールを確認しますので」


 眼鏡を吊り上げて(マネ)そう言うと、姉さんは「アホ」とまずは言った。


「今日は祝日でしょうが」

「むぎぎぎぎぎっ!?」


 それから言って、僕の両頬を両手で挟んで「ぐにぐに」としてきた。


「まだだっ! まだ俺は倒れん……! これ以上の地獄を何度も見て来た……だから俺は……まだ倒れんのだぁあ!」


 顎の下を右手で拭う。姉さんが「漫画?」って聞いてきたから、「そうだよ」と普通に返しておいた。


「じゃ、さっさと服着替えて。20分位したら台所に行くから」


 何の漫画? って聞かんのかコラァ!? ここまでタイトルが出て来てんだぞコラァ!?

 なんて事は言える訳が無いので、イェス! マム! と答えておきました。

 ていうかどこ行くの? 何するの?聞いて無いけどまーいいや。


 部屋に戻って服を着替えて、デッキを作って時間を潰した。


「ちょっと! いつまで着替えてんのよ!」


 って言って、姉さんが来るまで気付かなかったけど、40分位経ってたらしい。

 最近は時間が経つのが早くて、フェネル爺もドッキドキ。今更ながらにどこ行くの? って聞いたら、「買い物よ」って姉さんは言った。


「雨なのに?」

「明日、バイトの面接だから、それに着て行く服を買うのよ」


 あれれ、姉さんバイトとかするんだ。

 働いたら負けですぜお姉様よぉぉぉぉ!! 福祉を! 福祉を使うんだよぉぉぉぉ!! と言う代わりに「へー」と言って、立ち上がりながら「どこで働くの?」って聞いた。


「庶民の森。やっと修理が終わったから、新規に何人か募集するんだって」

「あ、やっと直ったんだ。じゃあ先生におごってもらわなきゃ」


 言うと、姉さんは「そうね」って言った。

 それから「わたしも約束を果たしてもらわなきゃ」って言ったから、「二人でケツの毛までむしってやろうね!」と、出来る限りの笑顔で応えた。


「あんたってホントに人間のクズよね……わたしがどんだけ気を遣っても無駄だわ」


 そう言った後に姉さんが歩く。

 へへっ、褒められちまったぜ! と、親指で鼻を弾いてから、僕も姉さんの後ろに続いた。


 雨はだいぶひどくなってた。

 でも、それでも「今日しかないんだよなぁ……」と、姉さんは外出をやめない気らしい。


「明日の朝ソッコーで行けば? それだと面接に間に合わないの?」

「間に合わなくないけど、忙しないのは嫌なの。夏休みの最後に宿題をやるあんたには永遠に分かんないでしょうけどね」


 うん! さっぱり分かんない! けど、言うとバカにされるので「失敬だね君は」と紳士ぶって置いた。


 傘をさして外に出る。少し歩いたら雨がひどくなってきた。


「雨女」


 と、ボソリと言ったら「何!?」と、軽くキレられたので、中立マンの話だと誤魔化しておいた。


 こんな雨なのに店はやっていた。でも、客は僕達しか居なかった。


「その辺で待ってて。大人しくしてたら昼ご飯位おごるから」


 そんな事を言われた為に、墓石のように大人しくしてた。

 1時間位そうしてたけど、世界の成り立ちについて考えてたから、あっという間に時間は過ぎた。


 人間って何なの? 生き物って何なの? ボクタチハドウシテイキテイルノ……?


「ちょっと、ちょっとフェネル? あんた生きてる?」


 声をかけられて目を覚ます。


「悟りの世界を垣間見ました」


 って言うと、「アホか」の一言で片づけられた。このホーリマンフェネルにアホかとは、恐れを知らぬ勇敢な娘よ……


「え? 買い物終わったの? じゃあ昼ご飯? レッツゴー?」

「まだ。買ったのは服だけよ。次はアクセ屋」


 女はこれだから困るんですよね。

 男なら褌一丁にマグロを担げばそれで正装よ!


 でもまぁ女だから仕方ないか。って訳でホーリーマンは大人しく従った。


「これとこれ、どっちが可愛いと思う?」


 アクセ屋の中で姉さんが聞いてきた。

 なんか、猫みたいなのがついたイヤリングと、イルカみたいなのがついたイヤリングだった。


「いやいや、姉さんには鼻ピアスが一番」


 と、漫画肉の骨みたいなアクセを見せたら「お前がしろ!」と押し返された。


 ンボボ! モモヌヌヌ! ハンダガラドンダガラ!

 そんなノリで先生の家に行くのも面白いかと思ったけど高いからやめた。


「こっちのが可愛いよね。うん、こっちのが良い」


 姉さんは結局一人で決めて、イルカを持ってレジに向かった。

 なら聞くなやぁぁ! と、思わなくは無いけど、女の子の買い物に黙って付き合うのはもてる男の条件ですから?

 見てますよね先生? メモしても良いのよ?


「くそっ! フェネルはやっぱりもてるなぁ! それに比べてこの芋虫はッ!」


 と、ハンカチの端を噛んでも良いのよ?


「じゃ、これ、よろしく」


 買い物袋が「ずい」と出された。

 え? って疑問していると「あんたが持つのよ」と怖い目で言われた。


「何で僕が?」

「当然でしょ。何の為に連れて来たと思ってるのよ。これじゃただ飯喰らいでしょうが」


 ぐぬぬ、僕という愛らしいマスコットを連れているだけで満足かと思ったが、貴様、そういう腹積もりであったか!

 でもまぁ、一応理解は出来たから、「デザートを要求する権利が発生」と、呟きながらそれを受け取った。


「それはわたしの気分次第。食べたかったら大人しくしてなさい」


 畜生! やり方が汚いぜぇぇ!

 でもデザートは食べたかったので、第52の人格である「大人しいフェネル」をその場に召喚し、第一のフェネルは眠りにつきました。


 我が再び目覚めし時、この世は紅蓮の炎に包まれる。

 恐怖せよ! 称えよ! それが第一のフェネルの力なりぃぃ!

 そんな事を思いながら、姉さんと一緒に外に出た。


 雨はもっとひどくなっていた。

 傘が「バリンバリン」言ってるし、溝とかからも排水が溢れてた。

 そんな中を傘をさして、フォックス先生が「うろうろ」してたのさ。

 ボケた? と思ったけど大人しいフェネルは、ごくごく普通に声をかけました。


「HEY! 提督ぅ! DOしたいんだい!?」


 と。


「おお、フェネル君か。それにお姉さんも」


 フォックス先生は普通に返してきた。


「(え!? 否定しないって事は提督だったの!?)」


 と、ビビってる僕は無言だったけど、姉さんは「おはようございます」と挨拶してた。

 外面だけは良いのよこの子はぁ。って、おばさんチックに訴えたいけど、第1のフェネルが目覚めないので、僕の口は閉ざされたままだった。


「はい、おはよう。二人で買い物かな?仲が良いのは良い事じゃで」


 フォックス先生が姉さんに言った。


「え……いえ……」


 姉さんはなんか「もぞもぞ」してたけど、特に否定はしなかった。

 吐き気がするぜ! 姉弟ごっこなんてな! 気持ちが悪すぎて汗がでてくらぁ!

 両目から汗が……しょっぱい汗がな……!


 中立マンの4巻の怪人マンメルンの名台詞です。

 でも中立マンは姉弟もろとも、容赦なくバズーカで葬りました。


「あの、何をしてるんですか? 何か探しているみたいでしたけど?」


 良い子ブリッコの姉さんが聞いた。

 基本、僕と先生以外には、姉さんは普通を演じたいみたい。まぁ、要するに舐められてるんです。


 先生、今度ガツンとやっちゃって下さいね! 僕、協力を惜しみませんから!


「ふーむ……ちょっと人をな……」


 なんだかちょっと言い辛そうだった。


「人、ですか」


 って姉さんが言うと、「うむ……」と言って黙り込んじゃった。

 むくむくと興味が湧き上がって来ました。


 誰だ! 言えー! 言うだよぉぉぉぉ!

 じゃないと、奴が、奴が目覚めちゃうぅ!

 世界が紅蓮の炎に包まれるぅぅ!


「まぁ、とにかくそう言う訳じゃ。雨も酷くなってきた。足元に気を付けて帰りなさい」


 言わないの!?


「ドゥイン!」と、僕の中のあいつが目覚めた。フハハハハ! と笑いながら立ち上がる。


「え? 誰を探してるんですか?」


 そして、普通にフォックス先生に聞いた。

 紅蓮の炎は雨で消えました。いや、ホント燃えあがったから。


 一瞬、ていうか、何秒か。ええ、まぁ、そういう設定でお願いします……


「……いや、実はノアちゃんをな。何か急におらんようになってな。傘も持たずに外に出とる。大丈夫とは思うんじゃが、イアンから預かっとる大切な子じゃし、無視も出来んと思うてなぁ」


 フォックス先生がそう言った。

 すぐに「クション!」とくしゃみをした辺り、結構体が冷えちゃってるのかも。


「ノアちゃん……?」


 姉さんが言って僕を見る。


「イアン先生の3号さんです」


 って、冗談で言うと結構キレてた。


「あのロリノッポォォ!」


 と言われてました。

 正直、語呂は良いと思います。


「ていうのはまぁ、冗談で、ジンゾーニンゲンの女の子だよ。アールって人の最期の頼みで、イアン先生が身を引き受けたの、で、今はフォックス先生の所で看護婦さんをやってるのさ」

「へ、へぇ……じ、人造人間……」


 信じてないのか姉さんは引いてた。

 でも、一応フォローしておいたんで、貸しは+1でお願いシマース。


「まぁ、もし姿を見かけたら、ワシが探しとったと伝えておいてくれ。先に帰ってくれてもええとな」


 フォックス先生はそう言って、くしゃみをしながら歩いて行った。


「大変そうね……」


 と、姉さんは言って、フォックス先生の後ろを見てた。


「(これはまさか……!?)」


 僕の額に電撃が走った。

 ピリリリリリン! みたいな効果音。

 奴だ! 奴に違いない! みたいな。


 まぁ、つまり直感ですね……嫌な予感を直感しました。


「あんた、顔知ってるんでしょ? 探すのちょっと手伝ってあげなさいよ」


 ほら来た! 奴が! 奴が来た!

 更に出来るようになって来た!


「い、いやぁ、ちょっと曖昧だから……なんか顔がボヤけてるから」


 面倒だからそう言うと、「でも分かるんでしょ?」と姉さんは言った。


「分からない事も無い事も無いけどもしかしたら普通に分からない事もあり得る事になるかもしれない」


 って、一気に言うと「ハァ?」って言って、「良いから行くわよ」って歩き出しちゃった。

 何というお人好しだ。その優しさが身を滅ぼすぜ……

 だが、そういうのは嫌いじゃあない。


 一人で不敵に「へへっ」と笑い、それから僕もついて行きました。

 これで貸し+2なんで、そこんとこよろしくお願いシマース♡




 僕達はノアさんを探しました。

 途中でフォックス先生と会って、どうせなら手分けしてをして探そうという事になり、僕と姉さんは居住区に行きました。

 まぁ、近所だし?勝手は分かるし、顔見知りが多いから聞きやすいですからねー。


 で、30分位探したかなぁ。

 一応、手掛かりは見つけました。

 用水路の中に右手が見えたとか……って先生~ビビったビビった?

 嘘嘘嘘ぷーん! んな訳無いでしょ!

 カッコ、笑い、カッコ、笑い。

 実際の所はしょっぱい情報です。

 雨の中を看護婦さんが歩いてたって、近所のおばさんが教えてくれたんです。


「どこに行ったか分かりますか?」


 って、良い子ちゃんの姉さんが聞いて、大体の方向も分かりました。


「南の方だったと思うわ」


 とかいう、かなりアバウトなものだったので、「バカンスにでも行ったのかニャァ」って冗談で言ったら「居住区の南よ」と、痛い目で見られた。


 挙句におばさんが見えなくなったら「外で恥かかせるな!」って姉さんに叩かれるし、良い事をしていて叩かれるなら、悪い事をした方がマシだと思ったね。


 悪だ、悪の限りを尽くすのだ。

 とりあえず先生のズボンの裾を20センチばかり切断してやる。


「いつもよりスースーする気がするな……」


 と言う、先生を横から「にやにや」して見てやんよ!

 てな事を思っていたら、自宅前を通ったので荷物を置いて来た。

 ショウルの奴が漁ってたけど、僕は見て見ぬフリをしました。

 だって別に僕のじゃないし。(ハナクソほじりつつ)


「じゃ行くわよ。南って言ったら用水路の方ね」


 出て来た直後に姉さんが言った。

 あ、用水路ってのは当たりだったんだ。

 てことはもしかしたらもしかするかもね?


 ヘイヘーイ、センセー、ビビってるビビってる?

 ピッチャービビってるヘイヘイヘー!


 僕は最後まで答えを書かないよぉ!

 例えばもう、ここで知っててもね……

 ノアさん……なんでこんな事に……(←おっと、うっかり書いてしまったよ!)


 て訳で二人で南に行って、鉄柵沿いにノアさんを探したよ。

 用水路の水は結構な事になってて、落ちたらまぁ、死ぬだろうな、と、僕でもそう思いました。


 でも、きっと中立マンロボなら……なんて事も考えたけど、まず足がはいらねーし! って、ソッコーで自分に突っ込んだ。


「フェネル! あれ! あの人違う!?」


 僕の右手で姉さんが言った。

 用水路の上流にある短い橋を指さして。

 見たけど遠いから分かんなくて、結局二人でそこに向かった。

 近付いていくと看護婦だとは分かった。


 でも、背中を向けていたので、近くに行っても油断はしなかった。

 振り向いたらおばさんなんて事も、世の中には多々ある事ですからね?


 後ろは100点! 前は2点……みたいな事は多々ありますからね……

 なので橋に辿り着いて、声をかけて振り向くまでが僕達二人の遠足だった訳。

 振り向いたのはノアさんでした。


「どうしたのですか?」


 何て言うから「それはこっちのセリフだ……」と、声を低くして答えておきました。

 持ってない剣を「すらり」と抜くふりをしたけど、ノアさんは「クスリ」ともしてくれなかった。


 てか、死んだ魚のような目で僕の事を蔑んでました……


「あの、初めましてでいきなりだけど、フォックスさんが探してたわよ?こんな雨の中で何やってんの?」


 あ、同性にはタメ口なんだ。

 ヤダー。女ってマジコワーイ。

 両頬を押さえて思っていると、ノアさんは「犬を」と小さく言った。


 ん? 姉さんと先生の事? そう思ったけど違うようでした。


「犬? 犬がどうしたのよ?」


 傘に入れながら姉さんが聞くと、ノアさんは「探しています」と言葉を続けた。

 前後の状況から分析するなら、


 犬を……探しています……という事です。

 えっ? 普通に分かるって……?

 マジっすか……僕は5分位かかったのに……


「な、何で今日な訳? 逃げたの? てか、飼ってたの?」

「いえ。患者さんのお子さんが、子犬が逃げたと言うお話をしていて、雨が降ってきたら寒いだろうと思い、独断で捜索を始めた次第です」


 姉さんが聞いてノアさんが答えた。

 前後の状況から分析するなら……って、え? もう良いって?

 あ、じゃあそういう事です。


「……バッカじゃないの。犬なんて勝手に雨宿りしてるわよ。良いからさっさと帰りなさいよ。あんたが帰らないとフォックスさんも帰れないでしょ」


 姉さんの本領発揮です。これだから友達が出来ないのです。

 言い方ってものがありますよね~。


「そうですか。ですが、私も帰れません。あそこに見つけてしまったので」


 ノアさんが振り向いて、上流の一ヶ所を指さした。

 大きな枝が引っかかってて、そこにはワンコがくっついてました。なんか「アンアン」言ってるみたいだけど、雨音が大きくて殆ど口パク。


「おい! おい! 助けろよ! 見てないで!」


 と、アフレコすら出来ちゃう状況だったのです。


「エ!? あの犬がそうなの……?」

「断定はできませんが、可能性はあります。どうにかして助けて上げたいのですが……」


 姉さんの言葉にノアさんが答える。

 考えろ! 脳を回転させろっ! 漕ぎ出せ! 掴め! 未来を!

 なんて考えてたから良い案も無く、僕は殆ど呆けてました。


 一方の姉さんは止せば良いのに、一応なんだか考えてるみたい。

 お人好しだなぁ、と、思いはするけど、正直感心は出来ませーん。犬なんか助けても何にもならないし、ノアさんだってすぐ忘れちゃうよーん。

 だから僕は鼻をほじって、どんな事をするのか横から眺めてた。


「ちょっとフェネル! あんたも考えなさいよね!」


 言われたから「はーい」と言ったけど、ピザって何でピザって言うんだろ、って思い出したら不安になって、理由を探って考え込んでた。


「何か棒、棒みたいなの無い? ダメ元であいつ引っかけてみる」


 思いついたのか姉さんは言って、雨の中を走って行った。

 その際に傘をノアさんに渡したけど、ノアさんはお礼を言いませんでした。


 ね? 人間なんてこんなものなの。誰かの為に必死になるなんて、無駄無駄無駄ーのオラオララですよ。


「あ」


 ノアさんがなんか小さく鳴いた。視線の先を見てみると、ワンコが枝から離れてました。


「ほら見ろ! お前らが! さっさとしないから!」


 みたいな口パクで水に呑まれ、「じたばた」としながら流されてきた。


「御陀仏でございます」


 と、僕は言ったけど、ノアさんは「ぴくり」ともしてくれなかった。

 ……正直、この人、僕苦手です。


「先程の女性にありがとうと伝えて下さい」

「え?」


 ノアさんは言ってちょっと走った。で、橋の反対側、つまり、用水路の下流に向かって、「ばっ」と飛び込んでしまったのですよ。


「御陀仏でございます!?」


 ちょっとビビって僕が言うと、水から顔を出してノアさんは泳いでた。右腕にはさっきのワンコを抱えていた。

 でもまぁ、流れが強すぎて、ノアさんはどんどん遠ざかって行った。


「あれ? あの子は?」


 そこに姉さんが戻ってきたので、僕は無言でそっちを指さした。物干し竿を持ったまま、姉さんが僕の示した先を見る


「何ボーッと突っ立ってんのよ!!? 行くわよ! ホラ! 来なさいって!」


 直後にはそう言って、僕の襟首を「むんず」と掴んだ。


「何てパワーだ! 逆らえないっ!!」


 と、中立マンロボに初乗りしたブルーの真似をしたけど無視されました。


「大丈夫!? 生きてるわよね!? 先回りしてコレを伸ばすから!」


 走りながら姉さんが言う。右下のノアさんはこっちを見てたけど、特に何も言わなかった。


「大人の人を呼んできまーす!」


 と、どさくさに紛れて逃げようとしたけど、「良いから来い!」と無理矢理戻された。

 僕の判断は正しかったはずだ! 子供だけで人の救助等、勇気と無謀をはき違えてはいけない!

 でもまぁ、逃げようとした訳だから、姉さんの判断は正しかった訳です。てへっ。


 どれくらい走ったかな。

 まぁ、なんとか先回りできて、鉄柵の端を持って、姉さんが隙間から竿を伸ばした。

 ノアさんはそれに捕まったけど、片手じゃ水圧に耐えられないようだった。

 それは姉さんも同じのようで、片手で「プルプル」と震えてました。


「皆頑張るなぁ……」


 と、呆れていると「あんたも手伝え!」と姉さんが言った。

 濡れるし! あと、危ないし!

 そう思ったけど仕方が無いので、姉さんの腰を「ぐっ」と持った。

 そしたら姉さん「ひゃっ!?!」とか言って、危うく竿を離しかけてやんの。


「腰はヤメロ!」


 必殺の膝蹴りいただきましたー! 僕へのダメージ僅か3!

 しかしHPは残り1……!

 薬草を! 薬草をプリーズ……!


「足持って足! もう片方で柵を掴む!」

「はーい……」


 死にかけの僕は言われるがまま、右手で鉄柵の端を持って、左手で姉さんの足を握った。

 それから姉さんは両方の手で、竿を握って力を入れた。


「ふんぎぃぃぃ!」


 とか言って凄い顔だった。今年度の酷い顔ナンバーワンでーす。

 僕なんてうんこしててもあんな顔しませんよ。

 でもまぁ、姉さんの努力の甲斐があり、ノアさんとワンコは助かりました。


「そういやありがとうって言ってたよ」


 って、ノアさんの言葉を今更伝えると、地面にへこたれた姉さんは「何よそれ……」と小さく言った。


「助けてもらえるとは思っていませんでした。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。ですが、お蔭でこの子は助かり……」


 ノアさんは途中で言葉を止めた。何? と思って姉さんと見ると、ワンコがノアさんの顔を舐めてた。


「分かるもんね、そんなものでも……わたし達の努力も無駄じゃなかったわ」


 姉さんが言って立ち上がった。汚れた服やスカートを見て、「あーあ」とか言ってぼやいてる。


「名誉の負傷だな。エリス一等兵!」


 と、親指を立てたら「スパン!」と叩かれた。

 何て言えば良かったのです?!


「命とは……」

「え?」


 ノアさんが何か言いかけたので、姉さんと僕はそれを見る。


「命とは、大切なものなのですね。改めて、それが分かりました」


 そう言ったノアさんの顔は、なんだか少し人間的に見えました。

 長くなったけど日記は終わり!

 ああそうそう、あれだけは書かないと。

 帰り道に姉さんがこう言ったんです。


「あんたってホントに駄目人間よね……一体何回逃げようとした? ああいう時は逃げちゃ駄目なの。ロリノッポを見習いなさいよ」


 って。


 だけど僕は「先生は先生。僕は僕」って言いました。


 なぜならば僕はフェネル・アンブレーであり、イアン・フォードレードでは無いからだ。

 フヒヒ! これが書きたかったのさ! あと、全部読ませて貰ったんで、先生の秘密丸握りっす!

 今度おいしいものおごってくださいねぇぇぇぇ!





 あー……私だ。イアンだ。本物の。

 いつの間にか日記が戻っていたから、開いてみるとエライ事になっていた。

 今度はもっと分かりにくい所、例えばそう、診察室とか、その辺に日記を置こうと思う。

 私室では駄目だという事が分かった。

 そして、フェネルが予想以上に駄目人間だという事もだ。


 一方のエリスだが、意外に大人だな。

 やはりは姉と言う事だろうか、責任をきちんと果たしていると思う。


 これを見て思い出したので、今度、食事に連れて行ってやろう。

 ノアの一件のお礼もあるしな。

 フェネルの異常性を忘れない為に、この日記は消さずに置いておく事にする。


 もし、あいつが結婚をする事になった時には、嫁さんにこれを見せるのも面白い。

 それが、好き勝手な事を言われ、日記を汚された私なりの復讐だ。


 だがまぁ、このままでは無理だろうな。なんだかんだで結婚は出来ん。

 私が修正してやるべきなのかと、今日は心底思ったものだ。


「そうだな……もう手遅れかもしれないが、あいつの為にもちょっと考えるか……」


 日記を閉じて、大きく息を吐き、今まで以上のフェネルの教育を私はここで決めたのだった。


これで14才と考えると、まぁ、普通に異常ですな…


次回は月曜日になると思います。

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