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第13話 手放せなくて、敵わなくて

 おはよ、と言いながら俺は椅子を引く。

 今朝はキャベツと豆のマヨサラダ、焼き置いたパン、目玉焼きだった。

 卵のふんわりと温かみのある香りが漂う。これらをハーブティでいただくのだから、朝からホッとする。

 朝ごはんの用意はいつもマナ姉の仕事だ。

 

 マナ姉は、かまどの前で調理の片づけをしながら鼻歌を歌っている。

 機嫌が良い時、姉は十八番(おはこ)の童謡『お肉のにくサマー』をよく歌う。

 今朝は何か良い事でもあったのだろうか。


 目玉焼きの皿の横には、仕事の依頼書と思しき紙切れが3枚ほど並べられていた。

 

 今日は一日、仕事はお休みのはずだ。だから――


 「マナ姉、これ、明日のぶんの依頼書だよね」

 

 姉の背中からは「そうよ、明日のぶんね」の声。

 

 どれどれ、明日は午前中いっぱい薬草採取で、午後はギルド倉庫の手伝い整理、夕方からは……。

 

「うへ~、最後はどぶさらいの仕事か~」

 一日の仕事の終わりに重労働は嫌だな。

 

 ざくりと、かじりついたパンは少し苦かった。

 パンは日持ちが良くなるように、少し長く火を通しているのだ。

 まとめて作り置きしたパンを、パン焼き職人さんにいっぺんに焼いてもらっている。それを毎日小分けして食べる。

 パン焼き機が一家に一台あるなんていうぜいたくな暮らしはここにはない。

 

 俺はパンをハーブティでぐいと喉奥に流し込むと、マナ姉に声をかけた。

「明日の夕方の話なんだけどさ……」


「ハーブティー、おかわりあるわよ」


 とく、とく、とく。静かに音が流れる。カップの縁から立つ湯気が、朝日の中でゆらゆらと揺れていた。

 ありがと、と俺は再びカップに口をつける。

 さわやかな香りが温もりとともに体を抜けていく。


 サラダの豆をつつきながら俺は続きを口にする。

「姉ちゃんさ……」


「おかわりあるわよ」


 豆にはじかれたフォークが皿を小さく鳴らす。

 俺は無言で三角形の目玉焼きを見つめた。かわいい。だが、今はそれどころじゃない。


「いやさすがに」


「おかわりあるわよ」

「ウエップ」


 ちゃぽん、と腹が鳴いた。縁日の水ヨーヨーみたいな音だった。

 俺は椅子にもたれ、ちゃぽちゃぽの腹を撫でながら遺憾(いかん)の意を表した。


 姉は観念したようにため息をつきつつも、まったく悪びれる様子はなかった。

 

「……しかたないでしょ、ここんとこ薬草の採取とかの安い仕事ばかりだったじゃない。ようやく稼げそうな仕事が回ってきたのよ」


 Dランクに上がった俺たちは、街の外の仕事ができるようになった。薬草採取はそのうちの1つだ。

 依頼報酬はピンキリで、やってみると街の中の仕事の方が割り良いこともあった。

 一方でどぶさらいは体力的にきついけど、Eランクでもできるし、街仕事の中では報酬はそこそこ高くて安定している。

 

 ギルドの掲示板にはいろんな仕事が貼り出されるが、子供がこなせる仕事にはどうしても限りがある。

 仕事にありつけない日は、ただ家で何もせず、水袋になるまでハーブティを飲み続けることになる。

 だから、ありつける仕事がある日は無理をしてでも取る。それが我が家の方針だ。

 ただ、さすがに重労働のどぶさらいの日は、他の仕事は入れたくない。


「……姉ちゃんってホント効率厨だよな」

 

「ホントの中学生に厨とか言われるとか……」

 

 心外とばかりに舌を出す姉。うちの家電がやたらと隙間なくネットワーク連携していたことを思い出す。


「2人して風邪ひいたときのこと、思い出しちゃったよ」

 

「あれは……、悪かったわよ」

 

 フォークの先で、俺はまた豆をつつく。


 とはいえ、どぶさらいは、この町でもっとも大事な仕事の1つだ。

 この街は川沿いにあり、周囲よりも土地が低い。どぶのヘドロを放っておくと、雨の時にあっという間に冠水し街中が水びだしになってしまうらしい。

 

「これも大事な、街を守る仕事なのよ。誇りに思ってもいいんじゃないかしら」

 

 窓の外の景色を見つめるマナ姉。外からは、変わらぬ柔らかい朝日が差し込んでいた。


「本音は?」

「たくさん稼いでお肉食べたい」

 

「……これだよ」

 

「いや、だって。アタシたちの生活、明らかにお肉が足りなくない? タンパク質が不足しちゃうわ」

 

 たしかに、正直お肉はお高い。この街に住むようになって半年ほど経つが、まだ片手で数える程度しかお目にかかったことがなかった。

 

「……なんでこの街のみんな豆で満足しちゃうのかしら」

 

「満足してるわけじゃないと思うけど」


 ――かんっ、かっかかんっ。


 玄関からドアノッカーの明るい音が響く。

 このリズミカルなノックの主は……。

 てててっと逃げるようにマナ姉は玄関に走った。

 

「はーい、おはようございます」

 

 マナ姉が扉を開くと、7歳の少女よりも二回りは背が高い、金髪のおねいさんが顔をのぞかせた。

 

「マナちゃんおはよう、ミナトくんも」

 

 おねいさんことユウリさんはそのまま、ぱちんとウィンクをしてみせる。

 ユウリさんがウチを訪ねるのは珍しいことではない。ときどき前触れもなく訪れては、家の中で他愛のない雑談をして帰っていくことが多い。

 だが、今日のユウリさんは、いつもと異なり、敷居をまたぐことはなかった。

 

「2人とも、今日お昼頃、時間あるかな?」

 

 代わりにいつもよりもウキウキした様子で、楽しそうだった。

 

◇◇◇◇


「おーにくにくー、にーくサマー、かわいいにくサマー」

 

 ぶしゅー、こぽぉ、と煙とともに爆ぜる肉汁を前に、我が姉は唄っていた。

 目の前のテーブルの上にはアツアツに熱せられた平たい岩石と、そのさらに上に鎮座(ちんざ)する分厚い肉。

 

「ステーキなんて食べるのいつぶりだろ」

 

「ミナト見てよ、この断面のロゼ、何度見ても芸術だわ」

 

 俺の横に座る姉はテンションが極まって、フォークに刺したステーキ肉の断面を俺の眼前に見せつけてくる。

 あふれ出る肉汁にてらてらと輝く断面は、外はしっかりと焼き色がついて、中心の桜色との見事なコントラストができていた。

 

 俺は、はいはいと返事するのも面倒だったので、代わりに目の前で揺れる姉の肉にかぶりつく。

 

「はむっ」

 

 肉を噛んだとたん、俺の口の中に幸せな肉汁がぶわぁっと広がった。そして幸せな香りが鼻から抜けていく。

 一方、姉の顔には不幸せな涙が今にもぶわぁっと溢れそうだった。その瞳はみるみる色を失っていく。


「……なんで、なんで?」

 

「わぁ、姉ちゃん冗談だ冗談」

 

 俺はいそいそと手前の肉切れにフォークを刺し、姉君の前に差し出した。

 姉は秒で俺のフォークにはぐっとかぶりついた。フォークごともっていかれそうなのを無理やりスポンと引っこ抜く。


 「美味(おい)ひい~。()()()~、()()()が欲ひぃわ~」

 

 ぱぁぁっと姉の周りに幸せオーラが舞う。瞳にはハイライトが戻っていた。

 

 うんうん、そうだね。美味しいよね。()()()は多分ここにはないだろうけど。

 今日は姉の表情がコロコロ変わるので見ていて飽きない。

 

 前方からくつくつと笑う声がした。ユウリさんだ。

 

「いや、ごめんね。私一人っ子だったから、君たちのやりとりが新鮮で」

 

 少しも申し訳なくなさそうに、顔をニヤニヤとほころばせている。


 姉は少し気まずそうに、こほんと咳を払う。

 岩石上の油のじょわじょわとした喧騒(けんそう)が落ち着き、ようやく姉も落ち着きを取り戻したようだった。

 

「でも本当に良かったんですか? (おご)ってもらえるだなんて」

 

「いいのいいの、ランクアップなんてそうそうあるもんじゃないんだから、お祝いさせてよ」

 

 朝のユウリさんの我が家への訪問は、お出かけと豪勢なお昼のお誘いだった。

 ユウリさんは、初めて出会った時から何かと俺たちを気にかけてくれる。同じ転生者だから、放っておけないのかもしれない。

 今回も、Dランクに上がった俺たちをわざわざ祝ってくれるのだ。

 

 ここは街を挟む2つの川の合流地点に近い。その川沿いにある肉料理店『二流亭』に俺たちはいた。

 店の中は見るからに強そうな冒険者や、街の羽振りのよさそうな人たちでごったがえしていた。名前こそ二流だが、実際には客層から一流のお店なのではないかと思う。

 

「でも、けっこうお高いお店なんじゃないですか」

 

 少し申し訳なさげなマナ姉に、ユウリさんはクスリと笑う。

 

「ここはね、私たちがよく仮依頼をもらってる懇意のお店なんだ。気にしなくていいよ」

 

 仮依頼は、ギルドを通す前に冒険者と依頼者が取り交わす口約束のような依頼だ。冒険者と依頼者であるお店の間に、けっこうな信頼関係がないと成り立たない。

 

 ユウリさんは丁寧にナイフとフォークで肉を切り離して口に運んでいく。

 その優雅な所作は店によく馴染(なじ)んでいて、ユウリさんもまた高ランク冒険者であることを示しているようだった。

 

「依頼といえば、Dランク依頼の請け負いはもう始めた?」

 

 その言葉に、俺はため息交じりに返す。

 

「それがユウリさん、聞いてくださいよ。姉ちゃんEランクの依頼ばっかり持ってくるんですよ」

 

「仕方ないじゃない、Dランク依頼っていっても、できるのは白札のやっすい薬草採取ばっかなんだから」

 

 姉は心外だという風だ。

 

「だからって、どぶさらい巡りはもう勘弁」

 

 俺は肉をかみしめる。

 これまでに姉が効率的と称して、どれだけのどぶさらい仕事を持ってきたことか。

 恨み言がこの肉汁のように、俺の口からあふれ出てきそうだった。

 この際だから、俺はユウリさんにどぶさらいの悲劇を洗いざらいぶちまけることにした。

 

 あれは俺たちがまだEランクの頃の冬の寒い日だった。

 姉は朝一番にどぶさらいの仕事を設定したかと思えば、風呂屋の掃除をさせ――。

 

「……でさ。午後もどぶさらいだったんだよな」

 

 昼イチから隣区画のどぶさらい、別の風呂屋の掃除、そして隣町のどぶさらい。

 

「途中から意味わかんなかったんだよ……せめて最後、風呂屋で終わってくれればよかったのに。寒いし、臭いし……」

 

 あの後2人でめっちゃ寝込んだ。


「持続可能性を考慮して効率の最大化を狙ったはずなのに、湯冷めまでは当初の計算に入ってなかったのよね……」

 

「不衛生のスリーカードが風呂のツーペアで相殺されるとか思っちゃうんだ」

 

 けっこうな高熱でたぞ。明らかにビョーキかなんか発症してただろ、あれ。

 

「まぁ時間効率よくて実入りも最大化できてよかったじゃない」

 

 からからと笑う姉。この姉ヤバイ、はやくなんとかしないと。

 

「そっか、マナちゃんは赤札(あかふだ)依頼がまだできないもんね」

 

 ユウリさんは優しい口調でマナ姉に言った。労うような、柔らかい目をしていた。

 そう、マナ姉は年齢制限のため危険を伴う赤札依頼は請け負うことができない。

 裏を返すと、実は俺だけだったら赤札依頼は請け負えたりする。まぁさすがにマナ姉抜きで、俺一人で依頼をやりきれる自信はまだないけど。

 

 ユウリさんは、コホンと1つ咳をした。

 

「依頼と言えば、今日はちょーっとお願いもあるんだ」

 

 (あご)に手を当てて、ユウリさんは続ける。そのしぐさがなんだかちょっとわざとらしく思えた。

 やはり、美味しい話には裏があるということかもしれない。実際ステーキは美味しいのだが。

 

「今貰っている狩猟(しゅりょう)の仮依頼なんだけど、急遽人手が必要になっちゃって……」

 

 言うと、ユウリさんはにこりと俺の方を見る。なんだか不思議と抗えない予感がした。

 

「ミナトくん、ちょっと私の徒党(ととう)に入って手伝ってくれないかな」

 

 ユウリさんが話し終えた瞬間、視界がぐわんとゆらいだ。抗えないほどの力で首が引っ張られる。

 

「え、引き抜きです!?」

 

 頭上でマナ姉の声が聞こえた。

 

 ぐええ、首が苦しい。姉ちゃん、それ俺の首が引き抜かれる奴だから!

 姉は、こともあろうに俺の首をがっちりと腕に抱え込み、……()めてしまっていた。

 

「だめです! ミナトはウチの大切な脳筋(のうきん)担当なんですから」

 

 脳筋って、姉ちゃん……。確かに体力担当だけどさぁ、と言いたいが絡む腕が苦しくて言い返すどころではなかった。

 

「ちがうちがう」

 

 苦笑しながらユウリさんは否定した。

 

「そうじゃなくて、私のいる徒党がね、今ちょうど休んでるメンバーがいてね」

 

 と、ユウリさんはことの経緯を話しだした。

 ユウリさんたちの徒党は、この二流亭で狩猟の仮依頼を引き受けたばかりだった。

 しかしその矢先、徒党のメンバーの1人が急にしばらく家庭事情で参加できなくなったということだった。

 

「週一くらいでいいから、ミナト君を借りられないかな?」

 

 狩猟依頼といえば、赤札依頼だ。依頼の解決のために武器を持つことが許される、Dランク以上ならではの依頼だった。

 憧れの冒険に、ついに出るチャンスが来たのだ。

 

「行ってみたい!」

「だめ―」

 

 姉は俺を抱え込んだまま、目の前で両手をクロスさせた。全身全霊の、今にもビームが飛び出しそうなペケマークだった。

 

「……なんでさ」

 

 俺は至極当然の疑問を呈してみた。

 姉は答えようとして、目を逸らした。

 

「え、えっとなんでだろ」

 

「なんだよ」

 

 姉は変わらず否定ちゃん。だが、否定の理由がよく分からなかった。

 

 ユウリさんはそんなマナ姉の様子に苦笑いするばかりだった。

 

「う~ん、迷惑をかけるかもしれませんよ、ウチの弟」

 

「大丈夫、最初うまくいかなくても、私が責任を持つから」

 

 きっぱりはっきりと胸を張るユウリさんを見て、俺は安心した。未知の赤札依頼には、憧れに加えて不安もなくはなかったから。


「……でも」

 

 だが姉はまだ煮え切らない。

 だが俺はせっかくだから赤札仕事をやってみたい。姉とじゃなく、自分の足で外に出るのも悪くない気がした。

 どうすれば姉を説得できる?

 俺はいったん落ち着こうと、姉の手を押しのけて目の前のフォークに手を伸ばした。

 ステーキも熱をいくぶん落ち着かせていたが、十分にジューシーで美味しい。


 ――あ!

 

「あ、ユウリさん。狩猟の依頼って、お肉とか持ち帰ることできますか?」

 

「うん? そうだね、依頼に無い獣を狩って持ち帰ることもあるね。さすがにいつも上等な肉というわけにはいかないけど」

 

 ぴくり、と姉の後頭部のくるりんぱが揺れた。

 

「にく? にく食べれるんですか?」

 

 反応する食べ盛りの7歳。

 ぱっと俺の首からマナ姉の手が離れた。これは食いついたか!?

 

「お、風向き変わった? 肉いっちゃう?」

 

「うっさい!……ん、んん~」

 

 腕を組みながら悩み始めるマナ姉。が、すぐに答えは出たようだった。

 姉は自分に言い聞かせるかのように、区切りながら話し出した。

 

「……ちょっと、だけ、だったら。ちょっとだけだったら、OKです。お願いします」

 

 人差し指と親指でCの形を作り、ごくわずかな空間をつまむように、ちょっとを表現する姉。その隙間は視力2.0でも見えそうにない。

 

「ホント? なんか、ごめんねマナちゃん、ありがとう」

 

 そう言うユウリさんは、今度は申し訳なさそうだった。

 

「いいんです、かわいい子には、旅をさせろとも……いいますし」

 

 はぁ、と息を吐き、開き直ったように胸を張る姉。

 かくして、姉の許可が下りて俺のレンタル移籍が決まったのだった。


◇◇◇◇

 

 帰り道の途中。3人で刃物を扱う露店を物色していた。

 赤札依頼に向けて、武器でも見ておこうかとウィンドウショッピングの流れになったのだ。

 ただ、特段これと言ったものが無く、武器についてはユウリさんがお古の短剣を貸してくれることになった。

 

 「うーん、このナイフ、鞘がかっこいい。だけど、引き抜くときに口のギミックがカシャカシャ動いて、()()()()()()()なんだよな~」

 

 俺の心はいつのまにか店の机に無造作に置かれたナイフに吸い寄せられていた。

 全体の形状は、少し長めのサバイバルナイフといった感じ。鞘口(さやぐち)の先端が、部分的にばねで閉じたり広がったりするため、引き抜く刃に当たり音が鳴るのだ。

 鞘のデザインは正直好みだ。とはいえちょっとギミックが子供っぽすぎないか。

 温泉のお土産コーナーにある、竜の巻き付いた剣のキーホルダーを触っている気分だった。地味にカシャカシャ動いて、ロマンをくすぐられるやつ。

 

「けっこうしっかりした作りみたいだけど、刃は短めだね。採取用かな」

 

 ひょいとユウリさんが背中越しに覗き込んできた。

 この人びっくりするくらい距離感近いな。つい意識してしまいそうだ。

 

「長さで用途が違うんです?」

 

 刃渡りは20cm弱といったところだろうか。柄を握ると、俺の手のサイズには合っている気がした。

 

「そうだね、狩猟とか戦闘用だともう少し長いかな」


「ちょっと貸して?」

 

 言うとマナ姉は俺の手から採取用ナイフを奪い取った。


 かしゃん、かしゃしゃん。

 

 マナ姉はひとしきりナイフを抜き差ししてギミックをもてあそびはじめた。

 そしてさらりと言う。


 ――「お~、()()()()()()()でいいじゃない」


 ああ、そうか。

 スッと頭の中がクリアになる。俺の何かがひっくり返るのは、一瞬で十分だった。


「ん? どしたのミナト」

 

 マナ姉の視線を感じるけど、今はそれに真正面からは応えたくない。

 

「ん、……()()()()()()()で、いいよね」

 

 できるだけ言葉を少なめに返す俺。見透かされそうで恥ずかしかった。

 おもちゃみたいと言う俺に、おもちゃみたいと返す姉。同じ言葉のカタチでも、俺の色があっけなく塗りつぶされてしまったから。


「採取用に使えるんでしょ? 気に入ったのなら買ってあげるわ」

 

 姉からナイフを受け取り、もう一度引き抜いてみる。

 かしゃん、かしゃしゃんと、小気味良い音が響く。

 

「うん、ありがと」


 狩猟依頼をこなせば、いつかはマナ姉の前に立つことができるかな、なんて考えもしたけど。

 まだまだこの姉には、なんだかんだ敵わない。

 後ろからくつくつと、煮詰まった鍋のようなユウリさんの笑い声が聞こえた。

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