収支表 No132
これは私、イアン・フォードレイドの個人的な日記である。
興味本位で開いた君、悪い事を言うつもりはない。
今すぐ本を閉じて欲しい。
基本的には愚痴であるこんなものを読んでみても、君の為にはならないだろう。
書いた本人が言うのもなんだが、数式のひとつでも覚えた方が、今後の人生に役立つと思う。
これを見た事は忘れなさい。
本を閉じて、元に戻し、参考書を探しに本屋に向かうのだ。
さようなら。
二度と戻ってくるんじゃないよ。
……むむむ。君も困った人だな。
私の日記等を見ても、決して面白くはないだろうに。
期待に応えられなかったと言って、玄関に生ゴミを置かんでくれよ?
それとこれを読み終わった後に、言いふらしたりもしない事。
私はこれで照れ屋でね。
こんな日記を書いている事自体、助手にも秘密にしているくらいだ。
もしも約束を破ったりしたら、君の家の玄関に腐った魚を毎日置くぞ?
どうかな?
これを守ってくれるだろうか?
……続きを読んでいる、という事は守れるという事だと判断しよう。
ならばもう仕方がないな。
基本的には愚痴のような、私の日記に付き合っていただこう。
それでは、まず、自己紹介をしようか。
先にも少し触れたように、私の名前はイアン・フォードレイドという。
年齢は二百と少しだったか。人間と魔族のハーフだと言う事で、かなりの長命なのだそうだ。
父が魔族で、母がそれを召喚した人間の魔女という事だったらしい。
二人の間でどんなロマンスがあったのかは、あまり想像したくないし、語られた事が一度も無いので、教えてくれと言われても正直分からない。
二人が憎い訳ではないが、出生を理由にいじめられた事があり、育ちの村からは去らざるを得なかったので、尊敬やら感謝やらの前向きな気持ちは、抱くまでには至らなかった。
性格は基本、ネガティブで臆病。
フェネルと言う弟子からは割と腹黒く、小手先の嘘が多いとも言われる。
日記帖を「収支表」等とカムフラージュして、誤魔化そうとする辺りで否定は出来ないな……
外見はそうだな。
顔の良し悪しは何とも言えないが、背はかなり高い方だろう。
数字的に表すのなら百八十五cm程度。
初めて会った人には大抵「何かスポーツをしていたか?」と、聞かれるので、これには心底うんざりしている。
髪の色? は、銀色だな。
死んだ母が言っていたが、父親譲りなんだそうだ。
住まいはこれを書いた時点では、アーファブル大陸のプロウナタウンという街だ。
あまり人には好かれていない……と、思うので、街の郊外に一人で住んでいる。
職業は医者、と、私自身は思っているが、私の周りに居る者達は、密かに私をこう呼んでいる。
人間、魔物の隔たりなく、両方を診察している魔医者、と。