シメの不死鳥
その日は朝から手術をしていた。
盲腸や胃潰瘍、刺さった矢の矢じりの摘出や、悪化した虫歯の治療やらと、専門外の事まで黙々とである。
それが終わったのが15時少し過ぎ。
私はとりあえずシャワーを浴びて、紅茶を片手に一休みしていた。
玄関のドアが叩かれたのは、丁度そんな時の事だった。
「わたし、行ってきますね」
髪の毛がまだ濡れていた為に、レーナが言って向かってくれる。
気が利く人だ、と、つくづく思う。
私は感心し、首にかけていたタオルで、濡れていた髪を「ワシャワシャ」と拭いた。
フェネルにしてはまだ早い。
という事は、おそらく私の客だ。
結局は出なくてはならないだろう。
そう思った為に髪を拭いて、私はその場に立ち上がった。
「先生、お客様です」
レーナが言って戻ってくる。
その後ろには誰かを連れており、直後には「イアン先生です」と、その者に私の紹介をした。
「は、初めまして! ぼ、ボクはアノって言います! 突然お邪魔してすみません!」
アノ、という人物が、私に言って頭を下げる。
その年齢は15前後。
髪の毛の色は黒で、うなじに届く程度と短い。
瞳の色は青色で、右目の下にホクロがあった。
身長は150㎝位か、かなり小さい方である。
その服装はなんというのか、例えるなら民族衣装のようなもので、右肩にかけている豹の皮と、腰に下げている大きな弓が私にとっては印象的だった。
そして、固有名詞は「ボク」だったが、半分程出ている胸を見る限り、性別はどうやら女性のようだ。
「いや、そこはお気になさらず。どうぞ、座って下さい」
変わっているな、と思いはしたが、そこは個人の自由な所で、私はそれを心にしまい、表に出さずに彼女にそう言った。
「あ、すみません……ちょっと、汚しちゃうかもしれませんけど」
自身の尻を「パンパン」叩き、照れ臭そうにアノが言う。
ホコリは落とし、取ったつもりだが、それでもソファーが汚れるかもしれない。
もし、そうなってしまったとしても、後で怒ったりしませんよね。
と、そういう事を聞きたいが為に、彼女はそう言ったのだろう。
「ああ、大丈夫です。そこの所もお気になさらず」
「ふっ」と笑って私が言った。
聞いたアノは「すみませんほんと……」と言って、苦笑いを作ってソファーに座った。
レーナが微笑み、台所へと向かう。
おそらく、飲み物を作ってくれるのだ。
特に何も言っていないのに、本当に出来た助手だと思う。
どこぞの自称の助手君には、レーナの爪の垢を煎じたお湯を飲んでほしいと思う位だ。
いや、それすら勿体ないな。
奴にはその匂いで十分。
せっかくなのでそのお湯は、私がありがたく頂くとしよう。
え……? なんだかヘンタイ的だって……?
そ、そんな事はないだろう。
男ならみんな考える事さ。
……多分。
「話……聞いてくれてますか……?」
「あ!? えっ!? なんですか!?」
アノに言われ、私が驚く。
直後には妄想を「ぼんっ」と消して、現実世界のアノを直視した。
「じゃあもう一度言いますね……」
大丈夫かこの人、という顔をして、アノが再び口を開く。
あまり、大丈夫では無いのかもしれないが、今度は私も耳を傾けた。
「ボク、フェニックスを探しているんです」
「……は?」
きちんと聞いた結果はそれだった。眉根を下げて、目を細くしている。
「ですよね!」と言う訳にも行かないので、割と妥当な反応だと思う。
「それは、なぜですか……?」
その状態から脱出する為に、私がアノに質問をした。
「それは……」
少しの間、アノは黙ったが、話さざるを得ないと思ったのか、意を決したように話し出した。
「ボクにはお母さんと、おじいちゃんが居るんです。今は寝たきりだけど、おじいちゃんは、昔は村一番の狩人でした。この豹も、おじいちゃんがたった一矢で仕留めたものです」
アノが言って豹皮を見る。
その表情には祖父に対する敬意と誇りが満ちているようだ。
私は「ほぉ」とだけ言葉を発し、彼女の続ける言葉を待った。
「そんなおじいちゃんが一度だけ、ボクに話してくれた事があります。「フェニックスの羽根を手にした者は、どんな罪深い者であっても天国に行く事が出来るらしい。生きる為とは言え、ワシも多くの動物達の命を奪った。今更後悔するわけじゃないが、あれと違う世界に行くのは、少しばかり寂しい話じゃな」って。あれっていうのは多分ですけど、おばあちゃんの事だと思います。おじいちゃんはきっと、おばあちゃんと違う世界に行く事に寂しさを感じていたんだと思います」
それはそうだろうな、と、私も思う。
長年付き添った仲であれば、死後の世界があるとするなら、そちらの世界でも会いたいと思うのは、それは当然の想いである。
だが、現時点では「なるほど」に留め、私はアノが続けて言うだろう、理由の部分を静かに待った。
「だから、ボクはおじいちゃんに、フェニックスの羽根を持たせてあげたい……おじいちゃんをおばあちゃんに、もう一度会わせてあげたいんです」
そして、アノはそれを言った。
理由が分かり、目的も分かった。
後は私の返事次第だが……
正直、私は迷っていた。
「受けたくないな……だってメンド臭そう」
と、乗り気で無いというわけではない。
受けたとして、探すとして、フェニックスがどこに居るかが全く予想がつかない為に、受けて良いものなのかと悩んでいたのだ。
フェニックスは不死の鳥である。
と言っても実は寿命はあるが、寿命が迫るとその身を焼いて、その灰の中から生まれ変わる、輪廻と転生の生きる象徴だ。
その際にはこの世で覚えた穢れを同時に焼き落とすと言われており、その血を飲むと不老不死になれる等とも言われている。
灼熱の炎をその身にまとい、この世界のどこかを静かに飛んでいる。
だが、その姿を見れる者はほとんど居ないと言って良い。
彼らには他の生き物の思考を読むという能力があり、基本的には自分以外の生き物との接触を嫌う傾向を持つ。
つまり、誰かが近くに居ると、フェニックスはその者の思考を読んで、それとは違う方向へ行ってしまうのだ。
会いたいと思っていれば尚の事、彼らはそれから遠ざかるだろう。
「あの、受けて貰えないんでしょうか……?」
困った顔でアノが言った。
「ムリゲーです」と言いたい所だが、それを言うのは少し酷か。
私は考え、ラーシャスを頼る事にして、とりあえず「時間を下さい」と言った。
長年生きている彼であれば、何事かのアドバイスをくれるかもしれない。
こんな事を言ったら怒るだろうが、正直、図書館で調べるより早い。
私は飲み物を持ってきたレーナに外出すると言う事を告げ、アノの面倒も同時に頼んだ。
そして、すぐにも家を出発し、ドリアードゲートへ向かったのである。
「最近、こういう事が多い気がするが、私を図書館か何かだと勘違いしてないか?」
成り行きを聞いたラーシャスは、不満げな顔で私に言った。
「い、いやぁ、そ、そんな事は思ってないさ……」
言葉とは裏腹に図星であった為、私の声は上ずっている。
「まぁ良いが。どうせ暇だからな……」
しかし、直後にはそう言われ、気付かれぬように息を吐いた。
「……フェニックスに会いたい、か。こいつはなかなか無理難題だな。知っていると思うが、あいつは人の、いや、人だけでは無いが、ともかく他の生き物の思考を読むという能力を持っている。近くに行けばそれを避け、近づこうと思えばわざと遠ざかる。なぜ会いたいのか、の理由次第では永久に会う事は叶わんだろう。もし、会えるとするのなら、奴がその者に会っても良いと、自分で思ったその時だけだ」
ラーシャスの言葉の通りであれば、これはなかなか絶望的だった。
言うなら、こちらから見つける事は不可能である事と変わりない。
向こうが会っても良いと思わなければ、いくら探しても無駄という事だ。
「絶望的という顔をしているが、本当の絶望を教えてやろうか?」
私の顔を見てラーシャスが言う。
その表情は心なしか、若干、楽しそうである。
「奴はすでに知っている。会いたい、と、誰かが思った時点でな。それでも姿を見せないという事は、つまりはそういう事なんだよ」
教えてくれ、とは言っていないのに、ラーシャスはそれを勝手に言った。
直後には「ふふふ」と笑いだした辺り、やはりは楽しく思っていたのだろう。
優しく、気の良い竜ではあるが、こういう意地悪な所もあるらしい。
私は「それはどうも、貴重な情報を……」と言って、皮肉めいた顔を見せておいた。
「まぁまぁ、そうふて腐れるな。逆に言えばだ、興味があれば、奴の方から現れるという事だ。会いたいと願い、その上で、奴が興味を持つような事をすれば良いと言うだけの話だな。勿論、武器等は捨てて置け。奴は強いが、究極に臆病だ」
そんな私の気持ちを察したか、ラーシャスはヒントのようなものをくれた。
そして、そう言い切った後に、
「ヒントは以上だ。礼を忘れるな」
と言って、その場に静かに伏せるのである。
言いはしないが酒の請求だ。どうやら完全にハマったようだ。
「(この飲兵衛め!)」
と、思いはしたが、ヒントに対して感謝もしていた。
故に、私は「わかったよ」とラーシャスに告げ、「それではまたな」と言って洞窟を出た。
「(フェニックスが興味を持つもの、か……フェネルを血祭りにでも上げてみるか?)」
思い、一人で根暗に笑うが、その直後にはその考えが筒抜けである事を思い出す。
つまり、考えた時点でもうすでに、フェニックスには伝わっているのだ。
「厄介だな……」
声に出して、そう思う。これは本当に不可能に近い。
或いは、この事は他の誰かには言わない方が良いのかもしれない。
フェニックスでは無い誰かを創造し、その人に会う為の方法を考える。
そうすれば自分の事では無いし、私以外の誰かの思考を、フェニックスが読むという事はないのではないか。
「(とりあえずそれで行って見るか……)」
私は一先ず、そう結論付け、自宅への道を早足で進んだ。
家に帰ると知らない男が居た。
年齢ならば25前後。髪の毛の色は黒色の、知的な印象の男である。
「初めまして。ティバルと言います。アノの隣家に住んでいる者です」
男、ティバルはそう言って、私に軽く頭を下げた。
見れば確かに服装が似ており、アノ自身、否定をしないので、私は彼の素性を信じた。
「それで、ここへは何用で?」
聞くまでも無い事ではあったが、私は一応それを聞いた。
「彼女の母親に頼まれたんです。心配だからついて居てくれと。言うなれば見張りですね」
そうだろうな、と思いつつ、私は「なるほど」とティバルに言った。
「それでは少し、協力してもらえますか?」
言って、彼らの前に座り、
「ある人をここに呼びたいのですが、なかなか臆病で、頑なな人でして。興味を持てる事が無いと、絶対に姿を現さないのです。この頑なな人を呼ぶ為の作戦を、一緒に考えて欲しいのです」
と、レーナを含めた全員に、考えてくれるように頼むのである。
「すみません、それはその、ボクのお願いに関係はあるんですか……?」
言ってきたのはアノだった。
当然の事だ。私は彼女に依頼を受けると伝えていない。
その上でわけの分からん事を強要されても困ってしまうだろう。
だが、ここは不安でも、我慢してもらうしか方法は無い。
言えば、フェニックスを意識してしまい、全てがあちらに伝わってしまう。
或いは私がこんな事を考えている時点で、もう駄目かもしれないが、情報を伝える入口は少ない方が良いだろう。
「……関係は、ありません。私の都合を優先しているだけです」
考えた結果、私はそう言い、アノから「ぼけー」と見つめられた。
「こいつ、最低のクズ男じゃね!?」と、思っているに違いない。
なので一応、
「これが終わったら、あなたのお願いを片付けましょう」
と言い、嫌われないように保険を張った。
「あ、は、はぁ……」
マジかよ、と言う顔をして、アノは一応、私に返事する。
なんだか余計に嫌われたようだが、今はそれでも仕方が無い。
私はそれから腕を組んで、皆と一緒に考えだした。
「その人が興味を持つ事って、何か一つでも分からないんですか? 例えば食べるのが好きだとか、新しい本が好きだとか、色々あると思うんですけど」
言ってきたのはレーナだった。
これも当然な言い分である。
その人の事を知っていれば、普通は趣味や興味等はひとつかふたつは知っているはずだ。
だが、架空の人物には残念ながらそれは無い。
「確か甘いものが好きだったな」
とか、適当な興味をでっち上げたとする。
それならばとケーキを買っても、絶対にその人は姿を現さず、結果として皆で眺めるだけの、気まずい空気を作るだけだろう。
嘘を言った私自身、「来るわけねぇよ」と知っている訳で、知っているのにそんな事を言う程、私は時間を持て余してなかった。
「残念ながら、何も知らないんだ。好物も、趣味も、何ひとつ。だが、多分だが食べる事にはあまり興味が無いんじゃないかな? 特にその、鶏肉とかは」
言って置いて私は思う。
今のは伝わるとちょっとヤバイかな、と。
「鳥扱いしてんじゃねーよ!?」
と、フェニックスが激ギレしていないかな、と。
しかし、もう言った事で、取り消しは絶対に効かないものだ。
私は心の中だけで「ごめんなさい……」と謝っておいた。
「あれ? なんか今日は沢山要るー」
言って、フェネルが姿を現す。後ろには珍しくフォックスも居た。
「ほれ、今月の伝達事項じゃ。ついでにエタノール返してもらうぞ」
所謂、回覧板を見せて、その上で私にそう言ってくる。
「良い所に来たな。まぁ座れ」
丁度良いと言わんばかりに、私は彼ら2人も巻き込んだ。
「うーん……」
説明を聞いた後、二人は揃ってうなりを上げた。
「先生が死んじゃった事にすれば? 罪悪感がどうとか言うなら、ホントに死んじゃえば良いだけの話だし、葬式の招待状が届いたら普通の人なら来ますよね?」
これを言ったのはフェネルである。
ホントに死んじゃえば良いだけとか、無茶な事をサラッと言ったが、これは当然却下となった。
理由は簡単。来ないからだ。
「来ないの? 薄情な人なんだなぁ。ま、先生の交友関係なんて、所詮そんなペライものですよね~?」
それを教えると、フェネルは言って、両手を広げて「フゥ~」と鳴いた。
基本、私をみじめにする事には大喜びで反応する奴で、実際には居ないが その人物が、私に冷たいのが嬉しいのである。
「まぁ基本」
口を開いたのはフォックスだ。
「人っちゅうのは笑い声が気になる。聞こえそうで聞こえない笑い話とかが気になるじゃろう? 昔話のひとつにな。岩室に籠った神様がおって、どういう手を使っても、そこの扉を開けんかった。じゃが、外で祭りをやったら、何もしてないのに自分から、岩室の扉を開けたそうな。人っちゅうのはそれほどに人の笑い声が気になるっちゅう事じゃな」
その言葉を聞いた皆が、言葉を失って考え込んだ。
「そんな事ねえっしょ?」と思っている訳では無く、「そうかもしれない」と思うが故だ。
「確かに僕も気になりますね。クラスの女の子とかがクスクス笑ってると、「悪口か!? 僕の悪口なのか!? 今度は犬のウンコじゃすまさねぇぞこの野郎!」とか、勉強に手がつかなくなる位、復讐の手段を考えますもん」
フェネルが言って、「うんうん」と頷く。
まぁ、その、頑張れ。復讐じゃなくて人生をな。
としか、私には言えない内容である。
「だがまぁ、それも一理あるかもな。楽しそうにしている人を見ると、少しは理由が気になるものだ。祭りは流石に無理だろうが、皆でパーティーでも開く事にするか」
前半部分は皆に向けたが、後半の部分は独り言のようなものだ。
それもありか、と思っただけで、皆の反応は期待していなかった。
「無理ではなかろうよ」
が、フォックスがそこに食いつき、私は「ん?」と聞き返す羽目になる。
「ほれ、こいつを読んでみぃ。裏の真ん中あたりをな」
それは伝達事項が書かれた、プロウナタウンの回覧板だった。
受け取り、裏返して真ん中あたりを見ると、
「冬の終わりの花火大会。恋人や家族で是非ご来場を」
という、金色の文字が書かれてあった。
開催日時は今から2日後。
開催地はプロウナタウンから、東に僅か一キロの場所だ。
「毎年やっておったんじゃがな。興味が無いと思って黙っとった。じゃが、今年は行くと思うてな。老骨に鞭打って持ってきてやったんじゃよ」
私を見て、レーナを見て、フォックスが「にかり」と笑って言った。
「(気を利かせたな……)」
私は笑って首を振った。レーナもどこか嬉しそうだ。
フェネルはすでに「先生、靴が汚れていますよ!」と、おごられモードに突入している。
回覧板を右手に持って、その文字を読み直して私は思った。
確かにこれなら呼べるかもしれない。
臆病で、人見知りのフェニックスを祭りに招待する事にしてみよう。
2日後の夜。
大会開始の1時間前に私達は集まった。
いつものメンバーは言うに及ばず、折角の機会という事で、アノとティバルも一行に加わった。
大会の会場は平野であったが、今日は祭り用に改装されて、露店や照明等が並ぶ賑やかな場所へと姿を変えていた。
冬の為か、浴衣は見えないが、人々は笑い、楽しんでいる。
私達もその中を同じように楽しんで歩いていた。
「おおっと、いかんいかん。患者の奥さんの娘さんに、アレを買うと言う約束じゃった! フェネル君ついてきてくれるかな?」
その途中で突然言い出し、フォックスがフェネルに向かって聞いた。
「花火が上がったらさっきの場所でな!」
「なんなんすかもー!」
そして、嫌がるフェネルを引っ張り、何かを買う為に歩いて行った。
「ああ」
ティバルが言って、何かに気付く。
「アノ、私もひとつ買うものがあった。お前もちょっと付き合ってくれ」
「え? ちょ、ちょっとティバル兄さん!?」
ティバルもまたフォックス同様、アノを連れて消えて行った。
「……」
私もバカでは無い。理由は分かる。
彼らは気を利かせてくれたのだ。
私とレーナが二人になるように。
しかし、露骨にそうされると、却ってなんだか緊張してしまう。
いつもであれば話せるのだが、意識をしてしまい逆に話せない。
頭を掻いて困っていると、レーナが「あっ」と足を止めた。
振り返ると露店の前で止まって、店員から何かの説明を受けていた。
その店名は、
「ハートを貫け! 射的で素敵!」
というもので、その店名とは反比例した鼻毛ボーボーの男が店番をしていた。
「射的、か。やってみたいのか、レーナ?」
「え! ま、まぁその……興味はありますよねぇ」
聞くと、レーナはそう言った。
お金がかかるものではあるので、一応、遠慮をしているようだ。
「よし、じゃあやってみてくれ。私はあれだから見学しているよ」
「良いんですか? やったぁ!」
許可を出すと、レーナは喜び、店員から重そうなボウガンを受け取った。
「お嬢さんにはそいつはキツぜ? 悪い事言わないからライトにしときなって」
小さめの、軽そうなボウガンを見せて、レーナに向かって店員が言う。
「(知らないな、レーナの事を)」
私は思い、一人でにやついた。
「一番ポイントが高いのは……あそこか。500点! もーらいっ!」
レーナが言って、舌なめずりをする。
こういう時はなんというか、彼女は若干アグレッシブだ。
一方の店員は「無理無理」と言い、バカにするように「にやにや」している。
「えいっ!」
狙いをすまし、引き金を引く。
バシュン!
という音が鳴り、矢は過たず500点の紙を貫いた。
「な!?」
店員の動きはそこで停止。鼻毛が若干伸びた気がしたが、流石にそれは気のせいだろう。
「もう3本打てるんですよね?」
「お、お、おぅ……運が良いなお嬢さん」
レーナに聞かれ、店員が苦笑する。
新しい矢を渡し、「番えようか?」と聞いてきたが、レーナは「大丈夫です」と言ってそれを断った。
「よいしょっと」
そして、自分で矢を番え、再び正面に向かって構える。
「次は400点! いっただきぃ~」
「偶然は2度も続かないよぉ!?」
二人が言って、矢が放たれる。
「なあっ!?」
直後には店員は顔を長くして、驚きの顔のままで停止していた。
「あ、あんたらプロだな!? プロなんだな!? だったらそう言ってくれないと! プロにはこの特製のヘビーヘビーボウガンを使ってもらう事になってんだ! もう全く! 困ったもんだよ!」
店員が言って、何かを持ち出す。
露店の下に隠れていたそれは、弓というよりは砲のようなもので、矢を番える弦の部分が、鋼でできているようだった。
「どすん!」という音が鳴り、露店の台が僅かに沈む。
重さはおそらく100キロ位か。ともかく先の比では無かった。
「で、これはその矢! どうだ! 打てるもんなら打ってみろってなぁ!」
矢を持ち、それを「どん!」と置いて、店員が「がはは」と笑いだした。
酷いものだと思いはするが、彼にも生活が懸かっているのだ。
仕方がないな、と感じる反面、気の毒だなと感じる部分もあった。
何でって、相手が悪かったから。
「凄いですね。トロルとかでも倒せそう」
レーナが言って、普通に矢を持つ。重さはきっと5キロはあるだろう。
この時点で店員は「まさか……」と、顔色を悪くしていた。
「じゃあ300点いただきまーす!」
軽く矢を番え、砲を持ち上げる。
店員は口を押え「まさかぁぁぁぁ!!?」とひたすら恐怖していた。
ドウッ!!
という音が鳴り、砲から巨大な矢が放たれる。
矢は「ドカアッ!!」という音を発し、得点が置かれていた台を破壊した。
それでも矢は止まる事無く、露店の周囲を覆っていたシーツを巻き込んで更に飛び、隣の屋台の一部を壊して暗闇の中へと消えて行った。
「あれ……この場合、どうなるんですか……?」
砲を抱えたままレーナが聞くと、店員は、
「もう勘弁してください……」
と、地面に土下座をしたのであった。
そりゃあそうなるな……と、私は思い、彼を許してやる事にした。
「500点と400点。それで最後に300点だから、合計で1200点か。じゃあすみません、1200点丁度で、イグニスの温泉旅行券、貰って行きますね♡」
だが、レーナは彼を許さず、一等賞のそれをもぎ取った。
そして、私に向かって微笑み、「やりましたよ!」と言って喜ぶのである。
勝負事に容赦無し。
真剣勝負で生きるレーナであった。
いくつかの店を回った所で花火大会が開始された。
皆、思い思いの場所に止まり、今は夜空を見上げている。
私達も全員集まり、湖に近い場所でそれを見ていた。
中心からは少し外れるが、その代わりに人が殆ど居ない。
3組か4組のカップルが居るが、これ位の賑わいならば、雰囲気を楽しむには丁度良いだろう。
「(さぁ来いフェニックス。皆、楽しそうにしているぞ)」
私が思い、空を見上げると、最初の花火が「パアン」と咲いた。
少し遅れて「どぉん!」と音がする。
「キタァァァ! キタよコレエエエエエエ!!!」
と、フェネルが大喜びして、いつの間に合流したのだろうか、フェネルの姉が頭を叩く。
「何見てんのよヘナクソ!! ……も、もしかして花火より私の方が綺麗だって言いたいの?!」
私に気付いたエリスが言って、私は慌てて首を振った。
「その反応もどうなのよ!?」
エリスは言って、一瞬怒ったが、次の花火が上がった為に、その怒りをどこかへ飛ばしたようだった。
それにしてもヘナクソとはな……私も色々と言われるものだ。
「豚さんだ。凄いねー」
次の花火は豚を模した、ピンク色の花火であった。
言ったのはアノで、その隣ではティバルが「ああ」と頷いている。
彼らもなかなか楽しんでいるようだ。
私も花火に集中する為、視線を外して空を見上げた。
「連発式じゃ。すっごいのぉ~」
連発式の花火が上がり、フォックスが白い息を吐く。
「すごーい!」
私の右に居るレーナも言って、夜空に描かれる枝垂れに見入った。
連発式は激しく続き、花や、木や、枝を描いた。
3分位続いただろうか、最後に特大の花火があがり、連発式はようやく終わった。
「すごいな。これを毎年逃していたと思うと、今更ながらに後悔するよ」
「いやいや、皆で見とるから楽しいんじゃよ。これがワシとお前さんだけなら、こんなに楽しい気分にはならん」
確かにフォックスの言う通りだ。客観的には野郎と老人。
こんな二人で見ていても、下手をしたら怪しまれるだけだろう。
「花火の音に紛れて殺す気ね!?」
とか。
「花火の音で心臓発作を引き起こそうとしてるのね!?」
とか。
まぁ、割と殺人的な方向で、余計な心配を与えるだけだ。
これだけのメンバーだから、周りからは怪しまれないし、きっと楽しい気分にもなるのであろう。
それにしても。
「(来ないか、やはり……)」
フェニックスはまだ姿を見せない。
という事はこの程度では、彼の興味を引けないのだろうか。
「うっさい所苦手なんすわぁ……(怒)」
と、却って気分を害してしまったのか?
花火を見つつ、私は考える。
これで駄目ならどうすればいいのかと。
「(やはりフェネルに犠牲になって貰うか……)」
しかし、それは私の興味……というか、やってみたいだけの事で、花火大会より気が引けるとは、到底思えない事ではあった。
一人で考えても仕方がないが、こんな場所で「駄目だったらどうする?」と、皆に聞くのも野暮の極地だ。
そんな事を思っている間に、花火は次々と上がって行った。
それから30分程が過ぎただろうか。
夜空に「お」と言う文字が上がった。
そして、数秒後に「わ」が上がる。
「おわり、か。あっという間じゃったのぉ」
フォックスが言うが早いか、向こうのカップルが立ち上がる。
終了と分かって帰る気なのだろう。
しかし、なかなか「り」が上がらない。
「手間取っているのか?」
と、私が言うと、ようやく夜空に花火が上がった。
それは期待していた「り」では無く、なぜかどうして「ら」という花火。
「おわら!?」
私が思わずそう叫び、エリスが「おわらって何よ!?」とキレた。
「おわらせない! この流れをッ!!」
と言う、フェネルの言葉は完全に謎で、誰一人として突っ込まないので、結局自分で「どういう事!?」と突っ込んだ。
花火はその後、一発も上がらず、消化不良のままで終わった。
「なんだったんだあれは」
「意味不明でしたね」
私とレーナが苦笑いをし、他の者達も笑って立ち上がる。
「しかし、結局来なかったな」
思い出したように私がそう言う。
忘れていたというわけでは無いが、最中に言うのは野暮だと思い、このタイミングを待って居たものだ。
「何がっすか?」
聞いてきたのはフェネルである。
こいつは完全に忘れているようで、純粋にその目を瞬かせていた。
「ここに来てほしい人が居ると、その為にここに来たんだろうが。忘れてただろう完璧に」
「い、いーえっ! 僕ちゃあんと覚えてましたよ!? ねっ? 姉さん?」
私が言うと、フェネルは言って、責任逃れに姉を頼った。
「忘れてたでしょ」
「があああああ! 裏切られたああ!!」
が、無慈悲にも姉に切られ、フェネルは頭を抱えるのである。
「まぁ、他にも手段はあるじゃろ。それともあれか、急ぐものなのか?」
これはフォックスの発した質問だ。
急ぐと言えば急ぐだろう。アノの祖父は長くは無いようだ。
だが、「急ぐ」とフォックスに言っても、事態の解決にはきっと繋がらない。
私はそこは嘘をついて、「いや」とだけ答えて置いた。
「(考えるしかないか……他の手段を)」
私がそう思っていると、アノが近づいてきて口を開いた。
「ボクのお願いはまだ駄目ですか……? もし、忙しいようでしたら、どこか、他を当たろうと思うんですが……」
目を反らし、右腕を持ち、言いづらそうにアノが言う。
他の者には聞こえないよう、小声であったのは計らいだろう。
この大会に参加をしたのも、一応、彼女の為ではあった。
だが、それを伝えていないし、私の都合としている以上、今更言い訳するのも見苦しい。
「では、明日から早速」
そう思った私は言って、明日からの開始をアノに伝えた。
「いや、その必要はありません」
言葉の主はティバルだった。
どういう事か、と、ティバルを見つめる。
「届いていましたよ。あなたの気持ちは。今日は楽しかった。本当に」
こちらに体を向けたままで、ティバルが後に下がり出した。
「まさか……」
「ええ、つまり、そういう事です。あなたの奇抜な考えに、つい、引かれてしまいました」
私の言葉にそう答え、ティバルが「にこり」と微笑んで見せる。
直後には何もない空間から、燃えるような羽根が現れ、「ひらひら」と宙を舞った後にアノの両手の上に収まった。
「お礼です。お爺さんに渡して下さい」
「えっ……ティバル兄さん何を言って……きゃあっ!」
ティバルの周囲に炎が上がる。
炎はすぐに中心に集まり、空を突きあげんばかりに燃えた。
そして、炎の先端から、灼熱の炎に包まれたフェニックスが姿を現したのだ。
フェニックスは「ピイイイッ!」と鳴いて、夜空を一直線に昇って行った。
「おぉぉぉおお!」
「すごいなこれは!」
それを見た観客達から惜しみない拍手が送られる。
それは、今までの花火には見られなかった程の、大きな大きな拍手であった。
「思考が読める、か……完全にやられたな」
彼が飛んで行った場所を見ながら、私は言って、頬を掻いた。
後日、アノから手紙が届いた。
無事、家に着く事が出来、祖父に羽根を渡せたらしい。
祖父は喜び、アノを抱きしめて「ありがとう」と礼を言ったそうだ。
隣家のティバルは普通に健在で、やはりはフェニックスが化けていたのだろう、この1件の事は何も知らなかった。
おそらくラーシャスと話している時点で、彼は事の成り行きを知り、状況次第では会っても良いと思って、ティバルに化けて近づいたのだろう。
穢れを落とすとか何とかいうが、なかなかどうして策士だと思う。
こういう考えも伝わっているのだろうから、ついでにこれも伝えておこう。
来年も来いよ。花火大会に。
そして、お・わ・ら、等と言う、意味の分からないラストでは無い、君の 雄姿でラストをシメてくれ。
私達はそれを楽しみに待って居る。
番外編を書くかもなので、現在の「大体2日でアップペース」が崩れてしまうかもしれません。
もしそうなったらスミマセンが、楽しみに待って居てくれるとありがたいです。
詰まったらふつーに続きを書くので、2日後にはアゲられると思います。
それではお付き合いありがとうでした~




