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書簡七

――某月某日


拝啓


あなたからの返書を、幾度も読み返しました。

短い文でしたが、私には、これまでのどの書よりも長く重いものでした。


あなたは、こう書いていました。


君が実務の言葉で説明できないのは、石の結果を、石そのもので説明しようとするからではないか。

君が実際に扱っているのは、石そのものではなく、石を確かめる行為と、その結果ではないか。

君が見た石だけが、君にとっての石である。


読み終えたとき、私はすぐには頷けませんでした。

それほどまでに、その言葉は、私の考え方と食い違っていたのです。


私はこれまで、石がどう在るかを知ろうとしてきました。

見ていない時に、石はどこにあり、どうしているのか。

その答えを、石の側に求めていました。


しかし、あなたの言葉を手がかりに、これまでの書付や、数えた回数、移動の記録を改めて見返してみると、一つのことが、否応なく浮かび上がってきました。


私は、石そのものを一度も扱ってはいなかった。


私が扱っていたのは、確かめ、見て、数え、記した、その後の姿だけでした。


石が箱の中でどう在ったのかは、私は知らない。

知らないだけでなく、知るための言葉を最初から持っていなかった。


それにもかかわらず、私は、見られていない時の石を、見られた時と同じ仕方で語ろうとしていた。

そこに、無理が生じていたのです。


石が奇妙なのではありません。奇妙だったのは、私の問いでした。


確かめられた時の姿だけを手にしていながら、確かめられていない在り方までを語ろうとしていた。

それは、測られていない長さを数で書こうとするようなものです。


そう考えたとき、これまで感じていた因果の歪みや、言葉の行き詰まりが、一つの場所に収まりました。


石が動いたのではない。

動いたと書ける状況が、生じただけだったのです。


見られ、確かめられ、位置を定められた時、石は、そこに在る石としてはじめて語られる。

その外側について、私は何も言うべきではなかった。


思えば、私は長らく、世界は常に同じ姿で在り、それを人がただ覗き込んでいるのだと考えてきました。


しかし、覗き込むという行為そのものが、語るべき姿を一つに定めてしまうのだとすれば、世界は、私が思っていたほど素朴ではありません。


私が見た石が、私にとっての石である。


その言葉は、世界を狭めるものではなく、むしろ、無用な言葉を慎むための教えでした。


見られていない石について、私は語らない。

語れないからではなく、語る必要がないからです。


この考えに至って、あの石は、もはや奇妙ものではなくなりました。

同時に、この世界が、少しだけ、以前よりも寛容なものになった気がしています。


あなたの一言がなければ、私は今も、石に問いを向け、答えが返らぬことに苛立っていたでしょう。


この考えは、石に限ったことではなく、恐らくは万物に当てはまる事なのでしょう。

ただ、石がそれを最初に教えてくれただけだったのです。


筆を置く前に、一つだけ――

あなたは、もしかすると、最初から、すべて分かっていたのではないでしょうか。


草々不一


敬具

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