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第7話 森の小さな同盟

 木漏れ日から差してくる朝日の明るさに、現実に引き戻された。

 目の前には、火の消えた焚き火の跡。

 ぶすぶすと音を立て、昨夜を名残惜しむかのように、わずかに白い煙が出ていた。


 いっけね、いつの間にか寝ちゃってた。

 

 あの後、マナ姉はすぐに寝た。

 ころんと横になったら、寝息をたてていた。

 泣き疲れたんだろうか。

 

 俺はせめて火の番をしようと起きてた。

 ……つもりだったけど。

 何たる無防備。

 運よく、昨日の獣は来なかったようだ。


「……ん」

 

 マナ姉の目が開いた。

 もそもそと上半身を起こす。ぐぅぅっと伸びをする。

 こっちに気づいたのか、目が合う。

 かと思ったらぷいと横を向いた。

 その顔が、夢の国で俺を見つけてくれた時の横顔と重なる。


 あの日のマナ姉も、目の前の姉も、根っこは同じ……だといい。たぶんきっと地続きだ。

 ――なら、勝算はきっとある……あるはずだ。

 

 俺の気持ちは、ただ元の優しい姉ちゃんに戻ってほしい、それだけ。

 そのために弟として持っている全てを発揮するだけだ。


「おはよう、姉ちゃん」

 あいさつをトリガーに、俺は行動する覚悟を始めた。


「ん、おはよ」


 目を合わせないまま返事をするマナ姉。

 その声からは昨日よりもいくぶんトゲが抜けた気がする。

 今がそのときかもしれない。


「マナ姉、ごめん」

 

 言葉と同時に、俺はマナ姉の腕の(すそ)を引いた。

 

「昨日は俺がわがままだったよ……危ない森を歩くのに舞い上がっちゃったり、なんか挽回しなきゃって焦っちゃって」


 マナ姉の顔をじっと見る。

 瞳には困惑の色が浮かんでいた。

 けど、腕を振りほどかれたわけじゃない。

 もっと踏み込める。

 

「けど森を出ることなんかより大事なことがあった」


 息を大きく肺に入れる。

 覚悟は完了した。

 

「俺はマナ姉のそばにいたいんだ、だめ?」

 

 喉が熱くなる。

 そのまま熱は頬を温め、額に伝わり、なんなら髪の毛の先から湯気が出そうだった。

 知らねえ、始めたからにはもう俺は知らねえ。骨とかプライドは後の俺が拾ってくれ。

 

 瞳を丸くさせるマナ姉。

 その視界には、俺を入れつつも、ここじゃないどこかを見ているように思えた。

 

「……べ、別にだめってわけじゃない」

 

 遠慮がちだな、でもダメじゃない。なら……。


「よかった!ありがと」


 顔を寄せ、思い切って抱きついた。

 ぎゅ――っと、やるからには本気だ。

 

「ちょ、あんた」


 これにはさすがに文句が出る。ここだ!

 

 ――「隙あり!」

 思いっきり脇腹をくすぐってやった。


「ちょ、やめなさっ、ははは!!」

 

 声が森に響く。

 久々に聞いた笑い声だった。

 方法は無理やりだったけど、胸がスッと楽になる。


「ひいいい、ちょ、ほんとやめて、こらぁ」


 ぺちんと、頭の後ろを叩かれた。

 

 やっべ、ちょっと怒ってる。

 ぴたっ、とくすぐるのをやめた。

 やめた代わりに――。

 

「ごめんなさい」

 

 言いながら、こつんっと、マナ姉のおでこに、俺の額を当てた。

 マナ姉も、ためらいがちに、やんわりとおでこを押し返してくれた。

 

 浅い息遣いがすぐ近くに聞こえる。

 まだくすぐりの余韻(よいん)が残っているようだ。


「だけど、これだけはお願いがあるんだ」


 じっと見つめる。

 マナ姉も、今度こそ目を合わせてくれた。

 そして俺は、本題を口にした。

 

「マナ姉、"同盟"を組もう?」

 

 ――同盟。

 それは、ケンカしたときのお約束。

 仲直りに向けた、ちょっとの歩み寄り。

 マナ姉と俺のこれまで、幾度となく繰り返された儀式だった。


 マナ姉は軽く息を吐いた。


「なぁんだ……同盟、かぁ」


 安堵(あんど)したような、何かを確かめるような、そんな声だった。

 

「そ、森を出るまでの、マナ姉と俺の同盟」


 森を出るまではケンカは無し。

 これからの行先はマナ姉に全て決めてほしい。その代わり、俺は全力でマナ姉をサポートする。

 決して反対したりしない、むしろ俺を使ってくれ。

 お互いの役割を決める。そんな同盟だ。


「マナ姉、ね、ね?」


 説明の間、マナ姉は真顔だった。

 なんなら少し頬が膨らんでるのが分かる。

 あと一押し。

 

「お願いしまひゅ」

 ――やべ、噛んだ。


「ぷっ」 

 噴き出す姉。


「はぁ……いいわ」


 呆れつつも、マナ姉は言う。

 でもその声色は、穏やかだった。


「ありがと、マナ姉」


「……なにもここまで……くても……」

 

 ぼそりと言う姉。よく聞き取れなかった。


「ん?なんか言った?」


 聞き返すと、そこにはばつが悪そうな姉の顔。


「もうっ、あんたいろいろズルい」


 あれ、また不機嫌になった?

 弟のアイデンティティを賭けた、一世一代の甘えなのだ。ズルいのは許してほしい。

 

 木々を抜ける風を背中で感じた。

 そよそよと涼しく、火照った体を落ち着かせてくれるようだった。

 


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