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恐るべき海の女達

 私に一通の手紙が届いた。

 宛先人と住所が不明の気持ちの悪い手紙だった。

 その内容は要約するなら、


「用があるからここに来てくれ」


 という、私を呼びつけるものであった。

 一応は地図も内包されており、行こうと思えばそこに行けた。

 だが、なんだか不気味に感じ、私は判断に悩んでいたのだ。


 その手紙が何というか……ラブレターに近いようなものだったからだ。


「初めましてイアン先生♡」


 に始まり、


「どうしても一度お会いしたくて」


 と続き、


「待ってますから、必ず会いに来てくださいね!」


 と、〆られている。

 挙句には「P,S」と最後に記され、


「来てくれないと泣いちゃうカモ……↘」


 と、可愛らしい文字で記されていた。


 普通の男なら少し位は期待をしてもおかしくない内容だ(よな……)。

 しかし、相手が分からない点、加えて住所が書かれていない点。


 この二点が少々不気味で、思い当たる女性が一人もいなかった為に、二の足を踏んでいたという訳なのである。


「(悪戯か……だが来てくれないと泣いてしまうらしいし、やはり一応行った方が良いのか……)」


 紅茶を飲みつつ、私が思う。

 テーブルの上に地図を広げて、指定の場所を確認してみる。


 方向はプロウナタウンの北西。

 場所としては海岸線の一部にある入り江のようであった。


 プロウナタウンの北部には人間の村や町等は無い。

 所謂人跡未踏の地である。

 そこに居る者が人間である可能性は殆ど無いと言って良い。


「(という事は相手は魔物か……いや、まぁ、居たとして、だが……)」


 紅茶を飲み終えて椅子から立ち上がる。

 左手に手紙を持ったままなのは、未だにどうするか悩んでいたからだ。


 裏庭を見ながら少し考える。


 そこではレーナが雑草を抜き、庭の手入れをしてくれていた。


「助手というならああいうのが助手だな……フェネルの奴には見習ってほしいが……」


 その様子を見て一人で呟く。

 ガラス一枚を隔てているので、レーナにはそれは聞こえていない。


「ちゃーっす! 今日もお手伝いにきましたよーっとぉ!」


 そこへ、自称助手のフェネルがやってきた。

 やけに早いな、と、時計を伺う。

 時刻は10時21分。学校が終わったにしては早すぎる時間だ。


「あれ? 先生何してんですか? はっはぁ~ん? さては想像してますね!? レーナさんの裸を想像してますねぇ!?」

「するか!!」


 第一声がそれなので、とりあえずの形で否定する。


「ほんともう先生は、1%でも肌が見えてたら逞しく想像しちゃうんだから」


 が、フェネルはそれを信じず、そう言った後にソファーに埋まり、「ぷひゃー」と息を吐いた上で「あ、今日から僕春休みなんで」と、私にとっての凶事を告げた。


「(何て事だ……今日からは毎日が地獄だな……)」


 がっかりとしながら私は思う。


「(それにしても暇な奴だ……)」


 と。

 春休みの初日に職場に来る等、13才の子供にはありえない事だ。

 友達と遊ぶとか、家族で旅行に行くだとか、もっと他にする事はあるだろう。


 いや、フェネルにとってはここが遊び場で、だからこそ初日から遊びに来たのか。

 そう考えれば納得だったが、遊び場にされているという点については、いつかは話し合いが必要だと感じた。


「さぁさぁ! 店を開けましょうよ! それともあれですか、どこか行くんですか?」


 座ったままで両足を振り、フェネルが私に質問してきた。

 店を開けるってここは肉屋か! と、内心で思いつつ私が振り向く。


「いや、別に」


 と言って手紙をしまうのは、万が一にもフェネルにバレて、からかわれないようにする為だった。


「え? 今の手紙なに? 今何か隠したでしょ? ねぇねぇ今の手紙なに~!!」


 が、フェネルは目ざとくそれを見つけ、一気に私に近寄ってきた。

 そして、私の正面に立ち、「何々~! なぁ~にぃぃぃ!!」と連呼するのだ。


 やられてみると分かる事だが、これは本当に相当ウザい。

 うるさい! と、キレてみるのも良いが、それでとりあえず黙ったとしても、フェネルの場合は勝手に想像し、その都度色々とふっかけてくるから却って面倒な事になる。


「なぁああぁぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃぃ!!!!?」


 両唇を「へ」の字に曲げて、フェネルは尚も手紙に固執する。


「ああ……呼び出しだ……ただのな」


 やむを得ず私は教え、フェネルの横を通り過ぎた。

 これで一先ずは静かになると私なりに考えたのだ。


「んじゃ行かなきゃ! 患者さんなんでしょ? ヒャッフー! 春休みの初日から遠出だ~!」


 が、それは大甘だった。

 聞いたフェネルの瞳が輝き、直後にはその場で飛び上がり、着地と同時に走り出したのだ。


「レーナさん旅行だよ! 先生と僕とレーナさんで旅行だよ~!」


 その目的地は裏庭のレーナ。

 もはやどうしようも無くなった状況に、私はただ、額を押さえていた。




 私達が入り江に着いたのは、自宅を出てから二日後の事だった。

 ドリアードゲートが繋がっている最寄りの古木がその距離にしかなく、そこからは徒歩での移動になった為にそれだけの時間が必要となった。


 しかし、それは仕方のない事で、少しでも距離を縮めてくれたリーンやゲートには感謝こそすれ、不満に思う気持ちは無かった。


 森を越え、川を越え、坂道を上り下りした結果、私達はようやく入り江を見つけた。


 そこは人が一人も居ない、静かで美しい浜辺であった。


「うわぁ~……綺麗~……」


 浜辺を見、海を見て、レーナが感激したように言った。

 その直後には草木をかき分け、浜辺へと続く坂道を下り出す。


「(タフな人だな……)」


 と、思いつつ、私がその後ろに続く。

 レーナの実力は知っているので、危険があるとは思えなかったが、男として一応は、レーナの身を気遣いたかったからだ。


「ちょっと待って下さいよ~……なんか枝とか草の高さが丁度良い所にあるんですよねぇ……! だからなんていうか、痛っ!? 邪魔ぁあああ!!」


 私の後方でフェネルが切れた。

 枝を押しのけ、草を避けるが、その行動は殆ど無意味で、直後にはまた別の枝や草がフェネルの顔へと襲い掛かる。


 自然とはなんと偉大なのか。

 私はフェネルをこらしめている枝や草に敬意を抱いた。


「ちょっとなんで笑ってるんすか!? もしかしてザマァ! とか思ってたんすか!?」

「いやいや。そんなとんでもない」


 フェネルの怒りを「ぬるり」とかわし、私はニヤつきながらに進んだ。


 坂道がやがて終わり、美しい白い砂浜につく。

 見ればレーナは波打ち際で海を見つめて立ち尽くしていた。


「もう駄目! 僕もーダウン! 1時間経ったら起こしてください……」


 私の後ろでフェネルが倒れる。

 何と言っても基本は子供だし、体力的には仕方がない事だ。

 むしろ今回は耐えた方である。


 私は「分かった。少し休んでいろ」と言い、心の中だけでフェネルを褒めた。

 そして、フェネルをそこへ置いて、波打ち際に向かって歩いた。


「先生、海って綺麗ですね。わたし、見るのは初めてなんです」


 振り返らずにレーナが言った。

 潮風によって髪が揺れ、陽光が眩しくレーナを照らす。

 煌めく髪は金糸のようで、白い肌は陶器のようだ。


「確かに綺麗だ……」


 と漏らした言葉は、海に向けてのものでは無かった。

 私の前に立ち、海を見つめるレーナの後ろ姿への言葉であった。


「綺麗な海だ」


 言った直後に私は気付き、慌てて言葉を取り繕った。


「ですよね。わたし多分この光景を一生忘れないと思います」


 レーナはそこで振り返り、「にこり」と笑って私に同意した。


「そ、そうですか。それは良かった」


 その顔を見て「ドキリ」とした為、私の言葉はそんなものだった。

 多分、少しは笑っていたが、レーナには不自然に映った事だろう。


「あっ、来てるし!」


 と、不意に、レーナのものでは無い女性の声がした。

 驚き、周囲を探してみるが、声の主は発見できない。


「聞こえましたよね……?」


 聞くと、レーナは「こくり」と頷いた。

 私の気のせいでは無かったようである。


 改めて、二人で周囲を伺う。

 30秒程を探してみたが、やはりは誰も見つからなかった。


「何かちょっと気持ち悪いですね……」


 レーナが「ぼそり」とそう呟いた。

 私も若干、薄気味悪くなる。

 私達の眼前の海の中に沢山の者が現れたのは、その直後の事であった。


「うっそ! マジで来てるし!」

「マジウケルんですけど!」

「てかラブレだと思ったんじゃね!?」

「オイオイちょっとピュアすぎじゃね!? ピュアピュアドリーム幌馬車隊じゃね!?」


 人数にしておよそ10人。

 海の中から現れた無数の女性達が「キャハハ!」と笑った。


 女性達の上半身は、人間のそれと同様だった。

 しかし、腰から下半分は魚のそれと同様だったのだ。


 マーメイド、所謂、人魚である。


 彼女達がなぜ現れて、なぜ大笑いをしているのか。

 私とレーナには理解ができず、彼女達の前で固まっていた。


「なんかシカトこかれてんですけど?」

「分かってねンじゃね? 成り行き的なのが」

「ヤベー、脳ミソスッカじゃん! そんなのに頼んで大丈夫っスかー!?」


 そんな私達の状況を見て、彼女達は再び「キャハハ!」と笑った。


 なぜだろう、とてもムカつく。


 美しい女性達だとは思うが、それだけに怒りも尚更な気がする。

 現れた理由は一体なんだ?

 笑う理由は一体何なんだ?

 そんな怒りが表に出たのか、気付いた人魚が「やっべ」と言った。


「ちょっとやりすぎたンじゃね? あいつぜってーブチってるし」


 そして、仲間の人魚に向けて、私の怒りを伝達した。


「マジで? 器ちっちゃくね?」

「大人としてヤバいと思いまーす」


 人魚の一人が手を上げて言う。


「キャハハ! ヤーバーイー!」


 それを見てまた彼女達は笑った。


「あの、何だか分かりませんが、いきなり現れていきなり笑うって、凄い失礼な事だと思いません? あなた達がされたらどんな気分ですか? はっきり言って不快なんですが」


 唐突にレーナが言った。

 彼女達の笑いが「ぴたり」と止まる。


「何コイツー」

 という声が漏れたが、仲間の人魚が「ヤバイってあいつ」と、何かを察してそれを制した。

 彼女達も一応魔物だ。

 故に、レーナの実力や素性を或いは見抜いたのかもしれない。


 という事は私は完全になめられているのだという事なのだが……

 今はそう、問題ではないな。……うん。


 少し悲しい気持ちを抑え、私は成り行きを見守っていた。

 人魚達とレーナは黙っていたが、一人がやがて「ってかさ」と言い、それをきっかけに話しだした。


「あたしらソイツに用があるんだけど。オマエは一体誰なんだよって感じ。呼んでねーし? みたいな」


 一人が言って、他の人魚が「だよね」と口々に言い放った。

 見た目には本当に美しかったが、口の利き方は最低である。

 人魚とはこういうものだったのかと、私は少し悲しくもなった。


 それとも最近の若い人魚だけが、こういう感じになってしまったのか。

 色々と思う所はあったが、それよりも私は先ほどの言葉の「呼んだ」という点が気になっていた。


「……もしかして、この手紙を出したのは君達なのか?」


 そして、ここまでの疑問であった例の手紙を懐から出す。


「でぇーす」


 それは肯定だったのだろうか、とりあえず否定はされなかったので、私はここで彼女達が差出人である事を知るのであった。


 ……裏切られたァ!


 と、思ったのはなぜだったのか、それは今でも分からない事である。




 彼女達が私を呼んだのは「肌が傷みだした」からであった。

 つまり、手の甲がカサカサになったり、肌の張りが無くなって来たり、妙な出来物が出始めたので、理由が分からずに私を呼んだのだ。

 それを話した人魚は最後に、


「化粧のノリもイマイチなんだよネ~?」


 と、私に顔を近づけて来た。

 どうやら同意を求めたらしいが、見た目にはやはり美人であるので、動揺した私は何も言えず、顔を逸らして咳払いをした。


 しかし、冷静になって見ると「バカげた理由で呼ばれたものだ……」と、若干の怒りすら覚える内容だ。


 そんな事知るか……と、普通なら言うだろう。


 だが、私は基本は臆病で、言いたい事を言えない性格である。

 今回もまた怒りを押して、「生活習慣病ではないか」と、一応のアドバイスを彼女達に送るのだ。


「セーカツシューカンビョー? 何スかそれ?」

「あー……食べ物のバランスだとか、睡眠時間の不足だとかだ。体が本来欲しているものを与えなかった結果に生まれる病気だな」


 そこからか! と思いつつ、私は彼女達に説明をした。


「知らねーし。ウチら基本ワカメとコンブだし」


 それはそれで驚きだったが、生まれた時からそうだったなら、彼女達にはそれが適正なのだろう。


「あとたまにアワビとかエビとか?」


 タンパク質も大丈夫そうだ。

 食事が原因ではないのかもしれない。


「睡眠時間は? 夜には寝ているのか?」

「夜んなるとヤバイのが割とウロウロすっからね。海ん中は」


 つまり、一応寝ているのだろう。

 睡眠時間も問題なさそうだ。

 と、なると原因は一体何か。

 ……トシではないのか。と、私は思ったが、流石にそれは言えなかった。


「フェネル泳ぐのマジうめーじゃん!」

「オメーホントは初めてじゃねンじゃね!?」


 これはフェネルと戯れていた何人かの人魚の言葉であった。

 現在、フェネルは水着に着替えて海の中で遊泳している。

 人魚達はそれを囲んで、フェネルの泳ぎを見ていたのである。


「マジッスカー!?」


 と、フェネルが返し、聞いた人魚達が「マジッスよ!」と笑う。

 余程に気が合うのであろう、種族の壁が見えない程に、フェネルと彼女達は打ち解けていた。


「ってかさ、大体分かってんだよね。ウチらの肌が傷みだした理由」


 唐突に、一人の人魚が言った。

 言っている意味が一瞬分からず、私はフェネルをそのまま見ていた。


「ちょっと、聞いてマス?」


 と、言われ、初めて私への言葉だと気付く。


「最近さ、川の水が超キタネーの。で、チー子が上流見て来たの。あ、チー子ってのはあそこにいるあいつ。ホントはレチルって名前なんだけど、可愛くねーからチー子って呼んでんの。で、あいつが見て来たんだけど、何かヘンな建物があって、そこからキタネー水がガンガン出てんだって。そこに居る魚とかもジェノられてんの。だからさーウチらの肌がヤバイのも、ぜってーそれが原因だと思うワケ」


 見た目こそ美しい、ピンクの髪の人魚が言った。

 話は一応理解したが、「ジェノられてんの」の意味が不明で、私はそこも理解する為に、彼女に意味を質問してみた。


「え? ジェノるはジェノるじゃん? フツーにジェノサイドの略っしょ」


 当たり前のように彼女は言った。

 ジェノサイド、つまり大量虐殺、或いは皆殺しという意味を略して「ジェノる」と表現していたらしい。


 ある意味では奥が深く、便利かもしれない、と妙に感心する。

 しかし、私のような良い大人が常用するわけにはいかないだろう。


 風邪ですか? じゃあこの風邪薬で、風邪菌を一気にジェノっときますか!


 ……いやいやホント、とんでもない。


「だからさーあんたにはその建物を調べて来てほしいワケ。ウチらの頼み聞いてくれるよね?」


 憎たらしい口調で人魚が言った。

 ピンクの髪を「さっ」とかき上げて、私の顔を下から見上げる。

 悔しい事にやはり美人で、儚げで、守りたいと思わせる雰囲気すらある。


 口調さえもっとしっかりしていれば、無条件で助けたいと思う相手だ。

 しかし、実際は口が悪いし、何より私は医者であり、なんでも屋ではないのである。

 故に、私ははっきりと、


「それは私の領分ではないな。別の者に頼んだ方が良いんじゃないか」


 と、彼女の頼みを断ったのだ。


 良く頑張った、と自分でも思う。


 最近は自分の領分を越えた、なんでも屋に近い仕事が多かった。

 この辺りでそこをはっきりしておかないと、「なんでも屋と呼ぶなッ!」となりかねないのだ。


「アリエネー……」


 それを聞いた人魚は呟き、そして、それきり静かになった。

 分かってくれたか、と私は思う。


 このまま静かに帰してくれるなら、そういう事を得意としている相手を探して来ても良い。

 そんな事を思った直後。


「先生! お願いです! 私達の事を見捨てないでくださいぃ!」


 ピンクの髪のその人魚は、私に「ひたっ」と抱き付いてきたのだ。


「なあっ!?」


 私とレーナがほぼ同時に、少し情けない驚きの声を上げる。


「先生に見捨てられたら私達きっと全滅しちゃいます! お願いですぅ! 私達をどうか救って下さいぃぃん!!」


 そんな私とレーナに構わず、人魚は私に抱き付いたまま、ヘソの辺りで頭を振った。


「あ、いや! えあああああ!?」


 実に奇妙な感覚だった。

 嬉しいようなくすぐったいような。それでいて少し恥ずかしいような……

 故に私の反応はそんなもので、レーナが「先生!?」と驚いている事にもその時には全く気付けなかった。


「何してんのパー子?(パンドラの略)」


 と、別の人魚が華麗な泳ぎで近寄ってきた。


「(いいからヤレよ! ウチらの頼み断ったんだよコイツ!)」


 そして、パー子と呼ばれた人魚が小声でそう答えた気がした。

 直後には近づいてきたその人魚は、


「先生そんなぁ! ヒドイですぅう!!!」


 と、わき腹にしがみついてきたのであった。

 両手に華とはまさにこの事。

 罠だ、泣き落としだ、と察しはしたものの、私のテンションはアガってきていた。


「せーーんーーーせーーーーいぃぃぃぃ!?」


 というレーナの声が聞こえきた。

 聞く限り、どうやら怒っているらしい。


 このままではマズイ、いやしかし!

 私は思い、苦悩したが、レーナの怒りを最優先とし、取りすがっていた彼女達を突き放す事を決意した。


「嫌ですぅぅ! はい、と言ってくれるまで絶対先生から離れません~!」

「私達には先生しか頼れる人が居ないんですぅぅ!」


 やむなく私は「わかった……!」と言い、聞いた彼女達が「すうっ」と離れた。


「チョロいべ?」

「だべな」


 直後のセリフで「ああやっぱり……」と、騙された事を私は知った。

 が、レーナにキレられて、嫌われるよりはマシだと思ってこの依頼を引き受ける事に決めたのだった。


 人魚、恐るべき海の女達である……




 私達は川を遡り、人魚達が言っていた問題の建物を発見していた。

 その建物は川沿いにあり、彼女達が言っていたように、確かに何かを垂れ流していた。


 建物の長さは100m程。

 高さは6m程あるようなので、二階建てだと予測される。

 材質は木で、作りが荒い。

 これは私の想像なのだが、無理をして急いで作ったような、突貫工事の後にも見えた。


「なんかくさっ! 獣くさっ!」

「確かに臭うな……豚か鶏か……?」


 フェネルが言って、私が言った。


「養殖場か何かですかね……?」


 と、しかめっ面でレーナが言ったが、私はそこでは同意をしなかった。

 まだ、確実では無いからである。


 建物の周囲を歩いていると近くにもうひとつ建物が見えた。

 そこには人が何人か居て、こちらの様子に気付いた後に、武器を携えて駆け寄ってきた。

 そして、私達を「ぐるり」と囲み、


「何者だてめぇらは!!」


 と、怒鳴ったのである。


「ひぃっ! レーナ先生お願いします!」


 ソッコーでビビったフェネルが言って、および腰で「すすすっ」と後ろに下がる。

 そして、レーナを「ずい」と押し出して暴漢達の排除を頼んだ。

 避けようのない戦いならば確かにそれは正解だったが、相手が何者かも分からない今は少しばかり気が早いと言えた。


「あー……私達は怪しい者ではありません。私は医者で、彼女達は助手です。近くの患者に呼ばれまして、今は治療の途中というか、解決の手段を探しているのです」


 余計な争いを避ける為に、聞かれた事を私が答えた。

 一応、それは嘘ではない為に、レーナも、フェネルにも動揺は見られない。


 男達は「医者だぁ……?」と、私の言葉を疑っていたが、「まぁ、確かにそんな感じだな……」と、一人の男が言った事で、信じる方向へと傾いたようだった。


「むしろ、あなた達はここで何を? 人里からはえらく離れた場所だが」

「家畜だよ家畜。豚とか鳥とかを育ててんだよ。医者なら患者の所に戻れ」


 私が聞くと、一人が答えた。

 直後には「やれやれ」等と漏らし、もう一つの建物に向かって歩き出した。


 確かに男が言ったように、ここには家畜の臭いがしている。

 実際に今一瞬、豚の鳴き声が聞こえたような気もする。


 しかし、なぜこのように警戒を厳しくしているのだろうか。

 私にはそこが疑問であった。


「やっぱ家畜の養殖場でしたね。人魚さん達の為にボッ、とやっちゃえば?」


 それはつまり放火の示唆で、13才の子供にしてはあまりに野蛮な提案すぎた。

 このまま大きくなってしまえば、いずれは自分で実行するかもしれない。


 そう思った私はフェネルの為に、今回は「アホか!」と叩いておいた。

 叩かれたフェネルは「イテッ!」と喚き、その後にしゅん、と静かになったので、私は反省したのかと思った。


「あ、そっか。燃やす前にドロるんですね!? 確かに勿体無いですもんね!」


 が、直後の言葉で私は膝をつき、「誰か助けてくれ……!」と口走るのである。

 私が監視していなければこの子はもう駄目かもしれない。

 そう思った瞬間でもある。


「とりあえず中が見たいですよね。川が汚れているのは間違い無い事ですし、直せるものなら直してもらわないと」

「そ、そうですね。それは確かに」


 レーナの言葉に私が同意する。

 彼女が行動を示した以上はフェネルもおとなしく従うはずだ。


 つまり、間接的にではあるが、レーナは私の救援要請に応えてくれたという事なのだろう。

 ありがたいと本当に思う。


「じゃーどうするんですか? あの人達にお願いしてみます? 中見せろオラァ! うんこ漏らすぞォ!? みたいなノリで先生が」

「どんなノリだ!」


 その提案には流石に突っ込んだ。

 子供が言うなら笑い話だが、大人が言えばキチ〇イ確定だ。


「え……じゃあレーナさんにさせるんですか? それはちょっとキチクすぎますよ……」


 と、引いたフェネルにはとりあえず、


「させない、という道があるだろうが……」


 と、疲れた顔で言っておいた。


「なんかすっごいこっち見てますよ。そろそろ本気で怪しみ出したかも」


 レーナの言葉でそちらを見ると、確かに男達がこちらを見ていた。

 先には居なかった男も混ざり、何やら「ごにょごにょ」と相談中である。

 フェネルに構わず真っ直ぐに、正直に「見せてくれ」と頼んでいた方が、流れとしてはマシだったかもしれない。


「一応、頼むだけ頼んでみますか?」

「そうですね……空気的には無理そうですが……」


 レーナの問いに私が答える。

 それから彼らに向かって歩き、レーナとフェネルが後ろに続いた。


 男達がそれに気付き、全員総出で私達を迎える。

 白い木の柵を挟む形で私達と彼らは対面を果たした。


「どうやら医者だという話だが、いつまでもウロウロと何の用だね?」


 言ってきたのは髭面の帽子をかぶった男だった。

 他と比べると小奇麗だったが、身長は反して一番低い。

 ポジション的にはどうやら彼が男達のボスではないかと思われた。


「……いや、失礼はお詫びします。ああいうものを見たのが初めてで、つい長居をしてしまいました。好奇心……というのでしょうか、どういう動物が居るのかが見たいので、良ければ中を見せていただけませんか?」

「お断りする。あんなものを見ても何にもならんよ。患者さんの元に戻るとよろしい」


 男が「ぴしゃり!」と願いを断る。

 付け入るスキは全くのゼロである。

 こうなってはもはや何も言えない。

 これ以上しつこくお願いしても、警戒心を増させるだけだ。


「なんかこの人達怪しいっすね先生。豚とか鳥とかを見せるだけなのに、なんで全員マジガチなんすか? 何か人に見せられないモノでも、中に隠してるんじゃないんですかぁぁぁぁン?!」


 それは私も思っていたが、言葉に出してはいけないものである。

 出せば当然逆鱗に触れ、


「アアン!? なんだテメェら! ホントに医者なんか!?」

「いい加減にしとけよコラァ!!」


 と、事態が悪化する事が分かっていたからだ。


「女子供でも容赦しねぇぞ! さっさと失せろヤブ医者が!」


 そして、男達は一気に激昂し、私達に武器を突き出してきた。

 事ここに及んでは話し合いはもう無理である。


 それでも力ずくで強行するか。

 或いは一時撤退するか。


 私の判断は言う間でもなく、後者の一時撤退だった。

 力ずくで強行し、彼らをぶちのめして中を見た。


 あらら本当に豚と鳥だけ! 悪い事したね! ゴメンちゃい♡


 では、絶対に許してもらえないからだ。

 強行するならそれだけの理由と証拠が必要なのである。


「申し訳ない。お邪魔をしました」


 故に私はおとなしく引き、次の機会を待つ事にした。

 その機会は意外に早く、その日の夜に訪れて来た。


「思い切って侵入しちゃいませんか?」


 と、レーナが私に提案したのだ。

 フェネルであれば断ったのだが、そこは好意と信頼の差だろう。

 私はレーナの提案を受け、侵入する事を決めたのである。




 私達はレーナを先頭に身を低くして進んでいた。

 その場所は屋根の上である。

 例の建物の上に上り、中に入れる場所は無いかと低姿勢で探していたのだ。


 どうやってそこに上がったかと言うと、簡潔に言えばレーナが飛んだ。

 飛んで、上からロープを垂らして、私達を上から引き上げたのだ。


「なんかね、僕、逆だと思うんです。先生とレーナさんの立場ってか位置が」


 その様子を見たフェネルが言ったが、私には何も言えなかった。


 そりゃあ私だって情けないさ……!


 と、心の中では叫んでいたが、現実はこの通り。仕方がない。

 屋根の上へと引き上げられる最中は、月明かりがやけに眩しかった。

 そして、話は今へと繋がる。


「うーん……入れそうな所が見つかりませんねー……」


 屋根の上を一通り見た後、困ったようにレーナが言った。


「もうブッ壊して入っちゃいましょうよ。レーナ先生の剛力でしたらこのような屋根などイチコロですよね? レーナ先生? どうでございますか?」


 こちらは基本、後先考えないフェネルが発した言葉であった。

 口調がどうにもおっさん臭いが、それは奴なりの敬語であるのだろう。


「壊して良いなら壊しますけど……先生、どうしますか?」


 レーナが私に判断を委ねる。

 確かに他に入口が無い以上、「作る」しか中に入る方法は無い。


 しかし、ここは他人の敷地で、加えて他人の所有物である。

 そこで破壊行動を行う事は、良識ある大抵の種族において違反行為に該当するだろう。


「いや、それは流石にマズイ。普通の養殖場だったら言い訳が出来ない」


 故に私は「NO」としたのだが、フェネルはそれを良しとはしなかった。

 直後には「今更!」と声を上げて、


「こんな状況で言い訳ができるんですか? わ、私達はただみんなでお月見を……! とか、そんな言い訳が通ると思ってるんですか!?」


 と、一部、私の声真似をして私の意見を全力否定した。

 私はとりあえず、声真似には「そんな事は言わん!」と言いたかったが、意見としては一理ある為、すぐには言葉を発せなかった。


 確かにこんな所に居る事自体が言い訳ができる状態では無く、フェネルの言う「今更」も正論と言えば正論だった。


「何も言わないって事は認めたって事ですね? じゃあレーナ先生! 一発お願いいたします!」


 私が黙って居る事を見て、「OK」だと思ってしまったのだろう、フェネルがおっさん臭く言って、片膝をついて両手を伸ばし、壊す場所を指定した。


「ささ! ささ!」


 と催促する辺り、本当に13才かと疑ってしまう。


「あ、やっぱりちょいタンマ! 僕おしっこしたくなっちゃった……」


 言って、フェネルが再び立った。

 この辺りは子供らしいが、今度は退化しすぎな気がした。


「ん……おい、ちょっと待てフェネル! お前どこでそれをする気だ?」

「え? 当然下に向けて? わざわざ下りてたら間に合わないし」


 私の質問に「さらり」と答え、フェネルが屋根の端へと向かう。

 当然だが、下には見張りが居る。

 そして、今日は生憎の晴れである。


 この状況で放尿すれば、どういう事になるかというのは火を見るよりも明らかだろう。


「よせ! バカ者! お前には考える脳みそが無いのか!」


 よって、私はフェネルを捕まえ、襟首を掴んで「ぐいいっ」と、自分の方へと引っ張り寄せるのだ。

 フェネルは「うわぁあ!」と驚きの声を上げ、私の近くの屋根へと転がった。

「バキバキバキィッ!」という音を出し、その部分に大きな穴が開く。


「あ」


 私とフェネルが同時に言った。

 直後にはフェネルはその口のままで、下の方へと落ちて行った。


「フェネル!」


 これはマズった! と、流石に焦り、私はフェネルの名前を呼んだ。

 フェネルからの反応は無い。

 覗き込むようにして中を伺うが、下の方までは見えなかった。


「おい、なんか聞こえなかったか?」


 とは、下に居る見張りの声であった。

 大きな声を出してはマズイ。

 私は声のトーンを落とし、もう一度「フェネル!」と名前を呼んでみた。

 しかし、今回も反応は無し。


「(行くしかないか……)」


 と、決意をするが、高さが分からず二の足を踏んでいた。


「先生、背中に乗ってください」

「え……?」


 レーナの言葉に私は疑問した。


「乗ってください。わたしがおんぶしますから」


 理解はしたが、同時に躊躇した。

 恥ずかしい、というのもあるが、何より立場が完全に逆である。

 ヒロインが私で、レーナがヒーローだ。

 情けなくて倒れそうだ……


「先生! フェネル君が見つかっちゃいますよ!」

「あ、は、はぃぃ~……」


 急かされ、私はやむなくおぶさった。

 情けない、情けないと思っていたが、直後には「ああ、いい匂いがするな……」と、破廉恥な事も考えていた。


 総合してなんと情けない事か。

 ダメダメな私はレーナにおんぶされ、二人で穴の中へと飛び込んだ。


 建物の中の二階が通り過ぎ、あっという間に一階に着地する。

 結構な衝撃がかかったようだが、レーナは全然平気そうだった。

 あまりにも強く、凄まじい人である。


「フェネル君、大丈夫?」


 レーナが言って数歩を歩く。

 私は未だにおんぶされたままだ。


「も、もう大丈夫です。ありがとう」


 恥ずかしさが頂点に来て、私は言って背中から下りた。

 レーナの背中の感触が、まだ体に残っている。

 柔らかく、そして暖かい、良い匂いがする背中だった。


「こぉぉの人殺しがぁあ!!」

「アアアアアン!?」


 余韻を楽しんでいる私の股間に、フェネルの正拳が叩き込まれたのはその直後の事だった。

 私は前のめりに「ずしゃり」と倒れ、飼葉の中に顔を埋めた。


「ふぉぉぉぉぉ……!!!」


 という声しか発せないのは、男ならば理由が分かるはずである。


「それはあの幼子の分! そしてこれは! ……あーそうだおしっこおしっこ」


 フェネルは勝ち誇った口調で言って、放尿の為にどこかへ消えた。

 幼子って誰だ?! と突っ込む余裕は今の私には一ミリも無かった。

 ただひたすらに「ふぉぉ……」と呻き、痛みが去るのを待つだけだった。


 普通であればこの辺でレーナが「大丈夫ですか?」と聞いてくれるのだが、場所が場所だけにレーナとしても、下手な事が言えないでいるのだろう。


「フゴフゴ」


 と、豚の鳴き声が聞こえた。

 痛みに耐えて後ろを見ると、元からそこに居たのであろう、何匹かの豚がこちらを見ていた。


「豚……? という事は本当に……?」


 ようやく痛みも癒えてきたので、私はそこで立ち上がった。

 見れば、隣も、その隣も、数匹の豚が飼育されていた。

 柵を挟んだ向こう側には鶏が何羽も飼育されていた。


「あらら……なんだか本当っぽいですね……」


 口を押えてレーナが言った。

 臭かった、というわけではない、「やってしまった」と思っているのだ。

 それは私も同様である。


 屋根をブチ破って侵入したものの、中身は彼らの主張したように、豚や鶏の養殖場だった。

 さてどうするか、と聞かれたら、平謝りするしか道は無い。


 まさにやってしまったのである。


 見つからない内に逃げるという手段もあるがこれは論外。

 子供の前で取って良い大人の行動とは言えないだろう。


「謝るしかないか……」


 それが妥当で、また筋である。

 私は土下座も辞さない覚悟で入口に向けて歩き出した。


「センセー! ちょっとセンセーってば! あっちに何かヘンなのがあるよ!」


 フェネルが戻ってきたのはその時だった。

 走り、私に近寄ってきて、腕を掴んで引っ張ろうとする。


「手は洗ったのか……?」


 と言った私に「それどころじゃないでしょ」と言って返す。

「ちらり」と見ると濡れてなかったので、手は洗っていないと思われた。


「(私の服が雑巾代わりか……)」


 呆れはしたが、興味もあった。

 私とレーナはフェネルに連れられ、建物の奥へと進んで行った。


「フゴフゴフゴ」

「コケッコッコッコッコッ……」


 豚と鶏に挟まれながら、三人で歩く事およそ30秒。

 私達は建物の突当りに着き、そこに並べられていた大量の植木鉢を目にするのである。


 植木鉢には見た事もない紫の花が植えられており、花、蕾、芽という風に三段階に分けて区別されていた。


「ね? なんかヘンですよね? あっちには実験器具っぽいのがあるし、この建物って何なんですかね?」


 フェネルが言って、そちらを眺めた。

 方向的には私達の右手に、その実験器具「っぽい」ものはあった。

 フラスコや試験管、蒸留器具等がそれであり、奥には何に使うのだろうか、竈のようなものも見えた。


 そして、その竈の横からは淀んだ水が排出されていた。

 明らかに自然の色ではない、紫色の異常な水である。

 おそらくこれが川へと流されて、周辺の魚を皆殺しにし、人魚達の肌荒れの原因を作っているのであろう。


「それにしてもこれはなんだ……?」


 私が言って、竈に近付く。

 直後には鼻をつく甘い匂いが、私の平衡感覚を奪った。


「これは……まさか……!!」


 この匂いには覚えがあった。

 というよりはこれに近い、麻酔薬の匂いを私は知っていた。


 その麻酔薬は多用すれば人体に悪影響を及ぼすもので、人間達には麻薬と呼ばれて恐れられている薬でもあった。

 これはそれとは少し違うが、非常に近い性質を持つ麻薬の匂いである事は間違いなかった。


「なぁ~んかいぃ~匂いですねぇ~。ぼくちん気持ちよくなっちきちった♡」


 子供という立場ゆえ、抵抗力が低いフェネルが言った。

 千鳥足で「ふらふら」歩き、不思議な笑顔で近づいてくる。


「オイ! イアン! そこに正座しろっ!」


 と、なぜか私を説教してきたが、私はそれを無視して抱え込み、急いでそこから距離を取った。


「何なんですか先生?」

「これはおそらく麻薬です。豚と鶏が居るのは謎ですが、ここは麻薬の製造工場なのでしょう」


 レーナの質問に私が答える。

 レーナは「そんな……」と驚いてから、フェネルの様子を覗き込んで伺った。


「ヘイッ! フェネル二等兵健在でありますっ!」


 私に抱えられたままの態勢で、フェネルがレーナに敬礼をする。

 それが麻薬の影響なのか、いつものおふざけなのかが分からず、レーナはとりあえず、「ええ……」とだけ返した。


「とにかくここを離れましょう。奴らに見つかったら面倒な事になります」


 私の決断は少し遅かった。

 いや、正確には少し所か一分以上遅かった。


「な、なんだテメェら!? おい! 中に人が居るぞ!」


 見回りにやってきたのであろう、見張りの男に見つかったのだ。

 男の言葉で5人程が一気に中へと駆け込んできた。

 そして、それから数秒と経たずして更に5人が飛び込んできた。

 まさに、絶体絶命である。


 私達では無く、彼らにとって。


 時間にしておよそ1分後。

 彼らは建物の壁に刺さったり、天井に刺さったりして静かになっていた。


「ば、化け物だ……!」


 言った男の前歯が落ちて、地面の上で「へ」の字になった。

 彼らはレーナ一人によって、あっという間に全滅させられていた。

 本当に頼もしいヒーローである……




 彼らのボスは商人だった。

 表向きには衣服を扱うが、その実裏で麻薬を売り捌く闇の世界の商人だった。

 彼らは全員逮捕されて、製造工場も焼却された。


 なぜ、あそこに豚と鶏が居たのか。

 これは後で聞いた事だが、麻薬の元となる花にとって最良の土壌となるものが、豚と鶏の糞尿だったのだ。


 つまり、手間を省いたが為に、全てがあそこにあってしまった訳だ。


 ちなみに、この麻薬の名前は通称でトンチキと言われているらしい。


 豚のトン、と鶏のチキン。


 そして、頭がおかしくなるから通称トンチキという事だそうだ。

 そのネーミングセンスに脱帽である。

 ……勿論、悪い意味でだが。


 そういえば例の人魚達から、また私に手紙が届いた。

 内容はまぁ、彼女達なりの一応の感謝の手紙であった。


「イアンみなお! やる時はやるね! 今度はコンブとかおごってやっから、レーナとフェネル連れてまた来い来い丸!」


 それが手紙の最後の一行だ。

 みなお、はまぁ、見直した? とわかったが、最後の来い来い丸に至っては…

 彼女達のセンスに脱帽という他に無い……



ああは書きましたが私個人はギャル語は結構好きだったりします。

なんというか、発想が凄いかな、と。

お付き合いありがとうござました。

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