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特別編   半人半魔の反逆戦争(前編)

このお話は読まなくても今後の展開に困る事はありません。

が、八月から十二月の空白の時間の出来事が書かれているので、興味がある方はどうぞという感じです。

なんだかクソ長くなりそうなので、とりあえず前編を投稿します。

中編、後編となってしまうか、後編だけになるかは不明です。

あと現状ではシリアスなので、それが嫌という方もスルーして下さいませ。

 今からおよそ200年前の事。

 一人の女の子がこの世に生まれた。


 その女の子は私と同様、半人半魔の存在だった。

 幼い頃に何があったのか。


 それは私には分からないが、彼女が誰かの愛を求め、孤独で居た事は後に分かった。


 これは、そんな彼女が起こした悲しい出来事を記した日記である。




 今を遡る事半年前。

 夏の暑い日にそれはやってきた。

 激しい雨が降り、蒸し暑い夜だった。


 私は丁度歯磨きをしており、歯ブラシを口に咥えたままで、応接間の中をウロウロしていた。


 手紙を探していた、というのが、その行動の原因である。


 レーナの父のラルフから、私宛に手紙が届いていたのだが、仕事の忙しさでそれを忘れ、夜になって思い出したので、どこにやったかと探していたのだ。


「(おかしいな……部屋の方だったかな。置いた覚えはないんだが)」


 テーブルの上、ソファーの下等、思いつく所を探してみたが、ラルフの手紙は見つからない。

 結果、私はそう考えて、口をゆすぐ為に台所に向かった。


 水瓶から水をすくって、それを含んで口をゆすぐ。

 そして、裏庭へと続いているシンクの中へとそれを吐いた。

 歯ブラシを定位置に置き、何とは無しに裏庭を見る。

 相変わらず雨は酷く、やむという気配はまだまだ無かった。


「(朝までにはやんでくれると良いがな……)」


 そう思い、応接間に行く。


「あ、シャワーありがとうございました。すっきりしました」


 その頃にはレーナもシャワーを浴びて、すっきりした顔で応接間に居た。

 今日は雨で、洗濯が出来なかったので、私の青いパジャマを着ている。

 女性が男性の衣服を着るのは、なんともこう、良いモノである。


「あ、いや、それは良かった」


 と、普通の反応を返しながらも、「おいおいなんか良いなコレは!?」と、私は静かに興奮していた。


「ちょっと長いですけど着心地は良いですね。ホント、ちょっと長いですケド」


 余った袖や足元を見せ、レーナが言って「えへへ」と笑う。


「確かに」


 と、普通に返しはしたが、「おいーっ! 超可愛いじゃないか!?」と、私の興奮はMAXに近かった。


「あ、ああ、それはそうと、私に来ていた手紙を知らないか? ラルフからの手紙だったんだが」


 その興奮を落ち着かせる為、私は敢えて関係の無い話を振った。

 このままで居ると流石の私も「レーナちゅわあああああん♡」と、キャラを変えて飛び掛かってしまうかもしれないからだ。


「ああアレですか。アレなら部屋の方に置いておきました。ここに置いておくとフェネル君が勝手に見るかもと思いまして」

「なるほど。それは正しい判断だ」


 言った後に私は笑った。

 レーナも「ですよね」と微笑んでいる。


 この家に来て、それなりに経った為だろう、レーナもだいぶ分かってきたらしい。


「じゃあ私はそろそろ寝るよ。少し早いが、やる事も無いし」


 私が言って、歩きかけると、レーナが「あっ」と小さく言った。


「ん?」


 何事かと思って私が止まる。


「あの、良かったら医療の事、少し教えてくれませんか? 実は本で勉強してるんですけど、ちょっと分からない所があるんです」


 レーナはそう言って返事を待った。

 この状況で「イヤだね!」と言う程、私は性格が悪くない。

 むしろ、そういう事であれば、喜んでという気持ちですらある。


「それは勿論。この際、私の知っている事は、全てレーナに覚えて貰おう」

「いやいやそれは行き過ぎですよォ……」


 レーナが言うので私は笑った。

 レーナも「アハハ……」と苦笑いをしている。


 玄関の扉が叩かれたのは、丁度そんな時の事だった。

 正直、間が悪いと思ったが、かといって無視をする訳にも行かない。


「すまないが、少し待っていてくれるかな?」


 その為に私はレーナに言って、「はい」と言う返事を貰った後に、玄関に向けて歩き出した。


 時刻は21時過ぎ。

 フェネルにしてはもう遅すぎる。

 となると、奴以外の誰かと言う事で間違いないだろう。


「(こんな時間に豪雨の中を、か。まともな客では無いだろうな……)」


 そう思いながら扉を開けると、5人程の人物が居た。

 全員、ローブを着用しており、頭にはフードをかぶっていた。


 傘はささず、豪雨の中を打たれるままに立ち尽くしている。


 身長や年齢はまばらであったが、一行の先頭に立っていたのは、16、7、8の少女であった。


 身長は160㎝程度。

 髪の毛の色はピンクだが、フードをかぶっている為に髪型は分からない。

 右の目が青、左の目が緑、という、珍しい体質の持ち主であり、左右非対称のその瞳で私の事を「じっ」と見ている。


「イアン・フォードレードさん? 魔医者だと噂の?」


 これは少女が発したものではない、別の男からの質問だ。


 年齢ならば30前後。

 褐色の肌をしているようで、髪の色はおそらくはだが、こげ茶色に近いものだと思われた。

 声は男らしく、体はごつい。

 私などは平手打ち一発で彼に張り倒されてしまう事だろう。


「ええ、まぁ」


 若干の警戒をしている為に、私は短くそれだけを答える。


「俺達は半人半魔の解放運動をしている者だ。聞けばあんたも半人らしいな。いきなりでなんなんだが、俺達の仲間になる気は無いか?」


 男が言って、返答を待つ。


「半人半魔の解放運動……?」


 おそらく、飲み込みは悪い方ではない。

 だが、それだけを聞いて「オッケー!」と言う程に、私は飲み込みが早いという訳でも無かった。


「それは一体どういう運動ですか?」


 故に、彼らの運動の実情を知る為に、逆にそう質問するのだ。

 聞かれた男は「んあぁ」と言って、どう言ったものかと悩んでいたが、別の男が「具体的には」と、口を開いたのでそちらに譲った。


「不当な扱いを受けている者達を、外的な力によって解放する運動です。私達はただの人間より、ただの魔物よりも優れている。そんな者達がそのどちらからでも、迫害を受けるというのはおかしな話でしょう?」


 年齢ならば25前後。

 ねちっこい顔と声をした男が、私に向かって説明をした。


「(新興宗教か? どちらにしろ……)」


 深く関わるべきでは無いな。

 聞いた私は直後に思い、「生憎ですが」と、言葉を切り出した。


「私はそこまで迫害を受けていない。それはまぁ、気味悪がられてはいるが、何かをされたという訳では無い。よって、あなた達の運動に参加するだけの、強い意志を持たないのです。申し訳ないが、他を当たってくれますか」


 私が言うと、男は舌打ちをした。

 その男の隣に立っていた水色の髪の女が笑ったが、私には理由は分からない。


 年齢はおそらく27、8。

 妖艶な雰囲気の、金色の目をした女性だった。

 ともあれ、二人は何も言わず、そのまま黙って引き下がってくれた。


「あなたが受けていなくても」


 諦めてくれたか、と、思った瞬間、先頭に立っていた少女が言った。


「同じ境遇で生まれた誰かが、どこかで迫害を受けているのよ。救ってあげたいとは思わないの?」


 少女は私を「じっ」と見ていた。

 その表情を見る限り、どうやら彼女は怒っているらしい。

 腑抜けが! とでも思っているのだろうか。


 だが、私は実際そうだ。

 腑抜けで、腰抜けで臆病な奴なのだ。

 外的な力によって、誰かを解放するような運動に参加できるだけの実力は無い。


 皮肉では無く、実際にそうなのだ。


「……自分の患者で手一杯なので、そういう人達はお任せますよ」


 私が言って、苦笑いをする。

 このあたりで勘弁してください、という意味を、暗に含めたものである。


「……だからこそあなたが必要だったんだけど。気が変わったらいつでも来て」


 少女はそう言って踵を返した。

 他の4人も彼女に続き、豪雨の中を歩き出す。


「これ、現時点での俺達のアジト。まぁ良かったら訪ねて来てよ」


 若い男がそう言って、メモを私に差し出して来た。

 年齢はおそらく18前後。紫色の髪をしていた。


「あ、ああ……どうも」


 一応、それを受け取ると、「んじゃっ!」と言って男は去った。


「だからこそ必要だった、か……なかなかに嬉しい言葉ではあるが」


 彼らの姿が見えなくなった頃、私は一人でそう呟いた。

 もう少し話を聞いてみても良かったのではないかと、少し後悔する。


 思えば、かなりの美人であったし、そんな女性から必要とされるのは、正直に言って悪い気分では無い。

 行って見るかな、と少し思い、手渡されたメモを見る。


「いやいやバカな、私には無理だ」


 しかし笑い、首を振ってから、玄関の扉と鍵を閉めた。

 そして、すぐそこで待って居てくれたレーナに成り行きの全てを話し、その後にレーナが知りたいと言う事の、勉強を開始するのである。




 ラルフの手紙に書かれていたものは、その運動への注意であった。


 こういう運動をしている連中が居て、私の元にやって来たから、きっとそっちにも行くと思うよ。

 怪しいから断っとけ。二度と来るなとフルギレして置け。

 それからパッパと塩まいとけ。


 崩して書くと、みたいな事が、ラルフの手紙には記されていたのだ。

 心配性だな、と、私は思う。


 それとも参加するとでもラルフは思っていたのだろうか。

 まぁ、少しは後悔したが、断った結果の後悔なわけで、

 それはつまり、そういう事か……


 何の事は無い、ラルフは私が参加しかねない事を見抜いていたらしい。

 この手紙が無かったら、確かに彼らを訪ねたかもしれない。


 だが、ラルフが怪しいと言うのなら、彼の判断を信じる事にしよう。

 手紙をしまい、メモをしまい、23時頃に私は眠った。


 そして翌日、目覚めた時には昨夜の事は忘れていた。


 それから何事も無く数日が過ぎ去った。


 レーナと買い物に行ったある日、私達は街でフェネルを見つけた。

 それは毎日会ってはいるが、奴の居た場所が珍しかったのだ。


 街の、町長の家の前に、大勢の人の中に混ざるようにして、何かを待って居たのである。


「おい、フェネル。そんな所で何をしているんだ?」


 無視をしても良かったのだが、何となく気になって声をかける。


「あ! センセー! 何って何! むしろ何!? センセーもしかして知らないんですか?」


 言って、人込みから抜け出して来て、フェネルは私達の前で止まった。


「知らない? 何を?」

「アチャァ! これだよ! 駄目ですよセンセー、情報の遅れは心の緩み! 心の緩みは堕落への第一歩! ジェイキンソンみたいになりたくなかったら、キチーンと引き締めて行きましょうよ!」


 正直かなりウザかったが、何なのかを知りたい事も事実。

 私は「あー」と力なく言い、フェネルから続けられる言葉を待った。


 て、ちょっと待て、ジェイキンソンって誰だ……?


「何かもう半分ジェイキンソンみたいっすね……言わば半キン? まぁいいや、教えてあげますよ」

「あ、ああ、悪いな」


 早く言え! と思いつつ、私が一応フェネルに謝る。

 フェネルは「ですよぉ!」と言った後に、ここに居る訳を話し出した。


「えーとですね。カンケツに言うと、町長の発表を待ってるんです。なんか戦争になるんですって。だからそれマジなの? みたいな、そういう感じで待ってるわけです」

「戦争? 本当の事か?」

「だからそれを聞く為に待ってるって言ってんでしょぉがあ!?」


 聞くと、フェネルは軽くキレた。

 まぁ、それも仕方ない。今回はフェネルが正しいだろう。


 私は「そうだったな……」と、一応言って、最後列から前を伺った。


 200人位は居るだろうか。


「まだか」とか、「どうなってんだ」とか言いながら、皆、町長を待っているようだ。

 そうしている間にも人は集まり、5分後に町長が現れる頃には、500人位の人になっていた。


「出て来たぞ!」

「おい町長! どうなってんだ!」


 年齢は50位か。

 長い髭にシルクハットの気弱そうな男が現れる。初めて見たが多分町長だ。


 その横にはSPが2人居て、一応の形で警護をしていた。

 玄関を出て、門を出て、SPに左右を守られる形で、町長が私達の前に止まる。


「えー……町長のグレゴリーです」


 町長、改めグレゴリーが言ったが、それはすぐに、


「そんな事はどうでもいいんだよ!」


 とか。


「知ってるわよバカ!」


 とか言う声で、掻き消されてしまう事となる。


「(結構大変だな……)」


 町長の気弱そうな顔を見て、私はそう思ったものだった。


「え、えぇー、その、例の件ですが、あれはまだ噂というかぁ、決定項ではありません。ので、皆さんには常日頃のように、仕事に、勉学に勤しんでいただきたい。と、グレゴリーはそう思う訳なのです」

「決定項じゃねえって事は、話には上がってるって事じゃねーか!」

「隠してんじゃねーぞテメー!」

「自分の事グレゴリーって言うんじゃねえよ! 子供かテメーは!」


 言葉によるフルボッコである。


 グレゴリーは困った顔をして、ハンカチでひたすら汗を拭いていた。


「ともかく戦争はやめて頂戴! ウチの子はまだ2歳なのよ!」

「そうだ! 戦争をやめさせろ!」


 一人の女性がどこかで言って、それに続いて男が言った。

 それはすぐに広まって行き、「戦争反対!」と言う声が、観衆の中にこだまし始める。


 言うだけ無駄だが、言うのは自由だ。

 そして、それはもしかしたら町長から上に伝わるかもしれない。

 だから私はそれを静観し、余計な事をしようとしなかった。


「そうだ! そろそろ僕にも個室を!!」


 と、フェネルが尻馬に乗っていたが、その内容に関わらず、私はそれも放置していた。

 町長は焦り、顔を振って、なんとか鎮めようと努力をしていた。

 しかし、「無理」と思ったのだろう、突如として「あああ!」という大声をあげ、


「ダメ! ダメダメ! 頭がくらくらしてきちゃったよぉぉ!」


 と言って、わざとらしくその場でフラついて見せた。

 それから、SPが居る事を見て、後ろ方向へと「ぱたーん!」と倒れる。

 おそらく、彼の頭の中では、SPが抱えてくれる計算だったのだろう。


 が。


「ゲハアッ!?」


 SPが「ひらり」と避けた為に、彼の後頭部は壁に激突。

 静かに、ゆっくりと白目を剥いて、本当に気を失ってしまったのである。

 これではもはやどうにもならない。


「マジかよ、意味わかんねーよ……」

「ここまでするかね」


 観衆達が少しずつ、まばらにこの場から散って行く。


「お前、なんでかわしたの?」

「いや、ブッチャケなんとなく?」


 SPが聞いて、もう一人が言う。

 直後には「マジヒデー!」と笑いだして、私達を茫然とさせた。

 町長はその後、彼らに引きずられ、屋敷の中へと消えて行った。


「やっぱ戦争になるんですかね? 先生も行くの?」


 聞いてきたのはフェネルだった。

 そこはまだ子供の為か、生活が変わってしまう事への切迫感は伝わって来ない。


「どうだろうな。現時点では何とも言えんが、少なくとも私は行かないんじゃないか?」


 そうは言ったが内心では、戦争になると考えていた。

 こういう話が出て来た時点で、大抵はもう決まっているのだ。

 それは歴史が証明している。


 問題は、いつ、どこで、どこと、戦争をするかという事だろう。

 それが分かればその前に逃げられる人が沢山居るからだ。


 しかし、国としてはやはりそこは、ギリギリまで隠しておきたいというのも、理解が出来る所ではある。


「(まぁ私には、関係の無い話だがな……)」


 巻き込まれる人は災難だが、私には実際どうしようもない。

 諦めたようなそんな気持ちで、私は我が家への道を歩き出した。




 それから更に数日後。

 フォックスがフェネルと一緒にやってきた。


「エライ事になったぞ」


 と言い、私に新聞を見せて来る。

 患者が丁度引けていたので、診察室の中ではあったが、私はそれを広げて読んだ。


「歌姫のヒカリがロミオと駆け落ち……? そんな大した事でも無いだろう」

「どこを見とる? 反対側じゃ」


 私が言うと、フォックスは言い、「やれやれ」と言って椅子に座った。

 私も座り、新聞を裏返す。

 そこには西国のイグニスが、戦争に負けて占領されたという、衝撃的な出来事が記されていた。


「占領された!? どこの国に!?」


 言って、記事を読んでいくと、どうやら新しく興った国にイグニスは占領されたらしかった。


 国の名前はハーフネス。

 今まで一度も聞いた事が無い、急速に興った国のようだ。

 そして、戦力として大量の魔物を使役しているという事が、憶測付きで書かれてあった。


「魔物を使う新しい国か……どうにもきな臭い感じだな」

「聞いた話では女王らしいぞ。その国の王様はな。18だか19だかの、随分と若い娘さんらしい」


 私の呟きにフォックスが答える。


「(そう言えば、あの日来たあの娘も、確か18くらいだったが……)」


 ふと思い出した私であったが、ここではそれを言わなかった。

 年齢が近いだけであるし、何よりあんな若い娘が国を興せるとは思わなかったからだ。


「どうなるんだ? これから?」


 代わりにフォックスにそれを聞いて、何らかの情報を手に入れようとする。

 フォックスは「そうじゃのぉ」と言った後に、


「隣国のカーレントが警戒しとるらしい。ディザン王国とワシらの国も、カーレントに援軍を送るそうな。じゃからまぁ、なんちゅうか、殺伐とはしてくる事じゃろうな」


 と、顎をさすりながらに言った。


「(カーレントと言うとラーシャスが居る国か……まぁ彼なら大丈夫だろうが……)」


 不安に思ったが直後には、私はそうも考えていた。

 彼の、圧倒的な強さを実際に目にした事があったからだ。


「その、ハーフネスとか言う国なんだが、占領した目的は何なんだろうな? 大陸を統一したいだとか、もっと単純に資源が欲しかったとか、一応、理由があると思うんだが」

「さぁの。そこまでの事は知らんよ。しかし、イグニスには鉱山が沢山あるからな。或いはそれの収入目当てで占領したのかもわからんな」


 私が聞くとフォックスが言った。

 これ以上の情報は知らないようで、そこはフォックスの予測のようだ。


 鉱山に飛竜、そして温泉。

 イグニスではそれらが有名である。

 出来たばかりの新興国が、収入の安定を図る為なら、或いはそれらを欲しがるかもしれない。


 鉱山は貴重な鉱石を出し、飛竜は戦力にもなるからである。

 温泉は……まぁ、心の癒しか?いや、温泉は不要だろうな。

 あって困るものでは無いが、無くても決して困らないだろう。

 ここで戦争が止まるようなら、やはりは主な目的は鉱山の奪取にあったのだと思う。


「しかし、お前さんの所も暇じゃのぉ。戦争になればこれもひとしおじゃで、今の内に仕事を見つけて置くか?」

「庶民の森でバイトでもするか? もっともこんな野郎どもを雇ってくれるとは思えないがな」

「あそこはべっぴんさんが多いからの。ワシらはせいぜいが皿洗いじゃろ」


 フォックスが言って、私が笑う。

 そこへフェネルが現れて来て、「何々? なんか面白い事?」と、興味を持って乱入してきた。


「えっ!? ヒカリちゃん駆け落ちしちゃったの!? しかもロミオと!? アリエナインデスケドー!!?」


 そして、新聞を見るなりに驚き、私達を微妙な顔にさせるのだ。

 顔の理由は知らないからで「なんだそりゃ?」と思っているから。


「……もしかしてセンセー、ヒカリちゃん知らないんですか?」


 聞かれたので、「ああ」と答える。

 するとフェネルは「マジっすか?!」と一声。


「中立マンのイメージガールで、オープニングソングを歌っている、あの有名なヒカリちゃんを!」


 と、慄くような顔で言って、私を更に微妙にさせた。


「知らんが、まぁ、普通はそうだろう。皆、お前みたいに暇じゃないんだよ」

「なんか逆にバカにされたぁ!? っていうか皆知ってますし! フォックスさんだって知ってますし!」

「……知っているのかフォックス?」


 フェネルが言うので、フォックスに聞いてみる。


「5年位前に裸同然で、クロスワードクイーンの女王杯に出とったな。落選してからは見とらんかったが、こんな事になっとったとはなぁ」

「そんな過去は知りたくなかったぁぁ!!」


 フォックスが言い、それを聞いたフェネルが頭を抱えて絶叫した。

 直後には「忘れろ! 忘れろ僕!」と言い、診察台に頭をぶつけだす。


「まぁ、アイドルには色々あるだろう……そう言う事も全部含めてだな」


 慰める為に私が言うと、フェネルは「くるり」とこちらを向いて、


「エ、ナンノコトデスカ?」


 と、虚ろな瞳で言うのであった。


「(まぁ、それならそれでいいが……)」


 私は敢えて何も言わず、優しさからそれを放置する事にした。

 それ以降、フェネルの口から「ヒカリ」という名が出る事は無かったが、フォックスの医院から五年前のクロスワードの本が一冊消えた事には、私は落胆せざるを得なかった。


「フェネル君に見せてやろうと思ったんじゃがな……もしかしたら捨ててしもうたのかもな」


 フォックスはそう言って残念がったが、私には犯人は分かっていた。


「いや、きっと見ているさ……多分、自宅でひっそりとな」


 その言葉にフォックスは、疑問の表情で眉根を下げていた。

 少年はこうして大人になっていく。

 きっとそれは悪い事では無い……




 8月の中盤のある日の事。

 私に医院に兵士がやってきた。

 蝉がうるさく、日差しが半端ない、うだるような暑さの正午の事だった。


「イアン・フォードレードで間違いないな?」


 兵士は言って、丸めた羊皮紙を私に「ずい」と差し出してきた。


「はぁ……?」


 玄関先に立った私が、疑問の表情でそれを受け取る。

「見ても?」と聞くと「勿論だ」と言うので、私はそれをその場で広げた。

羊皮紙の上には「国王命令」とあり、その下には一文が記されていた。


「来るハーフネスとの戦に際し、貴殿には従軍医師として参加されたし」


 それは、「されたし」と書いてはあるが、体の良い命令文であった。

 冗談では無い! と、思いはするが、兵士達の手前ではそれは言えない。


「拒否権はあるが、して欲しくは無い。あなた一人が何人を救えるか、そこを良く考えてみて欲しい」


 そんな私の心を読んだのか、30才位の兵士が言った。

 もう一方の兵士が頷き、一枚の紙を手渡してくる。

 見ると、集合の日時と場所が、文字と地図で書かれてあった。


「それでは失礼!」


 兵士は言って、返事も聞かずに去って行った。


「参ったな……これは」


 困った顔で羊皮紙を見て、それから私は中へと入る。

 応接間に行くとレーナが居たので、それを見せて説明をした。


「……行くんですか?」


 と、直後に聞いてくる。少し不安気な表情である。

 正直に言うと行きたくはない。

 危険だし、何より私に益が無い。


 こう言うとクズに見えるかもしれないが、私には愛国心というものが無いし、守りたいものが戦場には無い。

 レーナと我が家、そしてフォックスと、おまけでフェネル位しか、私には守りたいと言うものが無いのだ。


 患者の命を守る事は別だが、彼らは戦場に居ない訳で、つまり、私が命をかけて、そこに行く理由は何も無い。


「いや、私は行かないよ。行く理由が何もない」


 故に、私はレーナにそう言い、彼女の反応を待つのである。


「卑怯者! 見損なったわ! 今日を限りに里に帰らせていただきます!」


 と、罵倒されない事を祈りつつ。

 幸いレーナは「それが良いと思います」と、私に「にこり」と微笑んでくれた。


 二つの意味で救われて、私は密かに息を吐いた。

 しかし、その考えはその日の夕方に覆された。


 フォックスがやって来て、「ワシは行くよ」と、私達に言った為である。

 彼にしてみれば祖国の事だ。その愛国心は私などより、遙かに強いはずであった。


「まぁなんじゃ。最後かもしれんからな。こうして酒を酌み交わしに来た。ジュースでも構わんからちと付き合え」


 そう言って、「にかり」と笑い、フォックスは持っていた酒瓶を見せた。


「……いや、そういう事なら私も行くよ。これで死なれたら、絶対に後悔するだろうからな。だからそれは置いておけ。無事に帰って来れた時に飲もう」


 やむを得ず、私は言って、従軍医師として戦場に向かう事を決意した。


 そして三日後。


 私達はディザン王国へと向けて出発する、1万人の軍の中に居た。

 医師の数はおよそ100名。

 その全員が国から支給された白衣を身に纏っている。

 私とフォックス、そしてレーナもその白衣を身に着けており、警護をしてくれる騎士達と共に、南に向けて進んで行った。


「よろしく! 俺はサリムってんだ! そっちのお嬢さんはあんたの助手さん?」


 馬の上から男が言ってくる。

 兜の面の部分を外し、私達の様子を伺っている。


 年齢は25前後だろうか。

 癖ッ気がある金髪を持つ、なかなかの好青年に見えた。


「イアンです。よろしく。彼女は助手のレーナです」


 一応、警護をしてもらう身の為に、私は彼に丁寧に答えた。


「よろしくお願いします」


 続き、レーナがサリムに答える。

 私の直接の警護は彼女だが、そこはまぁ、サリムには別に言わなくても良い事である。


「綺麗な人だな。彼氏は居るの? 好きな人は? 年齢は?」


 レーナに余程興味を持ったか、サリムは直後に質問攻めを始める。

 レーナはそれに一応答えたが、ひと段落が付いた頃には、疲れた顔で「ハァ……」と言っていた。


 そうそう、レーナはこういうキャラなんだ。

 質問攻めは却って危険だよ。


 そう思った私はサリムに対し、なぜか優越感を抱いたものだった。


 そして夜。


 国境に差し掛かった頃、軍は平地にキャンプ地を作った。

 今夜はここで休むらしい。

 流石に少し足が痛く、私は岩に腰かけて、右足の裏を揉んでいた。


「ほれ、水じゃ。ディザンに着いたらあちらさんと合流して、カーレントの国境まで進むらしいぞ」


 言ったフォックスから水を受け取り、私はそれを一口飲んだ。


「カーレントの国境までか……20日位はかかるだろうか?」

「まぁ、大体それ位じゃろうな。長旅じゃ。養生しとけ」


 聞くと、フォックスはそう言って、焚き火の方に歩いて行った。

 フォックスはその老齢の為、荷馬車に乗せて貰っており、その為にそれを他人事のように言い切る事が出来るわけだった。


「実際は私の方が、年齢は遙かに上なんだがな……」


 苦笑いをして水を飲む。

 ふと、左の方を見ると、レーナがサリムと話をしていた。

 サリムが言って、レーナが笑う。

 その直後にはレーナが話し、聞いたサリムが腹を抱えた。


 ……なんだか良い雰囲気である。


 フェネルが居たら間違いなく「ザマァァ!!」と私に言った事だろう。

かと言って、ノコノコと近付いて行き、「どうしたんですか?」と言うのもシャクだ。


 ていうかそれは完全に邪魔者だ。

「負け犬プギャアア!!」というフェネルの声が聞こえるような気すらする。

 それは絶対にやってはならない。


 私は横目で「ちらちら」と見ながら、二人の様子を観察していた。

 やっぱりアレか、女性はやはり、自分に好意的な男に寄って行くのか。

 私のようにムッツリで、根暗な男は実は嫌なのか。

 そんな事を思いつつ、苦しく、長い時間を過ごした。


「なっ……!?」


 サリムがレーナの肩に触った。レーナは特に嫌がっていない。

 口に含んだ水が垂れて、私の股間を直撃する。


「しまった!」


 と、慌てて拭いている所で、女性兵士と目が合った。


「……こんな所で……不潔です!」


 一体何を勘違いしたのか、女性は言って、走って行った。


「ちょっ! 違っ!! そんなんじゃないんだ!!」


 何の事かは分からなかったが、私は一応、言い訳をした。

 女性は他の兵士と合流し、私を指さして何かを言っていた。


「アリエナインデスケドー!!」


 と言う声が聞こえる。

 どうやら広まってしまったらしい。


「あぁ……」


 私は諦め、再び座った。

 それからレーナ達の方を見ると、二人の姿はそこには無かった。

 顔を動かして二人を探す。すぐに見つかった。

 後ろ姿だが、サリムはレーナの腕を持っていた。

 そして、どこかへ案内するように、レーナを連れて歩いていたのだ。


 ショックだった。大ショックだった。

 何かが「ガラガラ」と壊れた気がした。

 やはり駄目か、と、力が抜けた。

 止める勇気? そんなモノは無い。

 私は基本臆病で、争い事が苦手な男だ。

 争奪戦等とても出来ない。


 そうしている内に2人が消える。

 私は一人で「ハハッ……」と笑い、分かって居たさ、と、心で呟いた。


「もう寝よう……」


 寝れば全てを忘れられる。

 そう思って立ち上がり、テントに向かって歩き出した。


「(でも、なら、レーナは何で、私に呼び捨てにしてくれと言ったんだ……アレは一体なんだったんだ……)」


 テントに着き、寝袋に入る。

 ……暑い。

 そして汗で「ベトベト」だ。

 皆は一体どうしているのか。或いは行水をする場所でもあるのか。


 いや、しかし今日はもう良い。

 どこかでレーナとサリムに会えば、私は「アアアア!」等と言う、甲高い声を出すかもしれない。

 気持ちが悪いが無理して寝よう。


 人間の気持ちとは便利なもので、明日になればある程度はリセットされるものなのだ。

 寝よう寝よう、無理して寝よう。

 私は自分に言い聞かせ、寝袋の中で両目を閉じた。


 どれ位そうしていたか、蚊が「ぷぅ~ん」と飛んでくる。

 この時ばかりは「絶滅すると良い!」と、蚊の存在を嫌悪したものだった。


 格闘する事およそ一時間。


 私はなんとか蚊を倒し、場に平安を取り戻した。


「消灯時間だ。そろそろ寝ろ」


 と、何も知らずに言ってきた兵士に、「寝ようとしてましたが!?」とチョイ切れしたのは、今にして思えば大人げない事だった。




「おはようございます先生」


 翌朝、レーナは普通に挨拶し、普通に私に接してきた。


「あ、ああ。どうも……」


 昨日の事を引き摺っていた為、私はまともな挨拶を返せず、その後も何だか気まずくて、レーナとは話が出来なかった。

 その代わりと言うか何なのか、レーナはサリムと良く話をし、私はフォックスの後ろについて、彼とばかり話をしていた。


「何かあったんか?」


 流石は長年の付き合いなのか、フォックスが私に聞いてきた。


「……いや、別に。どこかおかしい所でもあったか?」


 言えば良いのに私も偏屈で、正直な所を話さなかった。


「ほぉーん……?」


 フォックスが唸り、それきり黙る。

 大体の事は察しているのだが、私がそう言った以上は、追及はしないつもりのようだ。


 ありがたいような、この際は突っ込んでくれた方が良いような、なんとも微妙な心もちである。


「そう言えばお前さん。女性兵士達の間で、ちょっとした噂になっとるらしいぞ。大胆な事をしたそうじゃなぁ」

「ち、違っ! あれはだなアアッと!!?」


 思わぬ振りに私がこけかけ、それを見たフォックスが「フヒヒ」と笑う。


「あれはな! 水をこぼしただけなんだ。それを一人の女性に見られて、何だか妙な誤解をされたと、たったそれだけの事なんだ」


 持ち直し、顔を赤くして、私がフォックスに言い訳をする。

 聞いたフォックスは「まぁそんなもんじゃろ」と言って、


「が、皆はそう思っとらん。何と呼ばれとるか教えてやろうか? あくまの「魔」ならぬマヌケの「間」医者じゃ。うまい事を言いよるわ」


 そう続けてから「かかか」と笑った。


「どちらにしてもあまり、だな……無論、後者の方がタチは悪いが」


 私としては苦笑いで、そう言って置くしか無い状況だった。


 その日もおよそ10時間程歩き、昨夜と同様にキャンプ地で眠った。

 翌日も、その翌日も、殆ど同じようなものだったと思う。

 その間、私とレーナはあまり話をしなかった。

 と言うよりは私が勝手に、彼女を遠ざけていたような気がする。


 そして、出発から5日が経った頃、私達はディザン王国の首都にようやく到着した。


 そこで半日休憩し、夕方近くに首都を出発。


 2万の兵士と合流し、合計3万の兵士と共にカーレントへと向かったのである。


「あなたが噂の間医者さん? なるほどイヤラシイ顔をしてるわ」


 その途中、私は一人の女性騎士に話しかけられた。

 馬には乗らず、私達と同様、徒歩によって行軍していた。


 見た目の年齢は23,4才。

 瞳の色は緑色で、長い、オレンジ色の巻き毛を持った、活発そうな女性であった。

 思った事は胸が大きい。

 かつて見た、どこぞのメイドよりも、更に大きいように見えた。


 後は槍を持っていたが、それよりは正直胸が気になった。

 イヤラシイ顔、と言われても仕方がないような着眼点である。


「あれは一応、誤解だったんですが、まぁ、もう手遅れでしょうね」


 諦めたような口調で言うと、女性は「そうね」と言って笑った。


「私はブリギット。ブリギット・デイター。よろしくね間医者さん」


 言って、右手を差し出してくる。


「ああ、どうも。イアン・フォードレードです」


 無視をするのは無礼なので、私はすぐにそれに応じた。

 彼女の武具が「ガチャガチャ」と鳴り、私達が握手を交わす。


「言葉遣い、普通で良いわよ。これから長い付き合いなんだから」


 手を放す時に彼女が言ったので、私は「は?」と、眉根を下げた。


「従軍医師護衛兵長。私に与えられた役職でございます」


 演技がかった口調で言って、ブリギットが「ふふふ」と笑う。

 そう言う事か、と思った私も、愛想笑いで「ははは……」と笑った。


「じゃあそういう事だからよろしくね。あのお爺さんもお医者さん?」


 荷車に乗るフォックスを見て、ブリギットが私に聞いてくる。

 私は「ええ」と短く答え、その後に「専門は産婦人科ですが」と更に続けた。


「活躍の場は無さそうね……」


 ブリギットが小さく笑う。

 確かにそうだ。

 あっては困る。

「産まれる! 産まれるぅ!」等と言いながら、戦う兵士など居てはならない。


 ていうかまず、来るなと言う話だ。

 何で来た?! と言われても仕方がないだろう。


 そう思った私も「ふふっ」と笑い、ブリギットに妙な親近感を覚えた。

 この時、レーナは私達を少し後ろから見ていたらしい。


「拗ねとるように見えたぞ」


 後に、フォックスはそう言ったが、私はそれには気付けなかった。

 気付かず、レーナを自ら避けて、ブリギットと良く話すようになった。


 今にして思えば「何てこった」だが、この時の私は嫉妬心から、頭がどうかしていたのである。

 フォックスに一つだけ言いたい事は、


「なぜその時に教えてくれなかった!?」


 だが、基本的には自分が悪いので、フォックスを責める訳には行かない所であった。




 それから10日程が経ち、私達はようやくカーレントに入国した。

 ドリアードゲートを使用したなら、僅か5秒で来られた場所である。

 そう思うと随分と、遠回りをしたような気持ちになるが、従軍医師という立場上は、それも仕方がない事だと言えた。


 首都に着いたのは9月の2日。

 出発から半月以上が経過しており、昼間の気温もこの頃には、一時期と比べてマシにはなっていた。


 カーレントの首都はスイックと言い、人口3万人に満たない、少々寂しげな街であった。

 カーレントは元々人口が少ない国のようで、その為に周囲からは警戒されず、むしろ、庇護の対象として存在していたと言う側面があるらしい。


 なので、首都の人口がプロウナタウン以下であるのも、まぁ、仕方がないと言えば、仕方がない事なのだろう。


 司令官達が挨拶に行き、私達は街の外で彼らが戻ってくるのを待った。


 2時間くらい待っただろうか。


 司令官達は1000人程の兵士を連れて戻ってきた。

 どうやらその1000人が、カーレントの国の限界らしく、だからこそ彼らは私達の国に、援軍を要請したのであろう。


 この事により兵士の数は、およそで3万1千人となった。


 その、代表なのだろうか、40代位の将軍が、顔を見せたのはこの時の事だった。


 黒い鎧に赤いマント。

 腰には虎皮のベルトを巻いている。

 剣の鞘は銀色で、髪の毛と髭は茶色のようだ。

 これから演説をする為だろう、頭には兜をかぶっていない。

 顔つきは精悍。いかにも武人という印象を放つ男である。


「ディザン王国のカルロスだ! この度の指揮権を預かる事になった! ラーズ公国の諸君及び、カーレント王国の兵士諸君には、思う所があるかもしれない! しかし私に私意は無い! 目指す所は君達と同じだ! 大陸の平和! これこそが、私の願う所である! 全力を尽くすと諸君に誓う! 故に、諸君も全力を尽くしてほしい! 戦になるとは決まっていないが、可能性は十二分にある! その際には皆の尽力と、退かぬ心を期待するものであぁぁる!」


 男、改めカルロスが言い、兵士達から歓声が上がる。

 私は知らない人ではあるが、しかし、一応従軍医師なので、「ぱちぱち」と拍手を送っておいた。


「いざという時の決断力が、イマイチって噂の将軍様よ。ちょっとだけ、不安よね」


 ブリギットが言うので、それには私は「ちょっとどころか、かなりじゃないか……」と、思う所を伝えて置いた。


 その日から更に5日をかけて、私達はようやく目的地に着く。


 そこは三本の川が流れる、見渡しの効く平原だった。

 私達従軍医師は、本陣の近くに作られた4か所のキャンプ地で待機をしている。


 フォックスも幸い同じキャンプ地で、待って居る間は話し相手に困ると言う事は無かった。

 レーナは一応私の助手なので、何も言われず自動的に、同じ場所へと配属されていた。


 それから1日が経った日の昼。


 一頭の早馬が本陣に向かった。


「戦いにならなきゃ良いんだがな……」


 それを見ていたサリムが言って、聞いた私が小さく頷く。

 こんな所まで来ておいて何だが、それは戦争は無い方が良い。


 牽制、もしくは威嚇として、ここまで軍を進めたのなら、このままで無事に帰れる方が、皆にとっても良い事のはずだった。


 20分程が経っただろうか、テントの中から人が出て行く。


 その中には先の将軍、司令官のカルロスの姿もあった。

 一人の兵士がやって来て、ブリギットに向かって何かを伝えた。

 聞いたブリギットは唇を噛み、兵士に向かって頷いて見せた。


 この時点で私はもう、大体の事は察していた。


 ブリギットが歩き、中央に行く。


「皆! 聞いて!」


 そして、私達医師に向け、注意を引く為に声をかけた。


「ハーフネス軍が国境を越えたらしいわ! 奴らはやる気よ! 覚悟を決めて!」


 聞いた医師達が口々に騒ぐ。

 中には「マジかよ……」と引いている者も居て、今にも逃げ出しそうな顔の者も居た。


 やはりそうなったか、と思っていた為に、私はそこまで動揺しなかった。

 何度か修羅場をくぐってきた為か、少しは耐性がついていたのだろう。


「大丈夫。貴女は俺が守りますよ!」


 サリムがレーナにそう言ったが、私は「へっ」と心で笑った。

 レーナは守られるほど弱くないさ、と、声に出して言いたい程だった。

 が。


「あ、ありがとうございます」


 レーナはサリムに礼を言って、安心したかのように微笑んだのである。


「あの時は顔が細長く見えたな」


 後に、フォックスがそう言う程に、私はその時に衝撃を受けた。


「(これはもう、いよいよ駄目かもしれないな……)」


 肩を落とし、私が思う。


「心配ないよ! あんたは私が守ってあげるから!」


 そんな私の肩を叩き、そう言ってくれたのはブリギットだった。

 ああ、言われると嬉しいものだな、と、今更ながらに私は気付く。

 相手に対する気持ちはどうあれ、そう言って貰えると嬉しいんだな、と。

 つまり、レーナも少なくとも、サリムに対して満更では無いんだなと。


 おそらく、私も言うべきだったのだろう。


 実力は無いし、守ってもらうのに、「レーナの事は私が守る!」と。

 そうしたらレーナはきっと、笑って私に答えてくれたのだろう。


「ありがとうございます! 先生!」


 と。


 しかし、もう全ては遅い。

 今更言ってもカッコ悪いだけだ。

 その上で、サリムから「いや、俺が先に言ったし!」と、妙な顔をされるだけだろう。


「ありがとう、嬉しいよ……」


 タイミングを失った私は動かず、ブリギットに向かって礼を言った。


「なんかさ、あんたみたいなの、心配で放っておけないんだよね……私基本、ダメオ好きだから」


 照れ臭そうにブリギットが言い、私が動揺で「いっ!?」と言った。

 今のはその、告白じゃないか!? と、直後には瞬きを早めてしまう。


「ばっ! 何勘違いしてんのよ! そんなんじゃ無い無い!!」

「あおふっ!!?」


 結果、私はどういう訳か、ブリギットに頬をぶたれるのである。

 それも二発。往復ビンタで。

 意味が分からんと思っていると、遠くの方で「ドォン!」と音がした。

 見れば、遠くの空の上に花火が上がった形跡があった。

 何らかの合図だったのだろう、兵士達の動きが慌ただしくなる。


「敵襲! 敵襲ー!!」


 兵士の誰かが言った為に、私達も状況を理解した。


 いよいよ、戦が始まるのである。


 武器を持った兵士達は川の手前に集まっていた。

 現在、殆どが弓を持ち、一列に並んで敵を待って居る。

 騎馬に乗った兵士達は川を渡って左に動き、どこかに隠れるつもりなのか、遠くの方へ走って行った。


 不気味な静けさが辺りを支配する。


 武具が出す「かちゃかちゃ」という物音だけが、私達の耳に入ってきていた。


 そして、ついに敵が現れた。


 黒い塊のように見えたが、それはそこまでの距離の為だ。

 やがてはそれは大きくなって、数にするなら数千単位の魔物である事が私達にも分かる。


 先頭集団にはゴブリンや、コボルド達が多く見られ、中にはオーガやトロル等と言う、怪力自慢の姿も伺えた。


 その数はおそらく5000体以上。


 迷いも無く川の中へと進み、一直線に接近してきた。


「弓隊……うてぇぇぇぇぇっ!!」


 将軍らしき男が命令し、矢が一斉に放たれる。

 矢は次々と敵に刺さり、川の中に死体を浮かべた。

 しかし、殆どの敵は健在。


 トロル等は刺さっていても、それを気にせず前進して来ていた。


「弓隊つがえええええ!……うてえええええ!!」


 続き、第二射が発射される。

 矢は雨のように降り注ぎ、先頭集団の一部を倒したが、やはりはオーガやトロル等と言う、力自慢には無力であった。

 ここで、魔物達が川を渡り切る。


「抜刀っ! かかれええ!!」


 兵士達は剣を抜き、一斉に敵軍に切りかかった。

 数の上ではこちらが優勢。

 しかし、オーガやトロルに手こずり、こちらの被害も増す一方だ。


「治療を頼む! まだまだ来るぞ!!」


 と、負傷した兵士が担がれて来る。

 担いできた兵士の言葉の通り、すぐにも次が担がれてきた。

 私達の出番がついに来たようだ。

 戦いの行方は勿論気になるが、これが私達の戦い方なのだ。

 腕をまくり、覚悟を決めて、私は自分の持ち場に向かった。




 戦いが始まってどれくらいが経ったのか。

 負傷者の数が目立って減ってきた。

 それでも私とレーナの二人で、300人は治療をしたはずだ。


 他の医師達には助手が居ない為、その分、一人にかかる時間は必然的に増加していた。

 人数にしたら100人位は、私達との差があったと思う。

 レーナが居なければその100人は、或いは死んで居たかもしれない訳で、彼らにとってレーナの存在は、女神のそれにも近かったはずである。


「戦況はどうなっているんですか?」


 一仕事を終え、手を洗いつつ、私が近くのサリムに聞いた。


「一進一退だ。先頭集団は押し返したが、別の部隊が現れたらしい。戦いっ通しの連中を下げて、本陣から前線に送ってるそうだ」

「そうですか……」


 教えてくれたサリムに言って、遠い目をして前線を見る。

 3本の川の向こう側に、無数の人影が確認出来たが、流石にこの位置からでは、戦況の詳細はわからなかった。


 しかし、いずこかへ消えていた騎馬隊の姿が確認出来、彼らがうまく立ち回っているお蔭で負傷者が減ったのだと私は思った。


「先生、縫合終わりました」

「ああ、お疲れ様。レーナも少し休むと良い」


 出来た助手のレーナに言って、私はフォックスの所に向かった。

 すぐにもサリムが何かを言ったが、私は今は気にしない事にした。


「ふぅ……こんなもんじゃろう」


 フォックスは骨折や打撲等、簡単な外科を担当しており、今は骨折した患者の腕に添え木を当て終えた所であった。


「どうだ? 手伝える事はあるか?」

「添え木が足りんな。骨折ばかりじゃ」


 聞くと、フォックスはそう言ったが、そういう位置での担当なのだから、それは当然の事ではあった。


「まぁ、そういう担当だからな。しかし、添え木が無いのはマズイか。ブリギットにでも伝えておくよ」

「すまんな。だが、良いのかアレで。お嬢さんも女の子じゃ。自分に好意的な男には、案外コロッといっちまうかもじゃぞ?」


 私が言うと、フォックスは言い、レーナとサリムの事を暗に示した。

 そんな事は分かってはいる。

 私だって分かっているが、だからと言ってどうすれば良い。

 こんな中で「貴女を守ります!」とか、「大丈夫かい!?」なんて突然言うのか。


 私だったらそれは嬉しいが、「え!? 今?!」と困惑はするだろう。

 言うなら言うで場の空気というか、そういう場面があると思うのだ。

 それは少なくとも、今では無いだろう。


「今は仕事に集中する時だ。それに実際、何と言って良いのか、不器用な私には分からないんだよ」


 そう思った私が言うと、フォックスは「フヘッ!」と、鼻で笑った。


「言う、言わんは問題では無い。どれだけ近くに居てやれるかじゃ。ワシはお前さんがお嬢さんを放置しておる事を問題としとるんじゃ」


 そして、そう言って、私を指さす。

 言っている事は理解出来る。

 多分、他人の事であったなら、私も近い事を言ったと思う。


「だがな……お前も知っていると思うが、私は争い事が苦手だ。サリムもおそらくレーナが好きだ。あの勢いに割り込むような事は、私には到底できそうにないよ」


 だが、私はそうなのだ。臆病でチキンな男なのである。


「お前さんがそれなら別にええがな」


 フォックスはそこで言葉を切って、「一つだけ言わせて貰ってもええか?」と、私に発言の許可を求めた。

 何を今更と思った私が「どうぞ」と、皮肉った口調で答える。


「お前さんは一度後悔をした。今でもそいつを引きずっておる。ワシも同じじゃ。ずっと引きずっとる。だがな、お前さんはまだまだ生きる。2度もするな。同じ後悔を」


 言って、フォックスは頭を掻いた。

 フォックスも一度後悔をしている。


 50年前のある日の事だ。


 確かにそれは私も似ている。

 気持ちを伝える機会はあったのに、結局言えずにその人を失った。


 いや、最後には言えたのだが、それは却って辛い事だった。

 私は今も引きずっている。

 彼女の事を忘れた事は無い。

 その気持ちがレーナに対して、歯止めになっているのも事実だ。


 フォックスはそれを見抜いた上で、後悔するなと私に言っている。

 大した奴だ、と、つくづく思う。

 少しだけだが、救われた気がする。


「お前は良い友人だよ」


 言うと、フォックスは「何じゃ急に……」と、気持ちの悪そうな顔をした。

 この素晴らしい友の為にも、少し頑張ってみるのも良いかもしれない。

 そう思い、戻ろうとした時、兵士の一人が乱入してきた。


「退去命令! 退去命令! 従軍医師は即刻退去せよ!」


 そう言って、ここを走り抜けて、他のキャンプ地へと向かって行く。


「戦況が悪化したんか?」


 フォックスが言うが、私にも、状況は当然分からなかった。

 戦場を遠目に見ると、若干だが押されているように見えた。


「きらり、きらり」と何かが光り、その度に兵士が少し退いて行く。

 ここからではその程度しか、戦場の状況は分からなかった。


「退去します! 最低限の荷物を持って、私の後に続いてください!」


 大声で言って、ブリギットが動き出す。

 その際にブリギットがこちらを見たので、私はとりあえず頷いて見せた。

 彼女もまた頷いて、後方への道を進み出した。


 医師達がそれに続き、護衛兵達がその後ろにつく。


 私はフォックスを担いだ後に、レーナと合流してその列に加わった。

 護衛兵の人数は多目に見ても50人程。

 もし、本陣が突破されれば、私達の全滅は明らかな事だった。


「大丈夫なんだろうな!? 私達の命は保障されるんだろうな?!」


 医師の一人が兵士に聞いた。

 切迫した状況に気がふれたのか、少々恐ろしい形相である。


「だ、大丈夫です! 私達がお守りしますので!」


 兵士が引いて、医師に答える。


「当たり前だ! そういう約束だからついてきたんだ! 私には妻も子供も居るんだ! しっかり守ってくれたまえよ!」


 聞いた医師はそう言って、「ふざけるな」と言う顔で列に戻った。

 言われた兵士は不満げだったが、特に何かを言う事は無かった。

 彼にも当然家族は居よう。

 それを残して死ぬという事に、誰だって喜びを感じないはずだ。


 だが、彼はそれを言わず、医師の言いたいままとした。

 役目と言えば役目であるが、私は彼を立派だと思った。

 そして、同業者の事ではあるが、なじった医師を恥じたものだった。


 それから一時間程が過ぎただろうか。


 私達の後方に、無数の騎馬兵の姿が現れた。

 騎馬兵達は止まる事無く、私達の横を駆け抜けていく。


「カルロス将軍!? どこへ!?」


 その中にはカルロスの姿も見られ、それに気付いたブリギットは、彼の名を呼んで呼び止めようとした。


 が、カルロスはそれを無視し、騎馬兵と共に走り去った。


 後方にはすぐにも兵士達が現れ、こちらに向かって走って来ていた。


「壊滅したな……まずいなこりゃあ……」


 呟いたのはサリムであった。

 彼の予測通りであれば、前線が壊滅し、突破されたのだ。

 敵に追撃する気があれば、間も無くここへとやってくるだろう。


 逃げ切る自信は、はっきり言って無い。


 自分一人でも危ういのに、フォックスを担いだこの状況では、それはゼロより下だと言って良い。


「走るわよ! 急いで!!」


 ブリギットが言って、直後に走り出す。彼女も状況を理解したのだ。


「ま、待ってくれぇ!」

「冗談じゃない……冗談じゃ……!」


 本来、インドア派の医師達が続き、私とレーナがそれに続いた。

 走りはしていたが、皆遅い。私が言うのだから相当である。


 あっという間に先頭に立ち、前に居るのはブリギットだけとなる。

 見捨てるようで気持ちが悪いが、だからと言って彼らに合わせれば、体力を余計に使うだけだ。


 私が残ればレーナも残り、背中に居るフォックスも当然残る。

 そうなれば3人揃って、あの世の門を叩く事になるだろう。


 今救うべきはレーナとフォックスで、その目的を見失ってはならない。

 私は自分にそう言い聞かせ、ブリギットの背中を追って走った。

 私達の前で、ブリギットが止まる。


「どうしたんだ? 急に?」


 同じく止まり、私が聞いた。


「先に行って。私には一応、彼らを守る義務があるから。大丈夫、すぐに追いつくわ」


 槍を持ち直してブリギットが言う。

 その表情は「追いつく」と言う割には、悲壮感に満ちているように見えた。


「(まさか死ぬ気か……)」


 私がそう思うより早く、ブリギットは後方に向かって駆け出す。


「あんたみたいなの、嫌いじゃなかったよ!!」


 そして、最後にそう言い残し、私達の視線の彼方へ消えた。


「どうした! 行くぞ!」


 入れ替わるようにサリムがやって来て、立ち止まっていた私達に言った。

 そのまま横を走り抜け、彼女の代わりに先導するように走る。


「(すまない……ブリギット……生きてくれよ!)」


 私が行っても出来る事は無い。

 分かってはいたが、この時ばかりは自分の無力が口惜しかった。


 気持ちを押し殺して走り出すと、後方に敵の集団が見えた。


 行われたのだ。追撃はやはり。

 絶望した顔でそれを見ていると、フォックスが背中から転げ落ちた。

 落としたのではない、自らの意思で、私の背から飛び降りたのだ。


「ではなイアン。生き延びろよ」


 立ち上がり、右手を上げて、直後には敵に向かって歩く。


「冗談では無いっ!!」


 声に出して私は言った。


「お前が行ったら意味が無いだろう!」


 すぐにも引き返し、フォックスに走り寄る。

 敵の集団は医師達を呑み、フォックスをも飲み込もうと近づいて居た。


「バカ野郎がぁあ!!」


 叫び、全力で走ったお蔭で、ギリギリの所でフォックスを捕まえた。

 しかし、敵は目前で、フォックスを担ぐ余裕は無かった。

 ここまでなのか、と、片目を瞑ると、頭の上を何かが飛び越した。


 直後には目前の敵の群れが、宙に向かって舞い上がった。

 その中心地にはレーナが居て、一体どこで手に入れたのか、2丁の剣で戦い始めた。


「やるねぇ! ほんとに良い女だ!」


 サリムが言って走り抜ける。

 すぐにもレーナの戦いに加わり、二人して敵を薙ぎ払い始めた。


「今の内に逃げて下さい!!」


 レーナが言って魔法を放つ。

 それはすぐに爆発し、10体ほどの敵を飛ばした。


「れ、レーナもすぐに来るんだぞ!」

「はい!!」


 白衣をはためかせ、レーナは戦った。

 押し寄せる敵は何のその、時には数匹をまとめて屠った。


「(凄まじい女性ひとだ……)」


 フォックスを担ぎ、再び走る。これなら逃げ切れると思った直後、


「レーナ!!」


 と、サリムが後ろで叫んだ。

 立ち止まり、振り向くと、レーナが「ぴたり」と固まっていた。


「うわああああ!?」


 その直後にはサリムも固まり、剣を持ったまま動かなくなった。


「あら……あの時のお医者さんじゃない。どうしてこんな所に居るのかしら?」


 群れの中から女が現れる。

 年齢ならば27、8の、水色の髪の女だった。


「君は……」


 私は彼女と一度会っていた。あの豪雨の夜に他の4人と。

 名前は知らないがその顔と、金色の瞳には見覚えがあった。


「何をやったんだ! レーナとサリムに!」

「何も? 私はただじ~っと見ただけ。知っているでしょ、メデューサの魔力を」


 聞くと、女は平然と言った。

 金色の目が怪しく輝く。

 気付けば、私の右手の先は石のように重くなっていた。


 メデューサ。


 その瞳を見ると石になってしまうと言われる魔物だ。

 その髪の毛と下半身は、本来蛇であるはずなのだが、彼女はおそらくハーフなのか、どちらも人間のものを持っていた。


「丁度良かったわぁ。あなたにはウチのお姫様が興味を持ってるの。おとなしくついてきてくれるなら、この子達は解放してあげても良いわよ」


 女が言って近づいてくる。

 他の魔物は彼女の部下なのか、手出しは一切してこなかった。


「答えを聞かせてくれるかしら?」


 私の顎を持ち、女が言った。これは殆ど脅迫に近い。

 お断りします、なんて言える訳が無い。

 冗談でも言えば、ゲームオーバーだ。


「分かった……ついて行こう。だからレーナを元に戻してくれ……」


 結果、私はそう言って、女に「にやり」と笑われるのである。

 私とフォックスは彼女に連れられ、彼女達の姫という者に会う事になった。



中編、もしくは後編は、おそらく二日後の投稿になると思います。

お付き合いありがとうございました~

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