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スクープの裏側

朝日新聞東京支社はその日、不穏な空気に包まれていた。

 デスクキャップの保田が会議からなかなか戻ってこない。

 会議前の保田は明らかに機嫌が悪かった。

 またしても、読日にスクープをかっさらわれたからだ。

 読日は、北海道で『いろはにほへと』の連続殺人事件の出発点があったことをスクープ、しかも、北海道の案件は『殺人事件ではなく自殺だった』ことを掲載したのだ。

 いまや、読日のスポーツ紙は他と一線を画す存在になっていた。

 バタン、おおきな音がするとキャップの保田が、やはり不機嫌な顔をして自席に戻る。

 おそらく会議で色々言われたのだろう。

 保田は席に着くなり

 「お前ら、いい加減にしろ!!いつまで読日にやられているつもりだ!」

大きな声が響く。

 「いや、読日じゃねえな、いつまで冴島にやられっぱなしでいるつもりだ!たかだか女一人にいつまでもやられてんじゃねえよ」

 かなりのご立腹だ。

 「緑川、お前、結構いい給料もらってんだろ、なんかネタもってこいよ!この給料泥棒が!冴島って記者になって3年にも満たねえってんじゃねえか。席に座ってねえで何かネタ拾って来いよ!拾ってくるまで帰ってくんな、給料泥棒!」

 怒号が響き渡る。

 保田は緑川よりも後輩だが、社長の親戚筋にあたるため、他の者より昇進スピードが速い。

 緑川は実績も経験も豊富で後輩の面倒見もよいことから、誰からも慕われている。

 緑川に比べれば、保田は『ただ怒鳴るだけのボンボン』として皆に認識されている状況があった。

  流石に保田も、緑川の実績等には敬意を表していたし、自分が社長の親戚で優遇されているということは自覚していた。

  そのため

  「緑川さんの責任じゃねえだろ!」

  「だったらお前がネタ拾って来いよ、一応記者なんだろ!」

  「記者として半人前だったくせになに偉そうに吹いてんだお前は」

  「給料泥棒はお前だよ!」

 と緑川養護の声が続く。

  この皆の反応は予想外だったらしく保田は声に詰まる。

  そして

  「いや、まあ、今のは言い過ぎたけど……、まあ要は読日に負けないくらい頑張ってほしいってことだ」

 と明らかにトーンダウンする。

 しかしここで事件は起こってしまった。

 緑川は席を立つと

 「確かに読日にはやられっぱなしです。給料泥棒と言われれば返す言葉もありません。責任を取って、辞めたいと思います。」

 と保田に告げたのだ。

  緑川は

     仕事は結果がすべただ

 といつも言っている人物だ。

  そのプライドが傷つけられたのだ。

  「いや、辞めることねえよ!緑川さん」

  「キャップおめえが辞めんだよ、このくずキャップ!」

  「おめえ、土下座して緑川さんに謝れ」

 等々、緑川養護の声は過熱する。

  新聞社の幹部に責められたうえ、部下にも総スカンをくってしまった保田は顔色が青ざめる。

  しかし緑川は取材用の自分のバッグを肩にかけると、デスクを出て行ってしまった。

  もう、こうなると怒号は止まらない。

  この日、保田は1日中、青ざめた顔のまま過ごすことになる。

 

  緑川がデスクを出ていくと、新人記者の深田美恵子が後を追っていく。

  緑川とペアを組んでまだ、半年足らずである。

  緑川の後を追いながら話しかける。

  「待ってください。緑川さん!家帰っちゃうんですか、一旦デスク戻りませんか?私先輩のこと尊敬しるんです。こんな風に辞めるのは良くないですよ!前に、私がスクープあげられるようになるまで記者続けるって言ってたじゃないですか」

  そこで、一旦、緑川の足が止まる。

  緑川が 

  「家に帰ってもやることねえから、おめえの取材手伝うよ。おめえは今、何のネタ追いたい?」

 と尋ねる。

  深田は、少し考えた後

  「今は、やっぱり『いろはにほへと』の事件を追いたいんですけど、読日の冴島さんに全部やられちゃいましたから、意味ないですかねえ?」

 と応える。

  緑川は

  「いいじゃねえか、俺もあの事件は悔いが残ってる。天才捜査官の奥さんが令状請求していたのを知っていながら、『いろはにほへと』のための令状請求だと思っていなかった。警察発表をうのみにしてしまったからなあ……じゃあ、今日は千葉県に取材行こうか?」

 と答えた。

  深田は、

     緑川先輩の表情が、少しだけだけど、明るくなった

のを感じたため

 「行きましょう、千葉」

と緑川を誘った。

 この日、午前中は殺人事件現場である我孫子市へ向かって取材を行い、昼食後は逮捕案件になった傷害事件現場向かった。

 現場となった神社の周辺の家、数軒に取材を行ったが目ぼしい収穫はなかった。

 緑川は

    まあ、そんなに簡単にスクープネタが見つかりゃ苦労はしないよなあ

として諦めて取材を終えようとしていた時、午後4時過ぎ、神社に子供たちが集まって来た。

 ガヤガヤと声がして騒がしくなったなと思っていると、男子5名に女子1名のグループが現れ

 「かくれんぼやろう」

等と話し合っている。

 緑川は深田に

 「何やってるのか話しかけて来いよ」

と言うと、深田はグループのリーダー格と思しき男子に話しかける。

 「ちょっとごめんね、ここで何してるの?」

と尋ねると

 「今から、かくれんぼすんだよ」

とのことで深田がなんとなしに

 「何日か前ここで事件があったの知らない?」

と尋ねると、リーダー格の男の子は

 「もちろん、知ってるよ。俺が顔を殴られて俺の父ちゃんたちが相手を逮捕したんだ。しかもその犯人は『いろはにほへと』の事件の犯人でもあるみたいだって、聞いたよ」

とドヤ顔で深田に告げる。

 ええええええー

ここで深田が絶叫する。

 深田は驚くと、緑川を向いて

 「緑川班長、大変です、来てください」

 と叫ぶ。

  緑川が駆け寄ると深田は、簡単に状況を説明すると緑川も、リーダー格の男の子に興奮気味に尋ねる。

  「先ず、名前を聞かせてもらっていいかい」

 男の子は

  「大場健太だよ」

 と応えると緑川の顔色がまた変わる。

  深田へ小声で

  「捜査1課2班班長の大場班長の息子みたいだな」

 と伝えると更に

  「当時の状況を教えてもらえるかな」

 と尋ねると健太は

    その日も、今日来た皆でかくれんぼしていると40歳くらいの変な男が看護婦さんの後ろを付けてきたこと。

    仲間の舞が緊急事態の笛を吹いたため、集合すると、1人の男が看護婦さんに抱き着いて倒れていて、もう1人男が神社の広場で佇んでいたこと。

    舞が「看護婦さんを助けるため」男を攻撃するよう指示したこと。

    看護婦さんに抱き着いていた男は逃げて行ったけど、もう1人の男はまだその場に残っていたから持っていたハリセンで顔を殴ったら、男が怒って自分に平手打ちしてきたこと

 と告げたのだった。

  スクープから久しく遠ざかっていた緑川は、興奮し

  「舞ちゃんて子もここにいるかな」

 と尋ねるとグループの中の女の子を指差し

  「あれが舞だよ!俺の父ちゃんと舞の父ちゃんは刑事なんだ」

 と伝えてきた。

  そして

  「俺の父ちゃんと舞の父ちゃんが組めば最強なんだ」

 とドヤ顔になる。

  また

  「俺は父ちゃんがナンバーワンだと思うけど、舞のお父ちゃんは、俺の父ちゃんのライバルみたいで…、そんで、いつの間にか舞の父ちゃんは俺の父ちゃんよりも有名になったんだあ」

 と言うと

  脇に居た男の子が

  「舞の父ちゃん、『天才捜査官』て呼ばれてるんだよ」

 と付け足す。

  途端、緑川と深田は揃って

     ええええー

と絶叫する。

 すると今度は深田がたまらず舞に尋ねる

 「健太君は健太君のお父さんがナンバーワンだって言ってるけど、舞ちゃんはやっぱり、

舞ちゃんのお父さんがナンバーワンだと思う?」

すると健太の方を向き腕組みをしながら応える。

 「大場の父ちゃんがナンバーワンだと?子供の妄想だな!この小物があ…」

と言ったかと思うと次いで

 「私のお母さんがナンバーワンだ!」

とドヤ顔で言い放った。

 それを聞いた健太は

 「それ、俺の話と何が違うんだよ、理由行ってみろよ」

と反論する。

 舞は 

 「私のお母さんは世界一美人で料理が上手!」

と応えるが

 「いや、それ捜査に何の関係もねえだろ…」

と当然のツッコミが入る。

 すると舞は勝ち誇ったようなドヤ顔になり

 「健太、お前は、くだらないあげ足取りばっかりだな、立憲民主党か」

との子供とは思えない謎のツッコミを見せる。

 しかし、健太には微妙に刺さったらしくグウの音も出ない。

 結局、この日、かくれんぼは行われなかった。

 暗くなるまで取材と称するインタビューが行われたからだ。

 また神社に集まった少年たちの写真を撮ったり、神社や神社の広場、階段の撮影等が行われた。

 緑川と深田は神社の前で別れると緑川は自宅がある千葉県浦安市へ深田は朝日東京支社へ戻ることになった。

 しかし、これが大惨事の始まりだった。

 緑川は、いい取材ができたことで、深田が新人記者であることを失念していたのだ。

 記者であれば誰もが確認すべきことを深田が忘れてしまっていることに気付かなかった。

 それが後に大きく響くことになるのである。

 翌日、朝日新聞のスポーツ紙では1面での記事ではなかったが

   『いろはにほへと』事件解決に寄与した少年探偵団

 として大きく報道

    グループの集合写真

    リーダーの大場の写真

    舞の写真

 等が掲載された。

  翌日朝、冴島から藤堂妻あてに電話がくる。

  藤堂妻が電話に出ると

  「今日、朝日のスポーツ紙に舞ちゃんの写真が出てたけど、たか子は了解してたの?」 

 と尋ねられる。

  たか子は意味が分からず

  「何のこと?」

 と聞き返す。

  藤堂家では読日のスポーツ紙は取っているが、朝日のスポーツ紙は取っておらず、すぐさま最寄りのコンビニ、セブンイレブンに駆け込んでスポーツ紙を確認したのだった。

  確かに、舞の写真が掲載されている。

  驚いたたか子はすぐさま冴島に電話する。

  これまで冴島は

    娘舞のエピソードも掲載したい

 と頼んできたこともあったが

    娘のストレスになるかもしない

 として写真どころか、エピソードを掲載することも断っていた経緯がある。

  「冴島さん、確かに舞は芸能人ってわけじゃないけど、写真とか載せる時って親に了承を得るとかってしないものなの?」

 すると冴島は

  「確認取るのが普通だと思うけど、朝日は違うのかなあ?少なくとも読日と私が前にいたところでは確認取ってたけどねえ」

 と応える。

  実際、朝日新聞のスポーツ紙部門でも、芸能人ではない一般の人の顔写真等を掲載す

る時には、了承を取ってから掲載していたが、この時は確認すべき人が辞職していたと

いうアクシデントがあったことなどたか子と冴島らには知る由もなかった。


 鬼頭竜馬は富里市にある木原組の組長木原源一に雇われて用心棒をしている。

 両親は会社員の父親と主婦で、2つ下の妹がいたが鬼頭が5歳の時、いわゆるやくざが運転する車と接触事故を起こした件で、法外な慰謝料を請求され、民事裁判を起こ そうとしていた際、自分以外の家族3人をそのヤクザに殺されるという経歴を持っていた。

 鬼頭は親せきに引き取られたが、家族を殺された恨みを忘れることなどできなかった。

 高校では合気道を学び、大学では居合道の部活動がある武道大学に進学した。

 それも、家族を殺した復讐のためである。

 家族を殺した犯人は3人とも逮捕されたが、皆、懲役20年の判決を受けて出所している状態だったため、命で償わせるべく3人を監視し、3人が組事務所にいる時に日本刀を持って襲い掛かった。

 3人は拳銃で応戦しようとしたが、事務所内では、日本刀の短い刀、つまり小太刀が有効で、拳銃を構えた瞬間3人のうち2人の手を手首から切り落としていた。

残る1人の銃弾は強襲されよほど焦っていたのだろう、弾は発射されたが、見当違いのところに着弾していた。

 それからは、袈裟切り、横薙ぎに突きで10分足らずで3人を殺害したのだった。

 この時、鬼頭は22歳、人生の前半だったが、人生の目標は果たしたと言える状況で、警察が来れば抵抗をしようとは考えていなかったが、銃弾がしたはずなのに、警察は一向にやってこず、翌朝まで待ったが来なかったので、事務所を後にした。

 どうやら事務所付近の住民はヤクザの抗争だと思ったらしく、

     かかわりあいたくない

という思いで誰も通報しなかったらしい。

 事件を起こすと鬼頭は大学を辞め、しばらくコンビニでのアルバイトをして過ごしていたが、鬼頭を突き止めて現れた者がいた。

 木原組の組長木原源一である。

 事務所内には3人の遺体があったはずであるが、ニュースで報道もされていない。

 木原が通報しないと決めたのだ。

 別に証拠隠滅しようとも思っていなかったため、手袋もしていなかったため、通報していれば容易に鬼頭へたどり着いたはずだ。

  組事務所には防犯カメラも設置されていた。

  鬼頭が後に聞いた話では、この組事務所の組長木原が他の組員に命じ、遺体を山に埋めさせ、血を拭いて痕跡を消し去ったとのことだ。

  もちろん現場に拳銃が残っていたことから、そのままにはできなかったという事情もあるだろう。

  でも、拳銃だけを回収して警察に通報するというやり方だってあったはずだ。

  また木原源一は、

3人に恨みを持っている奴は誰か

   を調べ

      防犯カメラに写っていた鬼頭の画像

 をもとに鬼頭にたどり着いたのだ。

  そして木原はなんと

      鬼頭を組事務所で働け

 とスカウトしたのだ。

  鬼頭は暴力団や関係者を憎む傾向があったが、人生の目標を失ったことで、生きる気力もなくなりかけていた。

  自分が生きる意味を失っていた鬼頭にとっては、自分がヤクザになろうがどうでもよくなっていたのだ。

   鬼頭は組事務所で働くことを了承するが、3年目までは他の組員に嫌われていた。

   転機となったのは4年目である。

   暴力団の抗争が始まり、事務所に刺客が3人送り込まれたのだ。

   3人は銃を所持していて発砲してきたが、事務所側は1人死亡したものの鬼頭が3人を返り討ちにしたことで『頼りになる男』ということで重宝されるようになる。

   鬼頭はこの時も日本刀だけで返り討ちに仕留めた。

   銃弾を受け、真っ先に殺害された組員を盾にして3人を切り刻んだのだ。

   鬼頭はそもそも組の幹部になりたいという気持ちが全くない。

   だから木原組長も、最も信頼しているのだ。

   そんな鬼頭だったが組員の中で最も仲のいい長谷川が

   「あの成田署のバカ、事務所にガサ入れするぞって脅して組の情報を流せって言ってきやがった。田舎警察のくせに生意気なこと言いやがって…、いつか千葉県警に痛い目に合わせてやりたい」

  等と愚痴をこぼしていた。

   その場のノリだろうか、他の組員も話に乗って来た。

   そのうちの佐久間が

   「今日の新聞も見ろよ!千葉県警の警察官の子供が親の七光りで新聞に大きく出やがって!胸糞わりいぜ」

  と話すと

   「ああ、俺も見たよ、朝日のスポーツ紙だろ!バリバリ成田じゃねえか」

   「何が少年探偵団だよ、拉致って泣かしてやろうぜ…」

  との流れになる。

   鬼頭は最初、我関せずの対応していたが

   「鬼頭さんもてつだってくれよ…」

   「鬼頭さんいれば警察も怖くねえよ。どうよ」

  等と話を振られる。

   鬼頭は

   「気は乗らねえんだけどなあ…」

  と曖昧な返事をしていたが、いつの間にか

     少年探偵団で新聞に載ったグループを拉致する

     誘拐して警察に謝罪させて千葉県警に赤っ恥をかかせる

  という段取りで、鬼頭もメンバーに組み込まれる形になった。

   新聞に掲載された写真で

     少年探偵団のグループが吾妻小学校の生徒

  との目星がつけられる。

   そして下校時間を狙って動き出してしまった。

   偽造ナンバーに付け替えた車両のセレナに3人で乗り込み吾妻小学校へ向かう。

   組員の長谷川、高田、水野が車に乗り込み、鬼頭が事務所で待機する。

   吾妻小学校の正門付近にセレナを止め、正門から出てくる小学校1年生の顔を確認する。

   グループ全員の集合写真も掲載されていたが、長谷川らは顔写真が出ていたリーダーの大場と舞に狙いを絞っていた。

   ふいに高田が声を上げる

   「おい、あいつらじゃねえか?」

  見ると7人組のグループが玉造地区から吾妻地区へ歩いてきた。

   吾妻小学校は、実は玉造と言う地名にあり市内のデパート『ボン・ベルタ』方向に向かうとそこは吾妻地区になる。

   最初、高田が車を降りグループの後ろから速足でグループに近付き、追い抜きざま、グループの小学生の胸に貼られている名札を確認し、セレナで待機していた仲間に合図を送る。

   セレナがグループを追い抜いた瞬間、セレナの後部座席のスライド式ドアが開き、長谷川が降車した。水野はセレナの運転である。

   1分足らずの出来事であった。

   高田と降車した長谷川の2人で

   「お前ら少年探偵団なんだって?」

  と尋ねた後、長谷川は名札に『大場健太』と書かれている男の子に襲い掛かり、高田は『藤堂舞』と書かれている女の子に襲い掛かり持ち上げるとすぐさまセレナの後部座席へ放り投げて押し込む。

   セレナは急発進し、すぐさま公津の杜方向へ逃走した。

   グループは一瞬、何が起こったのかわからず、立ち尽くすが今日はいつものメンバーに加えてチホが居た。

   チホがすぐさま

   「誰か学校戻って誘拐だって先生に言ってきて!」

  と指示を出しつつ自分の携帯電話で110番通報する。

   チホは親友の舞が携帯電話を持っているのを見て、親にねだって購入してもらっていた。

   5分後には学校に残っていた先生3人が現場に駆けつけていた。

   そして10分後には警察官がパトカーで現場に到着していた。

   警察官に対応したのはチホである。

   こう見えてしっかり者である。

   チホは

   「健太と舞ちゃんがセレナに連れ込まれて誘拐された」

   と完結に顛末を警察官に告げる。

    ここまででもなかなかの動きだったチホだがこの後更に

   「犯人は黒色のセレナに乗った3人組で、皆30~40歳くらい、犯人の車は千葉ナンバーで8888だった」 

   と伝える。

    警察官も驚くほどの説明ぶりだった。

    残ったメンバーも

    「チホってすげえな、あの一瞬でナンバーも見てたんだなあ」

   と感心する。

    そして30分後には吾妻小学校全生徒の保護者宛て緊急メールが発信される。

    

    この頃。金親姉妹は涼子が京子にたかるため、富里市に食事に来ていた。

    涼子は、赤川のプロポーズを受けて承諾し、これを姉京子に報告するため、わざわざ有給休暇を取得したのだった。

    また逆に京子も妹涼子に南野のプロポーズを受けてこれを承諾したことを妹涼子に報告するため、また、涼子に千葉県へ引っ越してくるように話をするため、有給休暇を取得していたのだった。

    そして食事しながら話をするため、富里市の『青山』というラーメン屋に訪れていた。

    お互い、プロポーズを受けたこと、それを了承したことに驚いていたが、食事を終えた後、一旦姉の自宅がある姉京子宅に戻ろうとしたとき、妹涼子が喉が渇いたといいだしたため、富里市のサンクスへ向かっている時だった。

    富里市の外れにある2階建ての事務所にセレナが停まり、車から舞と健太が30大の男性に抱えられながら降車するのを目撃する。

    最初は何だろうと思っていたが抱えられて降車した1人が舞であることに気付き、京子は余計意味が分からず自分の車を道路脇に止める。

    京子が

   「今の舞ちゃんだ、どうしたのかな」

  と首を傾げたため、涼子が尋ねる。

   「うん、舞ちゃんだったね、一緒にいた男って言うか抱えていた男、なんか柄悪そうに見えたね」

  京子は頷きつつ藤堂に電話して聞いてみることにする。


   藤堂妻は小学校からの緊急メールに驚いていると、そのすぐ後、携帯電話に小学校

から着信がある。

 藤堂妻が電話に出ると

 「すみません、吾妻小学校教頭の岩淵と申します。まだ詳細ははっきりしていないんですが、舞ちゃんが帰宅途中何者かに連れ去られたようなのです。学校に来てもらっていいですか?」

とのことだった。

 藤堂妻は、すぐさま、県警本部捜査一課の部屋にいた藤堂夫の元へ走り、状況を説

明し、上司の米山にも話をしてすぐに吾妻小学校へ向かう。 

 連絡を受けて1時間後には吾妻小学校へ到着していた。

 またふと見ると、大場夫婦も来ていたが、2人とも顔が青ざめている。

 そして大場夫婦と藤堂夫婦で情報交換をする。

 どうやら舞と健太が3人組を男に拉致されたのは事実らしい。

 藤堂妻は、

 「どうしよう、相手誰?」

と呟いていたが、不意に藤堂が

 「舞は今日、携帯電話持って行っているか?」

と妻に尋ねる。

 藤堂妻はそこでハッと思い出す。

 そうだ、元々、田中貢に誘拐でもされたら大変だということで携帯電話を持たせた

んだった。  

 「分かった、GPS調べる」

と応えると自分の携帯電話で舞のGPSを調べ始める。

 GPSは、舞が成田市の隣、富里市にいることを示していた。

 次いで、藤堂の携帯電話が鳴る。

 藤堂が出ると

 「すみません。金親ですけど…、今、舞ちゃんが富里市にある2階建ての事務所にガラの悪そうな男の人と入っていくとこ見たんですけど、今日はなんか予定でもありましたか」  

と尋ねてきた。

 滅茶苦茶タイムリーな電話だった。

 藤堂は

 「すぐ、行きます。場所どこですか?実は舞ともう1人が誘拐されたんです」

と応える。

 電話の向こうで

    ええええー

と絶叫する声が聞こえた。

 藤堂は電話しながら藤堂妻に車の鍵を渡し、

舞の詳細な居所について

   情報が入ったことを告げる。

    大場も後に続く。

    その時知ったが、大場は捜査2班の班員を引き連れてきたようだ。

    電話しながら藤堂は

    「とりあえず、またどこかに移動しないか見ていてほしい」

   と金親京子に伝える。

    金親は了承し、自分の車を

        事務所の監視が出来て目立たない場所

   へ移動させて藤堂らを待つことにする。


    藤堂と大場らが到着すると金親姉妹が近づいてきた。

    金親京子は

    「事務所の中には、男4人と男の子と舞ちゃんがいるのが見えました。でも、ひょっとしたら死角になっててもっと人がいるかもしれません」

   とのことを伝えてきた。

    これは上出来だろう。

    ただ待っているだけでなく、事務所内の人数にも気を配るとは…

    埼玉県警捜査一課の金親涼子がいるから、彼女のおかげだろう。

    ここで藤堂は、大場と少し話し、英断を下す。

    しっかりと体制を組んで、訓練した救出部隊の到着を待つのが普通だが、藤堂と大場が選んだのは、一気に踏み込んで、強襲するという作戦だった。

    幸いにも連れ込まれた事務所は暴力団事務所で、これまでに何度かいわゆるガサ入れを受けており、間取りが分かったのだ。

    子供の誘拐の場合、騒がれない様に早い段階で子供に危害を加える、場合によっては殺害するケースもありうる。

    藤堂と大場は、悠長に体制を組んで待つという選択肢を取れなかった。

    それと、金親姉妹からの情報では、健太と舞は最初1階に居たが、暫くして2階の部屋へ移動させられたとのことだった。

    藤堂と大場は成田警察署に連絡し、最低限の準備だけ行い行動に出る。

    間取りは分かったものの、施錠設備は容易に変えられるため、ワイヤーカッター、チェーンカッター、鍵屋の業者も呼び寄せていたのだ。

   そして、事務所前の路上で大場の運転する車と藤堂の運転する車を衝突させ、事務所前で交通事故があり、関係者が事務所を訪れたという設定で藤堂、大場、赤川が事務所へ乗り込む。

    藤堂が

    「すみませーん。今、この事務所の前で事故を起こしちゃったんですけど、誰かいませんかあ」

   と声をかけた。

    そして藤堂は、事務所から出てきた高田に対して、敢えて興奮している様子で

破損した車両を指さす。

    「見てよ、前がガッツリ凹んでるよ。」

   そして大場の方に向いて

    「俺の車200万したんだ。全額弁償しろ!明らかにおめえの運転ミスだ」

   等と言い出す。

    一方、大場は

    「そっちの運転ミスだろう」

   と応じるという演技を始める。

    そして高田を事務所から連れ出し、事務所脇に設置されていた自動販売機の影まで来たところで、警察手帳を見せ、高田を覆面の捜査車両に入れる。

    そして舞と健太の他事務所内には3人、つまり被疑者が残り3人であることを確認する。  

    そして、再び事務所へ入ると、今度は水野が応対に出てきたので大場が口を塞ぎ  

   赤川が後ろから羽交い絞めする。

    他の捜査員に水野を渡すと藤堂、大場、赤川の3人で2階に上がる。

    大場が3センチほどドアを開けると

    中に健太と舞、犯人の2人が目に入った。

    誰もこちらに気付いていない。

    藤堂、大場、赤川の2階の状況を確認したところで後ろから、捜査員3名と金親京子もついてきた。

    水野を確保して、捜査車両に乗せると金親涼子が

    「犯人は、あと2人ですね!後は数の力で押し切りましょう」 

   と提案する。

    皆同意したが、ここで金親京子が

    「私も行きます。舞ちゃんと男の子が怪我していた場合、私がいたほうがいいはずです」 

   と申し出る。

    流石に

    「いや、あぶねえだろ」

   と反対する者が多数いたが、妹涼子が

    「お姉ちゃんは、私がカバーします。」

   として押し切ったのだ。

    通常、このような場合、警察官とはいえ、埼玉県警の捜査員が一緒に突入するケースはない。

    看護婦とはいえ一般人を事件の前面に出すなど本来あり得なかったが、金親姉妹には

       これを成功させて舞ちゃんを無事に救い出せば、自分たちの母と似た香りがする藤堂の母親に褒めてもらえる

   という意図があった。

    藤堂、大場、赤川に合流したのは成田警察署の捜査員1人に金親姉妹と藤堂妻で

あった。

    そして事務所2階の部屋に6人で突入した。

    大場と赤川は長谷川に飛びつき、藤堂は鬼頭と対峙する。

    長谷川は面食らい、ほぼ何もできないまま取り押さえられる。

    流石の鬼頭は、すぐ反応し、日本刀の小太刀を構えた。

    藤堂が

    「警察だ、動くな!」

   と大声を上げたが、鬼頭はひるまない。

    「うるせえ」

   と怒鳴り返してきた。

    藤堂は構わず、鬼頭に胴タックルをしようとしたが、これを機敏にかわされる。

    藤堂はつんのめって鬼頭の絶好の的になってしまった。

    鬼頭が小太刀を振り上げた時、想定外の事態が発生した。

    鬼頭の脇に居た舞が藤堂の前に入り込んだのだ。

鬼頭は小太刀を振り下ろしたが藤堂には当たらなかった。

舞が左腕で父親をかばったのだ。

その刹那、床に舞の手首が落ちた。

藤堂は目をカッと見開き、愕然とする。

藤堂妻の

 「まいー!!!」

の絶叫が響く。

 すぐさま藤堂は、右こぶしを鬼頭の口部に放ち、鬼頭は後方へ吹っ飛んだ。

 藤堂の怒りは完全に頂点に達していた。

 すぐさま、倒れた鬼頭の元へ走る。

 鬼頭は武道家である。

 鬼頭の判断は武道化として正しかった。

 自分に駆け寄ってきた藤堂に対し、突きで迎え撃つ。

 突きと言う攻撃で、飛び掛かってくる藤堂の勢いもそごうとしたのだ。

 しかも藤堂が突っ込んできたので、当たれば明らかにカウンターになる。

 しかし、ここでも想定外の事態が起こる。

 突きは当たったが、藤堂は突きが当たっても止まることなく、そのまま前進し、

鬼頭の顔面を殴りつけたのだ。     

 この一発で鬼頭は気を失う。

 鬼頭の上前歯は全部なくなっており、周りに歯が何本か落ちているのが分か

った。

 藤堂は小太刀が右胸に刺さった状態で仁王立ちしている。

 刀が体を突き抜けた状態だ。

 皆、舞の手首が床に落ちているのに衝撃を受けて固まったが、舞は父親に駆け

寄り父親を心配している。

 「父ちゃん大丈夫か、舞がそれ抜く」

とアピールするがここで、正看護師金親京子が動き出す。

 「舞ちゃん、駄目!それ抜くと、血が噴き出しちゃう。そのままにして」

そして側にいた涼子にも

 「涼子、すぐ生理食塩水を作るから、持ってきて」

と床に落ちた左手首を指差して促す。 

 金親は事務所の流し台の棚にあった食塩を使い、手早く食塩水に手首入れる。

 また綺麗なビニール袋を見つけ、そこへ手首を入れると、今度は舞に駆け寄り

舞の上腕部分をベルトで縛り、出血しない様に施した。

 すぐ、事務所を出たところで、捜査員が救急車を呼ぼうとするが、藤堂妻が

 「救急車来るの待ってられない。緊急走行で成田日赤へすぐ向かおう」

として覆面の捜査車両に乗ろうとする。

 ここで異変が起きた。

 捜査員が藤堂妻に車の鍵をほおって渡そうとしたところ、反応が遅れ、鍵は藤

堂妻の腹にあたった後、道路に落ちてしまった。

 普段と変わらぬように見えていたが藤堂は妻は舞の手首切断に、これ以上な

いくらい動揺していたのだ。

 気付けば藤堂妻の体はガクガク震えている。

 その時、藤堂妻の後ろから声がした

 「しっかりしろ、たか子!運転は私に任せろ!」

と怒鳴り声がしたかと思うと冴島が現れた。

 冴島は、藤堂妻から連絡をもらっており、現場に到着していたのだ。

 そして冴島がたか子から捜査車両の鍵を奪い取ると捜査車両の運転席に座っ

た。  

 以前、警察官だったとはいえ、一般人が捜査車両を運転することなど通常許さ

れない。

 しかし、誰もそれを指摘する者などいなかった。

 冴島のことを知っている捜査員は多い。

そして冴島のことを知っている捜査員は

    緊急走行させたら右に出る者はいない

と言われるほどの腕前を知っていた。

 冴島が舞と藤堂を乗せ緊急走行すると7分後には病院に到着していた。

 藤堂妻が病院へ連絡し、状況を説明していると、その脇で金親京子も電話をし

だす。

 南野に電話したのだ。

 金親は

 「おい、今、救急車じゃねえけど救急搬送中だ。小学生1年生の女の子が日本刀で手首を切断されている。私にプロポーズしたからにはオペは絶対成功させろ、間違っても救急受け入れ拒否なんてすんなよ。そうしたら結婚どころじゃねえからな」

等と脅しをかけている。

 藤堂夫の怪我の具合は見た目、相当派手だが

     うちの外科のオペなら命の心配はいらないだろう

と見積もっている。

 この電話を受けた南野は電話を終えると外科部長室へ向かう。

 藤堂妻が病院へ連絡し終えたところで、藤堂夫の母、英子から電話をもらう。

 藤堂妻は冴島だけでなく、義母にも連絡を入れていた。

 藤堂妻は義母と義父に心配をかけたくなかったが、黙っているわけにもいか

 「お義母さん、舞は助かったけど、ドラ亭主と舞が怪我してるの!今、成田日赤に緊急搬送してるの、落ち着いたら、こちらから電話します」

として電話を切ったが

 義母は、電話を待たず、直接成田日赤病院へ向かう。

 そして義母は成田日赤病院の近くにいたらしく義母らが到着したタイミング

で冴島の運転するセレナも到着した。

  ここでまたアクシデントが起きてしまう。

  急車両は病院側の指示により救急車用の出入り口へ向かったがそこで義母

は運び込まれる藤堂夫の姿を見てしまう。

  藤堂夫は右胸に日本刀が突き刺さっている状態で、しかも身体を突き抜け

ており、これ以上ないくらい普通の人の目にはピンチな状態に見えた。

  これを見た藤堂夫の実母、英子は気絶して倒れる。

  義父は英子が頭を打つのを防いで支えたが、義母英子も診察を受けること

になる。

  外傷はなかったことから内科を受診することになったが内科の研修医がカ

ルテを見て考え込む。

  カルテには岩手県の住所と

       藤堂英子の名前

が記載されていた。

  診断の結果、特に心配なところはなく鎮静剤を3日分処方するのみだった。

  義父と共に診療室に入った英子に尋ねたところ

       緊急搬送されてきた息子の様子を見に来たら右胸に日本刀が刺さっていた

から気が動転してしまったという。

  診察後、サーミは英子を診察室にとどめ置き少し待っててくださいと言っ

て、診察室を出ていき兄ミューラの元へ走り出す。

  兄ミューラは外科部長室で外科部長と話し込んでいるということを聞きつ

けたので外科部長室にノックしてはいる。

  案の定外科部長室にはミューラが外科部長と何やら話し込んでいた。

  しかし外科部長室にいたのは外科部長と兄だけではなかった。

  外科の研修医の南野も居たため少し驚いてしまう。

  丁度南野が外科部長とミューラに対して

   「大丈夫です。任せてください」

 と応えている最中だった。

  外科部長がサーミを見て

   「どうした、何かあったの?」

 と尋ねるとサーミは兄ミューラの方を向き

  「前に母ちゃんが日本にいた時一番お世話になった人って

       藤堂英子

  って名前だったよね」

と確認のための質問をしてきた。

 ミューラが

 「そうだけど、それがどうした?」

と逆質問すると

 「さっき緊急搬送されてきた人がいると思うんだけど、その人は藤堂英子さんの関係者だったんだ。なんか息子さんの胸に日本刀が刺さった状態を見て気絶したため、さっき俺が内科で診療したんだ」

と顛末を話すとミューラは

 「な、なんだとー」

と今までに見たことなないほどの反応を示した。

 そしてサーミは

 「俺がオペしたいんだけど…、母ちゃんの恩人の息子が搬送されてきたのに俺が何もしないって言うのは、なんか嫌だ。恩返しがしたいんだ」

と告げて兄と外科部長に頼み込む。

 すると外科部長が

 「そうだったのか、丁度オペを誰にしてもらうか話し合っていたところなんだ。南野研修医も、オペがしたいってことでここへ来たんだ」

と事情を説明する。

 説明では

    クランケは、南野の許婚者、つまり、金親京子の知り合いで『お前がオペしろ』って言われたらしい

とのことだった。

 すると再び南野が

 「大丈夫です。俺に任せてください」

と大きな声で頼み込む。

 このタイミングで外科部長室がノックされる。

 次に外科部長室に入室してきたのは金親京子だった。

 皆、金親京子に注目する。

 金親は

 「すいません、今日は休日だったんですけど、知り合いが搬送されてすぐオペだと思うんで私も手伝います。」

等と言ってきた。

 また南野に向い

 「ちょっと声が外にも聞こえてきたんですけど南野先生、『大丈夫です。任せてください』って大きな声で言ってましたよね。なんか自分のキャラ勘違いしてませんか?」

と言い出す。

 南野は不思議そうに金親を見るが金親は

 「南野先生、こう言っちゃあ何ですが、セリフがキャラに会ってません。南野先生は先天性の悪役キャラなんですから正義の味方みたいな主役みたいなセリフは会わないって自覚ないんですか?南野先生はキャラに会う様に『

俺に任せておけばいいんだよ、俺は金の力にものを言わせてで何でもできるんだよ!この小物があ』って言えば皆すぐ納得なんですよ!ぐだぐだ言ってないで、すぐオペに取り掛かりましょう」

     等とし切り出した。

      外科部長室の皆は、金親の勢いに釣られる。

      外科部長、サーミ、ミューラに南野皆笑い出し、和やかにオペ室へ向かうこと

になった。

 一旦、サーミは診療室に残してきた英子に自分が孫娘の方の手術を担当する旨、また兄であるミューラが息子の手術を担当することになった旨を伝え、オペ室へ急ぐ。

 結局、日本刀が刺さった状態の藤堂夫はミューラが執刀医になり、舞の方はサ

ーミが執刀医で南野が第一助手という形となった。

 また、舞はまだ小学1年生で体も小さいことから研修医でもオペの経験が豊

富なリタが麻酔医として加わることになる。

 さらに驚いたことに、人手不足だったのか舞の手術には、ギャルナースこと戸

田桃もメンツに入っていた。

 そして、オペ室に入ると金親は驚いた。

 準備が整っていたのは、もちろんそうだが不思議な状態だった。

 金親は舞の手術の担当だったが、明らかに医療器具が倍用意されている。

 舞の手術はマイクロサージャリーと言って、簡単に言えば顕微鏡を見ながら、神経や血管をつないだりのち密な手術になる。

 そのマイクロサージャリーの用具が2人分用意されていた。

 他のナースに聞くと南野の指示らしい。

 サーミ研修医もオペ室に入ると驚いている。

 南野研修医が舞の頭部側に立ち、サーミ研修医が舞の足側に立ってオペが開始された。

 金親はオペ中に気付いたが、南野研修医は左手用の医療器具を操っていた。

 確か、肝座礁のオペの時には間違いなく右手でオペしていたはずだが、今回は左手でオペしている。

 現状サーミ研修医が執刀医となっているが、これは2人が執刀医と言っていい状況になっている。

 舞の手術は緊張感のある細かい作業が続くが、流石は『ベトナムの神の手』に匹敵する実力のサーミ先生は南野先生の作業も確信しつつ、丹念に作業を続ける。

 マイクロサージャリーでの作業はより集中力が必要とされるというのがよくわかる。

  南野研修医とサーミ研修医の疲労が見える中、戸田桃の声が響いた

  「心拍爆下がりっす!」

 途端、南野とサーミの緊張がほぐれる。

  実にいいタイミングでの暴言だった。

  他のナースたちも笑顔になっていた。

  実は、これが戸田桃のオペデビューであった。

  オペは4時間30分で無事終了した。

  隣のオペ室は『手術中』表示が消えている。

  無事終わったのだろう。

  サーミ研修医はミューラと合流し手術が無事に終了し命に別条がないことを確認すると自分の携帯電話で国際電話をかけ始める。

  『ああ、母さん!日本でお世話になったっていう藤堂英子さんの息子さんとお孫さんが病院に運ばれてきたから俺と兄貴で手術したよ。どっちも無事手術成功したところだよ』

 と伝えると

  『なんだって、英子さんの息子さんと孫?よくやった!英子さんも元気そうかい?今度また、父さんと一緒に日本行く予定だからその時はよろしくって伝えといてよ』

 次いでミューラも電話を変わり、

  『俺もびっくりしたよ。岩手県はここから遠くて会えないと思っていたから……』

 また

  『英子さんの息子さん、警察官らしくて、悪い奴に剣みたいなので右胸刺されて、英子さん、その姿見て気絶したらしいけど、それはサーミが診察してくれたんだ』

 とのことで話は続く。

  丁度ミューラとサーミ研修医がオペ室を出たところだったが、藤堂英子と一郎が駆け寄ってきた。

  まだ通話中だったミューラは電話を英子に渡す。

  「お孫さんの手術も無事終了です。右手切断だったみたいですけど、くっつきました。リハビリは必要ですが、元通り動くと思います」

 とした後

「実は私の母はグエン・ヴァン・マリアです。今電話してるところです。英子さんも少し話しませんか」

というと

「えっ?あんた、マリアの息子かい!ちょっと待って確かマリアの娘私の親戚のうちで働いてるんじゃないか、確かシャムちゃんだよね」

と尋ねてきたので、

「そうです。しばらく会ってないんですよ、シャムのこともよろしくお願いします」

として頭を下げてきた。

 英子は電話に出ると

「マリアかい!今日息子が日本刀で刺された状態で病院に担ぎ込まれたから私もびっくりして倒れちゃったよ。マリアの息子さん医者やってたんだねえ、今日はありがとうね。息子いなくなったら生きがいがいなくなっちゃうからねえ、しかも孫娘まで助けてもらった。本当にありがとう」

としながら、相手には見えないだろうにお辞儀している。

 「英子さんには返しきれないくらいの恩があるから、少しでも返せたならよかった。今度、旦那釣れてまた日本に行こうと思ってる。その時は寄らせてんもらうのでよろしくお願いします」

とのことでマリアも英子も喜んでいる。

 英子はたか子と一緒にドラ息子と舞の入院手続きをする。

 一と舞はどちらも個室にして、隣同士にしてもらった。

 一と舞は、まだ麻酔がきいていて寝ている状態だ。

 そこで英子は夫の一郎に買い出しを頼む。

 買う物をメモ書きし、それを一郎に渡した。 

  一郎が戻ってくると、すぐさま、あら汁を作り始める。

  一が目を覚ましたら「腹減った、何か食わせろ」と言い出すに違いないと思ったのだ。

  それからミューラとサーミはカルテに手術の状況を記載する作業を行うが、そこへフランソワが顔を出した。

  「ミューラーさん、完璧なオペでした。安定感がありますね」

 と言ったかと思うと今度はサーミに向き直る

  「サーミさんのオペも、凄かったです。4時間30分で、あのオペができるというのは他の研修医どころか世界の外科医師に見せたいくらいのオペでした。」

 とご満悦だ。

 それから

 「私、2人のオペを見て興奮しちゃって、家の者に言って、この間のお酒より高価なワイン持ってきてもらったんです。この後、3人で食事でもどうですか?」

等と言ってきた。

 2人とも褒められて悪い気はしない。

 先に作業が終わったサーミは一旦

 「クランケの様子を見に行く」

と言って席を外す。

 サーミは気づいていた。

 兄のミューラは、フランソワ研修医のことを気に入っている。

 美人だし、性格もいい、オペの腕もいいし言うことなしだ。

 なるだけ2人だけの時間を作ってやりたいという思いがあり、敢えて席を外

したのだ。

 しかし、ここからサーミの予想外の展開が待っていた。

 少しだけ、クランケの顔を見て、休みを撤回してオペにも立ち会った金親ナースにお礼を言おうとも思っていたが藤堂一の病室前まで来たところでベテランナース沢田の声が聞こえた

 「藤堂さん、今日は手術した当日だから食べ物は食べちゃダメなんですよ」

 と叫んでいる。

  病室内に入ってみると沢田と藤堂一の母親英子が対峙し、脇に金親が立っていた。

  サーミは、

金親さんはもう着替えたのか

ついさっきまでオペ着でいたのに早いなあ

      と思いつつ、クランケ藤堂一の顔色を確認した後、脈拍を確認しながら尋ねる。

       「沢田さん。どうしたんですか?何かあったんですか」

      すると沢田は

       「藤堂一さん今日オペだったんですが、病院の決まりでオペした当日は食べ物を食べてはいけないんですけど、藤堂さんのお母さんが食べ物を作っていたので、注意したのです」

      と告げてきた。

       藤堂一の母は、先程お礼を言って別れた後なのに、怒られてしまって合わせる顔がないと思ったのか俯いている。

       「すいません。あら汁なら大丈夫かなって思ったもので…」

      と答えたが、サーミは驚いていた。

       この匂いはベトナムの母さんがよく作ってくれた『あら汁』じゃないか?

       個室の流し台には大きな鍋が置かれており、香ばしいにおいを放っていた。

       すると脇に立っていた金親が

       「すいません。私よく分かっていなくて『大丈夫だよ』って言ってしまったんです」

  と釈明する。

   沢田は

   「金親さん、ここでもう何年もナースやってるじゃない。知らないじゃ通らないよ」

  と厳しく指摘された。

   その直後、病室のドアが開いた。

   病室に入って来たのはオペ着を着た金親だった。

   サーミは

      これはどういうことだ

      俺は疲れているのか

  とも思ったが藤堂英子の脇にったいた金親が

   「お姉ちゃんごめん、私失敗しちゃった」

  と頭を下げだした。

   沢田も驚いている。

   オペ着の金親は、沢田に事情を聴く。

   そして藤堂一の母にも事情を聴きようやくわかった。

   藤堂一の母は、『あら汁』を作る前にナースステーションに行き、手術後何か飲食させていいか尋ねたらしい。

   すると、ナースに

   「飲み物ならいいですけど、固形物は駄目です」

  と教えてもらったようだ。

   そうしたころ、病室で待っていたナースではない金親に

   「一般的に言って『カレーは飲み物』」

という独特の解釈を示された結果、

    あら汁なら大丈夫

  と判断したらしい。

   事情が分かったサーミは吹き出して笑ってしまった。

   そして更に

      オペ着を着ていない金親は金親京子の双子の妹であること

  も判明したが、もの凄く納得した。

   サーミは

  「事情は分かりました。まあ規則を破ることになっちゃいますけど、責任は私が持ちます。今日は俺当直ですし…、今回は誰も知らなかったということにしましょう」

 と皆に告げ、丸く収めたのだった。

  サーミがミューラの元に戻ると、丁度、フランソワ研修医と食堂に向かうたエレベーターへ向かっている途中だった。

  サーミは急いで2人の後へ続く。

  そこへたまたまリタがやってきた。

  リタは帰宅するため、エレベーターへやってきていたが、ミューラが

  「リタ、丁度これから、8階の食堂で皆で飯食うところなんだ、一緒に飯食わないか?」

 と誘う。

  リタは

  「えっ?逆に良いんですか?誘ってくれてありがとうございます。」

 と答えた後サーミを見て

  「ところで、サーミ、何持ってるの」

 と質問する。

  サーミは、ちょっとギクリりとした様子を見せる

  「これは、クランケの家族から持って行けって言われたものなんだ」

 と曖昧な返事をする。

  実はサーミは英子から

  「せっかく作ったんだけど、作りすぎたから、後で食べて!当直なんでしょ!丁度良かったかも…」

 として売店で購入した使い捨てのプラスチックの容器にあら汁を入れて

もらったのだ。

 サーミはあら汁の匂いが以前、ベトナムで母親が作ってくれたものと似て

いたことから、

    これは、うまそうだ

と思い受け取った。

 しかも、まだ鍋には『あら汁』が大量に残っているのが見えたことから

 「ごめんなさい。できれば兄にも食べさせたいんであと3つ分もらっていいですか」

と頼み込む。

 英子は笑顔で

 「私も、作りすぎたなあって思ってたところだ。持って行って」

ということで、結局、あら汁の入った容器を4つを2つのビニール袋に入れてもらったのだった。 

  成田日赤病院ではクランケから物をもらうのは禁止されている。

  最初、サーミがギクリとした様子を見せたのはそのせいだ。

  ミューラは

  「お前病院の規則違反だって知ってるだろう。でもまあ、金とかだったら許さねえけど食べ物だけなら見逃してやる。もうもらうなよ」

 と注意する。

  サーミは

  「ごめん、悪かった!うまそうだったから、つい…」

 等と言い淀んだのだった。

  サーミは兄のミューラと2つづつ食べようと企んでいた。(フランソワのことは忘れていた)

  食堂に着くとテーブル席で、皆でA定食を食べることになった。

  その際、食堂で空のコップを借りて、言っていた高級ワインをつぐ。

  しかしサーミはこれから当直なのでワインを飲むことができず、リタも車を運転するため飲酒を控えた。

   そこへサーミが手に入れたあら汁を分ける。

   丁度4人分だ

   容器のふたを開けると、先程の匂いが周囲に立ち込める。

   案の定、ミューラも気づいた様子で

   「これ、昔、母さんが作ってくれたものと似てるなあ、同じ匂いだ」

  と言って喜んでいる。

   リタも2~3口食べたところで

   「これ知ってる。マリア母さんが、時々作ってたやつだよね、私これ好きだったんだあ」

  とこぼす。

   もちろんサーミもご満悦である。

   完全にサーミの想像通りの味である。

   いや、想像してたのよりうまい。

   そしてリタが呟いた。

   「これは、マリア母さんが全盛期の頃に作ってたのと同じ味だね、凄いね。これ、日本で作れる人いるんだあ」

  と驚いている。

   そこでサーミが教える。

   「今日、藤堂一さんて人が日本刀で刺されて搬送されてきたでしょ、その藤堂さんのお母さんが実は、母さんの恩人で、日本でよく母さんの世話をしてくれてた人だったんだ。聞いたら、母さんにこの『あら汁』の作り方を教えたのは藤堂一さんのお母さんだったみたい…」

 とのことを告げる。

  そこでサーミ、リタ、フランソワは気付く。

  ミューラの目から涙がしたたり落ちている。

  「あ、兄さん、どうしたの?」

 サーミが慌てて尋ねる。

  ミューラは

  「いや、少し昔を思い出しちゃった、今度暇あったら1回ベトナム帰ろう、サーミ!」

 と促す。

  サーミは

  「うん、そうだ、その時リタとの結婚式を挙げよう」

 等と話しリタも

  「それがいいね!」

 と応じる。

  そこでフランソワがミューラに確認する

  「ええええーっつ、それじゃあ私との結婚は、どんな感じになるの?リタさんと一緒のタイミングでいいんじゃないの?」

 サーミにとってはとんでもない剛速球だ。

  「ええええーっつ!付き合っているどころか?結婚の話まで行ってたの?」

 と驚くサーミだがミューラは

  「いや、その前に、フランソワの両親に挨拶に行かないと…」

 と応える。

するとフランソワは

  「両親には事後承諾でもいいよ」

 と更に剛速球を投げる。

  流石にこの発言にはミューラ、サーミ、リタの3人が驚く。

  リタは 

  「流石に、事後承諾はないでしょ、両親怒っちゃうよ」

 と窘めるがフランソワは

  「いや、大丈夫!私の家では私の決定がすべてに優先されるから」

 との押しの強さだ。

  ミューラ、サーミ、リタの3人は

      すげえな、本物のお嬢様ってこんな感じなのか

 と恐れをなすのだった。

 ベトナムへの帰省の話が終わると今度は、オペの話になった。

 フランソワが

 「ミューラのオペは安定して間違いようはなく無事成功だったけど、今回は舞ちゃんのオペの方が難しかったんじゃない?」

 と話すとサーミは

 「確かに…、マイクロサージャリーのオペは日本では今回初めてだったな…、でも南野先生が今回、物凄かったんだ…、南野先生が半分、神経縫合やってくれたから逆に俺が余裕持てた感じだ。今まで知らなかったけど南野先生は両利きで左手でもオペできるんだ。だからマイクロサージャリーの用具を2台並べても問題なく、オペすることができたんだ。」

 というとフランソワは

 「まだ途中だけどDVD見たら、あれは感動するぐらい凄いオペだよね!南野先生ひょっとしたら、それこそ『日本の神の手』になるんじゃない?」

 とコメントする。

  リタは驚き

 「南野先生、実はそんなに凄かったんだ。今まで『面倒くさい男』っていう感じでしか見てこなかったからびっくりだね」

 と驚いている。

  ミューラが

 「なんか、リタのことはあきらめて、今あの金親と付き合っているって話だけど、付き合いだしてからオペが尋常じゃなく上手くなったのは間違いない。

  いったいどんな魔法を使ったのか聞いてみたいところだよ」

 というとすかさずサーミが

 「今日オペ終わった時、『オペの技術が半端なくうまくなってない?どんな魔法使ったの?』ってきいたら、『魔法名だけ教えてあげよう、魔法名眠眠打破だ』って言ってた」

 とのことを言い出す。

  リタとフランソワは『眠眠打破』と聞いて、すぐ眠気覚ましのガムを思い描

いたが核心に届くことはなかった。


  一方、金親京子はこれでもかというくらい疲労していた。

  休日出勤でしかも深夜までかかった。

  今でも南野とは別々に暮らしているが駐車場で南野と一緒になったのだ。

  南野が話しかける

  「舞ちゃんだっけ?執刀医はサーミ先生だったけど、俺も少しは頑張ったんだぜ」

  と言うと

  「舞ちゃんは私の親友だった。ありがとう」

  と素直に頭を下げる。

  南野は面食らう。

  もの凄い返しがあるものと思っていた。

  少なくとも素直に頭を下げてお礼を言われるというのは想定外だった。

  「親友ったって小学1年生じゃなかったっけ」

  すると

  「私の笑いのライバルでもある」

  と返してきたので、南野はもっと驚く。

  南野の頭では

      あの年齢で金親にとっての笑いのライバルと言ったらとんでもない大物だろう

 と思わずにはいられなかった。

  南野は

      お笑いのライバル

 ということを掘り下げてツッコミすると

      お前はつままらねえ男だ

 と指摘される展開が予想されたため突っ込めなかった。

  そのため話題を変える

  「そういえば、今日妹さんと会って話するって言ってたけど、妹さんは素直

に俺ん家来てくれそうかな?」  

 と尋ねると、

  「それが私もびっくりしたんだけど、妹も同僚にプロポーズされて結婚する

ことになったみたい…、かまわないから、旦那と一緒に南野家に来ることを

考えてって言っといた。一平はそれでも大丈夫?」

とのことで南野は

「うわあ、タイミングよかったねえ!俺はもちろん大丈夫だよ!家がにぎ

やかになるなあ」

と言うと

「妹の説明だと、亡くなった父ちゃんに似ているってことだったから賑や

かどころの騒ぎじゃないかもだよ!多分うるさいぐらいになるんじゃ

ないかな」  

  とのことで、南野は

  「それは逆に楽しみだなあ」

  と言って笑ったのだった。

 翌日、千葉県警察本部長遠藤徹は大きな決断を迫られていた。

 通常、警察とマスコミは持ちつ持たれつの部分もあるが、今回発生した

     逮捕監禁、公務執行妨害、殺人未遂事件

は朝日新聞の報道の仕方が発端と言えば発端である。

 朝日新聞は読日新聞に次ぐ、大手の新聞社であるが有耶無耶にはできない。 

 捜査員の士気にも関わる。

 遠藤は刑務部長へ指示を出す。

 処分の内容は

     朝日新聞社の記者は千葉県警察本部へ1カ月出入り禁止

と決まった。

 異例の処分だ。

 発表がなされると、30分後に朝日新聞本社社長から電話がくる。

 対応は本部長ではなく刑務部長であったが、朝日新聞でも謝罪に終始してい

たとのことだ。

 この後、逮捕者の一人鬼頭の余罪として殺人事件が数件発覚するが、朝日新聞

社は記者会見にも参加できず、指をくわえてみているほかなく、読日の独壇場と

なる。

 朝日新聞社では処分を受け

     謝罪会見

を開いたが、上司である保田が会見の場で

     新人記者の深田のミス

として釈明してしまったことで、結局、火に油を注ぐ結果となってしまい、保田

は地方に左遷、また、役職も取り上げられ、平記者とされる結果となった。

 逆に辞職した緑川は報道部の部長が平謝りして、呼び戻し、復職することにな

ったのだった。

 朝日新聞社にとっては首の皮一枚つながった形だろう。

 逮捕された犯人グループは懲役8年が言い渡されたが、鬼頭は殺人の余罪が

数軒明らかとなり死刑とされる結果となったのだった。

 犯行グループの一人、長谷川が『鬼頭が殺した人間を山に捨てたことがある』

と申し立てたことで事件が発覚したのだ。        


手術を終えて1カ月がすぎ、舞と藤堂一はようやく退院の目星がついた。

 舞は、手首は元に戻ったものの、まだ完全に把握力は戻っていなかったが、手

指のしびれ等は全くなく、普通の生活であれば過ごせると判断されたのだ。

 退院に際して、舞の個室で小さな退院祝いが催された。

 藤堂夫婦、舞、瞬、舞の祖父母、大場父、健太、冴島に金親姉妹、サーミ、ミ

ューラ、フランソワ、ギャルナース戸田桃に南野らが集まった。

 皆小ネタを披露していき、金親姉妹のトリプルアクセルとイナバウアー、そし

て姉妹でアメリカ選手の決めポーズを披露した直後だった。

 舞が

  「今度は私が技を見せる」

と言い出し、藤堂たか子の腕から瞬を抱き上げ

  「舞運送!!」

と叫んだかと思うと、舞台に移動し、続いて瞬の両脇に手を入れて頭上まで持ち

上げ

  いわゆる『高い、高い』

をやってみせ

  「リフト!!!」

と絶叫した。

 そして

 「りくりゅうの次は私達まいしゅんだ」

と言い放った。

 舞の祖父母、藤堂夫婦、冴島も笑っている。

 研修医勢は固まっている。意表を突かれたのだ。

 またギャルナース戸田桃は

   これが金親先輩のライバルか

   やりよる

等と言って感心している。

 皆、大喜びだ。

 金親京子は、藤堂の母親に良いところを見せたくてイナバウアーを決め

たのだったが舞の技を見て

 「くそう、全部持ってかれた、流石は舞どん、私のライバル」 

と独り言を言って悔しがっていたという。

 また南野も

   これが、金親のライバルか…

と納得したのだった。


  


 




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