プロローグ
森の奥にある洞窟。そこに一人の少年がいた。彼は土人形を作り続けている。ひとりで、孤独に。
深い森の中、木々に隠れるようにして一つの洞窟がある。
周囲の土は踏み固められており、よく見るとここに誰かが住んでいることが分かるだろう。ただ、元より人が足を踏み入れない土地だ。来たとしても大抵が方向感覚を失った冒険者だ。位置情報を把握しようと上ばかり見ているから、足元に気がつくことはない。
だからこの洞窟の存在が人にバレたことはない。中に住む彼のこともまた、今は故人となった1人の男を除いて、知るものはいない。
外は雨が降っていた。長い雨だ。かれこれ、一か月は降り続いているかもしれない。少し離れたところを流れる川では、増水の影響で周囲の土砂が削られてしまっていた。
小動物たちは時折棲家から顔を出すだけで出歩こうとしない。餌に困窮した植物魔物たちは、蔦や葉をこすり合わせて金属に似た音を出した。それでも動物たちは出歩かない。魔物もまた、自らの魔力消費を抑えることに専念し、同族であるはずの植物魔物たちを侮蔑の目で見ている。
洞窟の奥に雨の音は届かなかった。ここら辺の土はすぐに湿度や音を吸収してしまう性質なのだ。空気穴から伝わるかすかな雨音も、洞窟の壁面に染み入り、あとには中身を抜かれた静寂だけが残る。
洞窟の奥で聞こえるのは二種類の音だけだ。
土を練る音と砂が落ちる音。
奥には1人の少年が座っていた。名前はアルという。彼は長い時間をこの洞窟の中で過ごし、毎日壁面を削ってはその土を練って土人形の材料にしていた。
土人形。アルはそれの作り方を師匠に学んだ。壁面の土を拳大に握り、魔力を込める。すると土は加工のしやすい粘土に変質し、何度もそれを繰り返して必要分の材料を揃えるのだ。
当初、この穴は洞窟と言えるほど大きなものではなかった。せいぜい洞穴といったところだ。何年も何年もアルと彼の師匠が壁を削っていく中で、穴は大きくなり、洞窟に変わった。
彼は洞窟内の開けた場所に座り、土人形を作っていた。
その後ろには大きな砂時計がある。大人が縦に七人並んでちょうどといった大きさだ。中に入っている砂も相当量になるだろう。
チリチリと砂は物理法則に従って休むことなく下へと流れる。
それが何を意味するのか、アルは知らない。




