14.一輪
それからも、度々アルーンは訪れるようになった。
しかし、頻繁ではなく時折。まるで人目をはばかるように、予期しない時に現れる。
今日もそうだった。よく晴れた日の昼過ぎ、日差しが丁度、縁側に差し込む頃。縁側に座って、笛の手入れをしていると、ふらりとその裏庭へアルーンが現れたのだ。
供の者はいない。イサクの姿もなかった。アルーンは所在なげに視線を彷徨わせたあと、
「ここで──寝ても?」
そう口にした。
アルーンの視線は日の当たる縁側に向けられている。
淡い水色に銀の刺繍の入った長衣を身に着けたアルーンは、どこか疲れた様子で。昼下がり、丁度、眠くなる時間でもある。
本来なら立ち上がって、その足元へかしずくものだろうが、そんなことはもう必要ないと分かっていた。
「ああ、どうぞ──」
俺の隣は空いている。気軽にそう言って、笛を手にしたまま隣へ目を向けた。日が降りそそぐそこは、昼寝にもってこいだ。
「──すまない…」
そう言って、アルーンは空いた傍らに座ると横になった。フワリと焚きしめたお香が微かに薫る。
そこまでは普通だったのだが、その後、横になった頭が、ごく自然に俺の空いた膝の上に乗ってきたのだ。
──ん?
ズシリと確かな重みが膝に加わる。俺は笛を拭いていた手を休め、膝を見下ろした。
見れば確かにアルーンの頭が、空いた左膝に乗せられている。
銀色の髪がさらと素足をくすぐる。心地よいが、頭は重い。しかし、他にいい枕もない。これくらいの重さ、耐えられないという事もなく。
「…固くないか?」
「──いや…」
アルーンは目を閉じたまま答えた。銀色の睫毛に彩られた瞼がわずかに揺れ動く。
「──そうか…」
──当人が気にしないのなら、放っておくか…。
それからしばらくして、かすかに寝息を立てだす。それを笑みを浮かべて見下ろしつつ、笛の手入れを続けた。
他の側や妾にも、同じ事をしているのかも知れない。そうは思っても、心を許してくれている様で嬉しかった。
初夏のまだそれほど強くない日差しが降り注ぎ、庭木の青葉が風に揺れる。穏やかな時間だった。
ろくに言葉も交わさないというのに、アルーンとはどこか通じている気がして。こんな突然な訪問も、嬉しいと感じる自分がいた。
──もっと増えるといいが。
そうすれば、理解が深まる。何かしらの絆も深まるだろう。
しばらくして、主を探していたらしいイサクに見つかり、小言を言われつつ、また宮殿へと戻って行った。
どうやら執務の合間にできた僅かな時間、イサクが目を離した隙に、こちらへ抜け出してきたらしい。
なんとも、微笑ましいではないか。
少しずつだが、アルーンの人となりが見えてくるようで。
そんな風に、合間を縫って時折訪れる。それは、昼ばかりでなく夜も──。




