第12話 女神の街の鼓動
「スリーカードだ、運が無かったな」
俺は机に手のひらほどの大きさの紙を3枚置いた。
ギルドの発行している仕事の依頼書だ。早朝の薄暗い部屋の雰囲気に合わせて、俺は不敵ににやりと笑って見せた。
内容はざっくりと、『夜に鳴く空き家の調査』、『夜に光る窓の調査』、『夜の見回り同行』。
マナ姉は、それらをしげしげと眺めると「ふぅん」と察したように納得した。
「そうだよ、夜の見回り依頼のスリーカードだよ」
異世界の夜は、基本的に暗くて怖い。灯りが貴重なのだ。それはこの交易都市セレンデでもそうらしい。まぁ、他の街に行ったことはないけれど。
これらの仕事依頼は基本的に怖いので人気がなく、依頼掲示板に出ても長期間放置される傾向にある。
まぁつまるところ、昨日ギルドに依頼完了報告に行った際、運悪く受付嬢に無理やり押し付けられてしまった。このあたり、ギルドに衣食住を握られた冒険者の悲哀だ。
「まだまだ甘いね、弟クン」
マナ姉は、ばんっとテーブルを叩く。
手のひらの下には5枚の、仕事の仮発注書があった。
「フルハウスよ、もらったわ」
5枚の内訳は、下水道関係3枚、人探し関係2枚だった。
……。
なぜだか非常に嫌な予感がした。俺は無造作に置かれた下水道関係の仮発注書3枚を並べ替える。
『下水から聞こえる騒音の正体確認』、『下水の詰まり原因確認』、『側溝を流れている正体不明な液体の採取・運搬』。
「うわ、怖ぁ……」
思わず一歩下がってしまった。
「なんか依頼がひとつづきのストーリーになってるじゃんか。もうこれ上流も下流も調べたらヤバイやつじゃん」
「そう? こっちの人探しも、そっちの側溝のそばの家に住む偏屈な発明家のおじいちゃんが最近見当たらないからって……」
「もう4カードでいいよそれ!」
絶対他の下水道関係3枚にそのおじいちゃん関わってるだろ。
やめてくれ、俺のMPはもうゼロよ!
マナ姉は不貞腐れたように俺の目の前の依頼書を見やる。
「……アンタが持ってきたやつだってなんか怖いやつじゃん」
窓からは淡白い光が差し込んでいた。今日もいい天気になるだろう。
「俺のはきっと……、怖いだけだよ、たぶん」
目だけを窓の方に向けつつ、俺は答えた。
マナ姉は、街中でいつも何かしらに首をつっこんでしまい、「ギルドへの仮発注」として依頼を引き受けてしまう。
仮発注書は、依頼書と違ってギルドがまだ正式に仕事として受注していないものだ。仕事を発注したい人がその辺の冒険者に直接渡して頼み、冒険者がギルドに届け出ることで最終的に仕事として承認される。
今朝も朝ごはん前の散歩で、巻き込まれてしまったようだ。
だが困るのが、だいたいが、安くて難易度は低そうだけどクセがあって誰もやりたがらない仕事なのだった。
「そもそも、なんでいつも早朝散歩するだけで4K(くさい、きつい、きたない、こわい)仕事ばっか拾ってくるんだよ!」
「うっさいわね、困ってるらしいってんだからしょうがないじゃない!アタシたちがやらなきゃ誰がやるのよ」
負けじと言い返してくるマナ姉。
俺たちがやらなくても誰かがやる、と言いたいが、姉の引き受けるものは正式に発注することが憚られるような安い謝礼金設定の案件や、些細な仕事内容の案件だ。
それこそ、ちょっと気の強い人や器用な人なら、ギルドに依頼なんてせずさっさと終わらせてしまうような案件は多い。
だがそれができない気の弱い人、事情のある人が世の中にはけっこういるということを、俺はこの半年でよく学んだ。
「アンタこそ、ギルドに報告に行くたびに残り物の依頼ばっか押し付けられて帰ってくるんじゃないわよ」
すまんマナ姉、俺も気が弱い人種だった。
「仕事の報酬が仕事とかどーなってんの!だからアンタは『ちょろかわいい』ってギルド職員さんに言われてんのよ」
「俺も聞いたぞそれ。アレってマナ姉のこと言ってるんじゃなかったのか」
「「……」」
つまりマナミナはちょろい、と。
俺たちはどちらともなく、このへんでやめとこう、と息を吐いた。
◇◇◇◇
翌日の夕方、ため込んだうちの7件の仕事が片付いたので、俺たちはギルドに報告に向かうことにした。
結局、4カードだったはずのマナ姉の依頼は、俺の持ってきた夜回り3カードまで巻き込んで解決した。事件の黒幕は行方不明になっていた発明家のおじいちゃんだった。
様々な発明の代償として地下の下水道をスライムだらけにし、夜に空き家で不審な光やら音やらを発していたのだった。とにかくおじいちゃん博士を連れていけば、芋づる式に他の依頼が解決してしまった。
姉が先んじておじいちゃんを探す方針を出していなければ、1つ1つの依頼が迷宮入りだったかもしれない……。
「また、元転生者のやらかしなのね」
マナ姉の疲れた声を思い出す。
散々探し回った挙句に見つけた発明家のおじいちゃんは、俺たちと同じく転生者だった。
この街で転生者に遭遇することは、珍しいことではない。問題を起こすことも、そう珍しいことではないようだ。
ただ、珍しくもなんともないことが、この街の人たちの寛容さを示しているようで、俺にはとても居心地が良かった。
ギルドに向かう道中、石畳でできた大きな広場を横切る。
この街の中央に位置するそこには、噴水とともに、街のシンボルとでもいうべき大きな女神の像が立っている。
――セレンデ。
それがこの女神の名前であり、この街の名前だった。
長い髪に神秘的なローブをまとう女性が、歩く子供2人の腕を持ち手を繋がせている。そんな像だ。
ただ、目の前の女神像は、俺が知る女神の姿とは少し違っていた。
「本物はメガネしてるし、何より白衣着てたんだよね。」
ぽつりとつぶやくと、隣の姉が即座に反応した。
「ミナト、それあんまり大きな声で言っちゃだめよ。ある意味、アタシたちの生命線なんだから」
「わかってるって」
言いながら俺は初めてこの街にやってきた日のことを思い出す。マナ姉が生命線と言ったのは、大げさな話ではなかった。
この街に初めて来たあの日、俺たちはユウリさんに案内されて、ギルド本部へと向かった。
迎えられたのは、ギルドの部屋の奥の奥。そこには、ギルドマスターと、この街の教会の助祭だというおっちゃんが居た。
そこで尋ねられたのは、ギルドに向かう途中で見たこのセレンデ像のことだった。
セレンデ像は、過去に何人も来た転生者の意見から造られているそうだ。
しかし、神様の姿は完全なるもので、不完全な人間が完全な神の姿を真似すれば神罰が下る。そのコンセプトで像は造られている、とも。
だからこそ、何が完全な姿なのか、それを指摘できることが転生者たる証明の1つになるのだと。
そんなことを思い出しているうちに、ギルドについた。ここは本部ではなく、俺たちの仕事の主戦場である支部だ。
――冒険者ギルド セレンデ南支部。
レンガ造りの3階建ての建物、その1階の大きな看板にそう書かれていた。
転生者であることを教会に認められた俺たちは、身分を冒険者ギルドに保証された。そしてその代わりに課されたのが、このギルドで街のために働くことだった。
姉に言わせると、職業安定所みたいなところ、らしい。働いたことの無かった俺にはその例えでもピンとはこないが。ありていに言えば、仕事を斡旋してくれる場所である。
からん、と鈴付きの扉を開けると、ギルド内は人でごった返していた。
夕方は俺たちのように依頼結果を報告する人で溢れる。
ここは仕事を終えた冒険者たちが、疲れや緊張を取り払い、雑談をする社交場でもあった。お酒こそ出ないが、テーブルで簡単な食事をつまむこともできるのだ。
俺はこの雰囲気が好きだ。仕事を終えた後に、大人の同業者と雑談なんか始めたら、ちょっとかっこいい大人の仲間入りができた気がしてしまう。
「早い、安い、チョロいで評判のマナミナさんじゃないスか」
「月間実績2位のマナミナさん、チョリーッス」
ギルドに入るなり、顔をよく知る冒険者たちが軽口をたたいてきた。
大人のくせにもう夕方から出来上がってんのか。前の世界の感覚だと、夕方から酔っぱらう大人ってちょっとダメな人のイメージだったんだよなぁ。
「はいはい、チョロくて結構。ここお酒出ないのに、どこで飲んで酔っ払ってきてんのよ。アタシにも飲ませなさい」
「姉ちゃん、とりあえず報告済ませようよ」
街に入ったばかりの半年前は、けっこうこの雰囲気が怖かったのだが、今は根が悪い人たちじゃないと分かったので気にはならない。なんなら、気前よくスモールビールをおごってくれたりもする。
マナ姉も、チョロいという言葉にむくれつつも、それほど気にしていない様子だ。
この街の人たちは、縁の女神様のおひざ元に住んでいるだけあって、人と人のつながりを大事にしているのかもしれない。
壁には、ギルド支部内の実績表の紙が貼られている。ギルド内の競争を煽る目的なのだろう、と姉が言っていた。
実績表には、その月での仕事の数や稼ぎなど、いくつかの部門で冒険者たちの順位が載っている。
ユウリさんとかは稼ぎ額の実績表で上位に位置しているようだった。やはりユウリさんはすごい。
その実績表の中に俺たち2人の徒党の名前もあった。
『月間依頼解決数 2位 マナミナ(Eランク)』
「今月も今んとこ維持できてるわね、順位」
むふんと鼻から息を出し、少し誇らしげに言うマナ姉。
誤解されがちだが、低ランク冒険者の依頼解決数が高くなるのは、不思議でもなんでもない。
俺たちEランクの冒険者がこなせる依頼というのは、ギルド掲示板の中で最も多い。そして難易度が低い。
だから、この手の順位は決まって、依頼数の回転が速い低ランクの人が有利なのだ。
……もちろん、マナ姉や俺が、ちょっとした仮発注を頼まれやすかったり、押し付けられやすかったり、つまりチョロいことも関係していなくもない。
だが、実績表の上位者は、ちょっとしたポイントボーナスがあり、そのおかげでランクの昇級が早くなったりすることもあり、悪いことではなかったりする。
「アタシ最近、そろそろランクが上がるんじゃないかって、期待してるのよね~」
マナ姉は期待交じりに楽しそうに言う。
「こんにちはリンカさん。依頼結果の報告に来ました」
ギルドの受付嬢のリンカさんは、依頼者のサインが入った報告書と受け取ってくれた。
俺は机の上にギルドカードを置いた。マナ姉と俺の2枚のカード。
「ありがとう、確認しますね。依頼結果には、……白札の仮発注も混じっているのね」
「はい」
「じゃ、いつも通り解決した仮発注は、依頼者から本発注書と謝礼金が届いたら、遡って正式受注扱いにしておきますね」
「はい、お願いします」
「あとこれもいつも通りの念押しですが、仮発注はあくまでギルド未承認段階の受注です。依頼者本人から謝礼金が届かない仮発注は、マナミナさんたちにとっての不良債権になりますから、よく相手を見て引き受けてくださいね」
リンカさんはいつもの形式的な忠告を済ます。
「そういうなら、残り物押し付けるにしてもまともな依頼くださいよ……」
言い返す俺に、リンカさんは聞こえないかのように屈みこみ、足元の荷物をいじり始める。
実際、冒険者を始めたての頃は仮発注を引き受け解決したものの、謝礼が届かないなんて事案は何度かあった。その都度、依頼者に掛け合ったり、その結果危ない目にあって諦めたりもした。
しかし縁あって仲良くなった人や、信頼できる依頼者もできた。今では仮発注は俺たちの月の稼ぎの1/3を占めている、大事な飯の種だった。
ところで、言いながらリンカさんは立ち上がった。手にはベルを持っている。
「マナミナのお二方、Dランク昇格おめでとうございまぁす」
からんからん、とベルを鳴らすリンカさん。
唐突だったが、予感はあったので、それほど驚きはなかった。
代わりに嬉しさがこみ上げてくる。
「ああ、ようやくこのときが」
「依頼数で実績ポイント稼いだ甲斐があったね」
俺の声に姉はうれしそうに顔を見合わせてくる。その瞳は期待に満ち溢れていた。
思えば最初の頃は依頼1つ終わらせるだけでへとへとだった。
それでも、できることを増やしていき、街の人からの小さな仮発注や、リンカさんに押し付けられた残り物の依頼をこなした日々。それが報われる瞬間だった。
「早く壁の外の仕事に行きたいわ」
「狩猟仕事とかしたいよな」
Dランクは街の外の仕事が許されるようになる。
ダンジョンの攻略なんてのはもっと高ランクの仕事になるが、森や草原などでの狩猟など、野外の行動ができるようになるのだ。
俺とマナ姉が、弓や剣を持ち、ときには罠を抱えて、広い世界をフィールドに狙いの動物を狩りに行く。
その姿を想像し、解放感に胸が熱くなった。
マナ姉は横で「お~にくにく~に~くサマ~」、なんて口ずさんでる。年相応に見えてしまうからやめれ。
「はい、ミナトさん、おめでとうございます。新しいギルドカードです」
リンカさんはにこやかに、更新されたギルドカードを手渡してくれた。
「あ、ありがとうございます、お、Dランクって書いてある! 地味にうれしいな、これ」
俺のギルドカードには、大きくDランクと書かれ、その下に細かく資格のようなものが書かれていた。
請け負い可能な依頼内容の欄には街仕事に加えて、採取◎、狩猟◎、討伐〇、ダンジョン×……などと書かれている。
◎と〇の違いはよく分からないが、〇とかは条件次第で可能ってことなんだろうか。
「はい、マナさんもどうぞ」
「ありがとうございます!ホントだ、Dランク……」
ふと、言葉を切らす姉。
「……あの、この『※白札限定』ってなんですか?」
マナ姉がおずおずと指し示すカードには、Dランクの標記の下に、小さいが確かに『白札限定』と書いてあった。
そんなの俺のカードにはないぞ?
「まことにお気の毒ですが……、マナさんは年齢要件を満たさないため、白札の依頼のみ請け負えます。赤札相当の仕事はできません」
「ええ~、何それ……」
依頼内容の欄には、採取◎、狩猟×、討伐×、……などと×が並んでいた。
正直×の依頼の方が多いんじゃないだろうか。
「ご存じのように、赤札は、解決に戦闘や狩猟など武器使用が必須と思われる依頼です。白札は街中での仕事や街外での植物採取など、武器使用が不要と思われる依頼です。もちろん護身用の武器を持つなということではありません。あくまで依頼内容で分けているんです」
淡々とリンカさんは区分の説明を続けた。
つまり、武器が必要なほど危ない赤札仕事はNGで、武器が不要で安全な白札依頼のみOKってことか。
「えっと、俺はその年齢制限には引っかからないんですか?」
子供がダメだと言うことだったら、俺もまだ中1だ。
「はい、制限は12歳までです。ミナトさんは13歳ですよね」
俺はこくりとうなずくしかなかった。
姉は納得できないのか、頬を膨らせて黙っている。
その姿に思わずかわいらしいと思ってしまったが、そんなこと口にしたら明日まで口を聞いてもらえないかもしれない。
ギルドカードに記載される年齢は本人の申告で決まったはずだ。ここにきて、マナ姉の元の年齢の方で登録しなかったことが悔やまれる。
けど、実際本来の年齢である17歳とかで登録しようとしても、信じてもらえたかどうかは分からない。
ここで、ようやく膨らんだ頬をしぼませ、マナ姉が口を開いた。
「どうしてそんな区別をしてるんです!? 7歳だってうまく立ち回ればいけるかもしれないじゃないですか」
ぷりぷりと頭から湯気を出し始める7歳。
リンカさんはどう説明したものかと言葉を探している様子だった。
ルールはルールなんだろうが、俺だって納得できてはいない。
実際、俺が赤札仕事をやったとして、マナ姉がいるかいないかで、仕事の成功の成否はだいぶん変わってきそうだし。
その時、受付の奥から声が聞こえた。
「あ~、俺が教えてやるよ。マナミナのお二人さんよ」
受付カウンターの奥、仕切りの向こう側から、背の高い男性がひょいっと顔を出す。
「アレイさん」
カウンターをまたいで俺たちにの間に割り込むと、アレイさんはぽんと一つマナ姉の肩を叩いた。
アレイさんはこのギルド支部の副ギルドマスターだ。頭が少し禿げてるのと、いかつい体つきなのと、隻眼で眼帯をしているのがちょっと怖いが、中身が優しいおっさんだとこの半年でわかった。
肩を叩かれたマナ姉は、小さくひぇっと声を上げる。
マナ姉にはまだちょっと怖いのかもしれない。マナ姉とアレイさん、身長差が何倍もあるもんな……。
「ちいっとばかし昔の話なんだけどな」
そう言って、明後日の方を見ながら説明を始めるアレイさん。
おや、と俺は気づいた。
いつの間にか、ギルド内の喧騒は止んでいる。皆がアレイさんの話を待っているかのようだった。
「あれは、もう5年だか6年前のことだったか、ちょっとEランクで目立った活躍してた、子供を含む徒党があったんだけどな……」
意外と最近のことらしい。
じゃあ、そんなに古いルールじゃないんだな。
「そいつらがDランクに上がったとたん、赤札依頼で派手にやらかしちまってな。……それから、赤札依頼に年齢制限を設けることになったんだ」
「失敗って、どんな失敗なんですか」
派手なやらかし、その言葉に不安がよぎる。マナ姉や俺がもしその場にいたら、なすすべもなく命の危機にさらされる、そんな失敗だったのだろうか。
少しの間が空いた。アレイさんも言葉を選んでいるように見えた。
言いにくいような内容なのだろうか。
「ん、そうだな……」
カラン、コロンと扉が開いた。
やや静かだったギルド内にはやたらと大きく聞こえた。
「こんにちは~、依頼完了報告です~」
低く落ち着いた音色の、だが快活な女性の声がギルド内に響いた。
金髪で長身のおねいさん。ユウリさんがにこやかにこちらに歩いてくるところだった。
その肩は、仕事終わりにもかかわらず疲れて下がっている様子はなかった。
そんな様子を見ていると、俺とマナ姉に気づいたのか、やぁ、と片手を挙げてくれた。
ちょっと嬉しい。俺は軽く会釈で返した。
「あら、ユウリさん、おかえりなさい」
ユウリさんはリンカさんに報告を始める。
「すまん、この話はまたな……ちょっと用事が出来てしまった」
「あ、ちょっとアレイさん」
アレイさんは説明を中断したかと思うと、ユウリさんに話しかけに行ってしまった。
話の内容から察するに、ユウリさんに頼みたかった仕事があるようだった。
騒がしさが戻るギルド内。
取り残されてしまった姉と俺は、やり場のない気持ちをどうにか抑え、無理やり明日に向かうしかなかった。
「とりあえず、できることやるしかないか。植物採取とか……掲示板見にいこうか」
「憧れのお肉生活が~」
取り乱したままの姉にどうしたものかと、周りを見るとふと話し中のユウリさんと目があってしまった。
親指を立ててにこりと笑みをくれるユウリさん。
アレイさんから俺たちのランクアップのことを聞いたのだろうか。少し胸のもやもやしたものが取れた気がした。
ユウリさんは、この異世界で俺たちを最初に見つけてくれた恩人だ。
その捜索も、Dランクの依頼がきっかけだったとユウリさんから聞いた。
早朝に狩猟をしていた徒党が、あまり人が立ち入らない森から煙が立ち上っているのを見たとか。
俺たちもいつか街の外の仕事で、転生者を発見する……なんてこともあるんだろうか。
姉をなだめつつ、俺たちはDランクの依頼書の貼られた掲示板に向かった。
白札とはいえ、それでもDランクだ。
まだ見ぬ依頼への期待に、胸の鼓動と合わせて、ギルドは心なしかいつもより騒がしく感じた。




