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小さな余裕

作者: マーク
掲載日:2026/03/11

電車とか、バスに乗ってるとき。


出来る限り、視線を動かさないようにしている。


窓の外とか。床とか。


なんというか、ほんと、なんとなく。


「私は無害だよ」って、訴えるみたいに。


別に、悪いことなんてしたことないけど。


イヤホンとか、スマホ見るとか。


なんか、そういうことはしたくないし。


誰のことも知らないけど、同じ乗り物で、目的地に向かっている。


『…すごいな』


やべっ。口に出た。


『ねっ!すごいね!』


え?


声がした方を見る。


小さな男の子だった。


窓の外を見て、目を輝かせている。


『はやい!おうち!』


すごいという言葉に、反射的に言葉を返したみたいだ。


『みんないるから、静かにね』


お母さんだろうか、口元に人差し指を当てながら、そう言った。


私は、反射的に。


その子が見ている景色を、いつの間にか見ていた。


いつもと同じ景色。


見慣れたはず…だったけど。


ちゃんと見てみると、知らないことばっかりだった。


…まぁ、今まで外を見る余裕がなかっただけか。


この子がくれた少しの余裕、大事にしよう。


『電車乗るのはじめて?』


声をかけてみた。


『うん!』


元気よく答えた。

私の方を見ず、外を見ながら。


興味津々だね。


『すいません。うるさくて』


『いいえ』


静かでなんとなく重い空気が、清浄されていくみたいに。


息がしやすくなった。


『お姉ちゃん、いつもでんしゃ?』


さっきまで窓の外を見ていた瞳が、こちらを見る。


興味があるものに、目を向けているんだね。


『そう』


『たのしい?』


『どうかな』


『えー?たのしいよー』


電車の揺れに合わせて、小さな体が揺れる。


『ちゃんと座らないと怪我しちゃうよ?』


『ん』


少し頷いた。


でも、立膝をやめなかった。


そうだね。

楽しいんだから、それでいいよね。


誰にも、迷惑かけてないもんね。


そのとき、対向電車が走ってきた。


大きな音を立てながら。


窓の外を、銀色の車体が一瞬で通り過ぎる。


『うわっ!』


驚いて、小さな体がぐらりと傾いた。


思わず動いて、それを支える。


小さな体は思ったより重くて、命を感じた。


『大丈夫?』


『うん!』


そう言って、すぐに窓の外を見た。


『すいません。ありがとうございます』


お母さんが頭を下げた。


『いいえ。私が少しだけ早かっただけです』


お母さんも、男の子を支えるように手を出していた。


私がやらなくたってきっと、この子は怪我しなかっただろう。


でも、だからって、無駄だったわけじゃない。





それから。


電車を降りて、歩く。


なんとなく、軽くなった気がしながら。


『子どもって、かわいいなぁ』


そう呟いた。




こういう子がいつの間にか、へこんで平らになってくんだよ?

許せないぜ。

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