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王立学院図書館シリーズ番外編・小話集  作者: 藤本 天
真夏の夜の図書館
3/7

狐と鳩

一時間後。


「ねえ、一番最初の行ったトミーとリカ。帰ってくるの遅くない?」


『狐の部屋』に残っているのは、ショウ・マーリ・タックの三人(トリオ)

くじの関係で三人が残っていしまったのだ。


「うん。確かにおかしい」

「他の奴らも帰ってこない。……一体どうしたんだ?」


 ――……ぎゃああああああっ

    ………きゃああああああっ


「リリーとルイスの声だ」

三人の前に出発した二人の悲鳴が聞こえた。

「行こう!!」

タックとショウが頷き合い、『狐の部屋』から飛び出す。


「あ!!待って!!」

一歩出遅れたマーリは慌てて椅子から立ち上がり、……何かに足をとられて転んだ。


 ――パタン


扉が閉まり、マーリは『狐の部屋』に一人取り残される。

「いたた。なにぃ?」


ふと、振り返ると角灯のぼんやりした明りに照らされて自分の足下に何か白いモノが転がっているのが見える。

「?」

不思議に思ってそれ(・・)を取り上げる。


「きゃああああああっ」


それは白い、人の頭部の骨。有り体にいえば髑髏だった。

悲鳴を上げて髑髏を放り投げたマーリの肩を誰かが叩く。

振り返ったマーリは目を見開いて固まった。


 ――かしゃん


首のない人の骨がマーリの肩に白い手をのせて立っていた。


 ――かたかたかたっ


不審な音に反射的に振り返ったマーリは空中に浮かんで歯を鳴らす髑髏を見た。

それを見た瞬間、マーリの体が静かに床に倒れた。




その彼女の体にふっと小さな獣の影がかかる。

ピンッと立った三角の耳とふかふかのしっぽ、三角形にとがった顔が特徴的な生き物――狐だ。

数匹の狐が少女の周りをくるくる回ったり、飛び跳ねたり、楽しそうに鳴き交わしている。


ふと、一匹の狐がピンッと立った耳をひとつしかない出入り口に向けた。

すると、他の狐たちの姿がふっと消える。


「ちょっとやりすぎじゃない?」


 ――クーン


部屋に入って来た人影に狐はすり寄る。

床に転がっているはずの少女の姿はすでになく、少女を怖がらせた骨も無くなっている。

しかし、その人はココで何があったのか知っているらしく、顔をしかめて狐を見下ろす。

その視線を受けた狐は鼻を鳴らしてしおらしく耳を伏せる。

だが、その人の腕に抱かれている黒い猫を見つけた途端、狐のしっぽがぶわりと膨らんだ。


 ――フゥーッ

 ――カーッ


「やめなよ。もう、喧嘩しないで」

仲が悪いらしい狐と黒猫を諌めながら、彼女はふぅっと溜息をつく。


「あと、ふたり。しかも、魔導科の生徒か……。……ん~、めんどう……」

やれやれと溜息をつく人影に一匹の狐が従う。


「ついてくるの? いいけど、兎さんと鳩さんをいぢめちゃダメだよ」

わかった、とでも言うように狐は一声吼え、彼らと共に部屋を後にした。


無人になった『狐の部屋』に残された角灯が煙のようにふっと消えた。




「リリー!! ルイス!!」

「どこだ!? ルイス!!リリー!!」

ショウとタックは声を上げて呼びながら廊下を走り、『猫の部屋』・『兎の部屋』の扉を開けて回る。


「いない」


『鳩の部屋』までやってきた二人は漆黒の闇と机が並ぶ自習室の様子に愕然とした。


「なあ。マーリは?」

「そういえば、遅いな」

きょろきょろと見回す二人の耳に、どーん、どーんと腹に響く低い音が届いた。

二人が音源の方を覗く。

暗闇に覆い尽くされた『鳩の部屋』の中、ぽかりと闇に浮かび上がったのは、『鳩の部屋』で最も大きな柱時計。

柱時計の文字盤が軋む音と共に開き、どろりと濁った闇の中から、無数の羽ばたきが響く。

「鳩っ!?」

時計の中から出て来た無数の鳩が二人の襲いかかる。


「うわあっ!!」


襲い来る鳩に怯えて二人が顔を覆った瞬間、……二人の足下の床が無くなった。


 ――……うわああああああああっ


反響していつまでも響く自分の悲鳴を聞きながら、二人の意識は闇に飲まれた。




どこからか、葬送行進曲が聞こえてくる。

物哀しげで、厳かなはずのその曲は何故か調子っぱずれでいきなり和音が不快和音に変わったり、半音いきなり飛び跳ねたりして、静かに死者を送り出す音ではない。

「おい!!タック!!ショウ!!」

「頼む!!二人とも、起きてくれ!!」


(この声は……)


「……キーツ?」

ぼんやりと霞む視界の中、罪人のように木に縛り付けられている長身の少年をとらえた。


「キーツ!?どうして、そんな格こ……っ!?」

驚いて駆け寄ろうとしたタックは自分の両腕が動かない事に気づく。

両手に冷たい金属の感触、背中にはごつごつとした硬い木の肌が当たっている。


「なんだこれは!!」

ショウの声に驚いてそちらを向く。

見るとショウもキーツや自分と同じように縛り付けられている。

さらにあたりを見回すと、どこか禍々しい色のランプに照らされて、『肝試し』の仲間達が自分と同じように木に縛り付けられている事に気付いた。


「みんな!!」

皆、木に縛り付けられて気を失っている。


「キーツ!!これは何なんだ!!」

「わ、わからない。俺は、スタンプを置きに鷲の部屋に行ったんだ。そしたら、何かに蹴躓いて、スタンプを探していたらいきなり何かに体を持ち上げられて、ここに突き落とされたんだ」

ショウの声に応えたキーツは遠目からでもわかるほどに怯えて震えている。


「じゃあ、あの角灯を持って来たのは誰なんだ?」

「見て!!キーツ、ショウ!!」

顔を上げた三人の目に、ぼうっと怪しげな色の光を纏う鳩達が飛び回る姿が見えた。


 ――……だだーん


さっきまで薄気味悪い音色で響いていた葬送行進曲が重低音の和音で締めくくられる。

見ると、古ぼけたパイプオルガンの上には黒猫がうじゃうじゃを纏わりつき、濁った金の目で縛られている少年少女を見まわしていた。

そして、オルガンの音が合図だったのか、どこからか扉が開く音と共に、黒い帽子をかぶった白い兎が規則正しく列を作りながら行進してくる。


『 断罪だ、断罪だ。

  罪には罰を。

  咎には報い。

  

  罪人、咎人、悪しき人

  聖人、善人、優しき人

  

  皆々集って、さぁご覧

  皆々誘って、さぁご覧


  断罪だ、断罪だ

  

  赦されざる盗人よ

  認められぬ侵入者


  罰せよ

  罰せよ


  我らの貴き断罪者

  我らの気高き死刑執行人』


不気味な音と声の歌が古ぼけた蓄音機から流れてくる。

その蓄音機の音に合わせて鳩が飛び、猫は啼き、兎は跳ねまわる。

それに合わせるように、狐たちがどこからかギロチン台を運んで来て、縛られている少年少女達の前に設置し始めた。


不気味な光景と騒がしさに目を覚ました少年少女達は悲鳴を上げたり、泣き出したり、どうにか自由を得ようと暴れる。


そんな彼らのもがくさまが面白いのか、狐や猫達はくるくると彼らの周りではしゃいだように動き回る。


「どうなってるんだよぉ」

「魔導が使えない……」

最年長のキーツが洩らした泣き言にタックの苦々しげな声が重なる。

「キーツ!!しっかりしろ!!あの歌が正しいなら、死刑執行人とやらがここに来るぞ!!」

「そんな!!俺達が何したっていうんだよ!!」


『何をしたか、だとぅ』


低く、唸るような声が空から降ってくる。

顔を上げた彼らが見たのは、巨大な翼。


――……バサッ


息が一瞬止まるほどの風圧と共にギロチン台の上に降り立ったのは、


「鷲」


巨大な鷲がギロチン台の上に降り立ち、少年少女達を鋭い目で睨みつけていた。


『我らの領域を侵せし咎人が何を言う』

『我らの領域に火を放とうとしただろう?』

『我らの眷属を蹴り飛ばしただろう?』

はしゃぐように動き回っていた動物達が一斉に彼らに批難の目を向ける。


「そ、そんなの、知らない!!俺達は何も悪くない!!」


彼らの視線から逃げるようにキーツは叫ぶ。

『反省の色なし……』


鷲が唸るように翼を羽ばたかせる。

『罰を!!』『報いを!!』『刑の執行を!!』動物達は小さな槍や剣、その他武器になりそうな物を掲げて口々に吼える。

少女達は泣き出した。


『罪には、罰を』

鷲がギロチンの刃をその巨大な爪でつかんで空に飛び上がる。

それに合わせて鳩達がどこからともなく運んできた藁の束を、兎達が少年少女達の足下に積み上げ、猫達が藁の束に油のようなものをかけて回る。

「お、おい。何する気だよ・・・・・」

怯える少年少女達の前に狐がちょこりと座る。


―……クォーン


狐たちは一声啼くと、藁に向かって炎を吐いた。

青白い色の炎は一瞬で藁に行き渡る。


「うわあああっ!!」

「ひぃい!!」

「あつい!!あつい!!」

「やめてえええっ!!」


もがいて暴れる少年少女達を見ながら、獣たちは歌う。


『 燃えろ、燃えろ

  断罪の炎


  燃えて罪を焼き尽くせ

  燃えて罰を与え続けろ


  炎は始まり

  断罪の合図

 

  落ちろ、落ちろ

  清廉な刃よ

  炎に向かって降りてこい

  炎と共に罪を切り落とせ


  処刑だ

  処刑だ


  罪咎を赦すな!!許すな!!

  我らは汝らの罪を忘れない!!』


歌に促されるように、少年少女は宙を仰ぎ見る。

どこまでも続く、天井のない闇の中自分達を焼く炎に照らされて白く光る一本の線が見えた。

線は真っ直ぐに自分達に向かってくる。


 ――ギロチンの刃


そう気付いた瞬間。


「うわあああああああっ」


少年少女達の悲鳴と共に鈍い音を立てて刃が地に突き刺さった。


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