無量
空を眺めていた。5月の始め。学校からの帰り道だ。僕は雲一つない空を見て、平和を感じていた。
中一の時に彼女に振られて以来、なんだか心に穴が空いてしまったようで、僕もまだまだだなと感じている。
こんな田舎町の中学校の前は、24℃くらいの気温で過ごしやすい。僕は公園に立ち寄ると、公園の椅子に座ってまた空を見上げた。空の前には彼女も、彼女に振られた僕も、等しく一人の人間だ。
「涼しい〜」
僕は心地良い風の中で、愛用しているフルートをケースの上から抱いて目を瞑った。
The Enchanted Forestという曲を頭の中で流す。フルートがカッコイイ。画面の前の皆様にも是非聴いて頂きたい曲の一つだ。
まぁ、とにかく僕はその曲を心地良い風の中で流しながら、眠りについた。いや、眠りにつく前に急な違和感に襲われ目を開ける。
「……」
公園で、青年と呼ばれそうな背丈の人がこちらを見ていた。いや、それだけではない。その青年の後ろは坂になっているはずなのだが、その坂から無機質な目がこちらを見ていた。ロボットのような目だった。
こちらの視線に気付くと、青年はニコッと笑って話しかけてきた。
「こんにちは」
爽やかな声だ。
「こ、こんにちは」
異様なロボットらしき視線に戸惑いを隠せず、声が変な風に出た。間抜けだった。
青年はこちらに近付いて僕の目の前まで来ると、座るね、と言って隣に座った。
「見えるんだ」
「えっ……」
「僕の後ろにいたもの、見えたんですよね」
「あー、ええ、まぁ」
青年はなにか風でも纏っているかのような、というか仕草が軽いのか?なんと表現するべきなのだろうか。僕の横でロボットに向かって指を差した。
「あれ、ロボットなんですよ。あれが見えるんなら、操縦もできます」
「はぁ」
「あれは守り神みたいなものですから、この土地を守ってくれたらありがたいなぁって、僕は思うんです」
なんと、突拍子も無い話。ありえない話。僕が操縦ときた。
「えっと、色々説明して欲しいんですけど」
「何から話そうかな」
青年が額に手をあて、考える素振りを見せる。
「これから宇宙人が来るんだけど、中には手荒なやつもいてさ。これはそんな奴に一発お仕置を入れるロボットだよ」
「へ、へぇ。そうなんですか」
果たして合っているのか分からない反応をしてしまう。目を閉じた瞬間から世界が変わったかのような、異世界に飛ばされたかのようなそんな気分だった。ところが気持ちとしてはザワつくこともなく、ただ、そのロボットが守り神らしきこと、宇宙人が来ること、そのことを頭に入れることができた。
「お名前伺っても?」
とりあえず訳の分からない青年に名前を聞いてみる。
「無量。僕の名前は無量って言うんだ」
「無量さん。僕は光って言います」
「良い名前だね。さぁ、早速来たよ」
青年が空を指差す。すると空の空間が歪み、その歪みから巨大なものが出てきた。見た目はナイフの形をベースに、持ち手のところに顔と思しき点が存在している。
そのナイフ型の巨大な、ロボットだろうか、が刃をこちらに向けると、一直線に飛んできた。
「うわ!」
意味の無い行為だと分かっているが、思わず目を閉じて両手で防御してしまう。
少しして目を開けると、坂の下から覗いていたロボットが手を伸ばし、ナイフ型のロボットの攻撃を受けていた。ここでロボットが人型であるとわかった。細身に銀色の装甲を纏った鎧武者のような見た目であった。
「これを使って」
青年から石を渡される。
「これはあの守り神の操縦桿みたいなものさ。これに念じて、動かす。簡単でしょ?」
僕は言われた通り念じてみる。ロボットは立ち上がり、ナイフ型ロボットの歯をつまむ。更に山に投げ捨てるようにイメージすると、その通りに投げ捨てた。
なんだ、この力。
「これが守り神の力、ジンバの力だよ」
「ジンバ……ですか」
「おや、向こうも話がしたいみたいだ」
ナイフ型ロボットは体勢を立て直すと、僕らのいる公園の中心に細い光線を放った。その光線の中から人の形をした生物、というか人間か、が現れた。見た目は180cmくらいの強面の青白い肌が特徴的で、軍服らしきものを着ていた。
「辺境の星だからって、舐めたね」
「舐めてなどいない。我では通じんと判断している」
青年が声をかけると軍服人間は答えた。そして、目をこちらに向ける。
「しかしまぁ、ジンバは既に継承されたということか」
「はい。光へ」
「なら用は済んだ。その光とやらに今後を伝えておけ」
「当然です」
軍服人間と青年は会話を終わらせると、それぞれが元いた場所に戻っていった。軍服人間は光線を使ってナイフ型ロボットへ。青年は公園の中心へ。
「じゃあね光君。また、近いうちに会えるよ」
「え」
何もかも分からないまま話が終わった。
24℃くらいの涼しい風が通り抜けていった。




