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落ちてきた

作者: さだ 藤

 我が家の居間には、日常的によく物が落ちてくる。

 落ちてくるというからには、上から下へとなにかしらが落ちてくるのだ。

 それも、人が手で落とすような高さからではなく、部屋の天井付近から落ちてくる。


 ちなみに我が家は二階建ての一軒家で、居間の上には物置部屋があり色々な物が置かれてはいるけれど、穴が開いていて上から物が落ちてきているのではない。という事は言っておく。

 初めての落ちてくる現象が起こった時、当然仰ぎ見てみた居間の天井にも、家族全員で二階に上がり確認してみた物置部屋にも、穴なんて一ミリたりとも開いてはいなかったし、他の部屋同様に物置部屋にもカーペットは敷かれているので、物が落ちてくるにはまずカーペットにも穴があいてなくてはならなくって、そしてそのカーペットにしても穴なんて一ミリたりとも発見できなかったからだ。


 それにより、私達家族は我が家で、摩訶不思議現象が起きているという事を認めるに至ったのである、まる。

 文章にすればたかだか数行で認めるまでに至たったのだ、そこまでの道筋は実際にもさして長いものではなかった。


 まず前述どおりに天井を仰ぎ見て、更に脚立を持ってきて手で確かめても、そこに穴はなく。

 二階に上がってカーペットをまくって見ても、一時的にカーペットをどかして見ても、そこに穴はない。カーペットをどかすついでに母上様の号令の下、物置部屋を掃除して見違えるように綺麗になったという副産物はあったけれど。


 そして、物が落ちるまさにその瞬間! といったものは家族の誰も目撃できてはいなかったが、何気なくふと上を見たら何も無かったはずの場所から物が落下中。が、それまでで一番の落ちてきてから発見するまでの最短時間になった事から、天井付近というのはまず間違いなく、けれど家族一丸となって真相究明に脚立まで使って乗り出し、物置部屋を綺麗にしてまでも穴は発見も、確認もできなかったので、研究熱心たる学者志向の一家ではない我が家では、そこで家族みんながその摩訶不思議をすんなりと認めたのである。


 はじめのはじめこそ、家族の誰かがなんらかの手段を用いて仕掛けたのか? なんてみんなでみんなを疑ってはいたけれど、うちの家族はそんな手間の掛かりそうな事はしないだろうと、その日、その時、その瞬間にみんなの心の中でもう疑いは晴れていた、といった経緯もあった。

 判で押した様な似たもの家族なので(まさに子は親に似る。似たもの同士が結婚して、子供を生んで、子供もまた似た者に育ったのだ)、心の中でも思っていることは大抵一緒。そういった事は口にしなくとも分かるのだ。そんなめんどくさそうな事するはずが無いという事は。


 そんなこんなで、天井付近から落下中瞬間を目撃した事で、まぁ、そういう事だ。で落ち着いた。

 なにがそういう事かは分からなくもないが、やはりそこは面倒を嫌う一家の名目家長お父上である。すべてはまぁ、そういう事だ。に込めており、まぁ、そういう事だ。で家族してその一言で落ち着いたのである。


 とにもかくにも。何も無いところから物が落ちてくる、という事実判明で我が家の人々はやる気を失った。これまた前述通り、もともとうちは大して学者思考の探究心などない家なので、どちらかといえば家族みんなで三日坊主傾向にある事からして、まぁ、どちらかといえばだけれど。すんなりそこで私達の興味は尽きたのだった。

 端的にいえば、めんどくさがり一家である。


 そんなこんなで今ではもう。大抵ぽとりやらぼとっ! やらの音がしてあぁ、今日も落ちてきたとなぁといった感じになっている。


 不思議現象が起こってから、かれこれ三年。その不思議が始まって以来毎日休みなく続く現象により、発祥一週間頃には物が落ちる衝撃による床の痛みも心配になっていたので、座布団を敷いて万全の備えをとっていた。

 出現場所は決まって居間のテレビとは逆に位置する、家具とかの障害が何もない場所が落下地点だったので、割り出す事は容易であった。


 不思議現象が始まって以来この三年、例外はなく、決まっていつもそこに落ちてきているので今のところその場に敷かれた座布団さんが受け止め損ねた事はない。百発百中である。

 そんな風にお座布団様は毎日休み無くなにかしらの物を受け止めておられるのだ。毎日のお勤めご苦労様、である。ちなみに約半年ごとのお取替えなので、今現在、現役活動されているのは六代目様であらせられた。


 この不思議現象。それこそ始めの頃は何時まで続くのだろうと思っていたのだけれど、今ではもう家族の誰もそんな事は気にもしていないし、今日もきているなぁと、何気なく確認することがただの日課になっていた。


 三年ほど休みも無く飽きもなく? 毎日続いているので、落し物自体は小さいものから大きなものまであり、それこそ盛りだくさん状態となっていた。一年程経った時には、どこに片そうかと場所に困ってしまうほどの量になっていたのだ。

 落し物は落し物なので、他人の家に落ちてくるといっても他人の物。捨てるのもなんだかなぁという気がして(そこには落し物は落し物なので後で落とし人にぎゃーぎゃーいわれるのも面倒だという気持ちも含まれている)、家族皆で居間の上の物置部屋を片付け直して、物置部屋から落し物部屋へと変化さえ遂げていた。


 その、ありがためいわく落し物。実はその落し物自体、変わった物体なのである。

 生まれてこの方三十年、四十年も生きている母でも父でも見たことも無いような物から、あぁ、これならそこ等で売っている、なんて似たようなものまで幅広い。

 三年、三百六十五日を優に越しているのだ。簡単に言えばかける三。要するに、九百以上の小物やら大物が落ちてきているのだ。それだけあれば被る物も出てはいたが、大抵使えるようなものはなかった。

 なんだろうな、と思いつつもなんだろうなで意識は止まり今日も無事に落ちてきたなで二階の落し物部屋へと持っていくのである。


 そこにはもはや興味の欠片もあったものではなく。


 だからして、


「うわあっ!」


 なんていう叫び声がして、ぽとりやらぼとっ! ではなくどしんといった音が響き、金髪キラキラで黒っぽいローブの様な物を羽織っていて、いった! 腰痛っ! なんて腰を抑えて顔を突っ伏している青年が居ても、特に気にもかけない。


 あぁ、とうとう人が落ちてきたと思うだけであった。


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